凰条家での生活
お父様たちがたずねてきてから1週間が経った。
あれから、御堂家の動向を一真さんから聞いたけれど、なんの音沙汰もないそうだ。
一真さんのお父様とお母様がハッキリと告げてくれたことで分かってくれたらいいのだけど……。
立ち去っていく時の零お姉様の顔が、とてもそんな風な顔には見えなかったのが気がかりだ。
まるで憎しみに歪めているようなそんな顔に見えた。
「今日もなにも無かったか、澪」
「ええ、大丈夫です」
一真さんは私のことをいつも気にかけてくれた。
外出する時もお付きの人がいるし、一真さんのお母様と一緒にいるから今のところ不安はない。
凰条家は不審な人がいないか、いつもお付きの人が家の周りを念入りに見てまわってくれていた。
「それなら良かった」
仕事終わりの一真さんの荷物を持ちながらリビングに向かう。
「それより一真さん、今日もお仕事お疲れ様です」
一真さんは、お父様の会社で仕事をしている。
とても忙しそうで遅くに帰ってくることもしばしばあった。
なんでも今は自分の足で契約をとってくる営業をしているそうで、将来会社を継ぐ時に現場のことを分からぬまま次ぐようなことはしたくないと自ら申し出て新入社員と同じように入社をし、仕事をしているそうだ。
本当……そういうところが誠実でしっかりしていて改めて一真さんは出来た人だなと思う。
「キミがこの家に来てから早く帰るために必死だよ」
「か、一真さん……っ」
かあっと顔を赤らめると、一真さんは優しく笑ってくれた。
「家の中は、何か窮屈に思うことはないか?」
「いえ、めっそうもない」
そんなことあるわけがない。
私は家にいさせてもらっているけれど、お母様とお茶を飲んだり、お出かけまで自由にさせてもらって、また勉強したことを告げるとお母様がたくさんの書物を自由に見ていいと伝えてくれた。
窮屈どころか、こんなに自由に過ごしてもいいのか不安になるくらいだ。
せめて私も今、出来ることをやりたいと思い、家の家事をさせて欲しいと告げたのだけど、お手伝いさんに任せているとのことで、私の出番はなかった。
唯一出来ることとすれば、一真さんのお母様が庭に花を植えたいと思っていたらしい。
けれど、育て方が分からない花があり植えられなかったから育て方を教えて欲しいと言われた。
その日はお母様と一緒に花や肥料を買ってきて、すぐに植えたんだ。
「母さんもキミが来てから楽しそうでね。色々連れまわしたりして疲れてないか心配だよ」
「全然……私も嬉しいですし、毎日すごく楽しいです」
こんなに優しくしてもらったことは今まで一度もなかったから、一真さんのお母様と一緒に買い物とかお茶とかしている時間は本当に楽しくて幸せだった。
「私も一真さんのお父様とお母様になにか恩返しをしないといけませんね」
「そんなこと考えなくていいさ」
一真さんはそう言ってくれるけれど、自分でもしっかりと稼げるようになって家に泊めていただいている分のお金を返せるくらいになりたい。
恩を受けっぱなしはダメだ。
「あと少しで仕事がひと段落つくから、新しい家も一緒に探しに行ってすぐに決めよう。居心地がいいと言ってくれているのは嬉しいが、いつまでも澪に両親との同居を強いるわけにはいかないからな」
「そんな……」
すると一真さんは私の耳元で囁いた。
「俺がそろそろふたりになりたいんだ」
──ドキン。
一真さんは時々、直球に物事を伝えてくることがある。
誰も見ていないところでこそっと伝えてくれるから、いつも顔が真っ赤になってしまうんだ。
まだ慣れなくて恥ずかしいけれど、こうやってストレートに気持ちを告げてくれるのは嬉しい。
「じゃあさっそく次の土曜日がいいかな。目星をつけた家がいくつかあるから見に行こう」
「はい……!」




