絶対に許せない 【御堂零side】
凰条家を訪ねて帰宅した後、御堂家の部屋はどんよりとした空気で包まれていた。
これも全てあいつのせい……!
澪のせいだ。
私たちはなんとしてでも私が凰条家に嫁ぐために、今日凰条家を訪れた。
私が家を留守にしていた間にあの、凰条一真が御堂家を訪ね、澪を連れ去ったらしい。
澪もお父様とお母様に今までありがとうと告げたらしく、縁を切る覚悟をしていたそうだ。
まさかそこまで考えていたなんて……。
凰条一真もなぜあそこまでこだわるのか。
許せない。
愚図の澪のクセに……。
それでお父様とお母様と相談をして、私たちは凰条家を訪ねることにした。
恐らくそこに澪がいるだろうということと、凰条一真と澪が盛り上がっているだけだから両親と話せば分かってくれるのではないかと言われ、私は品のいいドレスを着て凰条家に向かったのだった。
それなのに、なんなの……。
『私は、澪さんがうちの家に泥を塗るような人だとは到底思えません。澪さんの心の優しさ、それから品性、風格。何をとってもステキでどうしてこうも人格を否定するようなことが言えるのか分からないと告げているのです』
返って来た言葉を澪を守る言葉であった。
『それに一真が選んだのは、澪さんです。私たちは、家柄や表面的なことだけで婚約者を選んだわけではありません。ですから、澪さんを我が家の家族として迎える意思は変わりません』
あげくの果てに最高権力を持っている父親にまでこんなことを言われる始末……。
あの愚図が、凰条家に取り入ったんだ。
きっと涙でも流して同情をかったのだろう。
許せない……。
お父様はテーブルにひじをつき、低く静かな声で口を開いた。
「クッソ、どうしたらいい……澪が凰条家にいる限り、零は凰条一真の婚約者にはなれない」
「澪だってあんなふうに絶縁してくるし……このままじゃ御堂家は澪につぶされるわ」
お母様は苛立ったように頭を掻きむしった。
「なにか、なにか方法はないの……?」
自問自答するようにヒステリックに声をあげるお母様。
その声を聞いてイライラしているお父様が私にあたるように言った。
「だいたい零があの時、素直に縁談に行っていれば良かったんだ!あんなに権力を持つ凰条家の長男だと伝えただろうが!」
お父様は厳しい言葉でまくし立ててくる。
こんなふうにお父様に強い言葉を浴びせられたのは初めてだった。
イライラする。
これは全て澪が引き起こしたこと。
今まであの愚図を御堂家においてあげたのに。
あんなに使えない人間を使ってあげたのに、恩もなく去っていった。
そんなことが許されるわけない。
私は苛立ちを隠さず手元のティーカップをドンっと強く置いた。
「分かってるわよ!仕方ないじゃない、ブサイクだと思ったのよ!」
あの時の行動は私も失態だった。
澪になんか譲らなければ……本来ならあの位置に私がいるはずだったのに。
「外見なんて気にしているからそうなるんだ!金さえあれば外見なんてどうとでもなる」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!このままだと権力を得る機会を失うどころか、御堂家のイメージが下がって終わりよ」
お母様は冷ややかに目を細めると自分を落ち着かせるためか、紅茶を口に運ぶ。
「もうこれしかないわ」
そしてティーカップを置いた後、静かな声で言った。
「既成事実を作ってしまえばいいのよ」
「既成、事実……」
企むような顔のお母様の顔が何を考えている顔か分からなくて背筋がゾクっと震えた。
「そうすれば、凰条家だって無下には出来ない。万一降ろせと言われても子どもを降ろさせたとなると、凰条家のイメージが大きく下がる。だからそれはして来ないでしょう?」
そしてお母様はゆっくりと微笑んだ。
「そしたら、あちらも何が正しいか分かるはずよ。澪との縁談を無かったことにして零と籍を入れる。元々零に縁談を出してきたのだから、それが世間的にもキレイで正しいものになる」
「なるほど、それはいいな」
お父様も感心するように頷いた。
「でもどうするの……既成事実なんて……」
そう簡単に出来るものだろうか。
「澪とあなたを入れ替えればいいのよ」
私の眉がぴくりと動いた。
「……入れ替える?」
「そうよ」
お母様が深く頷いた後、説明を続ける。
「あなたが澪に似せて化粧をし、凰条一真の前に立てばいいの。双子なんだから澪そっくりの顔になれるはずよ」
私は一瞬言葉を失った。
そして肩を振るわせる。
私が澪になる?
「冗談じゃない!なんで私が、あんな地味な顔に似せなきゃいけないのよ!」
澪の名前を出すだけでも腹立たしいのに、自分がその姿に寄せるなんて、屈辱にもほどがある。
「零……」
するとお父様の低い声が、部屋の空気を一変させた。
「今まで散々お前のワガママを受け入れてきた。今回もお前のワガママが原因でこうなったことをわかっているのか?」
「そ、それは……」
その言葉に、私は息をのんだ。
「このままじゃ澪に権力を取られ、恩恵を受けられないまま御堂家は衰退していく一方だ。お前がやるしか先はない!お前だって澪に権力を取られたままなんて許せないだろう?」
「それは、そうだけど……」
でもだからって私が澪のフリをするほど成り下がらないといけないの。
迷っていると、お父様は私に冷たい眼差しを向けた。
「なんとしてでもやるんだ。じゃなきゃ劣等生になるのはお前の方なんだぞ」
──ぞくり。
背筋が震えた。
私が劣等生?
そんなことあり得ない。
劣等生は澪よ。澪意外あり得ないの!
私はお父様の物言いに唇を強く噛みしめる。
しかし、はい以外の言葉は残されていなかった。
どうしてこんなことになったのか。
澪がいなければ、澪さえいなければ……。
私の顔が歪む。
そうだ、奪えばいい。
子どもでもなんでもこしらえて、凰条一真を逃げられなくすればいいんだ。
そうすれば、澪の大事なものを奪える。
そして凰条家の権力も私のものになる。
全て私の望んでいるものが手に入る。
「やるわ……」
悔しさで手を握りしめる。
でもこれしか選択肢はない。
屈辱を飲み込んで私は澪になりきる。
「やる……」
するとお母様は笑顔になった。
「いい子ね、零。あなたならうまくやれるはずよ。そうやって何でも手に入れてきたじゃない」
“なんでも”
そうね。
澪よりも私の方が優れている。
私はなんでも手に入れてきた。
だからやってやる。
澪から凰条一真を奪ったら澪はどんな顔をするだろう。
絶望に顔を歪めればいい。
自分は一生幸せになれないのだと、思い知ればいい。
「凰条一真は私のものよ」




