凰条一真は私のものよ【御堂零side】
高級ブランドのブティックが立ち並ぶエリアの一角にある、特別なレストラン。
凰条一真との約束の場所は、まさに彼の品格にふさわしい洗練された空間だった。
いい居場所選ぶじゃない。
私は待ち合わせ時間より少し早めに到着し、店の前に付けられた姿見の前で軽く髪を整える。
完璧ね……。
上品なパールのアクセサリーを纏い、私の美しさを最大限に引き立てるシルクのワンピース。
メイクも抜かりない。
凰条一真がまさか、あんなイケメンだとは思わなかった。
金のある男は好きだけど、ブサイクだけはどうも一緒にいれる気がしなくて、勝手にブ男だと決めつけて会わない選択をしたのは、私の落ち度だった。
メディアに一切顔を出さないと聞いていたから、てっきり冴えない男なのかと思っていたが、それは見る人を圧倒する見た目だった。
完璧に整えられた顔立ちで、スラット伸びた足。
なおかつ圧倒的なオーラを持つ男で。
あれだけのイケメンで、しかも凰条グループの次期当主なんて……これ以上のアクセサリーがある?
まさに私の隣に並ぶのにふさわしい男性だ。
冷徹で金に汚いなんてウワサがあったが、それは私が彼をオトして言うことを聞いてもらえばいい。
惚れさせればいいんだもの。簡単なことだわ。
そしたら私は圧倒的財を持ち、上に立つ人間になれる。
絶対に澪には譲らない。
そもそも、最初から私に縁談の話を持ってきたんだ。
澪が横取りしようとしてきたけど、凰条一真の横は澪なんかが立っていい舞台じゃない。
父と母が取り付けてくれた今回の約束で、すべて元通りにする。
今日一日一緒に過ごしてデートをして、澪という人間は劣等生であることを説明すれば、彼も間違っていたと気づくだろう。
狙った獲物は逃がさない。
私はそんな女よ。
そう、これまでもずっと。
私を拒んだ男なんて、一人もいなかったのだから。
そう思いながら、待ち合わせ場所へ足を踏み入れた。
私がやってきたのを見て、凰条一真は一瞬嬉しそうな顔をしたもののすぐにこちらを睨むような表情に戻ってしまった。
「凰条さま」
私はそんなことも気にせず彼の前に行き、挨拶をする。
「……なぜキミがここに来ている?」
ぞくりとするほどの怒りが、その一言に滲んでいた。
周りから見たら、そっくりの私たちの風貌。
この男はどうしてすぐに気づくのだろう。
「澪は行きたくないといいましたので、代わりに私が……」
「俺はキミを望んではいない。澪がいないのなら、今日は帰るよ」
すぐに席を立とうとする凰条一真に私は焦った。
「待ってください、凰条さま!」
私は慌てて声を張り上げた。
「澪なんてやめた方がいいです!」
ここで引き下がるわけにはいかない。
なんとかデートに持ち込めばいい。
そうすれば私のことを知って、凰条一真は私を選んでくれるはずだ。
「これは凰条さまのために言っているのです!あんな子、教養もないし、学もない。人とのコミュニケーションだって上手く無いし、厄介事ばかり起こして、使えない愚図です!あんな女を選んだら、凰条さまが損をします」
澪がどれほど無能な存在かを、私は知っている。
姉である私が、ずっと見てきたのだから。
使えなくて、トロくさくて花を愛でることくらいしか出来ない。
地味で使用人レベルの人間だ。
凰条さまはそれを知らないだけ。
必死に伝えたその時、低い声が落とされた。
「……教養がないのはキミの方ではないのかね」
「えっ」
鋭い言葉が、私の胸を刺す。
凰条一真は、静かに私を見下ろしていた。
「実の妹をなぜそんな風に悪く、口汚く言えるんだ?」
「そ、それはそれだけ澪の行いがひどくて……」
「私の目にはそうは見えなかった。少なくとも、彼女は他人を悪き様に貶めることはしないし、己の立場を守るためにウソをつくこともなかった。私の目には教養がないのはキミの方に見える」
その瞳には、軽蔑が滲んでいた。
思い描いていた展開と違う。
本来ならば、澪がどれだけ使えないか伝えたら凰条一真も分かってくれるはずだった。
だって凰条家は優秀なエリート一家。
そこに澪みたいな愚図が入ることを許すような家系じゃないと思ったからだ。
だから動揺する凰条一真を誘って、デートをしてそこからどっぷり私にハマってもらう。
その作戦でいたのに、どうしてこんな目を向けられなければならないの?




