表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/30

30. エルからラシェルへ

 パーティーがあった日から一週間。

 あの後すぐに魔塔へ帰れたわけではなく、後処理もろもろで、予定が押してしまった。

 まず、ラシェルとエスティリオとの結婚が決まったあの直後、水を差すような出来事が。

 第6皇女のリリアンヌが「ちょっと待った!」と声を上げたのだ。


「エスティリオ様、これは一体どういう事なの?!」

「どういうことって?」

「私とのことよ?! 私との結婚はどうなったの!!?」

「なんで俺が君と?」

「わっ、私を弄んだのね?!」

「人聞きの悪い。君はいずれ妹になるからと思って接していただけだよ。申し訳ないけど俺、君みたいなガキっぽい子無理だから」

「そんな……っ」


 泣き叫ぶ妹の姿を見るのはラシェルとしては辛いものがあったけれど、エスティリオが態度をはっきりと示してくれたことに安堵したのもまた事実。


「まさかエルさんが皇女殿下とは、思いもよりませんでしたよ」


 泣きながら連れていかれるリリアンヌをわき目に、アルノートがラシェルの元へとやってきた。


「保身の為、というのはどうやら、正解だったようですね」


 イタズラげに笑ってみせると、アルノートもまた「一本取られました」といって笑っている。

 そのあと嫉妬心を燃やしたエスティリオに、アルノートが声を出せなくさせられていたのは困ったけれど、二人は仲良しなのだと思うことにした。

  

 それから大きな出来後も。

 皇帝が皇太子に帝位を譲ることを決め、近々新たな皇帝が即位することになったのだ。

 生前退位はもう何代も行われていないが、あの一件で求心力が落ちたことと、流石に恥ずかしくて表には出られなくなってしまったようだ。

 更に皇女が嫁ぐエスティリオは、まだどの国からも爵位を貰っていないということで、帝国からは公爵の位を、他国からも幾つか爵位を与えれることになっている。

 

 エスティリオの力を目の当たりにしたことで、もう彼を「若造」と言って侮るものはいなくなった。

 実際魔塔へ帰ってみると、既に各国の王や皇帝を威圧したという話は伝わっており、帰ってきたエスティリオに対する態度がガラリと変わったのが分かるほどに。


 兄である皇太子からは、結婚するまでしばらく皇宮にいないかと提案されたが、エスティリオが即却下していた。

 それにラシェルとしても、薬草栽培研究官としての仕事がそのままだし、薬草畑も気になる。丁寧にお断りして、エスティリオ達と一緒に帰ることにした。


 そうして今日、魔塔広場での婚約発表を終えたラシェルは、ようやく研究所へと向かうことが出来る。

 明日にも結婚式を挙げようというエスティリオを皆で宥め、なんとか3ヶ月後まで引き伸ばしたのだが、なぜそんなに急くのかと聞くラシェルに、エスティリオは悩ましげにため息をついていた。


「誰かに取られないか心配なんだよ。だって変身を解いた後の、みんなのラシェルを見る目を見た?! いくら美人だからって、態度変えすぎだろ??! 絶対、横取りしようとする奴が出てくるから」

「横取りだなんて……。私はエスティリオ以外の人と結婚するつもりなんてないわよ」

「あーもう、惚気けるのもいいですけどね。普通に考えて、貴方からラシェル様を取ろうなんて考える命知らずな人、いませんから」


 アルノートをはじめとする侍従達に、呆れられてしまったことを思い出すと、今でも恥ずかしい。


 いつもの研究官としての服に着替えて薬草畑へと急ぐと、ナタリーとアルベラが畑仕事をしている。


「ナタリー、アルベラさん! 随分とここを空けてしまってごめんなさい」


 予定が押してしまって、と付け加えるラシェルに、二人はポカンと口を開けている。


「えっと……。あなた誰……?」

「ナタリー、この人さっき、魔塔主様の隣で紹介されていた……」

「え? え? 皇女様??」

「うふふ、エル改めラシェルよ。訳あって変身薬を飲んでいたのだけど、やっと元の姿に戻ったの。これからはラシェルって呼んでね」

「「ぅえええええーーーーっっ!!!」」


 この後、魔法薬部を訪れたラシェルが同様にして絶叫されたことは、言うまでもない。



              おわり

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ