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24. 帝国へ②

 荷物はこちらで準備するからと言われたので、荷物は小さなカバンにひとつだけ。

 言われた通りに集合場所へと行くと、エスティリオと他何名か、見送りをしに来た人達がいる。


「エル、こっちだよ」

「お待たせいたしました。あの……他の魔道士の方は?」


 エスティリオだけ行くなんてことはないはず。先日の話でも、他の魔道士も転移魔法を使えると言っていたのだし。キョロキョロと辺りを見回すが、一緒についてきそうな人は見当たらない。


「他の人は昨日出発したんだ。ここから皇宮までは遠すぎて一度の転移では無理だから、先に行ってもらっていて、今朝到着したって連絡が来たから、俺達も今から追い掛けるよ」


 魔塔にいる魔道士は、魔道士の中でも優秀な人達であろうに、やはりエスティリオは規格外のようだ。


「それじゃあ後はよろしく頼んだ」

「「「行ってらっしゃいませ」」」


 見送りをしてくれる人の顔には「あの人誰?」と書いてある。転移魔法を使えないような人を連れて行くなんてと、不思議に思うのも無理はない。

 ラシェルの腰にエスティリオの手が添えられた。


「遠いからちょっとキツイかも」


 歪む視界を遮るようにぎゅっと目を瞑ってエスティリオのローブにしがみつくと、腰に回された手に力がこもる。

 この感覚も幾度か体験しているのでもう慣れてきたかと思ったが、キツイと言っていただけあってかなり頭も体もクラクラとした。


「ベクレル様、お待ちしておりました」

「「「お待ちしておりました」」」


 目を開けるなり大勢の声がした。

 先に出発していた魔塔の者達の他にも、皇宮側からの出迎えとで広場には多くの人が集っている。

 自分が魔塔主の隣にいるのはあまりにも場違い過ぎて、思わずサッと後ろに周り、出迎えの群衆に混ざった。


「皇帝陛下がお待ちです。こちらへどうぞ」


 ドクンっと心臓が跳ね上がる。

 この声は……。

 エスティリオに話しかけている男性を見て間違いないと確信する。ラシェルが皇宮を去る日、父と一緒にいたあの、宮廷魔道士。

 あちらは覚えていなくても、ラシェルははっきりと覚えている。自分に呪いをかけた相手を忘れるはずがない。

 ドキドキとしながら見守っていたが、やはり宮廷魔道士の方はラシェルには気が付いていない。その他大勢には目もくれず、エスティリオを宮の中へと案内している。


「お付きの方達は私の後に付いて来て下さい。ご案内致します」


 エスティリオと離れてしまうことに不安を覚えたが、それもすぐに吹き飛んだ。

 宮へと入っていく間際、ローブの下から覗いているエスティリオの手が、小さく振られたような気がしたから。



 ◇◆◇



 一際大きく豪奢な扉が開けられると、その最奥、数段上がった場所に皇帝はいた。そのすぐ側には妃が何人かと、横には皇子や皇女といった皇族が並んでいる。

 付いてきたアルノートを含む従者は膝を折ったが、エスティリオ自身は跪く必要は無い。

 皇帝と魔塔主は、あくまで対等。

 

「我が帝国へよくぞいらして下さった、エスティリオ・アルマン・ベクレル魔塔主殿」

「この度はお招き頂き感謝致します。ゴーティエ皇帝陛下」


 本人が言っていたように、確かにラシェルは父親似のようだ。ミルクティー色のやや癖のある髪と凛とした顔立ち。今年で60歳になるとのとこだが、まだまだ男盛りといった言葉が良く合いそうな佇まいをしている。


「いつもなら、長旅でお疲れでしょうと労うところなのですが、流石は若くして魔塔主になられた御方だ。聞くところによると、魔塔からここまで転移魔法を使って一息に来られたとか。宮廷の魔道士達も驚いておりましたよ」

「周知の通り、私は宿屋を営むごく普通の家の出。魔法の腕だけで成り上がった者でございます。ご不快に感じる点も多々あるかと思いますが、大国を束ねる皇帝陛下には是非、ご教授願えれば幸いでございます」

「うむ。就任式へ出席した皇太子から話は聞いていたが、魔法の腕だけではなく、きっちり分別を弁えた方と見た。なあ、皇妃達よ」


 皇帝が皇妃達の方を向き話し掛けると、一様に頷き返している。

 

「ええ、外見(そとみ)だけではなく中も素敵な御方ですわ」

「是非皇子や皇女達とも、親交を深めていって欲しいものです」

「はっはっは、さっそく皇妃達の心を奪ってしまったようだな」

「恐縮でございます。陛下の美しい令夫人達の紹介をお願いしても宜しいでしょうか?」

 

 皇妃達が快く自己紹介をしてくれた。

 カレバメリア帝国の皇妃は通常3人。

 その内、ラシェルの母は既に亡くなっているので、新たな第3皇妃となった別の女性が、前第3皇妃の話には全く触れずに自己紹介していた。

 

「皇太子よ」

「はい、陛下」

「ベクレル殿と面識があるお前が、皇宮を案内して差しあげなさい」

「喜んで」

「それならば陛下、庭園の案内はリリアンヌにさせてみてはいかがでしょう。花のことは皇太子には分からないでしょうから」


 第2皇妃が皇太子の母、第1皇妃をちらりと見て皇帝に提案している。これに皇帝も「そうだな」頷き声をかけた。

 

「堅苦しい話ばかりで飽きてしまうといけない。リリアンヌ」

「はい、お父様」


 皇子と皇女が並ぶ中から、一人の若い女性が進み出てきた。エスティリオよりも幾分、年下のように見える。フリルがたっぷりとあしらわれたドレスの胸元には、宝石がキラキラと輝いている。


「末娘で第6皇女のリリアンヌだ。他の娘達は嫁いでいったが、この子は今、帝国内にあるアカデミーに通っているんだ。天真爛漫な子だから、ベクレル殿もきっと退屈しないであろうよ」

「あらお父様! 天真爛漫と言うのは褒め言葉でして?」

「もちろんだよ。純真で可愛いという意味さ」


 皇帝の溺愛ぶりが伺える。

 いかにも甘やかされて育った感じのするリリアンヌは、無邪気な笑顔をエスティリオに向けてきた。


「後日、御案内させていただきますね」

「……よろしく」


 いきなりの馴れ馴れしい態度。

 誰も咎めないのかと周りを見るが、いつもこの調子なのだろう。皇帝と第2皇妃はデレデレだし、他の皇妃は失敗すればいいと思っているので、素知らぬ顔をして何も言わない。

 

 面倒くさそうな子だな。


 リリアンヌに対するエスティリオの感想などお構い無しに、庭園散策が決まってしまったのだった。


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