表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

もう一組の元勇者と元剣聖

「「お前は…?」」

俺達は同時に口を開けた。

すると向こうからも俺と全く同じ声が聞こえた。

しかも向こうに立っている青年も驚いた顔をして俺を見つめていた。

俺達がぽかんとしていると、またガサガサと茂みが揺れて小柄な少女が現れた。

「ただいまー。…えっ!?」

茂みから現れた少女…エマは呆けている俺達を見て声を上げた。

「え、エドが二人…?」

エマは交互に俺と向こう側にもう一人のエマと共に立つ俺を見て言った。

「それに…。」

「私がもう一人…?」

向こう側に立つもう一人のエマが言った。

「どういうことだ…?」

俺はディスティニーの柄に手を添えながら呟いた。

「お前達は…ドッペルゲンガーか?」

もう一人の俺が俺達に尋ねる。

「ドッペルゲンガー?」

俺はどこかで聞いたことのある単語に首をかしげながら言った。

「とぼけているのか?」

もう一人の俺が俺を疑わし気に見据える。

「エド、ドッペルゲンガーは旅人と同じ姿に変身して相手を惑わせて仲間割れさせる魔物だよ。」

俺の隣に立つエマが俺に教えてくれた。

「あ、あぁ。そう…だったか…?」

俺はすっぽり抜け落ちた記憶を探し出そうとするが、全く思い出せず、最終的に諦めた。

俺は首を振ってもう一組の俺達に向かって言った。

「俺達はドッペルゲンガーではないぞ。そっちこそドッペルゲンガーなんじゃないか?」

俺が尋ねるともう一組の俺達は首を横に振った。

そりゃ、ドッペルゲンガー(魔物)が素直に「はいそうです」なんて言うわけがないのだが。

「じゃあ、そっちの俺に質問だ。俺の親父の名前は?」

「そんなの簡単だ。…えぇっと……。」

もう一人の俺は親父の名前を思い出そうとするが、中々出てこない。

「答えられないのか?やっぱりお前の方が魔物のようだな?」

俺がディスティニーを抜きながら言うと、もう一人のエマが言った。

「じゃあ、もう一人のエドに質問よ。私とエドが出会ったのはいつ?」

俺はピタリと立ち止まった。

背中に嫌な汗が噴き出た。

忘れるわけがない。

虐められて瘦せ細っていたエマにパンを渡した時のことだ。

「…5年前の4月だ。」

俺が答えると、もう一人のエマは首を横に振った。

「違うわ。」

もう一人のエマがそう言うと、背後からまた茂みが揺れる音が聞こえた。

振り返るとそこにはもう一組の俺達が立っていた。

「俺とエマが出会ったのは7年前の9月9日だ。」

新たに現れた俺は不敵に微笑んで俺に言い放った。

「これは一体どう言うことだ?」

新たに現れた…エドBは俺達を見回して言った。

「俺達はエマが国家の新たな敵として処刑されそうになっていたから逃げているんだ。」

最初に現れた…エドAが説明をした。

「俺達もそうだ。」

俺は頷いて言った。

エドAの隣にいるエマ…エマAが口に手を当てて言った。

「この森…迷いの森って言ったよね…?」

「ああ。そうだな。」

エドAが頷いた。

俺が地図帳をバッグから取り出すと他のエド達も思い出した様に地図帳をバッグから引っ張り出した。


エカテリーナ王国 中央周辺


迷いの森

下級中位ダンジョン

推奨階級 冒険者ランク4級

王都から最も近い森林型の迷宮(ダンジョン)

比較的危険度は低く、初心者冒険者でも攻略が出来るとされている。

常に濃い霧が立ち込めており、数歩先の風景すら霞んで見える。


出現する魔物

ホワイトスライム 動く屍(ゾンビ) ゴブリン 植物系魔物全般


注意

この森に入る際には必ずパーティー全員の精神(メンタル)が正常であることを確認する必要がある。


「パーティーの精神が正常である…?」

隣から覗き込んでいたエマが呟いた。

「精神が不安定な者が入るとその人の魂が分解されてしまうらしい。」

エドBが地図帳から顔を上げて言った。

「分解…?ってことはお前達は俺の一部ってことか?」

俺が言うと、2人のエドもようやく納得したと言う表情で頷きながら同時に言った。

「「そういうことか。つまり2人は俺の一部でもあるってことか。」」

記憶が所々抜け落ちているのにも納得だ。

「戻るにはどうすればいいんだっけ?」

エドAが尋ねる。

俺は断片的に頭に残る記憶を掘り起こして言った。

「発生源の人物の精神状態を正常にすることで戻るらしい。」

俺が言うが、だが他の2人のエド達が首を傾げた。

「「発生源?」」

3人のエマは顔を伏せた。

「エマ?」

「どうかしたのか?」

俺が聞くと、3人のエマはそれぞれ節目がちに俺を見上げて言った。

「「「多分…それ…私が原因なんだと思う…。」」」

「「「何だって…?」」」

3人の俺はそれを聞いて、エマを凝視した。

考えてなかったわけじゃない。

国の為の殺されそうになっているエマを無理矢理連れて来たのだ。

エマには相当なストレスがかかっているだろう。

「私…怖いの…もしかしたら本当に人々を虐殺してしまうかもしれない…、本当は勇者として守らないといけない命を奪わなければいけないかもしれないのよ!…もしかしたらエドも殺しちゃうかもしれない…。」

エマは俺に寄りかかるようにして俺の胸に顔を埋めた。

俺はエマの頭に手を乗せた。

「大丈夫だ。アルだって言ってたぞ。勇者(エマ)は人を倒せないって。それに…。」

俺は言葉を濁す。

「それに?」

エマが上目使いで言った。

エマの晴れた夏空のような青い瞳は涙で濡れていた。

俺はエマの身体から溢れるオーラを感じながら言った。

「エマはもうエカテリーナ王国の勇者じゃないんだ。」

「え…?」

エマは目を見開いた。

エマの身体から溢れるオーラからは、国の使命を背負った王国勇者の重荷の(プレッシャー)を感じられなくなっていた。

だが、まだ創世の女神様からの加護は感じる。


称号には神から与えられる称号と国の偉い人などから与えられる称号の二種類が存在する。

俺達勇者パーティーは全員両方の称号を持っている。

俺の場合は創世の女神様から与えられた“剣聖”の称号とエカテリーナ王から与えられた“剣聖”の称号を持っている。

どちらの称号も同じ名前をしている為、どちらの称号なのか聞いただけではわからない。

だが、決定的な違いがある。

それは女神からの称号には加護が着くが、王などからの称号は役割を与えるだけである、ということだ。

俺の国王から与えられた“剣聖”の称号の役割は、騎士団を率いてエカテリーナ王国を守る、という役割だ。

エマの“勇者”の称号の役割は、王国を脅かす敵である呪われた魔王ヴェルザールを討伐する、という役割だ。

魔王ヴェルザールの討伐は既に完了していて、エマの王国勇者としての役割は既に終えているのだ。


俺はそれを泣きつくエマを優しく抱きしめながら伝えた。

「それに元々、エマはエカテリーナ王国の国民を守る義務なんてなかったんだ。」

俺が続けてそう言うと、エマは不意に糸が途切れたかの様に俺の方へ崩れ落ちた。


 よかった…。


そう呟いて。

いつの間にか他の二組の俺たちは消えていて、エマの静かな寝息だけがこの森の中で聞こえていた。


おそらくエマはずっと王から与えられた“勇者”の称号の重圧に押し潰されて来たのだろう。

エカテリーナ王はどうやらエマに二種類の称号の違いを伝えていなかったのだろう。

エマはさっきの俺の話を初めて聞いたかの様に目を見開いて驚いた表情をしていた。

「あの愚王…。」

俺が思わず吐き捨てると、いつの間にか戻って来ていたシェリハが心配そうに俺とエマの顔を交互に覗き込んでいた。

「シェリハ。戻って来たのか。」

俺は霞むことのない白馬の頭を撫でた。

そしてエマを抱き抱えてシェリハに跨った。

「悪いな、ゆっくり進もう。日の昇る方角へ。」

俺はエマを起こさないように静かにシェリハに伝えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ