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逃亡は白昼堂々と

「一緒に逃げるぞ。君に灯火はまだ消えちゃいないだろ!?」

俺はエマの腕を掴んで言った。

するとエマの青い瞳に僅かに炎が灯ったのが見えた。

真冬の海の様な冷え切った瞳に一筋の炎が灯ったのだ。

しかしそれも一瞬で消えてしまい、また瞳には絶望の色が浮かんだ。

よほど兵士達に何か良からぬことを吹き込まれたらしい。

俺はエマの小さな身体を抱えた。

あの時からある程度は肉付きも良くなり、筋肉もついていたがそれでも騎士の訓練に使われる打ち込み用のカカシよりも遥かに軽かった。

俺はエマを抱えて地下へと繋がる穴へ飛び込んだ。


穴の下は不揃いの煉瓦で補強されていて、崩れない様に固定化の魔法がかけられている。

騎士団員達の力を借りたこともあり、これを作った時よりも背が伸びた俺達も屈まずに地下通路を歩くことが出来た。

エマは俺から離れようとするが、対人戦は俺の方が強く、エマの小さな身体では俺の腕から逃れることは出来なかった。

俺が降りてからすぐにアルも降りて来た。

「城の地下にこんなもの勝手に作ってよかったのか?」

アルが地下通路の様子をぐるりと眺めて言った。

この地下通路を作った時にはまだアルは奴隷として働かされていた時だったか。

「勝手にじゃないわよ。父上にはちゃんと許可を貰ったわ。」

ウィンディは得意げに胸を張った。

確かに許可は貰っていたな。

ウィンディはエカテリーナ王に城に秘密の地下通路を作っても良いか訊ねていた。

王は子供の遊びだと思って適当に返事をしていたけど。

「それならここ通ったこと王様に筒抜けじゃないか?」

アルが言うと、ウィンディはニヤリと聖女とは思えないいたずらっ子のような顔をした。

「父上はどこに地下通路があるかなんて知らないわよ。あの部屋が私の部屋になったのだって、偶然だしね。」

「へぇー…。」

アルはそれで納得したのか頷いて俺とウィンディの後ろをついてきた。


俺達は地下通路を黙々と進んだ。

通路に敷かれた石レンガの床を叩く俺達の足音が響いていた。

この通路には作っている時に音が出てばれないように軽い防音魔法もかかっているため、俺達がここを移動していることは誰にもばれていないはずだ。

エマは観念したようでウィンディに手を引かれながら通路を歩いていた。

「そろそろ出口よ!」

前方から白い光が漏れているのが見えた。

当時は果てしなく長い道のように感じていたが、今ではとても短く感じる。

あの頃の俺とウィンディにとってここは小さな迷宮(ダンジョン)だった。

薄暗く、一歩足を踏み出す度に不気味な音を立てる床はまさに幼い俺達だけの迷宮で遊び場だった。

まさかそれが逃亡のための抜け道になるとは…。

俺達は白い光が溢れている通路の出入り口に飛び込んだ。


外に出ると、そこには馬の牧草地が広がっていて、騎士達の馬が朝食の青草を食んでいた。

後ろを見上げると、そこにはさっきまで俺達がいたエカテリーナ王城が威圧的に建っていた。

「抜けて来たはいいけど、これからどこへ向かえばいいんだ?」

俺が尋ねるとアルが言った。

「ここから東へ向かったところにコウガ民国っていう国がある。また魔王城の方角に戻ることになってしまうけど、あの周辺は強い魔物も多い。だから城の兵士達も簡単には追いつけないはずだ。」

「なるほどな。」

俺は頷いて右手を横に差し出し、口笛を吹いた。

すると右手には聖剣ディスティニーが青い光を放って現れ、牧草地からは一頭の馬がこちらに向かって掛けて来た。

俺はディスティニーを腰に下げて、馬を迎えた。

「久しぶりだな、シェリハ。」

純白の美しい馬、シェリハは俺に鼻を擦り付けて来た。

「その子は?」

エマが初めて見る俺の愛馬を見て聞いた。

「俺の相棒のシェリハだ。魔王討伐の旅をしている時は連れていけなかったけど、今回の逃亡には付き合ってもらうぞ。」

シェリハは賢い馬だ。

逃亡の意味も分かっているだろう。

それでもシェリハはエマの不安そうな顔を見て頷いた。

エマはシェリハが頷いたのを見て目を見開いた。

エマが何かを言おうと口を開きかけたとき、城に隣接した騎士の宿舎から数人の騎士達がこちらに駆けて来た。

ウィンディは身構えたが、俺が押し留めた。

「大丈夫だ。」

俺がウィンディ達に言い聞かせると、走ってくる集団はあっという間に俺達の前に走って来た。

「兄様!」

レギュは騎士達の前に立ち、俺達を心配そうに見つめた。

「団長!一体何やらかしたんすか!?」

十人隊長のジェームズも心配そうに俺を見つめる。

「すまないな。俺は剣聖の地位を剥奪された。」

俺がそう言うと、騎士達の間にどよめきが走った。


俺は続けて俺とエマが今置かれている状況をざっくりと説明した。

勇者(エマ)の力が国にとってこれから脅威に成り得ることを危惧した王によってエマが秘密裏に消されそうになっていること。

それを庇った俺が国に対する反逆者として追われる身となってしまったこと。


「どういうことですか!?兄様とエマ様は魔王を倒した英雄ではありませんか!それなのに…。」

レギュは悔しそうに拳を握った。

「今のところ団長が何か問題を起こした、またはエマ様が何か問題を起こしたという報告は騎士団には入っていません。」

白翼騎士団の中では珍しくない女騎士のペチュニアが俺に告げる。

ペチュニアは団長()の秘書のような役割をしてくれて、事務作業の一部などを任せている。

「そうか…。」

「多分、騎士団はエドの部下だから情報が伝わって協力されるのを防ぎたかったんだろうね。」

アルが言うと、ペチュニアも「恐らくその通りかと」と言って頷いた。

「団長はこのまま勇者ちゃんと逃亡するつもりなんすか?」

ジェームズが言った。

「ああ。この城の者たちの誰が敵なのかわからないからな。それにこのままだとエマが殺されかねない。」

俺が言うとエマは俺の服の裾を掴んだ。

「それがいいですね。魔王を倒したからと言って魔物の脅威がなくなったわけではないですから。」

「しっかし、あの愚王…。エマ様を国の脅威だとか…。狂ってるんじゃないか?」

ジェームズと同じく十人隊長のロバートが苦々しげに吐き捨てた。

しかしウィンディの姿を見てすぐに「失礼しました。」と頭を下げた。

「いいんですよ。父上の今回の行動は不審な点が多く、矛盾している点も多いですから。」

ウィンディも王には不信感を抱いているようで、特に気にした様子もなかった。


「出発の前にこれを持って行ってください。」

俺とエマがシェリハに乗る前に俺に一人の騎士にしては小柄な少女がやって来て俺に小さなポーチを渡してきた。

少女は料理が出来ない脳筋が多い騎士団の料理の面倒を見てくれている、リラだ。

彼女も元々エマと同じくスラムの孤児院出身で、スラムの開発のときにもエマやウィンディ達の手伝いをしていた。

「そのポーチはマジックバッグになっていて、賢者様に手伝ってもらって作ったんです。」

ポーチを開いてみるとそこには見た目よりも広く深い空間が広がっていて、金貨やら弁当やらが詰め込まれていた。

アルの方を見ると、アルはしたり顔で俺に親指を立てて見せた。

「ありがとな。」

「入っているお金は団長の部屋にあった金庫をこじ開けて入ってたものです。ですのでご安心を。」

俺が礼を述べた次の瞬間、リラがとんでもない爆弾発言を聞くことになった。

「ちょっとまて、金庫を開けたのか!?」

俺は金庫の中身を思い出して真っ青になった。

「はい。」

リラはにっこりと眩しい笑顔を俺に向ける。

「安心してください。金庫の中に入っていた不適切な画集は処分しておきましたので。」

ペチュニアの冷たい視線が俺に刺さる。

俺は何もやましいことはないという顔をして頷いた。

「そ、そうか。」

少し声が震えてしまった。


俺は咳ばらいをして気を取り直して言った。

「さっきも言った通り、俺は剣聖の称号を剥奪されてしまった。それに今は追われる身となってしまった。」

レギュが唇を噛んだ。

「俺は騎士団長を降りる。」

騎士団員達は口を開いて何か言おうとしたが、悔しそうに言葉を飲み込んだ。

「兄様!」

レギュが耐え切れなくなったのか叫んだ。

「兄様程の力があれば王達を一掃して、新たに国を興すこともできるでしょう。何も逃げなくても!騎士団長の身分を捨てなくても!」

レギュは俺がずっと親父の後を継いで騎士団長になりたいと言ってきたことを覚えているのだろう。

俺はレギュの頭を叩いた。

「お前たちには迷惑をかける。」

俺は決意を込めて言った。

レギュを含め騎士団員達がハッと顔を上げる。

俺は高々と宣言した。

「ここにレギュラス・カブラを騎士団長とし、ペチュニア・クリアウォーター及びロバートを副団長とし、新生白翼騎士団の設立を宣言する!」

「で、ですが兄様!私は団長になれる程の力を持っていません!」

レギュが不安そうに言う。

「安心しろ。お前は強い。俺が魔王討伐に行っている間、この騎士団をまとめてくれていたじゃないか。」

俺はレギュを励ましてから言った。

「俺とエマはここから東にあるコウガ民国へ向かう。この情報を王へ伝えておけ。そうすれば少なくともお前たちが疑われることはないはずだ。」

騎士達は地に膝を突いて頷いた。

「わかりました…。」

レギュは大きく息を吸って言った。

「これより、新生白翼騎士団は聖女ウィンディ・エカテリーナ第一王女及び、賢者アルフォンスを御守り致すことを誓います。」

ウィンディとアルは目を見開いて自分たちの前に跪く騎士達を見下ろしていた。

「兄様とエマ様の仲間だったということで真っ先にこの逃亡を手助けしたことを疑われるのは、お二人でしょう。」

レギュは続けて言った。

「我々白翼の騎士団はあなた方御二人を御守り致します。」


「エド!」

ウィンディがシェリハに跨った俺の名を呼ぶ。

「エマを頼んだよ。」

「僕達も着いていければ良かったんだが…。」

アルも悔しそうに拳を握りながら言った。

「二人とも、王城ではなにがあるかわからないからな。気を付けろよ。白翼の騎士団(お前ら)も、二人を頼んだぞ。」

俺がシェリハの上から声をかけるとレギュは「任せてください」と応えた。

「エマ、またね。」

ウィンディが俺の前に跨るエマに声をかけた。

エマは力なく手を振った。

「皆、元気でやれよ!」

俺はそう言ってシェリハの横っ腹を足で小突いた。

シェリハは太陽に照らされた牧草地を太陽が昇る方角に向けて走りだした。

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