城の地下牢
たどり着くとそこは地下牢だった。
薄暗い地下には苔が生えており、じめじめとして嫌な感じだった。
魔王城をくまなく探索したわけではないが、下手すりゃ魔王城よりも不気味な場所だった。
エマの反応がする場所につくと、そこには複数の兵士に囲まれて取り押さえられているエマがいた。
「何をしている?」
俺が声をかけると、兵士達はビクッとして飛び上がった。
「こ、これは剣聖殿。どうしてこのような場所に…?」
「今は俺が質問しているのだが?」
俺は兵士を睨んだ。
「ゆ、勇者様が疲れたそうなので、客室に案内をしていたのです。」
「こちらに客室はないはずだが?」
「ちっ。」
リーダーらしき人物が舌打ちをした。
「剣聖殿、黙って国のために働いていればよいものを。余計なことに首を突っ込まなければこんなことにはならなかったのにな!お前たちやれ!いくら剣聖でもこの人数を相手に素手では無理なはずだ。」
俺は今パーティーに出るために聖剣ディスティニーは客室に置いてきてしまっている。
だが。
俺は手を横に差し出した。
すると、どこからともなく青く光る剣が現れた。
「なっ!?」
驚く兵士をなぎ倒し、俺はエマの元へ向かった。
「エマ!大丈夫か?」
「エド…。」
エマは無理矢理連行されたのだろう。
顔や剝き出しの手足には無数の打撲跡が残っていた。
「ウィンディのところへ行って治してもらおう。」
俺が提案すると、エマは弱弱しく首を振った。
「お前ら、エマに何を吹き込んだ?」
俺はエマの生気を失った目をみてから尻もちをついている兵士の一人に尋ねた。
「ひっ。」
兵士の顔が青ざめてゆく。
「ゆ、勇者はこの国を脅かす第二の魔王となりえる存在だからです…。」
「第二の魔王?」
俺は座り込んでしまっているエマの隣に膝をつきながら言った。
「えぇ。その勇者は貴方と違い、国家ではなく創世の女神に仕えています。創世の女神はこれまでいくつもの国々を気まぐれで滅ぼしてきました。レンブラン帝国、リゼスター王国などがそうです。つまりその使者である勇者ももしかしたらこの国に仇をなす存在と成り得るのです。」
兵士は恐怖で頭が回っていないのかペラペラと喋り出した。
「もしも女神がこの国が不要と気紛れを起こしたら勇者もそれに加担し、この国の人間を虐殺する可能性があるのですよ。勇者の意思に関係なく、です。」
「そうよ、エド。だから私は誰にも知られず死ぬのが最善なの。」
エマが弱弱しくはにかみながら言った。
「そんなわけあるか!」
俺はヘラヘラと笑う兵士達に怒鳴った。
「女神様が国を滅ぼすのは常に何かしら理由があったからだ!レンブラン帝国は属国の国民を奴隷として他国に売りさばき、人権を脅かしてきたからだ!リゼスター王国は貴族王族の税金の汚職と少数民族への過度な差別を行ってきたからだ!」
俺の威圧に気圧された兵士達は尻もちをついたまま後ろに後ずさりをした。
「それとも何か?この国の連中は女神様に滅ぼされるような後ろめたいことでもあるのか?」
「エド。もういいの。私、折角守った国を自分の手で滅ぼしたくないの。」
エマはそう言って俺の袖を引っ張った。
だが納得がいかない俺はエマを抱えてパーティー会場へ猛ダッシュで戻った。
「エド!それに…エマ!?どうしたの!?」
会場のウィンディとレギュのいる席に戻り、エマをウィンディに診せると、ウィンディはすぐに回復魔法をエマにかけた。
傷だらけで現れたエマに気が付き俺たちの周りには人だかりが出来ていた。
「エマ!?」
騒ぎを聞きつけてアルが駆けつけてきた。
「何が…?」
アルとウィンディとレギュは事情を知らないため、オロオロとエマの白い肌に刻まれた痛々しい傷跡が回復魔法で塞がっていくのを見ていた。
俺が事情を3人に説明しようと口を開くと、エマは俺の口を片手で塞いだ。
その手は酷く震えていて雪のように冷たくなっていた。
「エ…マ…?」
俺は見た目よりずっと力の強いエマに口を押えられているため、声を出すことができない。
「おぉ、これはどういうことだ?」
騒ぎを聞きつけてエカテリーナ王が近衛兵とともにやって来た。
「父上!エマが、傷だらけになって…。エドが抱えてきて…。」
ウィンディが状況を説明しようとすると、エカテリーナ王はそれを制した。
「そうか。勇者殿がこの状態ではパーティーは続けられまい。」
俺は他の皆とは別に謁見の間に呼ばれた。
銀髪のメイドが王と俺の前に茶の入ったカップを置いた。
王はカップを持ち上げ、一口に含んだ。
どうやら解毒作用のある茶葉が使われているようで、酒に酔い赤くなった王の顔色が徐々に元に戻っていく。
「剣聖よ。何故、勇者を助けた。」
王はゆっくりと俺に尋ねた。
「は…?」
俺は王の問いに驚き、言葉を失った。
「何故勇者がここにいるのかと聞いているのだ。」
王はやや投げやりに聞いた。
「勇者は、エマは兵士達に暴行を受けておりました。剣聖として、白翼騎士団長として、勇者の仲間として、エマの親友として当然のことをしただけであります。」
俺は顔を上げて王に報告した。
「剣聖として…か…。」
王は意味深に息を吸った。
「勇者が創世の女神にのみ仕えるという話は知っているな?」
「…はい。」
「女神の機嫌一つで勇者はこの国を滅ぼす最も恐ろしい敵となるのだぞ。」
「それはどうでしょう。」
この話の流れ…。
どうやらエマを秘密裏に殺害しようとした主犯はエカテリーナ王で間違いないようだ。
「何?」
王はややイラついたように低い声で言った。
「女神様は、勇者は、エマは、何の理由もなく国を滅ぼしたりしません。これまで女神様に滅ぼされた国々は何かしらの問題があったことが、村の教会で習う歴史の授業でも教えられています。つまりこのまま善政を敷いていれば、国が滅ぼされることはありません。」
王が何か言おうとする前に俺は言葉を続けた。
「それとも、何か思い当たる節がおありで?」
俺が王を一睨みすると王は顔を青くして怒鳴った。
「ぶっ、無礼者!おぉい!近衛兵よ!こやつをひっ捕えよ!」
すると王の隣に立っていた二人の近衛兵が俺に持っていた槍を構えた。
さらにドアからは4人の近衛兵が現れ、俺を包囲した。
この国の近衛兵は紺色の生地に、金色の刺繍によって描かれた魔法陣によって強化が施された制服を着ている。
俺はディスティニーを呼び、鞘からは抜かず、そのまま近衛兵を薙ぎ払った。
「これは、どういうつもりですかな?」
俺は無様に床に這いつくばる王族を守るエリート集団を指さして言った。
「決まっている。国家を脅かす勇者を、いや新たな魔王を庇ったお前を拘束するためだ!これよりお前から剣聖の称号を剝奪する!」
そう言い放って王は俺の側に置かれた茶の入ったティーカップの中身を俺に投げかけた。
俺はディスティニーを盾のように構えたが、茶は俺の体にもろにかかった。
普段ならそのまま王をねじ伏せ、王の悪事を吐かせるのだが、俺は何故かとてつもない眠気に襲われ、その場に膝から崩れ落ちた。
どうやらあの茶には強力な睡眠薬が盛られていたのだろう。
だが、俺は剣聖の加護によってある程度の毒は即解毒できるはずなのだが…。
‘‘ある程度‘‘の睡眠薬ではなかったようだ。
俺は薄れていく意識の中、王の悪意に満ちた悪魔に憑かれたような顔を見た。




