キファー商会の依頼
翌日、俺たちはニコラに案内されてキファー商会(元冒険者ギルド)にやってきた。
ガウリーとエミーリアは解毒薬を使って二日酔いを強制的に治した。
宿で休んでいても良いと言ったのだが、俺たちが行くのに休んでいられないと言って、バッグに詰め込まれていた解毒薬を使って治していた。
「おやおや、ようこそいらっしゃいました。」
紺色のスーツを纏っている細身の下男が俺達を出迎えた。
「これはこれはニコラさん。準2級の冒険者たちに捨てられて、新しいお友達を連れてきたのですか?」
下男はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらニコラを足元から頭頂までジロジロと眺めた。
「あなた方はギルドの等級はいくつなんですか?」
「俺達は冒険者ギルドには所属してない。」
本当は持っているのだが、本名が載ってしまっているため、誰かに見せることはできない。
「ほう?」
下男は田舎者が来たと俺達をコソコソ笑いながら、バカにしたように言った。
「ではギルドに登録していただきます。」
「キファー商会の会員にか?」
「いえ、国家ギルドの登録をしていただきます。」
「?ここは国営のギルドではないと聞いているが?」
俺が疑問に思って聞くと、彼はニヤニヤ笑いながら言った。
「ええ。ですが、依頼の仲介をするうえで、ギルドに登録していないと、不都合が生じますゆえ。」
「不都合?」
「はい。例えば依頼に失敗し死亡した場合、罰則金は遺族の方々に支払って貰わなければなりません。そこで身元をはっきりさせる為にギルドに登録していただきます。」
聞いたこのない仕組みだな。
依頼失敗の罰則金なんて聞いたことがない。
下男は契約書と書かれた一枚の羊皮紙を差し出した。
そこには羊皮紙の下の方に小さく「ギルド登録、1人ラーミレア銀貨2枚」と走り書きされていた。
「いくらなんでも高すぎないか?」
俺が尋ねると、「いえ、妥当ですよ」と言った。
銀貨2枚もあれば一ヶ月くらいはなんとか暮らしていける。
(昨日の服屋の娘から平民達の経済情報について聞いた。)
つまり銀貨2枚は結構な金額なのだ。
それにこのギルドに名前を登録すだけの為に銀貨2枚はいくらなんでも高すぎる。
平民にとってはかなり負担だろう。
しかも冒険者になるのは大体金のない若者ばかりだから、冒険者になれるのは金持ちの坊々くらいじゃいなか。
「まあ、この町以外にもギルドはあるし、ひとまずゲストとして依頼を受けよう。」
俺は下男に言った。
ゲストとは、ギルドに正式に登録はせず、正式に登録された冒険者の補佐を行う階級に属さない特殊な役割だ。
冒険者の登録自体は簡単なのだが、登録料が発生する。
登録料も普通は銀貨2枚もしないため、大抵の人は登録を行なって冒険者となる。
ゲスト制度を使うのは登録料すら払えない貧困街の子供くらいだろう。
「よろしいのですか?」
下男は確認をとった。
「ああ。銀貨8枚も払えないからな。」
他のギルドの方が断然安く済むだろう。
「では、こちらに名前と職業を記入してください。」
下男はまっさらな羊皮紙を差し出した。
俺は下男から羊皮紙とペンを受け取り、俺たちの名前を書いた。
テディ 剣士
エミーリア 剣士
ガウリー 盗賊
チョコ 治癒師
「はい。確かにいただきました。」
下男が奥へ引っ込むと、ニコラは俺たちを依頼の張り紙が貼られた掲示板へ案内した。
「どういうことだ?」
掲示板には依頼が数枚しか貼られていなかったのだ。
普通、依頼はそう簡単になくなるものではないのだ。
物資は常に足りていないし、魔物の脅威もなくなったわけではないのだから。
「仲介依頼料が跳ね上がったせいで、誰も依頼を出さないんだ。」
俺はなるほどな、と呟きながら一番下に貼られていた依頼を見た。
「報酬銀貨1枚?」
俺が手に取ったのはただのゴブリン狩りの依頼だった。
「成功報酬の割に仕事が楽じゃないか。」
俺が言うと、ニコラは頭を横に振った。
「失敗したら罰則金でこれの2倍の額を払わなければならないんだ。しかも、依頼の最中にギルドの職員が邪魔をしにくるから全然楽じゃないんだ。」
「まあ、俺たちくらいなら余裕だろ。」
俺は不敵に笑って見せて、ゴブリン討伐依頼とツノウサギ狩り依頼の二つを受けることにした。
ニコラは昨日の夜とは打って変わって不安そうに俺の様子を見ていた。
酒が抜けると気分が下がってしまうのかもしれない。
「二つも受けるんですか?」
依頼受注窓口の女性は驚いたように言った。
「やめておいた方がいいですよ。」
と止めてくるが、どっちもそこまで脅威的な魔物でもないし、おおかた家畜や畑を荒らす程度の魔物だから大丈夫だといって俺は依頼を受注した。
「俺たちはこのまま出かけられるが、ニコラはどうだ?」
俺はすぐに依頼に出発できるようにいつもの動きやすいライトアーマーの装備を身につけていた。
対してニコラは昨日と同様の動きにくそうな濃紺のローブを纏っていた。
「俺もいつでもいけるぞ。」
「ローブじゃ動きにくくないか?」
俺がそう言うと、ニコラはローブの前を止めていたボタンを取り外した。
ローブの下はハーフプレートの革の鎧をピッタリとした紺色の服の上に着ている。
「大丈夫だ。ローブは意外と防御力高いんだ。」
なるほどな。
俺たちは頷いて、町のそばにある森へ向かった。