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服選び

荷物を部屋に置こうとして、すべてマジックバッグに入っていることを思い出した。

このマジックバッグの容量は凄まじいもので、貴族の屋敷がまるごと二つ入りそうなほどだった。

「ガウリエフは何か置いておくものはあるか?」

俺はマジックバッグを肩から掛け直して、ガウリエフに聞いた。

「はい。」

ガウリエフはそう言って、ポケットをひっくり返した。

すると、ドサドサと音を立てて、暗器が床に転がった。

俺が明らかにポケットに入りきらないだろう量の小型の武器の量を見て呆然としていると、ガウリエフは一通り出し終わったのか、俺に説明してくれた。

「暗殺者専用の服のポケットの特性を生かした収納術です。暗殺ギルドの者は全員これくらいのことは習得しています。」

どうりで、やけに鎧も着ていないのに重いと思った。


俺たちは暗器を部屋の隅にまとめて置いてから、部屋から出た。

暗器を持っていても魔物と出会った時用の護身用だろうと思われるだけで、特に何か問われることはないだろうが、一応部屋に入られないように、ドアに魔法で鍵をかけておいた。

部屋を出て、下の入り口にはすでにエマとマオが待っていた。

特にふたりとも荷物は持っていなかったので、部屋の内装だけ見て出てきたのだろう。

「よし、それじゃあ行くか。」


俺達は宿のすぐとなりにある服屋へ向かった。

服屋の店先にはカラフルな上着やシャツ、ズボンやスカートが木でできた人形に着せられて並んでいた。

入口にもこれ見よがしに色とりどりの服が掲げられていて、一目で服の仕立てをしているのだということがわかる。

俺たちは木でできたドアを開いて、店の中へ入った。

店の中には大人ものから赤ちゃん用、紳士用から婦人用までいろんな種類の服がそろっていた。

「いらっしゃいませ。」

入り口のすぐ隣にカウンターが置いてあり、そこには焦茶色のスカートにベストを着こなしたスタイルのいい若い女性が立っていた。

「俺の連れに似合う服を見繕ってくれないか?」

俺が受付の女性に言うと、女性は「わかりました」と頷いて店の奥に向かって誰かを呼んだ。

すると下働きらしい二人の娘とさっき宿を紹介してくれた青年が出てきた。

「おお、さっきの冒険者か。」

青年は懐から測りを取り出しながら言った。

「ああ。この男に合いそうな服を選んで欲しいんだが。」

俺はガウリエフを青年の前に押し出して言った。

すると青年の雰囲気がただの町の青年から、職人のような雰囲気に変わった。

「わかりました。私は仕立て見習いをしております、シュルクと言います。えーっと…。」

「ガウリ…ガウリーと言います。」

ガウリエフは暗殺ギルドの連中にバレないようにだろうが、本名とは若干違う名前を名乗った。

俺はそれを聞いて、エマとマオにだけ聞こえるように「本名は名乗るな」と注意しておいた。

エマとマオはそれぞれ頷いて、エマは検問のときに名乗ったエミーリアを使うようにし、マオはチョコと名乗るようにしたらしい。

よほど朝食べさせたチョコレートバーを気に入ったようである。

俺もテディと名乗った。

「ガウリーさんは、職業(ジョブ)は何を担当しているのですか?」

「以前は剣士をしていましたが、今は盗賊(シーフ)をしています。」

「盗賊ですか…。」

「ギルドには所属していませんが、国家認定職業盗賊です。」

ガウリエフ改めガウリーは懐から銀色の薄い手のひらサイズのカードを取り出した。


盗賊などの一般的に悪党に分類されることのある職業は国から課される依頼を達成して、国家認定職業のカードを発行して貰う必要がある。

ガウリーが持っているのは、暗殺ギルドが作った偽物のカードだろう。

まさか暗殺者(アサシン)とは言えないから作っているのだろう。

カードには偽造防止のためにシーフグレイという特殊な色で塗られている。

シーフグレーは光を反射しないが、懐に隠していてもわかるというかなり特殊な…というか不思議な性質を持っている。

ガウリーのカードは色味は似ているが、シーフグレーの特殊な性質を持っていない、ただの灰色のカードだ。


「あぁ、そうでしたか。失礼しました。ではまず採寸から行いますね。盗賊はその人の身体にピッタリしたもの出なければなりませんからね。」

ガウリーはシュルクに店の奥に連れて行かれた。

俺はその間に店に並んでいる服を眺めようとしたのだが…。

受付の女性に捕まってしまった。

「お兄さんもよければ服を買いませんか?」

目が怖い。

俺の腕を掴んで手のひらですりすり擦っているし、息遣いも荒い。

さっき店に入った時と雰囲気が全く違うぞ。

「い、いや悪いが俺は一着で間に合ってるんだが…。」

「いえいえ!服は何着あってもいいじゃないですか!」

「俺たちは旅をしていてだな…。」

「お兄さんの(それ)マジックバッグですよね?」

女の榛色の目が俺の顔を覗き込むようにして向けられる。

「どうして…。」

それがわかったのかと続けようとしたが、女に遮られた。

「お兄さん、背も高くて筋肉もあって、せっかくスタイルいいんですから、もっとおしゃれしましょうよ!」

あぁ、わかった。

この人は根っからの職人なんだろう。

俺は諦めて女に言った。

「じゃあ、俺に似合いそうな服を適当に選んでくれ。」

俺が言うと、女は顔をぱあっと音が出そうなほど輝かせた。

近くにかけてあった紳士用の服を抱えられるだけ抱えて持ってきた。

そして俺を近くに設置された試着室に押し込むと、俺にまず最初の一組の服を放り込んだ。

「いや、試着は別にいいんだが…。」

「ダメですよ、試着してからちゃんと買わないと!」

女は試着室のカーテンをシャッと勢いよく閉めた。


試着を始めて小一時間。

いくらなんでも多すぎだろ!?

試着室の前に積まれた洋服の山がいつまで経っても減らない。

その山の隣にはそれより幾分か低い丘が形成されていた。

俺が試着した洋服の山だ。

いつの間にか試着室の前には従業員の娘やエマ改めエミーリア嬢、マオ改めチョコまでが俺のファッションショーを見ていた。

娘達はどうやらエミーリア嬢とチョコと意気投合したらしく、きゃっきゃと楽しそうに次に俺に着せる服について談笑していた。

それよりも自分たちの服を選べよ。

野郎の着せ替えなんて面白くないだろうに。

俺は受付の女性、ニーナから受け取った服を着ながら、エミーリア嬢に話しかけた。

「エミーリア嬢。」

「嬢?」

エミーリア嬢が不思議そうに俺の言葉を繰り返すのが聞こえた。

どうやらエミーリア嬢は俺が門番に話した俺たちの“設定”を忘れてしまったようだ。

俺はもう一度エミーリア嬢に“設定”を聞かせてやった。

顔を知られていたら終わりだが、ある程度は追っ手をごまかせるはずだ。


“設定”はこうだ。

エミーリア嬢は王都にあるとある商会の一人娘で、容姿を気に入ったとある貴族から求婚を申し込まれた。

しかし、その貴族は未だ後継となる男児が生まれていないことから、お嬢を自分の妻とし、子をつくろうと考えていた。

それに気がついた商会の情報屋兼護衛のガウリーがその情報をお嬢の父親である会長に伝え、お嬢を貴族から逃すという仕事を与えられた、俺たちはできるだけ王都から離れた土地へ向かっている。

俺、テディはお嬢の護衛兼従者であり、長年お嬢の世話をしていた者。

今回も会長の信頼の元、お嬢の護衛の任を授かった。

チョコはお嬢の昔からの友人であり、治癒魔法の才能があることから、お嬢と共に逃亡することに決めた。


「こんな感じでこれから進んでいくんだが、どうだ?」

俺がヒソヒソとシャツのボタンを留めながら聞くと、エミーリア嬢がわかったと頷くのがカーテン越しにわかった。

「2人は服は決めたのか?」

俺が着替え終わってカーテンを開けて2人に聞くと、エミーリア嬢もチョコも首を横に振った。

「俺のことはいいから、2人も服を選んでくれ。」

俺がため息を吐きながら言うと、2人とも渋々という風に従業員の娘と共に試着室に戻って行った。

ニーナに押し付けられたローブを羽織っていると、店の奥の部屋からガウリーとシュルクが採寸を終えて出てきた。

「ガウリーの方は終わったか?」

「はい。」

「明後日には完成することができると思います。」

「わかった。」

俺は再び積まれていく俺に着せられるのであろう服の山を見つめながら頷いた。

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