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布の町・ファブリキア

迷いの森を難なく抜けた後、俺はシェリハの上でリラがくれたマジックバッグの中に入っていた地図帳を眺めていた。

近くに村や町がないか探すためだ。

俺は一番近くにある町、ファブリキアに行くことを決め、その方向へシェリハの顔を向けた。

そして後ろを振り返って、マオとガウリエフに向かう方角を指さして伝えた。

ガウリエフは握っていたマダラの手綱を引いて、ゆっくりと向きを俺達の進行方向へ向けた。

マダラはシェリハが連れてきたクリーム色と赤茶色の斑点模様の若いもの静かな馬だ。

俺は馬の種類には詳しくないが、おそらく半分魔物の血が混ざっているのだろう。

“迷いの森”ダンジョンの近くの草原には馬の群れが生息しているが、群れの中から一頭だけ連れてくることは出来ないだろうしな。

ダンジョンの中で生まれた馬に似た姿の魔物と交配し、ダンジョン内で暮らしてきた馬なのだろう。

そういった生き物は数え切れないほど目撃情報がある。

かく言うシェリハも一角獣(ユニコーン)とシャイアー種の混血だ。

だから丸一日ぶっ続けで走り続けることもできるし、ある程度の浄化魔法を纏っている。

「ファブリキアは久しぶりだね。」

エマが薄らと見えてきた赤黒い屋根の工房が立ち並ぶ町を眺めながら言った。

エマは俺の後ろにしがみつくようにして跨っている。

俺とエマとでは体格差がそれなりにあるため、エマを俺の前にまた座らせようとしたのだが、エマが後ろの方で座りたいと言ったので、後ろに座らせている。

「前に来た時は最初のダンジョンを抜けて休憩するためだけに立ち寄ったからなぁ。」

「宿の至るところにカラフルな布がかけてあって綺麗だったよね。」

俺はシーツからカーテン、テーブルクロスにいたるまでカラフルに彩られた宿の内装を思い出しながら相槌を打った。

「あそこは布の生産が盛んだしな。折角だし、新しい服でも買うか。」

「えぇ!?」

エマはこの服だけでいいよ、と遠慮がちに言った。

「大丈夫だ。金ならあるし、それに、ガウリエフ達にも新しい服を買わなきゃいけないからな。」

俺は後ろをついてくる2人を親指でさしながら言った。

「そっか。」

エマは少し考えてから頷いた。


ファブリキアの入り口の近くでは槍を握った2人の兵士が立っていた。

俺は念の為、エマにフードを被せ、俺もフードを目深に被らせた。

「止まれ!」

兵士の合図とともに俺たちはそれぞれ手綱を引いて馬を止めた。

俺達はゆっくりと馬から降りる。

マオはしゅたっとマダラから飛び降りた。

兵士は俺の着ている服を上から下まで眺めた。

「どこかの貴族か?」

兵士は俺たちが王都の方向から来たことと上等な服を着ていることから推理したようだ。

俺はエマよりも一歩前に出て兵士からエマの顔が見えにくくなるようにして立った。。

「故あって家名を名乗ることができませんが、こちら、エミーリア様の護衛兼従者のテディと申します。」

「ほう?」

兵士は訝しげにエマのフードによって半分隠れた顔を覗き込もうとした。

「実は王都の貴族がお嬢様を妾にと狙っておりまして…。流石に40も年上の方と結婚するのは…。」

俺がつらつらとでっち上げの作り話を語って聞かせると、兵士の男は

「なるほどな。王都ってぇのは大変なんだなぁ。」

と納得したように何度も頷いた。

「いや何、一昨日も似たような事情でこの町に逃げ込んできた4人組がいてな。兄ちゃん達が捕まらないように祈っておくぜ。」

もう1人の兵士はそう言って門の前から退いて道を開けた。

「ありがとうございます。」

兵士の前を通る時、兵士は俺にしか聞こえない声で言った。

「幸せにするんだぞ。」

俺は一瞬目を見開いたが、従者テディとして

「勿論です。」

と頷いた。

俺とエマの後ろをマオとガウリエフがマダラを引いてついてくる。


町の中は布商人や布職人で賑わっていて、町のいたるところに布がかけられていて町中がカラフルに彩られていた。

俺達はひとまず宿を見つけるために近くにいた見習いの布職人らしい青年に声をかけた。

「すまない。馬も泊められる宿はあるか?」

職人見習いは気さくに笑って言った。

「ああ。それならここの大通りをまっすぐ行って、あの赤い旗がかかってるところだ。」

「そうか。ありがとう。」

俺は礼を言って、そちらに向かおうとした。

「その右隣に俺の働いてる服屋があるから、よかったら立ち寄ってみてくれ。」

「わかった。丁度いい、そこで2人の服を買おう。」

俺達は青年と別れて、赤い旗が掲げられた宿へ向かった。

はぐれないようにか、マオとガウリエフは手を繋いでいた。

まるで親子だ。

どうやらガウリエフとマオは暗殺ギルドにいた頃にそれなりに交流があったのかもしれないな。

記憶が途切れる前にガウリエフがマオを守っていたのかもしれない。

マオもそれを無意識に覚えているのかもしれない。

俺はそれを微笑ましく一瞥して、隣に並んであるくエマに目を移した。

「俺達も手を繋ぐか?」

俺が言うと、エマは一瞬驚いた表情をして俺の差し出した左手をとった。

他人からみたら俺たちは仲のいい兄妹に見えるだろうな。

俺とエマは俺の頭二つ分くらいの身長差があるし、エマの身長も同年代と比べて低いからな。

俺はそんなことを思いながら、右手でシェリハの手綱を掴み、左手でエマの右手を握った。


「いらっしゃいませ!」

俺たちが店の前の下男に声をかけると、下男は大きな声で俺たちを出迎えた。

「二部屋借りたいのと、馬を二頭預かってほしい。」

俺が要求を伝えると、下男は俺達を宿の中に案内し、馬を馬小屋の方へ連れて行った。

入り口には赤いクロスが敷かれたカウンターがあり、そこには受付だろう女性が立っていた。

「いらっしゃいませ。」

「二部屋借りたいのだが。」

「何泊致しますか?」

本当ならここには泊まらず、素通りしたいのだが…。

俺は後ろの元暗殺ギルドの奴隷達を一瞥して言った。

「2泊したい。」

「わかりました。では銅貨18枚でお願いします。」

俺はマジックバッグを漁り、貨幣が入った袋を二つ取り出した。

俺は貨幣のデザインが好きでコレクションをしていたのだ。

貨幣には使う国や地域によって異なるデザインをしている。

俺はこの大陸のほとんどの貨幣を数枚ずつ持っているが、そのどれもがコレクション用なので使いたくない。

俺は普通に使用目的で持っている貨幣の入った袋の口を開いた。

俺はその中から銅貨18枚を掴んでカウンターのテーブルの上に置いた。

「それでは、こちら部屋番号の書かれた札になります。ごゆっくりなさってください。」

俺は受付の女性に礼を言って札を手に取った。

そして荷物を抱えて部屋のあるという2階へ上がった。

「部屋割りは男女で分けるが、それでいいか?」

「うん。」

「かまいません。」

「ん。」

俺はエマにもらった札の一枚を手渡した。

「それじゃあ、荷物を置いたら、服屋に行くぞ。」

「え、もう行くの?」

「ああ。この町は王都から近いからすぐに追手が来るはずだ。準備はさっさと終わらせてここを出よう。」

俺が言うと、エマは俺の襟をぐいと引っ張って顔に俺の耳を引き寄せた。

「マオちゃんやガウリエフさんはどうするの?」

ヒソヒソとエマが小さい声で囁いた。

「ん。あたし、も、ガウ、も、ついてク。」

どうやらマオの猫の耳は内緒話を許さないのだろう。

マオとガウリエフの方を見ると、マオもガウリエフも決意のこもった目を俺たちに向けていた。

マオはなんなら「まだそんなこと言ってるの?」というような顔をしていた。

俺はガリガリと頭を掻いた。

「わかったよ。お前達も連れていく。」

俺は仕方がないというふうに言った。

すると、マオは顔をぱあっと輝かせて俺に飛びついてきた。

ガウリエフは深々と腰を折った。

「有難うございます。」

「ありがと、剣の、お兄ちゃン。」

俺は思わず猫のように俺に飛びついてきたマオの頭を撫でた。

「それじゃあ、各自部屋に荷物を置いたら、宿の入り口に集合だ。」

「はーい。」

「ん。」

「わかりました。」

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