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暗殺ギルド登録(2)

銅の扉はゴゴゴと重そうな音を立てて開いた。

銅の扉は少なくともメイドの2、3倍の高さだ。

結構な重さのはずだ。

だが、メイドは軽々と細い腕で押し開けてしまった。

部屋の中には長いテーブルが扉の反対側まで伸びていた。

そして、テーブルの前には黒く塗られた椅子が11脚置かれていた。

その内の1脚だけに1人の幼い少女が座っていた。

さっき会った白髪の少女のようにを口を小さく力無く開いていて、美しい長い銀色の髪の毛は椅子から落ちて床いっぱいに広がっていた。

目は閉じていてまるで眠っているようだった。

メイドは椅子に座る少女のテーブルの向かいに子供達を案内した。

子供達は銀髪の少女を不思議そうに凝視していた。

すると、少女はゆっくりと顔を上げた。

「みんな、よく似合っているわ。」

少女は小さな口を開いた。

声は違うが、その無邪気な幼い口調はさっきの玉座に座っていた白髪の少女と同じだった。

幼女特有の呂律が回り切っていない高い声。

さっきの少女はハキハキと発音していたが、この少女はさっきの少女よりも年齢が低いのだろう。

子供達はさっきまでぐったりと力無く椅子にもたれかかっていた少女が急に話し出したことに驚いて、口をあんぐりと開けていた。

「ミィコ。椅子の向きをかえて。」

少女はメイドに指示を出した。

メイド、ミィコは少女の座っている椅子に近づき、ゆっくりと半回転させた。

美しい銀色の髪の毛を床から持ち上げて、髪の毛を椅子が踏まないように慎重に椅子を下ろした。

「近くにおいで。」

少女は顔の向きをかえず、後ろを向きながら子供達を呼んだ。

子供達は特に何も考えず、テーブルの向こう側に座っている少女に近づいた。

少女は目の前までやってきた子供達の左手を握った。

すると、握られた手には魔法の印が刻まれた。

紫色に輝くそれは一人一人違った形を表していた。

ズーランに刻まれた印は円の中に5枚の先端が二つに分かれた花のような形をしていた。

その花はコウガ民国南部にあるヒムアラ山脈付近で見られるという桜とよく似ていた。

メイの印には鷲の翼を囲うように蔦のようなものが描かれていた。

リシュの印は4枚の菱形の刃のついた武器、手裏剣とよばれる武器が描かれていた。

リィンとチェンには戸愚呂を巻いた白と黒の蛇が刻まれていた。

マオの印はギザギザとした葉が円の中に指先に向かって伸びているシンボルが刻まれていた。

マオ達はその印から何か力が流れてきているような感覚を感じた。

全身に何か熱いものが流れ、みるみる身体中に力がみなぎってきた。

銀髪の少女は真っ白な瞼を開き、血のような真っ赤な瞳をマオ達に向けた。

すると、マオ達の身体にみなぎる力がさらに増し、とてつもない疲労感に襲われた。

急激な力の流れに耐えきれなかったのだろう、マオ達はその場にゆっくりと膝をつけ、気絶した。

意識が完全に消える直前、少女の整った端正な顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。


「後、記憶、覚えてる、なイ。」

マオは自分の左手に刻まれた印を触りながら言った。

印は今もうっすらと紫色の光を放っていて、魔力の流れを感じた。

エマはそっとマオの左手の印に触れた。

「何か分かるのか?」

俺はエマに尋ねた。

「わからない、けど、なんだかこれは知ってる気がする…。」

エマはもどかしそうに言った。

「触ってもいいか?」

俺がマオに尋ねると、マオはコクンと小さく首を縦に振った。

俺はそっとうっすらと光を放つ印に触れた。

印のある部分は他の部分よりも熱を帯びていた。

その熱は魔力特有の波打つような流れを持っていて、まるで剥き出しの血管を触っているような感覚だ。

「触られて痛くはないのか?」

「ん、痛くはなイ。」

マオは小さく首を傾げて頷いた。

「そうか。」

俺は今度は剣聖としての感覚(センス)を使って印の魔力の波動を感じた。

すると、マオの身体の奥にまで繋がっている印から伸びる魔力の線を見つけた。

その線は身体の奥へ行くにつれて色が水色に変化していっていた。

おそらくこれがマオの身体に流れる魔力の色なのだろう。

洗脳や精神支配をしているのなら、魔力の線は脳に繋がっているはずだが、これはマオの胸の丁度真ん中までしか伸びていなかった。

胸の中央には魂と呼ばれる魔力を身体中に送る魔法石というものが存在する。

印から伸びる魔力の線はこのマオの魔法石に伸びていた。


全ての生き物には極小の魔法石はあるのだが、動物は魔法を使うことはできない。

一方魔物は心臓と同じくらいの大きさの魔法石を体内に抱えている。

そのため魔法を使い、狩りを行う。

魔物は生物の体内にある魔石を喰らい、身体の中に魔力を蓄えるのだ。

人間にも勿論魔石がある。

魔石のある場所は個体差があり、心臓に付いている人もいれば、脳についている人もいる。

珍しいが身体の外に剥き出しな人もいる。

魔石のありかによって魔法の精度が変わってくるという研究結果もある。

脳に近いほど魔法の発動のイメージが伝わりやすいからだ。

魔石の大きさにも個人差があり、大きいほど体内に流れる魔力の量が増える。


マオの場合は大きさはマオの心臓と同じくらいで、人間にしてはかなり大きい部類になる。

俺はマオの魔石に繋がっている線を辿り、魔石の中心まで辿りついた。

剣聖の感覚(センス)でのぞいているだけなので、おおまかな位置と感触しかわからない。

魔石の中では何か一際熱を帯びたものがあるのを感じた。

その熱いものが何か、俺は知っていた。

常に俺の右腕から感じている強大な力。

それは神からの贈り物(ギフト)と呼ばれたり、才能とも呼ばれたりするもの。


神から与えられた“称号”。


まさにマオの魔石に込められているのはそれだった。

俺やエマの剣聖や勇者の称号と同じく、神から与えられた特別な称号。

名前まではわからないが、ウィンディの“聖女”の称号と同じくらい強力な癒しの力が宿っていた。

「これは…。」

俺は思わず呟いた。


おそらくマオ達を連れ去ったという影が持っていた水晶は潜在能力を探し出す魔道具なのだろう。

称号神を祀る教会などでは称号の名前から能力まで全て教えてくれる神官がいる。

称号の有無がわかる魔道具は決して安くはないが、魔道具屋に行けば大抵売っている。

しかし、話に出てきた水晶はどうやら濁った色で能力の系統を判別しているようだった。

神官が称号を判別するときにも同じような現象が起こる。

神官が透明な魔力を放ち、その魔力が体内の魔石に触れることで再度体外に出された魔力に色がついていれば、その人物には称号があるのだと判断する。

おそらく水晶から透明な魔力が放たれ、それが子供達の体内の魔石に触れ、水晶の濁りとして現れるのだろう。

理屈はわかるが、それは現代の魔法技術では不可能なはずだ。

水晶は魔力の精度を高めるための道具であり、基本4、5回使えば白く濁り切って透明な状態に戻せなくなるのだ。

それを連続して使用していることもおかしいのだ。

水晶が何かものを映し出すのも本来の用途とは異なっているのだ。


俺はこう言った古代魔法の研究が好きなアルの顔を思い浮かべながら唸った。

「ま、とにかくこの紋章には隷属魔法はかかっていない。ただただ潜在能力を引き出すための魔法陣だと思う。」

俺は耳を少し下げて不安そうに俺たちを見つめるマオを安心させるために声をかけた。

「魔法陣には監視の目的はなさそうだし、無闇に消さなくてもいいだろう。」

俺はもうすぐ頭の真上に辿り着きそうなほど昇ってきている太陽を見上げた。

尻についた土を払いながら立ち上がって言った。

「そろそろ出発しよう。」

他の3人も顔を上げてそれなりに時間が経っていることを確認した。

俺はエマの手を引いて起こしてやる。

そして口に指を咥えて思い切り息を吹いた。

ピィィー!と甲高い音が迷いの森中に響き渡った。

すると、木々の間から白い馬が姿を現した。

湿気の多いこの迷いの森の影響か、シェリハの自慢の美しい立髪がいつもより一層艶が輝いていた。

シェリハは俺のところまでゆっくり近づいてきた。

俺は話を聞きながら手入れをしていた馬具をシェリハに付けようと近づいた。

「ガウリエフ。もう一頭の方につけてやってくれ。」

俺は予備の馬具をガウリエフに渡してやった。

「はい。ありがとうございます。」

どうやらシェリハは俺たちが話を聞いている間、もう一頭の馬を連れてきてくれたようだ。

なんて賢く優秀な馬なんだ。

俺はシェリハに優しく馬具をつけてやりながら、今度好物のリンゴを食べさせてやることを約束した。


俺とエマはシェリハに相乗りし、マオとガウリエフがもう一頭のシェリハが連れてきてくれた馬に相乗りした。

マオとガウリエフが持っている馬はクリーム色と赤茶色の斑点模様をしていて、窮屈そうにくつわを噛んでいた。

シェリハが選んだ馬だけあって、野生の馬にしてはかなり大人しく、安定して2人を乗せられていた。

「よし、まずはこの森を抜けるぞ!」

俺の掛け声とともに二頭の馬は迷いの森の出口に向かって走り出した。

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