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暗殺ギルド登録(1)

「転移陣!?」

俺はマオの辿々しい説明で出て来た魔法陣の話に思わず立ち上がった。

マオは耳をピンと立てて目を見開いてコクコクと小刻みに頷いた。

「暗殺ギルドは転移の技術を持っているのか!?」

俺はガウリエフに尋ねた。

「はい。」

ガウリエフは頷いた。

「転移魔法はそんなにすごいものなのですか?」

ガウリエフは不思議そうに尋ねる。

「すごいなんてもんじゃないぞ!」

転移魔法はアルフォンスも使うことはできる。

だが、長距離移動や複数人を連れての転移は不可能だったはずだ。

今聞いた話では7人全員が同時に転移している。


魔法陣を使うことによって安定した魔力制御や術式の保存ができる。

だが、魔法陣は呪文よりも扱うのが難しいとされている。

呪文と違い、完璧に魔法陣を描かなくてはならないからだ。

呪文ならば多少の発音の違いや文法の違いは、呪文を使う時のイメージによって修正されるのだが、魔法陣はイメージによる制御ができない。

魔法陣の大きな障害であり、魔法使いが魔法陣による魔法の行使をしない理由の一つでもある。

さらに厄介なのが、魔法陣はルーン記号というもので表されている。

ルーン記号は呪文よりも複雑で難解なのだ。

しかもそのルーン記号も精密に描かなくてはならない。

少しでもずれれば魔法は発動しないし、もしくはまた別の魔法が発生してしまうこともあるのだ。

だからこそ魔法陣の長距離転移魔法なのだろうが、転移のルーン記号はいまだに未発見とされていたはずだ。

暗殺ギルドが独自に編み出したのだろう。

マオは遺跡に転移させられたと言っていたから、遺跡から発見したのかもしれない。

遺跡には太古の人々の知恵だけでなく、神々の遺した遺物と呼ばれるものもある。

遺物の中には“水が永遠に湧き出る壺”や、“時を止める懐中時計”などがあった。


俺は暗殺ギルドのメンバーが古代の遺物を使う様子を想像した。

「それで、転移した後はどうなったの?」

エマは遺物を装備した刺客と空想の中で戦っている俺を尻目に、マオに話の続きを促した。


マオ達が転移した場所は石レンガで造られた神殿のような場所だった。

先ほど入った小屋の何十倍もの広さがあり、正面には同じく石でできた通路が見えた。

だがどこもかしこもひび割れ、ツタや苔が生えていて、手入れがほとんどされていなかった。

魔法陣が敷かれた部屋の床は真っ平に整えられていて、通路の床と比べるとあまりにも異質だった。

魔法陣の上には魔法陣を乱さないようにか、透明なガラスの板が敷かれていた。

透明なガラスは魔法陣の部屋全体に敷かれているが、つなぎめのようなものは見当たらない。

錬金術師が錬成した特製のガラスなのだろう。

影は子供達抱えたまま、部屋の出口へと向かった。

しばらく廊下を歩くと、広い玉座のような場所に出た。

黒いカーペットが敷かれていて、所々によくよく見るとシミが付着している。

もしかしたら血痕なのかもしれない。

影は部屋の奥に座っている女の前に子供達を差し出した。

女は真っ白な髪が床につくまでまで伸びており、顔の半分が隠れていた。

髪の隙間から見える青い瞳には光がなく、一目見ただけでは生きているのかどうかすらわからなかった。

灰色のローブを纏った体は力無く椅子に投げ出されていて、まるで遺体を椅子に座らせたような姿だった。

だが、影が子供達を置いて部屋から出ると、女は体を前のめりにし、青い虚な瞳を子供達に向けた。

「いらっしゃい。私の可愛いお人形さん。」

白い髪の隙間から発せられたその声はまるで幼い少女のようなあどけない声だった。

髪の毛や丈の長いローブによって隠されているのか、どうやらこの女はまだ少女と呼べる年齢のようだ。

足は床に付いておらず、ローブの裾は大きな皺を作りながら床に落ちていた。

「近くにおいで。」

白い少女は子供たちに手招きした。

子供たちは同年代くらいの子供だということに少し安堵して、言われるがまま少女に近づいた。

少女は子供達の顔を見るためか、長い前髪を小さな白い手でかきあげた。

髪の毛の下にあったのは、まるで人形のような繊細で整った顔立ちの幼女の顔だった。

瞳は相変わらず虚だが、その他の部位は至って普通、というかそれ以上の美しさをしていた。

「あなた達、お名前は?」

少女は子供達にゆっくりと尋ねた。

子供達はなんの警戒心も抱かずに各々の名前を告げた。

「ズーランだ。」

「メイよ。」

「マオ。」

「リシュだ。」

「リィン。」

「チェン。」

少女は一人一人の名前を口の中で繰り返した。

少女は満足そうに頷いてから、子供達に告げた。

「よろしくね、ズーラン、メイ、マオ、リシュ、リィン、チェン。あなた達にはこれから素敵な衣装をあげるわ。」

そしてまた力無く椅子にもたれ掛かった。

子供達が困惑していると、今度はメイド服のようなものを着た女性が入ってきた。

女性は子供たちをここまで運んできた影と同じ真っ黒な髪をしていた。

顔の半分を影と同様に黒い虎の仮面で隠されていた。

女性は子供たちの名前を別の部屋まで案内した。

その部屋には一面に様々な衣装が並んでいた。

大人から子供用のサイズ。

巨人族しか着れないような巨大な衣装から妖精族しか身につけることができないような小さな靴まで置いてあった。

エカテリーナ王国の貴族が着るような豪華な装飾が施された衣装。

サーカスの道化師のような派手な衣装。

町娘が着るような質素だが、動きやすそうな衣装。

騎士が着るような重厚な鎧。

マオたちが見たことのないような明るく露出の多い丈の短いドレスまであった。

この部屋だけこの遺跡のような古びて廃れた雰囲気はなく、むしろあの玉座よりも清潔だった。


メイド服を着た女はテキパキと男女をそれぞれ分けて着替え用の個室に入れ、衣装を渡した。

マオは真っ白な法衣を渡された。

所々に金色の刺繍が施されていて、ぱっと見には教会のシスターの服のような見た目だった。

袖口はゆったりと開いていて、二の腕や胸元から腰にかけてはピッタリと体に吸い付くような形をしていた。

川で魚獲りをいていたマオからしたら、この服装は動きにくく、窮屈なものだったが、メイドが有無を言わさず渡してきたので、マオは渋々それを身に纏った。

服はマオが袖を通すと、マオの身体に覆い被さるように動いて、勝手に着せてきた。

初めて見る衣装の着方がわからなかったので、マオとしてはありがたかった。

マオが自分がさっきまで着ていた服を抱えて、個室を出ると、他の子供達もちょうど個室から出てくるところだった。

赤く水晶を濁らせたズーランは真紅の羽織のような物を着せられていた。

前をボタンで留めるのではなく、帯を腰に巻き付けて留めていた。

ズボンは闇夜を思わせる紺色のズボンで、裾はゆったりと広く開いていた。

水晶を緑色に濁らせたメイは深緑のローブを身に纏っており、何故か靴を履いておらず、裸足だった。

裾や袖はボロボロに破けていて、その姿は森に住む魔女を連想させた。

水晶を青く濁らせたリシュはズーランと同じような形の真っ黒な服を着ていた。

ズーランの服の袖と裾はゆったりと大きく開いているが、リシュの服は全体的に引き締まっていて、身体にフィットするような形をしていた。

関節部分などには板のようなものを付けていて、腕や脛には布を巻き付けていた。

薄紅色に濁らせたリィンは彼岸花のような真っ赤な細身のワンピースを着ていた。

首元まで隠しているが、肩からは剥き出しのままだ。

同じく薄紅色に濁らせたチェンはリィンと色違いの青空のような真っ青な細身のワンピースを着ていた。

チェンはリィンと違い、白い幅の広いズボンを履いている。

全員が着替え終わった後、メイドの女は今度はまた奥の方へ子供達を連れて行った。

奥へ進むほど、遺跡の内装は綺麗に補修されていた。

もうほとんど溶け切ってしまっている蝋燭が細々と光を放っている。


しばらく進むと巨大な錆びついた銅の扉が備え付けられていた。

周りの石レンガは綺麗なものに補修されているのにも関わらず、扉だけがひどく古びていて、不穏な空気を放っていた。

メイドは扉の取ってを掴んで叩いた。

コンコンと思ったよりも大きな音が石レンガの廊下に響いた。

子供達は不気味響くノックの音に驚いて首を縮めた。

扉の向こう側から返事は聞こえない。

だが、メイドはそのまま観音開きの扉を両手で押し開けた。

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