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炎の壁と魔法

真っ赤に燃える炎が俺達を逃すまいと俺達を囲う。

だが、俺もエマも慌てない。

シェリハだけは初めて見る炎の壁に驚いて俺達に身を寄せた。

エマはそんなシェリハを優しく撫でる。

俺は咄嗟に造ったため強度が脆い魔法の結界を強化する為に呪文を唱えた。

『対物理結界』

爆風によってひびが入っていた薄い青色のドームは、見る見る内に色が濃くなり、ひびは魔法の粒子が塞いでいく。

俺は更に俺達の後ろの方で倒れている2人の結界も強化した。

俺が呪文を紡ぐ間に、燃える炎で明るく見える夜空を覆い隠すように黒い雲が流れてくるのが見えた。

やがてポツリポツリと小さな水の滴が落ちてきた。

次第に水滴の数が増えていき、やがて土砂降りの大雨になった。

俺達を囲う炎の壁を鎮火させるほどの大粒の雨が降る。


エマは基礎魔法と呼ばれる魔法は使うことができない。

歴代の勇者の中には魔法を操り、魔を持って魔を制した者もいたそうだが、エマは魔法ではなく、武術に特化した勇者だからだ。

その代わり、エマは勇者の奇跡と呼ばれる勇者の加護の中でもぶっ壊れ性能の加護を持っている。

勇者の奇跡は自身や、その仲間がピンチの時に小さな奇跡を起こしてくれるのだ。

魔王を討伐してから、城の兵士達に暗示を拷問の様にかけられている時に俺がギリギリ間に合ったのも、この勇者の奇跡の力なのだろう。

ただ、運にばかり頼る事はできない。

命の危機は救ってくれるが、敵を倒す事はしてくれない。

俺達は勇者の奇跡に頼らなくても魔王を倒せる様になる為に努力した。

この程度の炎の壁ならば、ディスティニーの鎮火の(エクステング)一振り(ウィッシュ)で消火することも出来るのだが、どうやら勇者の奇跡は俺達が今絶体絶命の危機だと感知したのだろう。


次第に雨は弱くなっていく。

どうやら燃えていた炎は鎮火する事が出来たらしい。

あたりを見回すと、火が燃え移った木々は真っ黒に焦げていて、倒れ伏していた刺客の姿はどこにも見えなかった。

仮面の爆発は証拠を残さない為なのだろう。

綺麗に人間の姿だけが跡形もなく消えていた。

雨がすっかり上がり、辺りに雨上がりの森の匂いに混ざって、焼けた炭の匂いが漂っていた。

俺は魔法の結界を解いた。

周囲に張っていた青色の半透明のドームは大気に溶けるように離散した。

俺は倒れている2人を勇気の灯火(ブレイブライト)の側で寝かせた。

隷属魔法の呪縛から逃れたことによる反動なのか、2人の顔色はあまり良くない。

俺は回復魔法を使い、2人の体調を回復させようとする。

中位回復(ミディアムヒール)


魔法には神位、極位、高位、上位、中位、下位の6段階に分けられ、その中でも俺は下から2番目の中位までしか使うことが出来ない。

一般人でも下位魔法が使えるかどうかというレベルで、普通なら中位魔法が使えたらすごい事のはずなのだが、アルやウィンディ達のせいで、あまり旅の中で活躍する事はなかった。

アルの称号、“賢者”は神位のあらゆる魔法を使う事ができる。

強力な魔法を打てるが、打つための魔力は自身の体内に流れる魔力に依存している為、無限に何発も打てるわけではない。

対して、ウィンディの称号“聖女”は神位のあらゆる補助魔法、治癒魔法、聖職者の魔法を使用することができる。

聖職者の魔法以外は体内の魔力ではなく、女神様から受け取る神の魔力を使用して発動させる。

つまり女神様が魔力を肩代わりしてくれる為、ほぼ無限に魔法を使う事ができるのだ。

その代わり、体力が一般人に比べてとても低く、歩くだけでも疲労が溜まるらしい。

普段は疲れたらその都度、体力回復の魔法をかけているそうだが、結局常に体のいたる所が疲労で鉛のように重たく感じるのだそうだ。

“聖女”の称号を受け賜る前は普通に暮らすことが出来ていたそうだが、急に体力が落ちた最初は朝ベッドから起きるのにも介護が必要なほどだった。

俺もウィンディの世話をしてやった事がある。

加護を授かってから僅か一月で体力回復の魔法を習得し、それを半永久的にかけることができるようになり、普通の人と変わらない生活を送ることができる様になった。

表面上は。

実際には体は鉛の様に重く、椅子から立ち上がることにも体力を使い、体力を回復させる魔法を使うことになるため、本人はかなり辛そうだった。

魔力を払わずに魔法は使えるが、その代わり神の魔力が入る為、異物を体内に入れてしまったような不快感などがあるそうで、初めの方のそれに慣れるまでの期間はしんどそうだった。


まあ、その話は一旦置いておいて、俺は中位魔法までは使う事ができるのだが中位の回復魔法が効かなかった場合には急いで近くの町の病院にでも連れていくべきだろう。

だが、そんな心配は要らなかったようで、2人の顔色は少しずつ良くなってきた。

俺は2人の様子を見て、魔法を解除した。

俺の体内を流れる魔力がだいぶ減っているのがわかる。

回復魔法は魔力を多く必要とするのだ。

「隷属魔法は解除出来たの?」

エマが恐る恐る尋ねる。

俺は2人に向かってディスティニーを振り下ろした。

エマが小さく悲鳴をあげた。

俺はディスティニーが2人の体に当たる寸前、羊皮紙一枚分の厚さくらいのところでピタリと止めた。

エマがホッとしたように大きく息を吐いた。

「解除は出来ているみたいだ。」

隷属魔法がかかっている場合、自身が殺されそうになり、主人の命令を遂行出来なくなる時には、どんな状況でも無理やり身体を魔法が動かし、逃走または命令の続行を強制させるのだ。

だが2人とも身動き一つしなかった。

寸前の所でディスティニーを止めなければ、2人は間違いなく身体は真っ二つになり、死んでいただろう。

エマはホッと息を吐いた。

俺は毛布か何かが入っていないかとマジックバッグを漁る。

バッグには2枚だけ毛布が入っていたが、なんと毛布の隣に野営用の折りたたみ式テントが入っていた。

火が暮れる前に建てておけばよかったと後悔しながら、俺は毛布を2枚取り出した。

大きな一枚を寝ている2人にかけてやる。

それよりも小さい方をエマに渡した。

するとエマは毛布の隅に寄ってもう片方を広げながら言った。

「それじゃ、エドが寒いでしょ?」

エマははにかみながら俺に言った。

俺は大丈夫だと言って拒否しようとしたが、エマは俺に毛布を被せた。

そして自分も毛布の中に入る。

地面は俺の魔法の結界によって雨を弾いていた為か、乾いていて泥が毛布につく心配はなさそうだ。

「懐かしいね。」

エマが言った。

「みんなで旅してた時、野営に慣れてなくて、毛布の準備が足りなかったんだよね。」

「そうだっけな。4人で一つの毛布に包まって夜を明かしたっけな。見張りは交代交代でやったから3人ずつか。」

俺たちはつい先日まで魔王討伐の旅をしてきたが、それがすごく昔のことのように感じる。

エマがクスリと笑う。

「ウィーが、おっきな毛布を持ってきてくれてなかったら、私たち冷たい土の上で寝ることになってたよね。」

「そうだな。」

俺もつられて苦笑いを浮かべる。

ウィーはウィンディの愛称の一つだ。

エマの温もりと焚き火の炎によって温まって来たところでウトウトして来た。

エマは襲撃される前にぐっすり寝たからか、全く眠くなさそうだった。

「見張りは私とシェリハがやるから、エドは寝てて大丈夫だよ。」

エマは俺に笑いかけた。

「ありがとう。」

俺はエマの言葉に甘えて、重い瞼を閉じた。

大勢を相手にの戦闘は久しぶりだったので、疲れが溜まったのだろう。

俺の意識はエマと焚き火の温かさに溶け込む様に次第に薄れていった。

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