大賢者様の寝言は私を寝かさない
「今夜のパーティにご出席いただいて光栄です。大賢者殿」
「こちらこそ、丁重なおもてなし痛み入ります。ガント公爵」
公爵様が礼をするこのお方こそ、異例の若さで大賢者の称号を賜ったルイン・サンバード様。そして、私ことサリナ・ミークの婚約者なのです。ああ、ルイン様が私を選んでくださったなんて、今でも信じられない!
「では、僕はそろそろ帰ることにします。明日も重要な実験が控えていますので」
「おやおや、そのように毎日研究ばかりしていると、そのうち夢の中まで研究しだすようになってしまいますよ」
「はは、おかまないなく。さあサリナ、帰ろうか」
「はい、ルイン様」
おそらく、公爵様は知らないのでしょう。ルイン様が、本当に夢の中でも研究をしてらっしゃることに。
その夜、ルイン様が眠りについた後、私はベッドから出て魔力を高めるアミュレットを装着し、寝室の真ん中で身構えていた。
ルイン様の口元がもぞもぞと動き始める。
さあ、今夜も始まるわ。ルイン様の寝言が。
「うーん……フレイザ・ト・ラ――」
フレイザ――炎の魔法!
「――ギルテ!」
ルイン様を中心に空気が歪み、次第に熱を持った炎と化す。
「ウォタラ・サ・ピュリフ!」
すぐさま私は水の魔法を唱え、ルイン様の魔法を打ち消した。
ルイン様はこのように、魔法の研究に勤しんでおられる間は、寝言で呪文を唱えてしまうのです。学生時代は、そのせいで下宿先を燃やしてしまったとか。
私は魔法学校でずっと目立たない成績だったけど……対抗呪文の実技なら誰にも負けない自信がある。これこそ、婚約者である私の使命!
「デクアー・ク・ブラ――」
そんなこと思っている間にルイン様が闇の魔法をっ!
「――ダース!」
「キラン・デ・セレスティ!」
光の魔法で相殺っ! さあ、まだまだ夜は長いわ。ドンと来てください! ルイン様!
「ふあ……おはよう。サリナ」
「お、おはようございます。ルイン様」
朝が来て、私はいつものように朝食を作っていた。はぁ……昨夜の寝言は一層ハードでした。
「おや、サリナ、ずいぶん疲れているようだけど……。ちゃんと眠れているのかい?」
「あ、え、ええ! 大丈夫です!」
「決して無理はしないでくれよ、サリナは僕の大切な人なのだから。研究が一段落したら、北の国でオーロラでも見に行こう。もっとも、君の笑顔が見れるならオーロラなんて二の次だけどね」
「まあ、ルイン様ったら……」
本当に、ルイン様は魔法をかけるのが得意なお方。