朝との別離
思いがけず淡い光でふと目を覚ますと、虫の鳴いているような朝が好い。
大気はほんの少し冷たく、すがすがしい。
自分が誰で、ここがどこで、今日がいつで。そんな事を思い出すまでの、真っ白で透き通った時間が好きだ。
溶けている。私は、依然、このひんやりとした空気の中に拡散してふわふわと。
夢が続いているような、ゆっくりと大気を沈み続けているような感覚。
もう少しこうしていたい。
大丈夫。朝はまだある。
虫の声、ひんやりとした空気、淡い光。
だが、鳥が鳴き始めた。意識が幾分はっきりとしてくる。
朝の空気に溶けていたものは今度こそ凝集し、析出し、そして私になる。
指先と指先が離れるように、朝と私は断絶した。
今や私は他でもない私だ。私は過不足なく私に閉じ込められ、身体は重力を受けて随分重たい。
私が確固たる私である事が、こういう朝には少しだけ寂しい。