表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

愉快全開キッチン ー少しだけ人気な先生のお料理動画ー

作者: 福崎丘羅





「視聴者の皆様こんにちは、『愉快全開キッチン』の小町です!」


「助手の優香です。先生、今日はどんなお料理をご紹介してくれるのですか?」


 私は優香ゆうか。料理研究家である小町先生の助手を務める、ごく平凡な27歳。

 今日もネットにアップするためのお料理動画を、先生の自宅で撮影していた。


「本日のお料理はこちら、はい! 『ナポリタン風ナス炒め』です!」


 先生は満面の笑みで、キッチン台の下からワンプレートの料理を取り出し、勢いよくカメラに向け始める。


「………………先生、いきなり完成形を取り出さないでください、そこは写真とかパネルで」


 私は顔を引きらせながらお皿の前に手を添え、カメラのアングルから料理をシャットアウトした。


 いつもそうだ、この先生……。

 料理の腕はいいのに、頭のネジがゆるんでいる……!


「優香さん。男はね、胃袋でつかむのよ! のっけからドンッと決めなきゃ!」


「それを言うなら、料理で男の()()()掴むですよ。胃袋で男を掴まないでください、修羅場になりますよ……」


「あらあら、それは失礼。では早速、調理に入りましょう! まず『ナポリタン風ナス炒め』の材料ですが、ピーマン、ベーコン、ナス……そして玉ねぎです!」


 先生はリズミカルな口調に合わせ、次から次へと食材たちをキッチン台に出していく。

 なぜタイトルに名を乗せた食材が、そんな中途半端な順番で出てくるの?

 せめてトップか大トリにして欲しい……!


「そして調味料、オリーブオイルに塩コショウ、ケチャップとコンソメです!」


「なるほど、どんなご家庭にもある調味料なので、そろえやすいですね」


「優香さんするどいわねぇ、その通り! 今回は『どのご家庭にもある』と言うコンセプトで進めていきますよ!

 それではまず、材料を切っていきます。全て食べやすい大きさに切ってくださいね。だいたい、大学イモくらいの大きさで、パパッと!」


 先生は大雑把おおざっぱな説明のもと、凄まじくスピーディーな包丁(さば)きで、食材たちを切っていく。

 毎度、恐ろしくテクニカルな包丁捌きを披露してくれる先生。()()()あこがれる。


 しかし、サイズ感の説明が……。大学イモくらいって、絶妙ぜつみょうにイメージが定まりません……!


 コロコロの乱切りもあれば、スティック状の拍子木ひょうしぎ切りもあるのに、何てアバウトな説明なんだろう。

 そもそも、どこから湧いて出たんですか、大学イモ……!


「はーい、材料のカットは終わりました。ここから、いよいよ加熱です! 皆さん、加熱ですよ!」


 先生は包丁を置き、カメラにグイグイと顔を近づけていく。


「少し興奮こうふんおさえてください、先生の熱量まで加熱しなくていいです。フライパンは私が温めておきました」


 私はオリーブオイルを引いたフライパンの取手を、先生の方へ向けた。


「さすが優香さん! 言われなくてもできる、優秀な助手! 助手力、高いわねぇ」


()()()みたいに言わないでください。私はシナリオに沿っているだけです」


「そうでしたわね、では加熱スタート!」


 先生は熱したフライパンに、カットしたベーコンを投入した。


「まずはベーコンを炒めます、もうこの時点で美味しそうですが、ここからフライパンの中をドレスアップしていきます!」


「確かにいい匂いですね先生。ベーコンの香ばしい匂いが、食欲をき立ててくれます」


「…………さてお次は」


「えっ、無視」


 私のリポートなどお構いなしに、先生はそそくさとフライパンに玉ねぎとピーマンを入れ始める。

 そして先生は食材たちに軽く火を通し、塩コショウを振りかけ、キッチン台の下からある小瓶を取り出した。


「先生、それは何ですか?」


「ガーリックパウダーです、ニンニクの粉」


「いや……」


 私は思わず、首をかしげた。


「どうしたの優香さん、ニンニク嫌い? 香りが増して美味しいわよ。こう、ガツンと!

 まさかこの後、デートだった? ならウチの近くに公衆電話があるから、今すぐ彼氏に電話して伝えなさい。軽くニンニク食べたけど、『()()()()()』って!」


 何をひとりで盛り上がっているのだろう……。


「先生……。冒頭の紹介で、なかった調味料です」


「……………………」


 菜箸さいばしを持ったまま、突然固まった先生。


「優香さん、いったんCMです!」


「ありませんよ」


「いや、優香さん誤解ですよ!? 今回のコンセプトは、どのご家庭にもある物を使った料理ですから! ガーリックパウダーなんて、常備してて当たり前すぎる粉だったから、説明をはぶいたのよ!」


 どうしよう、私の家にはガーリックパウダーなんて置いてないんだけど……。


「分かりましたから、続けましょう先生」


「はいっ、ではガーリックパウダーを()()()()のように振りかけましょうね!

 ここで、食材たちにえて焦げ目をつけてください、香ばしく仕上がりますよ!

 そして次に、主役の看護婦を入れて……失礼、ナースではなく、ナスを入れて炒めていきます! あははっ、炒め物にお注射は不要ですよね!」


 注射が必要なのは、先生の頭ですよ。


 主役のナスを投入後、先生はしばらく加熱を続け。


「先生、少しナスがしんなりして来ましたね」


「はいっ、頃合いですね! では炒めた具材たちを、フライパンの端に寄せてっと。

 ここで空いたスペースに、ケチャップを入れます! いきなり具材たちに絡めず、まずはケチャップを単体で温めながら、酸味を飛ばしてあげます」


「おぉ、これは耳寄りなワンポイントアドバイスですね、先生!」


「一般常識です」


 先生は私に見向きもせず、ぷくぷくと沸き立つケチャップを見つめている。

 シナリオにワンポイントアドバイスって書いたの、先生でしょ。何をナルシストっぽくキメているんですか……!


「では酸味を飛ばしたところで、ケチャップを具材たちに絡めていきます」


 先生はフライパンの中を一体化させるよう、具材とケチャップを絡めていく。

 そして少し馴染ませながら火を通したところで。


「はいっ、完成! 『ナポリタン風ナス炒め』です!」


 先生はフライパンの取手を持ち、カメラに出来立てのナス炒めを近づけた。


「ちょちょ、先生! お皿に盛り付けてください!」


「はいはい、それにしても美味しそうね! ビンビンに湯気とか立てちゃって。換気扇も思わず香りを吸って楽しんでいますよ、優香さん!」


「まぁ……それが換気扇の使命ですから」


「それでは優香さん、早速いただきましょう!」


 先生が盛り付けた皿をキッチン台に置いた途端、私はフォークを手渡した。

 その後、私もフォークを手に取り、出来立てのナス炒めへとフォークを向かわせる。


「では、いただき……先生? そう言えばコンソメは使わなかったのですか?」


 私の指摘に、先生は手に持つフォークの動きを止めた。

 そして、泳ぎまくった両目で、私を見つめ。


「か、隠し味は……バレないように入れるのよ……」


 苦し紛れのトンチを呟いてきた。


「絶対入れ忘れましたよね?」


「こ、粉チーズをかけても美味しいわよ」


「無理がありますって、その誤魔化し」


 どうやら、この料理は未完成で終わったようです。



作品を読んでいただき、ありがとうございます!

「ちょっと面白かった」「他の作品も気になる」と感じましたら、ブックマークやお星様★★★★★を付けていただけますと、大変嬉しいです!

皆様の応援が、作者のモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いいたします!

現在連載中の長編も、新たに書き出す予定の短編も、心を込めて書いて行きたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ