エストレイア国へようこそ!
牢屋からでて、階段を登る。 しばらく登り続けると、目の前に鉄製の扉が見えた。
キャリーノがその扉をノックする。
「私だ。扉を開けてくれ」
ギィィィ… 重い音が耳に響くと同時に、真っ白で眩しい光が目に飛び込む。
「うっ、」あまりの眩しさに思わず目を瞑る。
牢屋はロウソク1本程度の光で薄暗い場所だったため、外の普通の光が視覚を刺激した。
「ちゃんと目開けなきゃ、自分の目で、しっかり、この街を見てご覧」
「うぅ、、」ゆっくり瞼を持ち上げる。だんだんと視界が明瞭になってきた。そして、そこに広がっていたのは欧風な街並み、賑やかな民衆、活発な商売……笑顔の溢れる、素敵な環境だった。
「わぁ……」思わず感嘆の声が漏れる。メルヘンチックで幸せそうな街だ。
「我が国、エストレイアは人口7000万人!『民衆の幸福の実現と国の安定』をモットーとし、軍が動いているんだ。君の目から見る民衆の様子はどう?」
「えぇ!?」
いきなりそんなこと言われても、まだこの街見て10秒だったかくらいでそんなこと分かるか!! とりあえず完全な主観で、率直に思ったこと……
「えーと……十分幸せそうです!皆さん生き生きしてて、凄く楽しそうに見えます!」
「……そうか」
一瞬、キャリーノの表情が曇った気がした。が、いつもの凛々しい顔に戻っていた。
僕の勘違いだったのかな……
「とりあえず、資料館に向かいがてら色々説明していくね!何か聞きたいことはある?」
「聞きたいこと……あ、キャリーノさんのこと、もっと知りたいです!」
「………!かわいいこと言ってくれるじゃーん!いっぱい教えてあげるよ〜!!お姉さんが手とり足とりじっくり教えてあげるね♡」
そう言ってキャリーノが飛びついてきた。
この人なんか可愛いところあるなぁ……って
待って力強い強い強い強い!!この人めちゃくちゃ力強いな!?
「キ、キャリーノさ、、い、息が、、」
「あ、!!ご、ごめん!つい……(笑)」
ゴホンッ 気を取り直して、さっきも言ったけど、私の名前はキャリーノ・ミール!
第2等星軍隊 中尉だよ。 軍は階級制度が設けられてるんだ。この紙をみてくれる?」
そう言うとキャリーノは腰に巻かれていたベルトポーチから1枚の紙を取り出し、僕に見せた。
~エストレイア国 軍制度~
高 特級等星 (漆黒) 3人
↑ 第1等星 (菖蒲) 50人
↑ 第2等星 (深紅) 300人
↑ 第3等星 (群青) 5000人
↑ 第4等星 (翠) 50000人
低 第5等星 (中黄) 100000人
「私は今第2等星の中尉だから、結構強い人だぞ!」
「キャリーノさん、見かけによらず案外すごいんですね、」
「おいこら、見かけによらずとはなんだ!!これでも軍の第2等星だぞ!しかも中尉!」
キャリーノと関わってみて分かったこと、この人、見かけによらず凄い。(さっきも物凄い怪力だったし)そして、幼い、かわいい。
「この()の中にかかれた漢字と、横の数字はなんなんですか?」
「うんと、まず()の方は軍服の色だね!そんで、数字は現段階の軍人の数だね」
「人口7000万人にしては少なくないですか……?」
「あー、まあ軍隊に入るための試験が過酷だからね!こちら側としてはもっとたくさんの人員が欲しいんだけど、中途半端な人間を入れたところで物資とか給料の費用が増えるだけだし、そんな無駄なことにお金を費やしたくないのさ!」
今日の教訓、結構軍隊はブラック企業。
「そうそう、階級といったら、魔導士にも階級制度があるんだよね!」
「え、魔導士とか存在するんですか」
「もちろん!私も軍人兼魔導士だよ!」
「魔導士って存在するんだ……」
この世界はやっぱりメルヘンチックというか、ファンタジー感があるというか、凄い世界線だなぁ……
「まあ魔力さえ持ってれば、みんな魔導士にはなれちゃうよ!魔導士になるには一応資格試験が必要だけどね〜」
「僕には縁もゆかりも無い話ですね〜」
「え〜、そんなことないと思うけど?」
「え、いやいや、だってキャリーノさんが言うには僕は『転生者』なんですよね?元々魔法が使えるわけではないんですし……」
「まあ魔力さえ持ってれば魔法なんて出来ちゃうけどね」
「そんなガバガバなんですか!?」
魔法って聞くと、もっと複雑で常人には扱えないとばかり思っていたが、案外そんなこともないのかもしれない。 もしかしたら僕も魔法使えるようになるのかな……!
「よし、なんやかんや話してたら着いたね!」
「ここが、資料館……?」臙脂色に染まった建物、とても大きくて広い。高さは軽く30mを越しているだろう。
「まあ軍本部だね!ここに君のことが記載されてるはずだから、探してみよっか」
言われるがまま、キャリーノと資料館の方へ向かう。
「この資料館はとんでもなく厳重に扱われてるんだ〜。なんせ中に入ってる資料がもう、超大事だからね! あ、一旦止まってもらっていい?」
言われた通り、立ち止まる。僕の行動とは裏腹に、キャリーノは1歩前に進んで、
「アビエルト!!」と叫んだ。すると、落雷の音と共に、目の前に青と紫の中間色の見た目をした電流が迸った。
ギィィ…… 目の前のでかい扉がゆっくりと開いた。
「さあ、開いたよ、行こうか!」
「キャリーノさん……?い、今何が起きて……?」
「あー!あ、ごめんごめん!説明しなきゃか!えっとね、さっき言ったように資料館にはめちゃくちゃ重要な書類がいっぱいあるんだよね。それこそ軍の中でも許された人しか入っちゃだめなんだよ。だから誰でも入れる環境をつくったら駄目なんだ。たくさん鍵をつけても、軍にいる人はとっても頭が切れてる人の集いだから鍵がなくても針金1本で攻略できちゃうし。だから、この扉は特定の魔法……分かりやすく言うと、登録した魔法って言えばいいかな?私の魔法もそうなんだけど、その魔法をぶつけることで開く仕組みになってるんだよ。」
「な、なるほど……」
せっかくキャリーノさんが説明してくれたのに、正直なところ、さっき目の前で起こったことが衝撃的すぎて、あまり話の内容が頭に入ってこなかった。
「よし、とりあえず君の情報をこの中から探そ!」キャリーノは呆気にとられている僕の手を無理やり引っ張り、資料館の中へ引きずって行った。
「あの、キャリーノさん……」
「はーい?」
「資料の数やばくないですか!?」
入るや否やどこもかしこも本、本、本……
本棚は普通に5mくらいあるし、その本棚が大量に並んでいるし……パッと見でここの中には5000万くらいの資料があるだろう。
「まあこの民衆一人一人の情報が登録されてるから、最低7000万の資料があるかな。それに加えて、この軍のこととか色々あるからもっと資料はあるね〜。まあ本にまとめてるから、実際は300万くらいですんでると思うよ〜」
サラッと言っているが、300万もえげつない数では……
「転生者コーナーはこちらになりまーす」
そのコーナーについたところで、やっと手を離して貰えた。ずっと握られてたおかげか物凄くヒリヒリする……
「早速君の資料を探そう!この世界に来た人から順にバーって並んでるから、つい最近だしここら辺かなっ」
キャリーノは1番右の端にある資料を手に取った。
「この資料はえーと、3ヶ月前から現在の転生者をまとめたものだから、ここにいるはず!私が探しておくからなんか好きにしてて〜」
キャリーノがそう言ってくれたので、少し資料を見て回ることにした。無造作に1枚の資料を抜き取る。その資料の表紙には1876 .5- 1877.3と表記されていた。パラパラと中を見てみる。1枚の資料につき、1人もしくは2人。顔写真、名前、その人の詳細―――そして表紙のような数字が最後に記載されていた。この数字はこの人がこの世界に来た時期だろうか。だとしたら、表紙の数字はその期間にこの世界に転生した人たちをまとめた、ということになるだろう。
「なーーーーい!!!」
「え!?何が!?」
後ろからキャリーノの悲痛な叫びが聞こえてきたため、慌ててそちらに駆けつける。
「おかしい!!君の情報がどこにも載ってないんだよ!」
「ええ!?」
「私が君を見つけたのはつい先日のはず、私が知らないだけで、君がずっと前に転生してきたのか?」
僕は一体何者なんだ……? 仮に僕が直近3ヶ月より前に転生してたのなら、キャリーノさんが見てない資料のどこかにありはするんだろうけど。それだとなんで僕の記憶がないのかが分からない。 何も持ってない状態でぶっ倒れてたらしいし、あんまりこの仮説は現実的じゃない。だからキャリーノさんが見てた資料に僕の情報がないなら……
僕は、転生者じゃない、?
「あ、ーー!!君!!ちょっとこれみて!」
「はい!? はい!見ます見ます!」
「………ってこれ!」
そこには僕の情報が載っていた……わけではなく、僕と鏡写ししたようにそっくりな人、そう、僕が探している人の情報が載っていた。
Carm・Spear
15歳 第4級魔導士: 属性 火
前世では妹を庇い死亡、そして転生。
1926.8.24
「今日が1926.8.27だから、ほんとについ最近転生したんだね、この子は。それなのに、第2級魔導士の資格を持ってるなんて……是非とも軍に入れたい!!」
「キャリーノさん、目をとってもキラキラさせている所悪いんですけど、第2級魔導士ってどういうことですか?」
「あー、魔導士の説明してなかったよね!じゃあ、この紙見せながら説明するね!」
~エストレイア国 魔導士資格について~
特別魔導士 零級
普通魔導士 第1級魔導士 第2級魔導士 第3級魔導士 第4級魔導士 第5級魔導士
特別魔導士とは、普通魔導士と比べ魔力、能力、火力もしくは回復力等の力量が遥かに上回っており、特別魔導士=第1級魔導士5人分であると定義する。
普通魔導士とは、単に魔法が使えると言うだけでは魔導士認定はされず、それぞれの級に置いて、一定の魔力、能力、力量の基準を満たした者である。
第1級魔導士は、1人の力で我が国の人口の3分の2を抑え込める者と定義する。
第2級魔導士は、1人の力で我が国の人口の3分の1を抑え込める者と定義する。
第3級魔導士は、1人の力で500万程度の人間を抑え込める者と定義する。
第4級魔導士は、1人の力で10万程度の人間を抑え込める者と定義する。
第5級魔導士は、1人の力で1000人程度を抑え込める者と定義する。
「まあこれみてもらうと分かると思うんだけど、この資格って取るのとっても難しくて、第2等星の中尉である私でも、第3級魔導士なんだよね」
「キャリーノさんでさえ、3級……」
「エストレイアは民衆を守るために、少しでも多くの戦力が欲しいんだよ、だから結構基準がバグってるんだよね」
もう一度、カーム・スピアの資料を見る。第4級魔導士……転生してたった3日でこの資格を得るなんて、一体どんな人物なんだろう。なんで僕とここまで容姿が似ているんだろう。君と僕の関係は何なんだろう、キャリーノさんが言っていたみたいに双子?それともただのそっくりさん? 考えれば考えるほど疑問しか頭に浮かばない。僕が悩んでいるのを見かねて、キャリーノさんはパンっと手を叩いた。
「よし、とりあえず君の資料は図書館司書に探させよう!だから一旦悩むのはおしまい!」
「……はいっ!」
キャリーノさん、まだ出会って1日くらいしか経ってないけど、一緒にいると凄く心が軽くなるなぁ。たまに変なとこあるけど。
「あ、そうそう!君!私は君を君呼ばわりするのはもう嫌だから、名前!名前つくろう!」
「名前……どうやってつくるんですか!?」
「そうだなぁ、特になんも考えてないけど、私が命名してあげよっか?(笑)」
「じゃあキャリーノさんはさぞセンスがよろしそうなので、お任せしますね!」
「えええ、いいの!?私が決めちゃって」
「キャリーノさんから提案しておいて何驚いてるんですか。全然いいですよ、というか」
「キャリーノさんに、決めてもらいたいんです。」
真っ直ぐに彼女の目を見つめながら言った。僕にとってキャリーノさんは命の恩人みたいなものだし、キャリーノさんにつけてもらえた名前なら、これからの人生は楽しくなりそうだなと思ったからだ。
「や、やだなぁ照れるじゃん……でもそう言ってもらったにはめっちゃ最高な名前をつけようじゃないか!」
「ありがとうございます!」
「そうだな、私の名前がCarino Mealだから、そこからもじって……」
そう言いながら1枚の紙とペンをどこからか取り出し、ペンをはしらせた。
「よし、これかな!はい!」
先程書いていた紙を渡してきた。
Ream・Spear
「レアム・スピア……?」
「そう!君とカーム・スピアはとっても似てたし、ぶっちゃけ双子っぽいからそこからスピアをとって、レアムは私の名前からもじったよ!」
「レアム……」
「あ、ごめんお気に召さなかった全然他のに変えr「全然そんな事ないです!」
「とっても、嬉しいです」
やっぱり、この人に名前を決めてもらってよかった。
「喜んでもらえて良かったよ!それじゃあ、これから、改めてよろしくね、レアム!」
「はい!キャリーノさん!」
キャリーノさんとの仲もちょっと深まって、僕のエストレイア国での生活が1歩前進した、そんな日になった。