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第5話 クラフタン町

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 異世界で目覚めたのは夜だったらしく、ツクモさんの家を出発したのは空の端が白み始めた頃だった。


「主な仕事内容はツクモちゃんのサポートなんだ。修復士をしてるから、材料を買いに行ったり採りに行ったり、あとは家事だね。依頼人の対応をすることもあるよ。あの家に行くのって大変だから、あたしが買い物に出てくるのを待ってる人もいるんだ」

「なるほどねぇ」


 夜が去り切っていない薄暗い空を、シムルグという美しい尾羽根を持つ鳥形の魔獣の背に跨って飛んでいく。

 名前はフク。乗り慣れた桜菜が前、おっかなびっくりの私が後ろだ。


「確かにあの家には足……、いや翼? がなけりゃ行きづらいだろうね」

「穴底だもんねぇ」


 あっはっはっと豪快に笑う従妹の声に、ピルルッ! とフクが鳴いた。

 ツクモさんの家が建っているのは、厚い葉を繁らせる木々が広がる森のど真ん中で口を開ける陥没穴、〈創造神の杖痕〉の底だった。

 崩壊型の陥没穴は遥か昔の大地震の際に空いたもので、崩れ落ちた地表は地底湖の底に沈んでいるらしい。初めて屋外に出た時、湖面を隙間なく覆う植物を見て驚いていると、蜜燐花(みつりんか)という水棲の魔性植物だと桜菜に説明された。

 蕗に似た丸い葉を広げ、木蓮にそっくりな白い花を咲かせる蜜燐花は、太陽光の他に水中に含まれる魔素を養分にして成長する。

 吸収された魔素は維管束の中で魔力に変化し、ろ過され、より純度の高い上質なものに為って蜜に宿り、飽和状態になると発光を始め、吸い時だと蝶や小鳥に知らせて彼らの命を繋ぐ。

 独特な生態と蜜に宿る魔力の上質さから高値で取引される為、貴族やら国の何かしらの機関やらから根こそぎ採取されたせいで数が激減し、今では凶暴な魔物が住む危険地区の奥地か〈創造神の杖痕〉でしか見かけることができないとつけ足しながら、ツクモさんは寂しげに蜜燐花の絨毯を眺めていた。


「ほら、あれがクリステスラ国の端っこ、クラフタン町だよ」


 指された先に目を凝らせば、森と平原の境に沿うように建てられた町並みが見えた。

 レンガ造りの町並みはどことなく北欧を思い起こさせるが、白や青、群青といった寒色系の建物が多く、寒々しい印象を受ける。細身の煙突が何本も立っており、それら全ての天辺部分が射しかけた陽光を浴びてキラキラと輝いていた。


「煙突の先っぽが光ってるけど、あれは何? あそこにも共明苔があるの?」

「煙突? ああ、あれは煙突じゃなくて、電柱みたいな棒だよ。光ってるのは魔石化した水晶で、太陽と風から魔素を集めて魔動家具を動かすエネルギーに変えるんだ。太陽光発電と風力発電みたいなものだね」

「魔動家具って、冷蔵庫とか洗濯機みたいな?」

「そうそう。1粒の魔石で数軒分の魔力を作れるんだ。凄いでしょ?」


 町全体が自家発電に対応しているのか。素晴らしいな。


「一旦門の外に降りるね。入門票にサインしなくちゃだから」

「町の出入りに許可がいるのか」

「前科者の侵入を防ぐ為にね。国境は特に厳重なんだ」


 言い終わるや否や、フクが降下を始めた。出発してから30分足らず。フクに運んでもらった距離を、徒歩で、しかも鬱蒼とした森の中を歩いたとしたらどれだけの時間がかかるのだろう。


「あら、フリューリングじゃない。久しぶりね」


 そう声をかけてきたのは、紫色の宝石の頭部を持つ亜人だった。


「リンフェイムさん、お久しぶり!」

「元気にしてた? 先週は会えなかったから寂しかったわ。あら、今日はお友達がいるのね」


 フクから飛び降りた桜菜が駆けていく。置いてけぼりを食らって降りられずにいると、紫の宝石が私を見た。


「そうだよ、従姉のシュネーブラット。同い年で2日しか誕生日が違わないからほぼ双子だね」

「親が違うでしょうが」


 何が双子だ、とため息を吐く。


「シュシュ、こちらはリンフェイムさん。宝石頭科アメジスト属のお姉さんだよ」

「よろしくねー」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ひらひらと両手を振るリンフェイムさんに頭を下げて応える。


「じゃ、あたしは入門許可証もらってくるから待っててね!」

「は? ちょっと!」


 せめて降りるのを手伝ってからにしろと叫ぼうとしたが間に合わず、あっという間に桜菜は門の方に走っていってしまった。深々とため息を吐くと、私の状況に気づいたのか、リンフェイムさんが手を貸してくれた。

 礼を言って差し出された左手を掴みつつ、悟られないよう素早く全身に目を走らせる。ミラーカットされたアメジストの頭部と、首から爪先までをすっぽり隠す丈のローブ。手袋を嵌めているので自肌の確認は不可能だったが、指は私と同じ5本だ。


「そんなに私が気になる?」

「あ……」


 目をやったのは一瞬のつもりだったが、ばれてしまった。


「すみません、つい……」

「別に構わないわよ。私たち宝石頭科は魅せる為に頭部をカットするんだから、むしろどんどん見てちょうだいって感じ。あらあなた、意外と背が高いのね」


 見上げてくるリンフェイムさんの頭を、首を傾げていたフクがコツコツと突く。慌ててとめに入るが、当の本人……、本石? はあらあらと微笑むだけだった。

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