第4話「花のように」
私は依頼主と合流をした。どうやら資本家の娘のような立ち振る舞いや服装だからきっと何かしら親に反対をされてこのような依頼を出したんだと思う。そうじゃない場合は...。
「あなたが、殺し屋さん?」
「そうよ、恋人を殺すなんて書いてあったからてっきりもっと騒がしい人なのかと思ったら意外と清楚な方のようなのね。実際はあなたの親を殺して欲しいのでしょ?」
このように真のターゲット相手を殺して欲しい場合はあえて手紙にして依頼がある。相手に監視されていたり自身の身分がある程度裕福な人間が用いる手段だ。
「はい...私は今好きな彼と一緒になりたいのですが父に反対をされています。恋人を殺して欲しいと書いたのも父の目を誤魔化すためです。
父は複数の工場を立ち上げ、主に製鉄や製糸によって巨額の富を得ました。政府関係者にも広い顔を持っており、資産の一部を軍費に賄ってるほどです。
もちろん私も彼も、父を敵に回したくはないのですがこの出会いを、温もりを、大切にもしたいのです...。
なのでどうか、どうかお願いできますか?」
どうやらお金はある程度蓄えてそうだ。私にも一応はこの依頼を引き受けるメリットはありそうだ。その男の繋がりを利用して、あいつに近づいていくためにも。
「わかった、その依頼引き受けるわ。ただ条件は3つ、まず報酬は前後で2回。今前金は受け取るわ。
それともう一つ、殺す前に彼に聞かなきゃいけないことがあるからそれを承諾すること。
そして最後はこの依頼に関して死ぬまであなたは後悔することになる。
親殺しの罪を、墓場まで持っていく覚悟を持ってもらう。
守れるなら、今日中に殺してくる。」
「それでよろしくお願いします...。」
親殺しを即決できるなんてどんなに頭がイカれてしまっのか、私は契約書を取り出し書いてもらう。するとひょいっとその彼と思われる人物が出てきた。
「待ってくれ!それはダメだ!父親を殺すなんて何考えてるんだ!」
まぁその意見はごもっともだ。殺し屋をやっている私でさえ、自分の親を殺すなんて発想はしないのだから。
「だってしょうがないじゃないですか!そうでもしなきゃあなたと結ばれることないじゃないですか!」
「だけど...」
正直こうも言い争いをされるとめんどくさくなる。
「それで、どうするの?やるやらないは今決めて。」
「お願いします。依頼を引き受けてください!もうこれしか方法がないんです...。」
依頼主はサインをした。
「なんてことを...。」
「わかった、そしたら顔とかの情報を教えてほしい。」
依頼主は彼の静止を振り切って頼み込んできた。私にはそんな事情はどうでもいい、報酬を受け取れるなら。ようやくここから情報をもらって仕事に取りかかれる。
今回の獲物は彼女の父親。50代くらいの小太りな中年男性。特徴なのは落武者のように襟足が長い代わりに頭の毛が薄いこと、眉間の間に傷があると。そしていかにも高級な素材でできたオーダーメイドスーツを着ていると。
今日はなんと政府の役人と会食で深水の名物、屋形船に乗るのだという。探すのは非常に楽、だが侵入して殺す段取りを組む必要がある。
すぐ殺すのは造作のことでもないが聞きたいことがあるから一旦は芸者の格好をして潜入するのも悪くない。とりあえず周に連絡をして実行に移そう。
「情報はこんな感じね。報告は明日はあれだから、明後日のこの時間にしましょう。最後に確認だけど本当にいいのね?」
「はい、よろしくお願いします...。」
依頼主は私に前金を差し出して来た。その前金を受け取り、2人と別れた。さぁ今日もたんまりと稼ぐとしましょう。
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「ようあやめ、また仕事が入ったんだって?」
周と合流した私はある程度の情報を伝えて段取りを組み始めていく。
「本当はもう少し休んでからにしたかったんだけどねー。まぁ、今回引き受けたのは政府要人が絡んでるってのはあるから。それに報酬たんまりよ。」
「相変わらずな非国民ぶりだこと。まぁおれも、金さえくれりゃなんだってするさ。」
「あんたならそう言うと思った。さっそくだけど今回の段取り決めましょ。」
こうして2人で段取りを組み始める。今回は役人の接待を兼ねているため必然的に芸者の格好が好ましい。幸い、周に頼めばすぐに用意はしてくれる。あとは機を見て獲物を殺していく。
こういう依頼をしていくために芸や作法は学んでいる。あとは獲物が乗る予定の屋形船を探し出して侵入するのみ。
「それじゃあさっそく始めましょう。」
そう言って2人で深水の港へ向かっていった。獲物が私に惚れないことを祈りながら。
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支度を終えていよいよ潜入を開始していくことになった。浴衣姿は正直動きにくい。特にこの下駄が私の歩き方と相性が悪すぎる。
「さぁて、その袋の中に用意しておいたぜ。それにしても浴衣姿似合ってんじゃねぇか。惚れちゃいそうだ。」
「余計なこと言わなくていいんだよ。とりあえず2時間くらいで脱出できるようにする。万が一それ以上の時間が経ったら屋形船ごと狙撃して爆散させて。」
「わかったよ、そんじゃ例の位置で待ってる。」
周には狙撃を担当してもらうため、別場所にて待機してもらう。実は周は狙撃手として私の補助を担当もしている。そうして私は屋形船に乗り込んでいく。
もちろん芸者の人には怪しまれる。だから偽造の遊郭身分証を提示をして芸者の集まりに参加をさせてもらう。どんな接待をすれば近づけるかを歩きながら考える、いろいろと...。
相変わらず女性の立場は新政府になってからも弱いまま。女性の気持ちなどはお構いなしに男は食い物にしていく。さすがに芸者の人は今回は逃すルートを周に言って確保させている。
屋形船を近くの桟橋に停めた後に車などで避難誘導していく。船に侵入して中の待合室にて船内について簡単な説明を受けて獲物が乗り込んでいくのを待つ、タバコでも吸いながら。
しばらくすると政府の役人が数名乗り込んできた。襟の紋章を見る限り、今回は『外務省』の人間を呼んでいる。主に列強の大国を含めて諸外国との外交や貿易などの取引を行う政府機関だ。外務大臣は残念ながら見当たらない。
そして今回の獲物となる中年の男も乗り込んできた。殺しついでに大戦状況や売れる商品などを聞いておこうと思う。知り合いの鍛冶屋のおっさんや今後の政府組織の大臣達との交渉や脅しの材料に使える。気は向かないけど、芸者として仕事を始めよう。
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「全く、こんな何もねぇ所で待たせるなんてひでぇやつだな相変わらず。」
周りは土手。雑草ばかりで虫がたくさん飛び回っている。街頭の灯もここまで差し込まないから暗くて視界が悪い。唯一屋形船の提灯の明かりがほのかに照らして見えるだけ。
少し目線を遠くにすると花畑が見える、その中に黄色のヒガンバナが数輪花を咲かせている。ヒガンバナは赤や白が一般的であり、黄色は非常に珍しい色となっている。風で髪がゆらめく、着物姿のあやめを思い出しながら。
「...
今日のあやめ、綺麗だったな...黙ってりゃ嫁の貰い手の一つや二つもらえると思うんだけどな...。この仕事終わったらこのヒガンバナでも渡してみるか。」
その独り言は誰にも聞かれずにすぐに途切れていった。




