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追想のヒガンバナ  作者: 希塔司
第2章「戦禍」
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第19話「渇望」

 おれたちはあやめと急いで合流するために走っている最中だ。すみれの鼻はよくきくそうで、血の匂いでどこに入ったかがわかる。


 あやめはおそらくおれが嗅いだ匂いと同じものを嗅いであの小山へと入ったというのだ。


 いざという場合に備えて再度おれは銃の弾数などを確認する。落としたりはしてなかったのが幸いだ。『神切虫』も腰にかけてあるままだ。



「周さん、もう少し奥に行けば辿り着きますよ。」


「そうか、にしてもすみれ。お前なんか少し顔色悪くないか?」


「いえいえ、別に大したことじゃないですけど...。」



 すみれの顔がどんどん青ざめているように感じる。サメの細胞の影響なのか、嗅覚などの五感が優れているからかはわからないが顔が少しずつ嫌な顔になってきているのは隣にいるおれもわかるくらいだ。


 本当なら休ませたいところだがもう少し耐えてもらわないと、あやめが死んでいたらと考えると気が気じゃない。



「もうすぐです。...やばい、もう我慢の限界...。」



 すみれはすぐに口元を押さえて木の影に隠れて吐いてしまった。


 一体すみれにはどんなふうに今感じ取っているのか。それは見てはいけないものを見てしまったかのようにはっきりとわかる。


 おれは近づこうとするも来ないでと止められ、携帯していた薬と小瓶に入れてある飲料水を飲む。そして少し深呼吸したのちにすみれはなんとか起き上がった。



「すみません急に。」


「いや、大丈夫かほんとに。一体何があった?」



 すると少し黙った後にすみれは拳を握りしめて話した。



「それは、あそこの草むらから見えるかと。それで全部わかります...。」



 すみれは震える指を刺しながら言うもんだから気になっておれは近くまで歩いていく。生臭い匂いが草むらのかげまで漂う。そして目を疑う光景を目の当たりにした。



 そこは少し広々としている。木や雑草は枯れ果てていて血の色が染み込まれているように赤黒い。


 地面には大量の血の池のように血液が溜まっており、そしてあちこち至る所に動物や人間の死体が散らばっている。


 皮や肉が食いちぎられているもの、引き裂かれているものから骨が剥き出しになっているものや最悪は原型すら留めていないものまで放り投げられている。



「なんなんだここは...まるで地獄じゃないか。」


 

 その表現が1番的確な表現だった。この世界にはこのように生きているものが本能的に恐れる場所があるのかと知ったからだ。


 体中が震えるような感覚はまるで極寒の地に薄着で行き凍えるようなものだ、すみれはこのあまりにも混ざり合った血や肉の匂いに耐えきれなくて吐いたのだとすぐにわかった。



「すみれ、大丈夫か?」


「はい、もうさすがに鼻があまりきかないくらいに嗅ぎ続けたので。もう平気です。」



 すみれの心配をしつつ、周囲に敵がいないかを確認していく中とうとうおれたちは目的の人物に再会する、あやめが木に寄りかかって静かに眠っているのがわかった。



「あやめ!」



 おれは迷いなく草むらから飛び出してあやめの元へ走り出す。すみれも後をついてくように走って2人であやめを起こしに行こうとした。


 だが広間の中央付近にて殺気が放たれるのを感じたおれは咄嗟にすみれの腕を掴み強く後ろへ引っ張った。少し痛がりながらもおれの真剣な顔つきを見たすみれも戦闘をする顔にすぐに変えて従う。



「誰だ!」



 おれは声を張り敵が現れるのを待つ。おれは銃のスライドを引き、すみれはナイフを手に持って臨戦態勢を取る。そして少しずつあやめに近づいていくとあやめが寄りかかっている木の後ろから人影が見えてくる。それは小さな影だった。



「ダメだよ2人とも、私たちの邪魔をしちゃ。」



 少女は笑いながらおれたちに姿を見せた。本当に幼い姿をしており、白いワンピース姿で現れたこともありより警戒をする。なぜこんな荒れ果てた場所にいるのか、なぜあやめに気があるのか理由を知りたいと思ったおれはいくつか質問をしていく。



「お前は誰だ、なぜこんな場所に1人でいる?」


 少女はすぐに答えていく。


「私は鬼切れみ、そこにいるあやめお姉ちゃんを迎えに来たの。」


「鬼切...だと。じゃお前はあやめの実の妹か?」


「そうだよ?私はお姉ちゃんがずっと1人で寂しくしているから迎えに来たの。私たちがいる場所へ。」



 まだ幼いからか多少言葉にはぎこちなさがあった。すみれは睨みながら少女に低い声でさらに質問していく。



「迎えにってどこへ?」


「だからお父さんやお母さん、そしてここにいるみんなのところだよ?」


「なるほどね...。ほんとにやり方が汚いな...。」



 すみれは眉間にしわを寄せてれみと名乗る少女を睨み続ける。おそらく感覚的にそれが人間ではないことを勘付いてるように鋭く。



「どんだ化け物だね。いい加減人間ぶるのやめたら、みっともないよ。今にも先輩を喰らいたいはずなのに。一体何が狙い?」


「ほんとだって!信じてよ!!」



 れみと名乗る少女は泣きながら訴えていくが、すみれは睨むのを辞めない。警戒は怠ってはいないがおれには全く違和感を感じられない。


 動物の細胞を埋め込まれたすみれは自然界の本能で感じ取っているから、目の前の少女の状態に気づいているのだろう。


 そしてすみれはポケットに忍ばせていた食器用のナイフをその子に向けて投げる。その子は自分の隠し持っている短剣を笑顔でナイフを弾いた。それをすみれはニヤリと笑いながら言う。おれも今の動きを見て確信した。



「引っかかったね、普通3.4歳ぐらいの子供が私が投げたナイフの軌道を見れるはずないから。それにその防ぎ方は明治政府時代後期の護身術よ。周さんも見覚えはあるはず。」



 確かにこの護身術はおれが訓練兵時代に学んだ簡易的なものだ。だから今のあの子の動きに気づかないはずがない。



「ああ、そうだな。その護身術は帝国軍の人間しか知らない体術だ。あやめやすみれには船の上でひまだったから簡単に教えていたが、一般人が、ましてや幼い子供ができるはずないからな。これではっきりした、お前帝国の関係者だな?」



 少女は真顔になり、少し考えた後に再びニカっと笑う。そして狂気に満ちた顔を見せてきた。





「ふふふ、くく、あはははは、ひゃはっはっは!驚いた、まさか私と同じように感覚型の細胞を埋め込まれてる子がいるなんてねー。こうもあっさりバレちゃうなんて。」



 その少女はいかにもな悪い顔をしている。何か悪霊にでも取り憑かれたかと思うような見下す視線に鋭い八重歯、そして上りきっている口角がそれを表現している。その顔はまるで人を陥れて楽しんでいる『悪魔』そのものだから。



「それがあなたの本性ね、答えなさい。あなたは一体どこに雇われているの?あなたは一体何者なの?」



 すみれは真相や黒幕がいるのではと考えてその質問をしたのだと思う。おれにとっては早くあやめを連れてここから避難するのが優先だと考えていたから複雑な気持ちでいた。

 


「確かに私は今、この体を借りて話してるわ。帝国国内で話題になったそこの女を殺すためにね。あの方はいずれその女が帝国の野望だけでなく、私たちピースマークの活動をも阻害すると判断して私を送り込んだの。


 この体はかつてこの地で死んだ『鬼切れみ』本人の体よ、けどあの方の至高の力で体を復元させ私の精神を乗り移らせた。心は私、『最盛貴恵』のものよ。」



 その最盛という女は自身についてあっさりと話した。ピースマークが関係しているというのは精神的に病んでいるという状態で察しはついていた。だがあの方という人物におれは全く心当たりはなかった。



「それで、あなたがその体を利用して先輩をたぶらかしたって解釈でいいの?」



 すみれの目はサメの目のように瞳が鋭くなっていく。怒りの感情が相手に剥き出しになっていってるのをおれもそばにいて感じ取れる。



「まぁしかしそこの女も無様よ。妹の姿で現れたらあっという間に引っかかったもの。過去にしか縋れない悲しい女、もう死んでいる人間って自分でわかっているのにね。今すぐにでも残りの血を吸って私の力にしたいところだけどあの方に止められてる手前、埋め込んだ細胞について記録を取らないといけない。あー早く食べたいのに!」



 最盛はその場で地団駄を踏み怒りを露わにしている。おれも今の話を聞いてもうこの女をいつ殺そうか考えているところだ。そして最盛は再び笑顔に戻る。



「でもいいわ、あなたたちから先に食べればいいもの。あなたたちの血は一体どんな味がするのかしら。ちなみに、この女の血はすっごく青くてまずか...。」



 最後のまずの時におれとすみれは同時に動いていた、怒りに突き動かされていた。

 

 すみれが目の前までナイフを咥えて最盛を切り刻もうと考えていたのだろう。だがおれが銃の引き金を引いて頭を撃ったのがわずかに先だった。



 最盛は体を後ろに倒れた、いや自分から倒れた。撃った弾丸をなんと咥えていた。


 弾丸の軌道が見えるくらいに視力が良いのと対応できる反射神経の良さを確認した。すみれも撃った時に一瞬おれの方を振り向いていたが、弾丸を咥えているのを見てすぐに後ろへとさがる。


 そして咥えた弾丸をフッと捨てておれに笑いながら



「危ないわねぇ。あなたあの女の妹の体によくそんなおっかないものぶっ放せるわね、ある意味関心しちゃうわ。いいの?嫌われちゃうわよそんなことしたら。あなたが妹を殺したと勘違いしちゃうんじゃないかしら。」



 そう言い放った瞬間にズドン!っとおれはまた引き金を引いて弾を撃った。今度は最盛の足元に。最盛は気分が損なわれたような苛立ちの表情をおれに向けた。その瞬間、おれの怒りが限界を超えようとしていた。



「もう、黙れ。今のあやめを傷つけるなら誰だろうと殺す、それだけだ。」



 おれはスライドを引き、再び最盛に向けて銃を向ける。


 

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