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追想のヒガンバナ  作者: 希塔司
第2章「戦禍」
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第16話「故郷の成れの果て」

 高波によって打ち付けられ三日月のような形になっている崖を横切っていくと集落への近道となる獣道が出てくる。集落にいた漁師や私たちが海に遊びに行く時に使っていたから体にその記憶は染み付いている。



 その道をひたすら歩いて行くと今度は川が見えてくる。よく川釣りとかをしたりしていたのを今でも覚えている。


 昔は川が澄んでいてザリガニや鮎などといった川魚が釣れたりもした。それを塩焼きにしたり茹でたりして食べるのが私たちへのご褒美的なもの。



 だが集落が襲われたり、そのまま阿国との戦地に使われたりして川には大量の兵器の油や有害物質が流れ込みもう見る影もない。


 その辺に生えていた雑草や木々も焼かれたり枯れたりしていてまるで地獄にいる気分になる。焦げたススの匂いや有害物質の嫌な匂いがそこら中からする。私たち3人はただただ歩いていく。


 ちなみにすみれは部下と別行動をしている。部下には下川戦線と違うルートで目的地に先回りをさせているとのことだ。



「へー。今はこんなふうになってるとはな。全く、戦争ってのはこうも周りの環境や思い出を踏み躙るもんだな。大丈夫かあやめ?」



 周は私に気を遣っているのか心配する素振りを見せる。



「ええ、大丈夫よ。それより知ってた?昔この辺りには白い虎がいたらしいよ?」


「えー白い虎さんですか!見てみたかったなー!どんな生活してたんですかね?」


「さぁ、もう何百年も前の話だけどね。この大陸にいた英雄のお供をしてたみたい。その白い虎はある能力を持ってたみたいよ?」


「能力?動物が能力を持ってるって言うのか?」


「まぁ創造のお話だからね、なんとその能力が『蘇生』させる能力なんだってさ。面白いよね。」



 私たちの大陸にはその伝説が古い昔から存在する。大義を成そうとする心優しき英雄に仕える白虎の伝説。


 かつてその英雄は戦国の世に生まれ、多くの人が飢えや争いに苦しむ姿を見てそんな時代を終わらせるために立ち上がった。次々と戦果を挙げていく中で白い虎に出会い試練を受ける。そして彼の大義を聞き付き従ったと。



「その『蘇生』の能力はもしかして英雄を蘇らせたとかそんなありきたりなものだったりか?」


「そうよ、途中でその英雄は仲間を守るために自ら盾になって命を落とすんだけどその白い虎が咆哮をあげた時に奇跡は起こったって話よ。そして蘇った彼は最後の国を落としてついにこの大陸を平定したの。ただ平定した直後にその白い虎はその英雄から去って人知れずに死んだんだって。」


「えーなんだかそれじゃまるでその英雄の勇姿を見届けたみたいじゃないですか。その虎さんは本当はその英雄のそばに居たかったのかもしれないのに。」



 すみれは少し悲しい顔で言うもんだから咄嗟に答えていく。



「まぁあくまでお話だからね、動物にも心があって信頼したりご主人のために尽くすんだよって教訓。集落では家畜にもしっかりと愛情を込めて育てないといつかその家畜に殺されるぞってよく脅されてたっけな。」



 私はにやけながらそう答えた。集落の大人たちはいたずらが好きだった。


 子供だった私や妹たちに怖い話だったり、浅い落とし穴を掘っていたり遊びに使っていた道具に細工していたりしていた。


 正直性格が捻じ曲がってるんじゃないかと当時は思っていた。ただそれは今になって思うのは大人たちもまた私たちに寄り添ってくれてたんじゃないかとも思う。



 夕日が照らしながらそんな話をしているとついに見えてきた。私が昔住んでいた集落の跡地が。



「あれがあやめが住んでいた集落か?」


「ええ、そうよ。ようこそ私の故郷へ。」



 襲われた当時のままになっている。そのまま放置されたのだろう。


 木造の家は全焼していたり大破されているしレンガで作られている食料などの貯蔵庫はほとんど倒壊して中身はもちろんない。牛や豚を育てていた牧場の牧草も焼かれており、あの頃の面影なんてない。



「ひどい、これが帝国のやり方。」


「そうね、昔も今も変わらない。人は奪い奪われるその繰り返しね。私たちは無惨に奪われた側だけど...。」



 そうして奥へ進み、貯蔵庫を左に曲がって数分歩いたところに私の家がある。中央の他の家よりは損傷は少ないものの、やはり人が寝泊まりするにはとても居心地は悪い。私はそこで立ち止まる。



「先輩、ここで立ち止まってどうしたんですか?」


「見て、すみれ。ここが私が家族と住んでた家よ。」


「ここが...。」



 確かに帝国内では考えられないくらいのぼろ家ではある。けど私にとってはここが生まれ育った場所、忘れるはずがない。


 すみれにとっては私が初めから裕福な生活をしていたんじゃないかと研究所でも聞かれたことはあった。いろんなことを教えてくれるからと単純な理由だった気がするけど。すると周は私を見て。



「あやめ、おれたちは何か手がかりがないか見てくる。

少しは家族との思い出とか振り返りたいだろ?ほらすみれ行くぞ。」


「え、ちょっ!先輩助けてー連れ去られるー!」



 周はすみれの腕を引っ張って再び貯蔵庫の方へと早足で歩いていく。全く、周のやつ柄にもなく気を遣いすぎだっての。1人になった私は家に入る。帝国兵が色々と家財を荒らしながら私たちを襲ったもんだから中々に中は汚い。



「父さん、母さん、れみ、ただいま。今帰ったよ...。」



 誰もいない部屋で1人ただいまと伝える。




       ーーーーーー



「ちょっとー周さん!いつまで引っ張ってるんですかー!変態!」



 おれは今すみれを引っ張ってる。あやめの集落の件については、実はどんな状況になっているかは帝国に所属したときに報告を受けたことがあった。


 だが実際にどんな惨状になっているかをこの目で今見るまではわからなかった。あやめは子供の時にこんな辛い目に遭っているとはと自分の中に怒りの感情が起こされた。そんな帝国に仕えていた自分に、そして帝国の行いに。



「いい加減にしろよ!何なんですか周さん!私だってか弱い女の子なんですよ!こんなところでナンパされたって嬉しくないですからね!」



 そう言ってすみれはおれの手を振り払った。そんなに嫌だったのか、年頃のガキはわからん。



「誰がお前のようにムカつく奴を噛みつくような女をナンパするかっての。」


「はぁ!?」



 すみれは怒りが牙に出して睨んで来ている。はっきり言ってガキには興味なんてないんだおれは。



「すみれ、ここはあやめの故郷なんだぞ。こんな場所になったって少しくらい思い出を懐かしくも思うだろ?」



 おれはすみれになぜあの時引っ張ったのかを説明する。



「まぁ確かに私だって先輩が1番最初に住んでたのはどんな場所なのか気になってましたよ。研究所でよく話してくれてましたし。」


「だろ?」



「でもそれは先輩にとってはかえって逆効果なんじゃないのかなって。あの人、ずっと過去ばかり見てるから。私は物心ついた時には孤児として生きてたから家族との思い出なんてないしわからないけど。」



 すみれは少し泣きそうな顔になってる。はぁとため息をつきながら思っていることを話してもらおうと聞いてみる。



「一体何を怖がってるんだよすみれは。」


「私はあの人にとっては他人だけどそれでも研究所にいた時からお姉ちゃんとして思ってた。優しい笑顔で私に対してずっと話しかけてくれて、ただ私はいつも思ってたんです。その目は私じゃなくてずっと死んだ妹さんを私に浮かべて話してるって。」


「どういうことだ?」


 すみれは考えていることを話してくれた。



「先輩は...、お姉ちゃんはずっとずっと破滅願望を抱いているんじゃないかって最近再会してから思ってるんです。帝国を打倒した後あの人はきっとその家族のもとに、大切な人の元へ行くんじゃないかって。だからこそ私や周さんがあの人の側にいてあげなくちゃそれを加速させてくんじゃないかって。ずっと1人で生きているように思えて悲しいんです。」



「すみれ...。」



 すみれの言うことも一理ある。確かに最初に出会ったときは帝国の白い軍服を着ていただけでボロボロのおれに襲いかかってきたし、今こうして一緒に仕事をしている時もその目や表情には時々虚無感を覚える。



 まるであやめの世界にはおれたちは居なくて全てを終わらせた後にはさっきの白い虎の話のように人知れずどこか遠くへ行くんじゃないかと。


 すみれも暗い表情でいるから場はさらに暗くなる。夕日も少し沈み始めてきているから尚更。やれやれ、大人としてできるとしたらこうか。



「なんだ、そんな心配してたのか?あくまでもおれたち仕事の関係なんだぜ。そんなくだらないこといちいち考えるなっつーの。」



 そう言ってすみれの頭に手を乗せる。



「頭に手のせんな変態!」



 嫌な顔をして振り払った後にすみれは少し照れた顔で。



「でも慰めようとしてくれたことには感謝します。ありがとうございます。」



「わかりゃいいんだよ。まぁおれもあやめにはいずれその件に話すつもりだ、ただ今は黙っててくれよ。」



「分かりましたよ、そうしておきます。」



 いつかはこの件については少しあやめとサシで話さなきゃなんねぇと思いながら、すみれと一緒に何か今回の手がかりがないかを探すのだった。

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