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追想のヒガンバナ  作者: 希塔司
第1章 「悪魔」
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第15話「着陸」

 しばらくの間甲板で波に揺られながらゆっくりとタバコを吸っていると彼方に地平線が見え始めてきた。あれが私が小さい頃に住んでいた大陸なのだとわかるのにはそう時間がかからなかった。とても懐かしくも感じるし昨日のことのようにも思える。



 海岸に立てられた集落の旗、今は布地がボロボロになっているが昔は綺麗な赤色の旗が立てられていた。砂浜には大きい岩や木製の舟の残骸、さらには動物の骨が無数に散らばっている。


 生活していた跡と逃げようとして失敗した形跡があの頃のまま残されている。



「ついに来たのね。」


「ああ、そうだな。」



 そう、私の故郷に。



「実はおれ、大陸に来るのは初めてなんだよな。」


「そうだったの?」


「まぁ十将とはいえ、国内しか対応してなかったただの名ばかりみたいなもんだからな。」


「そう、外に出てないんじゃインパクトにやられてちびっちゃいそうね。」


「バカ言うな、てかインパクトってなんだよ。」



 周を揶揄うと私は楽しい気持ちになる。



「大陸に広がるのは上陸地から傷国の首都まで続く広大な砂漠と限りなく不安定な気候よ。昼は50度近く、夜は零下40度近くまでになる上にたまに巨大な岩すら切り裂く鋭い砂嵐が吹き荒れるの。そうして遥か北西に17日歩くことでようやく傷国の国境関所に辿り着くわ。」



 周はタバコに火をつけながら私の話に頷きながら聞いてくれている。



「なるほどな。やっぱり地元の人間は説明が上手いもんだな。」


「そりゃ何回あの砂漠に殺されかけてることか。」


「何だって?」



 私はニヤつきながら周をさらに揶揄う。こんな風に楽しい時間がいつまでも続けばいいと思ったのはいつ以来だろう。



「いやいや、ただの冗談だって。そんなことより周は準備できてんの?」


「ああ、バッチリだ。」


 周は自分の銃の弾倉を確認して腰に収める。まるで初めて親に玩具を買ってもらった子供のような顔をするもんだから少しその童心が羨ましく感じる。ちなみに冗談でも何でもなく、私はあの砂漠で何回か死にかけている。



        ーーーーーー


 先輩と周さんが2人で談笑している間、私は部下に今回の作戦についてを再度確認していた。



「いい?今回の任務はあの化け物を木っ端微塵にすることよ。あれを野放しにしたまま本国に帰るのは許されないわ。」


「任せとけ隊長!必ず奴らを根絶やしにしてやる。そうしたら国に待ってる彼女にプロポーズするんだ!」


「ちょっと、それやられ役が言うセリフだから。」



 私たちは大統領の命の元、本来の目的を果たす。阿国では非人道的な実験を繰り返し兵器としてある化け物を運用しているとの情報が入っている。


 その化け物は西方にて壊滅的な被害を出し続け、兵士どころか一般市民にすら襲いかかっていると。そして私たち麦国に救援要請が届いてきた。



「あの化け物はどんな能力を持っているかはわからないわ。各自訓練で培ってきたフォーメーションで索敵して。絶対死ぬんじゃないよ。」


「イエッサー!」



 私は部下に命令を出し先輩がいる甲板へと向かう。先輩達とはある程度まで同行して傷国と阿国の国境から別行動の予定になっている。そういえば昔先輩は傷国出身だと話してくれていた。



 砂漠地帯であまり作物が作れなかったから定期的に集落ごと移動を続けていた遊牧民だったこと。水や食料はもちろん、趣向品は喉から手が出る高級品だったことも。


 今の先輩とは似ても似つかないほど貧しい暮らしだったが1番その時が楽しかったことも。ふと思い出しながら先輩たちに声をかけていく。



「先輩、地元に帰ってきた感想はどうです?」


「どうもないわよ。強いて言うならまたあの砂漠を越えることになるなんて思わなかったわよ。全く、帝国の配慮がなってないわ。」


「帝国もこの大戦での立ち位置とか考えてるんでしょう。より多くの戦線で勝利を挙げてこの大戦での講和でまた利益を挙げようって魂胆ですよ。単純と言うかなんと言いますか。」


「それもあるけど、私には帝国はそれだけが目的じゃないような気もするの。」


「それはどうしてですか?」


 私がそう聞くと先輩は考えている推測を話してくれた。



「あそこに住んでいたからわかるけど、帝国は前の戦争の時に得た領地はとてもお世辞とは言えないような場所よ。表向きじゃ阿国との戦争に備えるために得たと言っていたけど、あの場所は国境付近に大昔に建てられた横長の砦があるの。


もちろん阿国も馬鹿じゃないから国境付近に兵を置くわ。その気になればいつでも戦闘を始められたのになぜ戦争するのに10年もかかっていたのかしら。」



 先輩の推測は正直難しいところが多いけど、私の答えを楽しく待っているような顔をする。



「それは、阿国は他の列強と同等の強さで特に世界最強の艦隊を保有していたし徴兵できる数も国土の広さも帝国の比にならない。だから帝国は秀の国から持ちかけられた同盟によって最新武器や資金を提供してもらうための準備をしていたからじゃないんですか?」



 私が教わった内容は大まかにはこんな感じだった。その頃はまだ麦国内でも内戦状態であまり外に干渉はしてきていなかった。


 その後内戦は終わり、停戦を勧告していたのは麦国であれ基本的には自国の経済を最優先にしてきた国が今回の戦争の特需などを理由に参戦を表明したのは気がかりだった。



「おそらく阿国と帝国は裏で何かやっていたのは間違いないんじゃないかしら。」



 やはり先輩は鋭い、昔から直感やひらめきが人並み外れてる場合があったけれどそこまでたどり着くなんて。


 私は大統領からあの戦争時に裏で繋がりがあり、密かにあの化け物を作り上げていることは知っているがそれは麦国のスパイが潜入調査などをしてつい最近ようやく真実を知ったこと。情報操作によって隠されているものを自力で考え抜くのはさすがといったところだ。



 だがこれは本当に知らなくていいことでもある。役職もない一般人の先輩には退場願おうと話題を逸らすように誘導する。



「かもしれないですね、さすが先輩です。昔から先輩はそういった簡単な謎解きとか得意でしたよね!覚えてますか?小さい時に看守の交代時間に合わせて鍵を盗んで脱出した日のこと。もうすっごく怖かったんですからね!いつ見つかっちゃうのかヒヤヒヤしたんですよ?」



「あの時は確か天帝祭が開かれていてあなたがりんご飴を食べたいって駄々こねたからよ。それにいつでも抜け出す計画は立てていたからその予行でもあったから都合が良かったのよ。でもそのおかげで少しは外に出られたんだからよかったじゃない?」


「よくないですよー。あの後バレてたくさん殴られたり実験されたじゃないですか。痛みに鈍感な先輩は相変わらず涼しい顔してましたし。」


「痛かったわよ私だって、トカゲとかの爬虫類だってちゃんと痛みは感じるのよ、知らなかったの?」


「そうなんですね。それは初耳です。」



 どうにかして話題は逸らせた。先輩は懐かしそうな顔をしながら語るもんだから、昔の新鮮の時の私を思い出しそうになる。そう、優しいお姉ちゃんの顔を。



 この情報だけはバレてはならない。本当に先輩を死なせてしまうかもしれないから。そう言いながら先輩は再び周さんと談笑を始めていく。



 あの化け物に関して大統領から最初に聞いたときは本当に驚きはしたものの同時に人の欲望のエゴを感じた。私たちが収監されていた『ピースマーク』の実験施設は世界中に実は複数存在していた。


 私たちと同じような身寄りのない子供や誘拐などされた世界中の子供が同じようにいるということ。


 スパイからの情報によると阿国では、絶滅した生物の細胞を利用していたことが判明した。恐竜と呼ばれた存在や今では考えられない巨大昆虫なども含まれている。



「ちょっとさすがにこれは人の心なんてないよね。」



 たくさんの人間を殺してきた私でさえ見せられた資料の姿形や風景で冷や汗をかいたくらいだ。あまりにも異形な姿に化け物と言われても無理のない姿だった。



       ーーーーーー


 ついに私たち一行は傷国の海岸へと着陸した。ボロボロになった桟橋には傷がいくつもある。意図的に文字として彫ってあるものもある。


 その中には小さい時に私が書いたものもあった。汚い字で『思い出いっぱい』と。そう、思い出がたくさん詰まった家族との唯一の宝物が。



「やっと到着したなー。こんなに船旅するなんて思わなかった。」


「ですねー!大陸と帝国って思ったほどそんなに近くはなかった感じですね。」



 2人が話している中、私は家族との思い出を振り返っていた。海に初めて入った日に溺れて近くにできていた洞窟で1人はぐれて泣いてたなとか。あの崖から友達と飛び込みをしようとして近所に住んでいたおじいさんにこっぴどく叱られた日のこととか。


 当時はいろいろとあったけれど、なんだかんだで楽しかったと思う。あの頃のみんなは私が帰ってきたことをどう思うのだろうか。



「先輩?大丈夫ですか?もしかして船酔いしちゃいました?」


 すみれはふざけながら私の顔を窺ってきた。それに反射的に返してしまう。



「すみれ、この私がそんなにやわに見える?」


「いえ、ただ先輩ぼーっとしてたからどうしたのかなって。」


「確かに、あやめにしては珍しいな。昔のことでも思い出したか?」



 全く、なんだかんだで私は今のこの2人との会話も案外楽しんでるのかもしれない。



「そうね、ただ黄昏てただけよ。」



 そう私は冗談ぽく返して3人で砂浜を歩いて先に進む。



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