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追想のヒガンバナ  作者: 希塔司
第1章 「悪魔」
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第1話「悪魔に代わり」

 昔誰かが言っていた。自分の犯した罪はいずれ自分にしっぺ返しとして帰ってくると。過去からは逃げられないと...。


        ーーーーーー


 大正7年


 真夜中の路地裏


 私は今日、また1人を殺した。相手は帝国政府の大蔵省所属の要人。常に護衛を数人つけるほどの用心深い男だったが私にかかれば造作もない。


「ま、待ってくれ...!おれが、おれが何をしたって言うんだ!?」



 悲痛に叫ぶ声は私には届かない。ハッキリ言って誰を殺そうが構わない。あいつに復讐ができるならどんなことだってする。そのために私は悪魔に代わったのだから。



「悪魔に代わり、人を斬る」


 片手に銃、片手に刀。その刀で男の首を跳ねた。街灯の光で辺りは赤く染まる。その血が私の体や服を汚していく、震える腕を抑えながら私は振り返ることなく路地裏を進んで行った。


 目の前から走ってくる2人の子供とすれ違った。私は顔を俯かせて目線を逸らした。いつか私はその子達とまた巡りあったときにどんな顔をすればいいか考えながら...。



 だが私にはその子達のことの心配をする余裕はない。そうこれは、私にとっての復讐の第一歩なのだから...。



      ーーーーーーー


【明治31年】


 この国は帝国を名乗り、傷国への侵攻を開始した。


 傷国に移り住んでいた私は家族と共に、土地柄的にも、金銭的に少し厳しいながらも争いもない集落で生活をしていた。


「お父さん、今日はこれだけ採れたよー!」


「お、あやめ!今日もしっかりと里芋がとれたか。でかしたぞ!」


 普段は父の畑作業を手伝っていた。体が弱い母や、無邪気に遊び回る妹の世話をしたりもしていた。疲れる毎日だったけれど、本当に楽しい毎日を過ごしていた。


 そこへ帝国軍が侵攻してきた...。



 父も、母も、妹も、友達も、みんなみんな、あいつらに殺された。無惨な姿で...幼かった私を残して。


 周りの銃声や爆発音によって心からの叫びが無音になっていくのを初めて感じた。



 その後私は奴隷として帝国の陣地で拷問を受けながら強制労働をやらされていた。衛生的にも最悪な環境で腐敗臭も相当なものだった。


 左腕が壊死して切り落とされ、私は絶望する毎日を送っていた。


 もう死にたい、死んで家族の元へ行きたい...そう思って首を切っても死にきれなかった。私は一度、そこで死んだ。



【明治37年】

 大国である阿国を撃破した帝国は有利な条件下による条約を締結。そして同時に捕虜や奴隷の解放宣言を行った。


 だが実態は何も変わらない。むしろ奴隷としてではなく、実験体として帝国直下の財閥企業「ピースマーク」に引き渡されてさまざまな実験をされた。



 私にしてきたのは人の細胞にトカゲの再生能力を移植して自己修復できる改造兵士の実験。


 嫌がる私を無理やりに埋め込まれた。その薬の影響で切り落とされたはずの左腕が綺麗に生え、私の第二の腕になった。


 何度も何度も同じような実験を起きている間に繰り返され、私の精神は崩壊寸前だった。これが私にとっての二度目の死だ。



【明治41年】

 突然「ピースマーク」の研究施設に1人の男が乗り込んで崩壊させてきた。その男は黒装束を来ており、小さい時に父から聞かされていた忍とまるで特徴が一致していた。


 次々と研究員を殺して回ってきたのを見て、やっと死ねるんだとはっきりと自覚できていた。


 そう自分で安堵していたのも束の間、拘束具に繋がれていた私を助け出したのだった。



「なんで、なんで私を助けるんだよ!!早く殺せ、早く殺せよー!!」



 私はもう何もかも絶望しきっていた。生きていたって家族や友人もいない。こんな体に改造されてしまったら結婚とかもできない。まともに仕事もすることができない。取り残してしまうあの子は一体どうなるの。



 そんな人間が生きていたって、幸せになれないのなら...。



 死んでるのと一緒だから。




      ーーーーーーー


 気がつくと私は森林の中にある洞窟にいた。いつのまにか疲れ果てていたようだ。



「目が覚めたのか?」



 私を連れてきた男がそう聞いてきた。



「ほら、食え。まともにメシ食ってねぇんだろ?」


 用意されたのは簡単なスープと焼き魚だった。連れ去られたあの日から、大人は信用していない。口にする素振りすら私はしないようにしていた。男は不思議がりながらスープを飲む。即効性の毒は入っていないようだ。


 そして男は私に。



「お前、傷国出身だな?」



 ハッと私はすぐに体勢を整えて戦闘の構えをとった。こんなこともそのうちあるだろうと幼いころから多少の戦闘訓練は施されていた。


 すぐ横に置いてあったナイフを持ち、その男に襲いかかった。切りつけようとした瞬間に私は片手で腕を掴まれて放り投げられた。


 この男、強い...掴まれた時にはっきりと実感した。



 それから1時間ほどまた気を失っていた。投げ飛ばされて体を打ち、もう私には戦えるだけの力はなかった。



「はぁ、やっとまた目が覚めたか。もう戦える力残ってないんだろ?はやくこれ食えよ。」


 温め直されたスープと焼き直されて少し焦げた焼き魚が用意されていた。もう我慢の限界だ。私は思いっきりがっついてかじりついた。



 こんなまともな食事は久しぶりのことだった。自然と涙が出てきた...いつ以来だこんな美味いものを食べたのは



「美味いか?」



 私は静かに頷きながら思いっきり泣いた。今までの辛い現実を思い出して、やっと解放されたことへの感謝も込めて。



「お前、名前は?」


「鬼切あやめ...。」


「なるほどね...そうくるか...。」



 男はニカっと笑いこう言った。そうくるかと話していた意味は、その時は理解できなかった。



「おれは服部有蔵、先祖はかつて将軍の天下を取るために動いていた伝説の忍だ。今は殺しの依頼を引き受ける殺し屋稼業さ。お前だって復讐したいやつ1人や2人いるだろ?


おれと共に来い、おれがお前を最強の殺し屋にしてやる」



 それが私の三度目の死だ。


ーーーーーーー


 殺しの依頼を終えた私は入浴して汚れを落とし、依頼人に報告を終えた。報酬は前払いでもらった分と追加の報酬をもらうことになっている。



 そして私は遅めの夕飯の支度をしていく。自分で料理を作れるようになっているがやはりあの時のスープほど感動できた料理はまだ作れていない。



 あの事件があってから何を食べても味がしない。もう味覚も人のものじゃなくなっているのかもしれない。ワインをグラスに注いで堪能するしかない。血のような赤ワインを。



 風味と味で酔って、寝るしかない。満足にこの仕事をしていると心地よく寝られないから。静かに食事と共に1人で乾杯をする。そこには家族がいる。



 幻覚だとはわかっていても見えてしまうのだから乾杯をするしかない。もう私は壊れている、有名な人間がある名言を残している。



『三度死んだ人間は悪魔となり、世を見出す災いとなる。四度死んだ人間は全てを達観し、悪魔に代わり人を殺す。』



 ワインを飲み干し、タバコを吸いながら外を眺める。この景色も、眠らない街になっている帝都もまた、偽物だ。全て、全てが過去の私のような弱い立場の人間から搾取し続けていく。犠牲にさせてきた者の血が、肉が、骨が、想いが、この帝都を作り上げてきた。



 物思いにふけていると黒電話が鳴り、私は応答する。



「もしもし」



「ああ瓦版の時間《仕事の時間》だよー」



 これは暗号会話。電話の内容は政府に傍受されているから、こうして暗号会話を行うことによって依頼を受ける。



「わかりましたー!今、受け取ります。」



 再び私は着替えて、そして机に置いてある写真の人物に。指をかける。



「じゃあ、また依頼に行ってくるよ。師匠...。」



 服部有蔵、私に殺しの技を教えてくれた師匠に一言伝え、本日2件目の殺しをしに向かう。


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