月夜のようなもの・五 或いはあやかしがわりと好きな展開
「へー!! じゃあ銀髪のねーちゃんは異界から里帰りしてきたハンチョーの実の姉ちゃんで、赤髪のにーちゃんはその旦那ってわけか!!」
「そうでありますぞ!」
「えーと、はい。深雪の仕事がら平日は別々に暮らしているのですが、ちょっと前に正式に籍を入れました」
「え? ジク、何それ? 私聞いてないんだけど? ちゃんと言ってよ、お祝い贈るから」
「しかしセツ班長。この場合、ご祝儀ってどうやって贈れば良いんでしょうかね?」
「ワハハハ! なんならオレからヒナギクに頼んで送ってやるぜ!! あとハンチョーの身内ってんならオレからもなんか贈らないとな!」
「おお! それはまことにありがとうございますですぞ金枝殿!!」
突然現れた金枝に一同はさすがに驚いたが、面子が面子なだけあってわりとすぐにその場に順応していた。そしてわりとすぐに話が脱線し今に至っている。
「では私たちからのご祝儀は神野殿から送っていただくとして、神野殿は何故こちらに?」
脱線したままになりなねなった話をリツが慣れた様子で本題に戻す。すると、幼い顔に得意げな表情が浮かんだ。
「おう、それはだな! ねーちゃんとハンチョーの力になりにきたんだぜ!!」
「私たちの力に?」
「おうよ! ほらねーちゃんの妹、ソウがこっちに来たときにオレから一本取ったらお前らに協力するって約束した話はもう知ってるだろ?」
「はい。文にありましたから」
「んで、さっきついに一本取られたからこうやって駆けつけたわけよ!」
「え、マジですか?」
「おう、マジマジ! 何でこうなったかっつーとだな」
思わず出た素の驚きを反省する間もなく、何処からともなくホワンホワンという効果音とともに霧が立ちこめ、くも吹き出しのような形にまとまっていく。そして、その中心にやけに明るい何処かの部屋の様子が映し出された。
※※※
「あ! 金枝さまったらまたこんな夜更かしして!!」
「お! 今日の宿直はソウだったか!! もうちょっとですげー定跡ができそうなんだけど一局付き合ってもらえるか?」
「なに言ってるんですか! 明日も早いんですし、お子様はもうお休みになってください! そんなことでは、ちゃんとした大人になれませんよ!」
「えー、いいじゃねーか。それにオレだってこんななりしてるが実際のところはソウよりもずっと歳上なんだぜ?」
「仮にご年齢が私より上だとしても、夜更かししたあげく毎回ユウマさんに叱られながら叩きおこされて、ご予定に遅刻ギリギリならまだしもギリギリ遅刻になっている方はちゃんとした大人とは言えません!」
「ワハハハ! 確かにそのとおりだな!! コイツは一本取られたぜ!!」
「……あ」
「……お?」
※※※
「というわけなんだよ!」
軽快な声とともに、くも吹き出しはまたホワンホワンと音を立てて霧散していった。
「……事情は分かりました。妹がなんか失礼な口を聞いてしまっていてすみません」
「いいってことよ! オレは物怖じしねー人間が大好きだからな!!」
「ありがとうございます」
リツは力なくも深々と頭を下げる。その隣でセツも力なく眉間のあたりをおさえた。
「ソウが一本取れたのはよかったと思うよ。でも、なんか、なんだろうな。この雑なトンチ話とか落語を観せられたときの『オチはそれでいいのかよ?』的な気分は」
「えーと、まあ。あやかしってわりとこういう展開が好きだったりする人も多いから」
「悪魔なんかもこういう展開が好きだったりしますぞ。それにしても、あの回想の術すごくいいですなー。説明がめんどいときは私も使ってみましょうかね」
力ない呟きをジクと深雪がフォローしたりスルーしたりする。そんななか金枝が得意げな表情で胸を張った。
「ま、そーゆーことでオレは全面的に力を貸すことになったからな!! とりあえず、ソウとの約束だとハンチョーよりもねーちゃんのほうに重きを置いてっから、困りごととか願いごとがあったら何でも言ってくれよ!!」
「そう、ですね」
いきなり現れていきなり願いごとをと言われてもすぐには重いつかない。いつもならそう答えていただろう。しかし、今は。
「……リツ?」
気がつけば半分濁った視界の中央に首をかしげる愛しい者の姿があった。今、この場で願うことは一つしかない。
「……少しわがままなお願いになってしまいますがよろしいですか?」
「おうよ!! 人間のお願い事なんてわがままなくらいが可愛くてちょうどいいからな!」
「ありがとうございます。では、妹を含めた青雲第七支部第一班の面々に命の危機とは無縁の職を紹介してください」
「そんなのお安いご用だぜ!!」
清々しい返事が夜空に響く。
「うんうん。やはり、この場でのお願いごとと言えばそうなりますよなぁ」
「うん。それを叶えてもらえるなら僕たちとしても安心だからね」
それにしみじみと納得する声が続いた。
「……」
しかし、セツだけは複雑な表情を浮かべている。
「ねえ、リツ」
「なんでしょうか? セツ班長」
「本当にそのお願いでいいの?」
「ええ、問題は何もありませんよ」
月明かりが照らすなか、リツはどこか不安げな問いかけに穏やかに頷いたのだった。




