月夜のようなもの・三
なんやかんやあった挙句、リツは駆けつけたセツに諸々の事情を説明した。
「……えーと、つまりジクと姉様は色々とあったけれど異世界的な所でそれなりに平穏に暮らしていて、私達に致命的な危機が訪れそうだから助けにきてくれたかんじだと?」
「ええ。お二人とも、そういうことで良いですよね?」
「あ、はい」
「その通りですな!!」
ジクと深雪はそれぞれバツが悪そうにだったり、陽気なかんじにだったりしながら返事をする。
「状況は分かったんだけどさぁ……なんだろうな、この脱力感は」
「うん、ごめんねセツ。僕もそれはそうだろうと思う」
ジトっとした視線と力ない視線がその脱力感の原因たる方向へ向いた。
「はっはっは! 若人のうちからそんなに疲れやすいとこの先色々と大変ですな!! お姉ちゃんなんか骨になってこっちの世界換算だと千年くらい生きてるけどこんなに元気ですぞ!!」
当の原因本人は銀色の髪を揺らしながらカラカラと笑っている。
「……まあ、結果的に厄介ごとの芽は摘めた訳だしリツも無事だったわけだし。助けてくれてありがとうな、ジク」
「ううん。気にしないで」
「こら、雪也!! お姉ちゃんにお礼はないのですか!? せっかく業務の合間を縫って超特別にこの世界に干渉する許可をもらってやってきたというのに!!」
「あー、姉様もありがとうございます」
力ない礼のあとセツは力ない視線をジクへと向けた。
「ジク。色々と言いたいことはあるんだが……、本当にあんな感じのが色々と大変なやり直しの末に一緒に居たかった相手でよかったのか?」
「えっと、それは、うん」
「本当にぃ? だいたい見た目以外のところは、私と全然似てないだろ?」
「えーと、それも、なんというか」
濁った金色の瞳が助けを求めるようにリツに向く。言わんとしていることは痛いほど分かった。
「お言葉ですが、セツ班長がウザ絡みしてくるときも大体こんなかんじですよ」
「え!? ジク、そんなことないよな!?」
「……とりあえず、テンションの違いくらいはあると思うよ」
「否定はしてくれないのかよ!? 大体どんなところが似てるっていうのさ!?」
あたりにはワチャワチャした空気が押しよせる。そんななか深雪が頬を膨らませながら腕を組んだ。
「まったく雪也ってば!! さっきからこんな優しくて美人なお姉ちゃんに対して失礼極まりないですぞ!! プンスコ!」
「……こう言うところとか、かな」
「……奇遇ですねジク。私もまったく同意見です」
「はー」
プンスコと力ない説明と力ない同意が響くなかに力ない溜息も加わる。
「似てない……、こんなのには断じて似てないもん」
「何を言うんですか雪也! 私たちは色々な意味でも姉……」
「いきなりとんでもない下ネタを言おうとしないでください!!」
「えー? なんのことですかなー? お姉ちゃん長いこと全年齢対象なかんじの異世界で暮らしてたから全然分からないですぞー?」
「本っ当にこの……」
やいのやいのする姉弟を横目に、リツはさらなる脱力感に襲われた。
「なんというか、今まで周りにいなかったタイプの姉弟ですよね」
「僕も同意見です。ただまあ、正面から姉弟喧嘩できる関係のほうが健全なのかとも思います」
「……ジクも未来ではいろいろとあったみたいですからね」
「ええ、まあ、それなりに色々とありましたからね……、ひとまず深雪からはもうその辺は心配しなくても大丈夫だと言われてます」
「それなら何よりです」
力ない世間話をする間も姉弟喧嘩は続いている。
「だいたい、兄様が変に拗らせたのも姉様がそんな感じでからかってたからじゃないんですか!?」
「失敬な!! たしかに私は美しくて優秀すぎるふしはありますが、あれは甕雷が勝手に対抗意識を持ちすぎて拗らせただけですぞ! アイツ豪快なふりをして嫌な方向に繊細でねちっこい性格でしたからな!」
「ちょ!? 亡くなった弟に対してその言い方はどうなんですか!? たしかにそのとおりでしたけれど!!」
「はっはっは!! 同意ありがとうですぞ!! まあアイツも今回はあんな感じでしたが、次はまあこの世界はありますが退治人にもあやかしにもあんまり関係が深くない穏やかな人生を送るみたいですぞ!」
「……え? マジですか?」
「まじまじ。お姉ちゃん色々あって色々とできるようになったからこっちに来る前に一応確認したんだけど、割とそれなりに幸せそうなかんじでしたぞ」
「そう、ですか」
「そのとおりですぞ!! なんで雪也が変に罪悪感を抱く必要はもうないから……、安心して幸せになりなさい」
「……それはどうも」
不意に姉弟喧嘩がおさまり、辺りにはしんみりとした空気が立ち込めはじめる。
「……やっぱり、なんだかんだで上手くいく姉弟関係なんじゃないかと思います」
「……そうですね、ジク」
どこか安心したような言葉にリツも穏やかな表情でうなずく。ワチャワチャしたものの、色々な話に綺麗にかたが付いた。
そう思われたまさにそのとき!!
「……それでリツ、その濁った右目は一体どういうことなのかな?」
「!!」
先ほどまでと違い威圧さえ感じるセツの視線と声が向けられた。
「……ごめんなさい、リツ副班長。もうちょっと上手く治せればよかったんですが」
「……お義姉ちゃんも感動の姉弟再会で誤魔化し切れるかとも思ったのですが、どうもダメだったみたいですな」
月明かりの下にはジクと深雪のバツが悪そうな声が響いたのだった。




