結社の長と叱られ侍……というか叱られ退治人たちの夜
「まったく。お前たちは揃いも揃って何をしているんだ」
橙色の灯りが並ぶ広い部屋にて、あやかし退治人結社青雲の長が深くため息を吐く。
そんな彼の前に揃っているのは……
「リツ副班長、たしかに諸々の厄介を背負わせてしまった自覚はある。しかし、君までハジける側に回ってしまっては」
「まことに申しわけもございません」
姿勢を正し深々と頭を下げるリツと……
「……色々と精神的な負担もあったのだろうから、今回は不問としよう。それからゆ……セツ班長。結社の厨には有事に備えた薬もあるから、管理するものがいない場合は勝手に漁るなと昔から言っていただろう?」
「えー、でもさー。私なら危ない薬かどうかなんてすぐに判断できるしー」
「そう言った慢心は身を滅ぼすとも昔から言っているだろう!」
「はーい。ごーめーんーなーさーいー」
わざとらしく頬を膨らませながらどう見ても平謝りな謝罪をするセツと……
「……まったく、昔は素直な子だったのに。それとハク、いい歳をして職場で迷子になるな。おかげで事態がややこしいことになっただろう」
「面目ないっす……」
「反省してるならいいが、迷子には本気で気をつけるように。もしも山のなかとかで迷子になっちゃったら、その気配を消す力が仇になって探すのがものすごく大変なんだからな」
「了解っす……」
しょんぼりとした表情でうな垂れるハクと……
「うむ、今後は気をつけるように。あとはメイ、なにか事情があったのだとは思うが、あまりお兄さんを心配させるな。お前が結社に所属してから折にふれて私にも文を送ってくるくらいに気にかけてくれているのだから」
「あ、えと、色々とお騒がせ、いたしました」
叱られた小型犬のような表情で謝罪するメイと……
「まあ、兄弟の仲が良好なのはいいことだからな。しかしながら武光殿、弟の話を最後まで聞かずに部屋を飛び出して他結社の中を探し回らないようお願いしたい。一応、結社外秘のものもそれなりにあるので」
「あい申し訳ない!!」
「……分かっていただけたのならそれで。ソシエ殿もこういうときは武光殿を止めてください。貴女のお力なら難しいことではないのでしょう?」
「ええ、ええ、そうですわね。今後はちゃんと愛しい旦那様を離さないでおきますわ」
「そ、ソシエ!? このような大勢の前でそのような言いかたは」
「あら、あら。いいではありませんか武光様。ワタクシたちの愛は誰にも阻めないのですから」
「ソシエ……まことにそのとおりだな!!」
人目を憚らず惚気る武光&ソシエと……
「……う、うむ。なにはともあれ仲のいいことは良いことか。あと、最後に咬神」
「どうかしたか?」
「どうかしたか、じゃない。お前こそは引率側に回らないと収拾がつかないだろ」
「あー、それは俺も思ったのだけれども」
「けれどもなんなんだよ?」
「なんというか、公私共に色々ありすぎてムシャクシャしたのでやりました、的な?」
……わりと白々しい表情で首を傾げる咬神だった。
「その話は私も聞いてるし気の毒だとは思うが、ムシャクシャしてなんかするなら自分の結社でやれよ、もう」
長はまたしても深いため息をつきながら、顔を両手で覆ってうな垂れる。
つまるところ合流した第七支部と烏羽玉の面々が「いっそのこと厨からなんか持ってきて酒盛りでもするか」という結論に至り、厨にしかけられていた防犯装置てきな術に引っかかり、長のまえに突き出されていまに至る。
「本当にさぁ、これからものすごくややこしい仕事が控えてるってときなのにさぁ」
力ない最高責任者の様子を受け、リツは隣に座るセツへ顔を向けた。
「ん? どうしたの、リツ」
「いえ。なんというかあまり似ていらっしゃらないと感じていたのですが、そんなこともないのだなと思いまして」
「えぇー!? 酷いよリツ! どこが似てるっていうのさ!」
「ややこしい事態をまえにしたときの態度がです」
「うー、私あんなかんじじゃないもん」
そんなことはないと思います。という脱線した話が長引きそうな言葉を飲み込みながら年長者たちへ視線を戻すと、ワチャワチャしたやりとりはまだ続いていた。
「まあそんな仕事を前にしてるときだからこそ、思い悩むくらいなら酒を飲むべきだと思うけれども? 大伴の某さんとかも昔そんな歌を詠んでたし」
「それはそうかもしれなけどさぁ、こっちにも長としての立場とか色々とややこしいことがあるんだよ。おかげで家庭環境がおかしなことになってるし」
「そうか、それは大変だな。なら飲んで忘れてしまえ」
「お前、自分が飲みたいだけだろ? 前からうちの結社の酒を気に入ってたし」
「そんな酒を仕入れるか仕込めるかができる青雲も、それを束ねるお前もじつに素晴らしいと思うぞ」
「とってつけたような世辞はいい。とりあえず、酒となんか肴を持ってくるからそこで大人しく待ってろ」
やや自暴自棄になりながら長は立ちあがり部屋を出ようとした。その途端、セツの顔に茶化すような笑みが浮かぶ。
「きゃー、さっすが結社長!! なんとも深い御心ですね!!」
「……」
結果、部屋を出ようとした足は止まり。
「そうだセツ班長。薬の在りどころも教えないといけないから、一緒にきて用意を手伝うように」
「えぇ!?」
茶化すような笑みはすぐにかき消えた。
そんな状況を受け……
「班長……、また盛大に墓穴を掘ったな……」
ハクは憐れみを帯びた視線をおくり……
「えと、まあ、なんとなくこんなことになるとは思ってましたよ」
メイも同じような生暖かい目を向け……
「うむ!! 危険物がどこにあるかを知るのはだいじだからな!!」
武光はどこかズレた感想を述べ……
「ええ、ええ。本当にそうですわね!」
ソシエはそれを華麗にスルーし……
「えーと、少し羽目を外しすぎてしまっただろうか?」
咬神は幼馴染が席を外したことで大人としての分別をやや取り戻し……
「いえ、この面子のなかでやっていくにはあのくらいの勢いは必要だと思いますよ。では、私も手伝ってきますから」
……リツは力なくフォローを入れてから、部屋を出ていった二人の後を追ったのだった。




