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婚約者を妹に譲ったうえに左遷されたあやかし退治人ですが、なぜか結婚して溺愛されることになりました。  作者: 鯨井イルカ


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各々の顛末とかそういうやつ・一

 かくして、第七支部の面々+αはひとまずの事情を説明していた。


「──という次第なんです」


「そうか」


 セツの報告に咬神が短く頷く。


「なら退治対象へ毒を飲ませる方法について、私からそちらの結社長に釘をさしておくことにしよう。彼とはそれなりに長い付き合いだ。まったく無下にはされないだろう」


「お心遣い感謝いたします」


「いや、娘のことで世話になったのだからこのくらいは当然だ。仮に結社長がそういった手段をとろうとしても、私たちで全力をもって阻止するので安心してほしい」


「重ね重ねありがとうございます」


「いやいや。では、私は結社長に話をしてこよう。葦原、ソシエ、もうしばらくかかりそうだから失礼のないようにな」


「はっ!! かしこまりました!!」


「ええ、ええ。隊長さんのおっしゃる通りにいたしますわ」


 部下たちの息のあった返事を受け部屋を出ていく姿を見送りながら、リツは自ずと深い息をこぼした。不安な要素がすべて消えたわけではないが、やはり状況は好転している。


「……あとは野となれ山となれ、か」


 そう呟くセツの表情からも悲壮感は薄れているように見えた。


※※


 その後、大規模な作戦になるということで第七支部の面々と烏羽玉の面々は各々に部屋が与えられ、しばらく本部に留まることになった。


 その一室にて。


「すまないな。時間をとらせてしまって」


「いえ……。俺のほうも話をしときたかったんで……。むしろ助かります……」

 

「そうか」


「はい……」


「……」


「……」


 ハクと咬神が気まずそうに会話をしていた。


「あー、そうだ。結社長にはさっきの件について『さすがにそれは引くし、そんな手を使うなら第七支部をまとめてこちらに引き抜く』と伝えておいた。『それは困るし、実際のところさすがに使いたくない手ではあったからセツ班長を毒餌にはしない』と言質をとった」


「あざっす……。なら安心ですね……」


「ああ。彼は隠し事はするが嘘は吐かない人間だからな」


「そうっすね……」


「……」


「……」


 短い会話のあと再び沈黙が訪れる。


「あの……」


 それを打ち破ったのはハクだった。


「姫は今……、体調もそれなりに落ち着いて……、笑えるようにもなってきてるんで……」


「……そうか。これもハク殿のおかげだな。改めて礼を言おう」


「いえ……」


「……」


「……」


 沈黙は再び訪れる。


「そうそう、このことも伝えておかなくては」


 次にそれを打ち破ったのは咬神だった。


「娘の夫だった者の処分はもう終わったよ」


「そうっすか……」


「ああ。詳しくは教えられないが、新しい技術の実験中に身体が耐えられず、な」


「正直なところ……、それを聞いて……、めちゃくちゃスカッとしました……」


「ははは、私もだよ。まあ、あまり褒められたことではないけれども」


「……」


「……」


 沈黙はまたしても訪れる。


「あの……」

「そうだ」


 今度は二人ほぼ同時にそれを破った。


「ああ、すまない。ハク殿からどうぞ」


「あ……、いえ……、俺は後でも……、というか多分……、したいのは同じ話題なんで……」


「……つまり、あの子供(・・)について、かな?」


「っす……」


「そうか。文にも書いたとおり、今のところ善良な人間として育っているよ」


「それはよかったです……。なら……」


「……ただし、あれの姿は娘には見せないほうが懸命だろうな」


「そうっすか……」


「ああ。おそらくあ娘が、人間として育っているのなら一度会ってみたい、と言ったのだろう?」

  

「はい……」


「そうか。親としてはその気持ちを汲んでやりたいところだけれども、あの姿に耐えるには今の娘はまだ不安定すぎる」


「それは……、そうかもしれませんね……」


「ただしハク殿が支えてくれているおかげで、顔合わせをさせられるようになるのもそう遠くないはずだ」


「……そうなるよう、尽力します」


「そう言ってもらえると、本当にありがたいよ。それに、あの子供も処分はされないことが決まったから、機会が潰えることはないだろう」


「そう……、なんすか……?」


「ああ。退治人としての才覚がみられるし、呪術解析班が長期的な実験に使うことになったから」


「長期的な……、実験……?」


「……何世代後になればあやかしの特徴が薄くなるか、ということを試すそうだよ」


「っ……、それって……」


「たしかに、あまりに人道的ではないな。しかし、退治技術に取り入れられる可能性があるものはなんでも取り入れる、烏羽玉はそういう所だ」


「……」


「……」


 部屋の中に今まで一番重苦しい沈黙が訪れる。

 その沈黙は今までよりもずっと長く続いた。


「……ははは」


 それを打ち破ったのは咬神の乾いた笑いだった。


「それにしても、まさか『咬神の卑しい毒蟲』などという悪口が事実になるとは、なかなかに面白いものだ」


「えーと……」


「いや、すまない。そう言われても困ってしまうか。ただ、少しだけ愚痴を吐きたくもなってしまって」


「いえ……、仕方ないことだと思います……。俺でよければ愚痴ぐらい聞きますんで……。なんなら……、厨に忍び込んで酒と肴でもかっぱらってきます……」


「ありがとう。本当に君のような子が娘の側にいてくれてよかった」


「っす……」


「……」


「……」


 当然のごとく沈黙はまた訪れる。

 それでも、漂っていた重々しさは幾分軽くなっていた。

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