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婚約者を妹に譲ったうえに左遷されたあやかし退治人ですが、なぜか結婚して溺愛されることになりました。  作者: 鯨井イルカ


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あと部下の義父にあたるっぽい人とか

「えーと。つまり件のあやかし騒動を受けて、結社の枠組みを越えた討伐隊を組むための打ち合わせにいらした」


 わちゃわちゃ空気がたちこめるなかリツは状況をまとめた。


「そういうことなのですね?」


 力ない視線の先でわちゃわちゃした原因となった二人、武光とソシエはにこやかに頷く。


「ああ! なんでも被害者の家の方々が慌てすぎて、そちらだけでなくこちらの結社にも同時に報告と依頼をしてしまったそうでな!!」


「ええ、ええ。なので亡骸の調査に向かった矢先にそちらの退治人さんと鉢合わせになってしまいましたの。それで、厄介な相手を前にしてどちらがこの任務を受けるのかで揉めるのもよくないから一旦話し合いを、という次第ですのよ。それにこちらの隊長も就任してから色々とありまして、まだご挨拶ができていませんでしたので」


「左様ですか」


 相槌を打ちながら視線を傍のセツへ向けると、なんともいえない表情を浮かべながら腕を組んでいた。


「たしかに武光殿とソシエ殿に手をかしていただけるなら、戦力的にかなり助かりますね」


 そう言う声も歯切れが悪い。そんな様子を受け、来訪者ふたりはほぼ同時に首をかしげた。


「もちろん全力で力を貸す所存だが、ときにセツ班長はなぜそんなにも顔色が優れないんだ?」


「なにか不安なことでもありまして?」


「えと、セツ班長は今回の騒動でおと、じゃなくて上長から無理やりにおとり、というかぶっちゃけ、餌として使われる可能性が非常に高くてですね」

 

「まあ……、そりが合わないふりをしてるが……、かぞ……、あー……、まあそれなりに悪感情だけを抱いてるわけじゃない相手だからな……。なんというかこう……、任務のために切り捨てられるかもしれないという可能性を前に……、ションボリしてるというわけなんだ……」


 メイとハクが状況を端的にまとめる。すると、なんとも言えない表情は深く項垂れた。


「その通りなんだけどさぁ、もうちょっと言い方的なものをというか。たしかに私も任務を円滑に進めるために、君らのややこしい話をいきなり簡潔にバラしちゃったりしたけどさ」


「えーと。心中はお察しいたしますが、これも状況を好転させるために必要な件かもしれませんし」


 力なく声をかけたリツに、同じく力ない声と笑顔が「そうだね」と返す。そんななか、武光が力強く頷いた。


「なるほどな! では弟がいつも世話になっているうえに妻との仲を取り持ってくれた相手がそんな非人道的な目に遭わないよう、こちらの隊長に口添えをしてもらうことにするか!!」


「ええ、ええ。隊長さんもきっと、セツ様が酷い目に遭う作戦なんて嫌でしょうから」


 ソシエもにこやかに相槌を打ちながら頷く。どこまで抑止力があるかは分からないが、他の結社でそれなりの立場にいる者からの意見をまったく無視はできないだろう。


「そうしていただけると助かります。ね? セツ班長」


「ああ、そうだねリツ。二人ともありがとうございます」


「ありがとうございます」


 わずかに気色を取り戻したセツとともに頭を下げると、来訪者二人は揃っていえいえと口にした。種族は違えど心が通じ合う二人に遠い未来の記憶がまた蘇る。もっとも、自分たちの場合は最終的に全てが空回ってしまっていたが。


 そんな感傷的な気分に浸っていると、ハクが遠慮がちに挙手する様が目に入った。


「あー……、武光殿にソシエ殿……。ちょっと質問してもいいだろうか……?」


「ああ! なんでも聞いてくれハク殿!」


「ええ、ええ。私たちは一向にかまいませんわ」


「ありがとう……。じゃあ今更ながらで申し訳ないんだが……、二人って結局どこの結社に所属したんだ……?」


 本当に今更ながらの質問に感傷的な気分は吹き飛んだ。言われてみれば、退治人結社向けの紹介状を書いた、とは聞いていたがそれがどこかまでは聞いていない。


 しかし厄介なあやかしを退治するために手を組む同規模の結社といえば、ほぼ一つしかない。



「ああそれはだな! 烏羽玉だ!!」


「ええ、ええ。セツ様の紹介状のおかげで二人揃って所属することができたんですのよ」


「そうか……。ならもう一ついいか……?」


 予想どおりの返事を受け、また遠慮がちに手が挙げられる。


「ああ、なにも問題はないぞ!!」


「ええ、ええ。なんでもお聞きになってくださいまし」


「どうも……、じゃあその隊長っていうのは……?」


 先ほどの二人の話だと話はかなり分かる相手だという予想がつく。


 というよりもやはり、烏羽玉で話が分かるそれなりの立場な上に就任のおりに色々とあっただろう人間というのも、ほぼ一人に限られるだろう。自然と第七支部の面々と目が合い、誰からとなく力なく頷く。


 そんななか、どこか落ち着いた足音と独特な香をまとう気配が近づいてきた。そして。


「遅くなってすまない。挨拶が思いのほか長くなってしまった」


 大方の予想どおり黒装束を纏った白髪の男性、烏羽玉の咬神正則が姿を現した。


 そんな予定調和的な登場を受け……


「隊長、お待ちしておりました!! 是非聞いていただきたいお話があります!!」


「ええ、ええ。とても大事なお話ですのよ」


 武光とソシエはどこか子供のように駆け寄り……


「こらこら二人とも、少し落ち着いてくれ。それよりもハク殿、その、いつも娘を支えてくれてありがとう」


 咬神は部下二人をたしなめたあと、娘の内縁の夫に気まずそうに頭を下げ……



「いえ……、俺にできることなんて……、限られていますんで……」


 ハクも内縁の妻の父親に気まずそうにお辞儀を返し……


「なんかさー、咬神家の人って『話は聞かせてもらった』的な登場の仕方が似合うよねー」


「えと、たしかに。子孫の方もそんな感じでしたもんね。今回ももろに『話は聞かせてもらった』味が強い登場の仕方ですし」


 落ち込みから回復しつつあるセツは、メイとともに不思議調査員的な雑談を繰り広げ……


「他結社の隊長の登場の仕方を、そんな人類が滅亡しそうなかんじに分類しないでください」


 ……リツは未来の記憶を辿りながらツッコミを入れた。


 かくして、部屋のなかの混沌度合いはさらに上がっていくのだった。

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