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婚約者を妹に譲ったうえに左遷されたあやかし退治人ですが、なぜか結婚して溺愛されることになりました。  作者: 鯨井イルカ


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心温まるおとぎ話・一

 むかしむかし、あるところに小さな村がありました。その村はなんとあやかしが治めていたのです。


 とはいっても、むやみに村人が襲われたりすることはありません。むしろ、あやかしたちは自分たちの術で村人たちを争いやはやり病から守ってくれていました。


 ただ、ときおり捧げ物として人間を差しだすことが決まりとなっていたのです。


 それでも捧げ物を出す家は話し合いで公平に決まっていましたし、あやかしがもたらしてくれる快適な生活を捨ててまで逆らうことはない。村の人たちはそんなふうに考えていました。


 ただひとり、捧げ物の家に生まれた女の子を除いては。


 女の子のお母さんは捧げ物としてあやかしのお城に連れていかれてしまいました。お父さんはどこで暮らしているかはおろか、生きているかどうかもわかりません。なにせ、子供を産ませるためだけに村の外から連れてきたのですから。


 今思えば異常な家庭環境ではありましたが、母は私のことをとても愛情を持って育ててくれていたと思います。だからこそアイツらが心底許せな……



 おっと失敬。



 これは恨みつらみを吐き出す日記ではなく心温まるおとぎ話でしたな!

 私ってばとんだウッカリさんですぞ!



 そんなこんなで、女の子が大人になると村人たちはヒソヒソ話をすることが多くなりました。


 早く子供を産ませて次の捧げ物に。

 また新しく男を連れてこないと。

 あれが女で助かった。

 なにせ。


 耳をすませば吐き気を催すような言葉がひっきりなしに聞こえてきます。そんな村に嫌気がさしていたある日の夜、彼女のもとに白ずくめの者たちがやってきました。


 

 我々は退治人協会の者だ。

 今、我々の一派は協会のなかで非常に厳しい立場にある。

 来る全体集会で功績を示しこの状況を覆したい。

 この村を治めているあやかしは何度討伐隊を送っても返り討ちにあっていた。

 それを一掃できればそれも可能なはずだ。

 君の協力があれば必ずや成し遂げられるんだ。

 だから、ぜひとも。



 夜中に押しかけたあげく自分たちの都合を押し付けるとは何様だ、と彼女は内心腹を立てました。しかし今のままでは捧げ物の血を残すためだけに子供を産み、いずれはあやかしに食われるだけです。


 ならば少しくらいいろんなものに仕返しをしてやるのもいいかもしれません。


 彼女は二つ返事でうなずき、退治人たちに協力することにしました。


 それから話は瞬く間に進みました。はじめのうち、村人たちは自分たちに恩恵を与えてくれるあやかしを退治してしまうことをよく思いませんでした。それでも白ずくめの一団はとても名前の知れた退治人の協会です。あやかしの代わりに彼らの庇護が受けられるのならそれも良いだろうと思い、最後は彼らに協力することにしました。



 まあ、村の存続という意味ではめちゃくちゃ不正解な選択肢だったのですが。



 おっと、また失敬。

 その話は今すべきことでもありませんでしたな。

 まあ、お話が進むにつれておいおいわかってくるので。



 ともかく彼女は退治人たちに協力して、あやかしの城に捧げ物として潜入することになったのです。


 おや、不思議そうな顔をしてらっしゃいますね?


 捧げ物としてお城に入ったら食べられてしまうので、潜入もなにもないだろう。


 そうおっしゃりたいのですね?


 それについては、賭けではありましたよ。ただ、協会のやつらからあやかしに気に入られればすぐに命を落とすことはないだろうと言われていましたし。



 それに食べられたら食べられたで、次の捧げ物はのうのうと生きてきた他の家から探さなければいけなくなるのでザマァ的に考えていましたから。




 また話がそれてしまいましたね。



 そういったわけで彼女はお城に入りました。


 するとあやかしの夫婦、ここでは便宜的に王様とお妃様とでもしておきましょうか、そんな二人は濁った金色の目を輝かせてたいそう喜びました。


 なんと美味しそうな娘なんだ!!


 それにとっても可愛らしいわ!!

 これは大切にしないと!!


 どうやらすぐに夕食に出されてしまうことは免れたようです。ひとまず胸をなでおろしていると、軽やかな足音が近づいてきました。振り返った先にいたのは濁った金色の目をした赤毛のあやかしでした。彼は夫婦の子供、仮に王子様とでも呼んでおきましょう、で彼女と同じくらいに見える青年でした。


 王子様も濁った金色の目を輝かせながらとても嬉しそうにこう言いました。



 この子が新しい捧げ物なんだね!!

 すごく気に入ったから僕にちょうだい!!

 ねえ、いいでしょ!?



 いきなりやってきて何を吐かすのかなどと思っている間に、王様とお妃様は笑顔で頷きました。



 ああ、偏食のお前がそこまできにいったならそうするといい!


 ええ、ちゃんと可愛がってあげるのですよ!



 文字通りのモンスターなペアレントぶりに辟易するまもなく、彼女は無邪気な笑顔を浮かべる王子様に手を引かれ自室に連れていかれました。


 きっとろくでもない目に遭うのだろう、そう考えているうちに部屋に着き重い扉が閉ざされました。


 

 その途端、王子様の口から意外な言葉がこぼれました。



「怖がらせてごめんね。でも大丈夫だよ。僕は君の味方だから」



 そう告げる笑顔は、なぜかとても寂しそうに見えたのでした。

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