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婚約者を妹に譲ったうえに左遷されたあやかし退治人ですが、なぜか結婚して溺愛されることになりました。  作者: 鯨井イルカ


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有意義なミーティングって難しいよねー、という話

「えー。では改めまして、妹にどうやって薬を飲ませるかについて意見を出しあっていきたいと思います」


 ワチャワチャした空気が一段落し、リツは再び話を本題に戻した。


「うん。そうしようか」


「そうですね。まずはその件をうまく片付けることに専念しましょう」


「ああ……。そうだな……」


 他の面々も本題を進めることに異論はないようだ。各々まだ聞きたいことや言いたいこともあるのだろうが、今はこれ以上時間をかけている場合ではない。


「それじゃ、まず私から。とりあえずメイに聞いておきたいんだけどさ、危険集団殲滅班で保護した子たちには色々と薬を飲ませる必要があったはずだよね?」


 おもむろに挙手をしながらセツが首をかしげる。ややもすればまたイザコザしそうな話題ではあるが、その表情にからかいやら意趣返しやらをしようという魂胆は見受けられない。話を振られたメイも特に過剰に反応することもなく小さく頷いた。


「ええ。好ましいとは言えない環境下にいた者が多く居ましたし、そのままではすぐに人間を襲いかねない者も居ましたから、なにかとその必要はありましたね」


「ならさ、なかには薬を嫌がる子だっていただろ? そんなときはどうしてた?」


「無理やり飲ませても吐き出してしまうのがオチなので、取り押さえて注射で、という方法をとることがほとんどでしたよ。まあ、この時代にそれは難しいと思いますが」


「たしかに。注射を作るのは無理だろうなぁ」


 二人の会話にもどかしさが込み上げる。この時代でなければ取れる選択肢はもっと多かったはずだ。しかし、それを嘆いていてもしかたない。

 何か打開策があればと思いながら遠い未来の記憶をさぐる。すると、本部長として目を通していた書類達が朧げに浮かんできた。

 

 たしか、その中には。


「……メイ、私からも質問していいですか?」


 挙手をするとまた軽い頷きが返された。


「ええ。どうぞリツ副班長」


「ありがとうございます。たしか危険集団殲滅班の班員のなかには硬い表皮を持つ者もいたはずですよね?」


「そう、ですが。よくそんなこと覚えてましたね?」


「あの件はなにかと衝撃的でしたから、そこそこ記憶に残っていて」


「あ、えと、それ、は」


 不意にメイの表情が強張る。このままではまた話が明後日の方向に飛んでいきかねない。


「あ、いえ。その件を蒸し返したいわけではないんですよ」


「そう、でした、か」 


 慌ててフォローすると、軽いため息とともに表情は和らいでいった。これなら話が拗れることもないはずだ。


「ええ。ただ、注射が難しい班員たちにはどうやって薬を投与していたか気になって。その方法がこの時代でもできるものなら妹にもと思うのですが」


「……えと、この時代ではできない、という、話では、ない、のですが」


「本当ですか!?」


 差し込んだ一筋の希望ににリツの目は輝いた。


「ただ、その、なんと、言いますか、あまりお勧めは、できない、かと」


 しかし、返された声はたどたどしく煮え切らないものに戻っている。



 あまり好ましくない方法だということは見て取れるが、今は手段を選べる状況ではない──


「妹が救えるのであればどんな方法でも構いません。だから教えてもらえますか?」


「えと、本当に、気分を害してしまう、かも、ですよ?」


「問題ありません」


「……投与したい薬を混ぜた水だけを置いた部屋に閉じこめておけば、数日で耐えられなくなって自分から飲みますよ」


「……は?」


 ──とはいえ限度はあった。




「人の妹になんてことしようとしてるんですか!?」


「だから!! お勧めはできないって言ったじゃないですか!?」


「なるほど。そのくらいのことをすれば、あのクソ生意気さも少しはマシになるかもしれないか」


「班長……、前向きに検討しようとするな……。イザコザが無駄に長くなるだろ……」



 そんなこんなで、またワチャワチャとした空気が部屋のなかに訪れた。



「……ともかく、その方法はなしの方向で」


 しばしの騒乱の後リツが脱力しながら呟くと、他の三人も力なく頷いた。


「ま、それが妥当だろうね」


「ええ。話がややこしくなるだけでしょうから」


「まあ……、もっと穏便な方法を……、とるほうがいいだろうな……。あ……」


 不意にハクが眉を寄せた。それを受けセツが首を傾げる。


「どうした、ハク。なんかいい案が浮かんだのか?」


「いや……、完全な思いつきだから……、気を悪くしないでほしいんだが……。この間みたいに……、班長の血に薬を混ぜたら……、飲んでくれたりしないか……?」


「ああ、それな。私も最初は考えてたんだけどね」


 どうやらシミュレーションで見た薬にも血が混ぜられていたらしい。それでも妹は飲むことを拒絶していた。


「どうも今の私の血だと、あの薬までは誤魔化せないみたいなんだよ」


「そうか……」


「まあ、最終的には色々と調整(・・)を受けて毒餌に使えるくらいになるんだけどさ」


「だから……、そうなっちゃわないために……、今色々と考えてるんだろ……」

 

 まったくもってそのとおりだ、とリツは内心相槌を打った。

 妹を救えなければ間違いなく、セツは一人で悲劇を引き受けようとする。そうなってしまえば待っているのは……。


「……あ」


 遠い未来のことを思い出すと同時に一つの案が浮かんだ。本部長として命じていた仕事のなかには。


「お、リツ。その様子だと何か妙案が浮かんだかんじかな?」


「ええまあ。多分、考え得るなかで一番確実かつ穏便に薬を飲ませられるかと」


「おお! こんな空気のなかで思いつけるなんてさっすがリツだ!!」


「セツ班長。なんかバカにしてません?」


「してない、してない。それでどんな方法なの?」


「口移しで飲ませてから、『私の飲ませたものを吐き出したりしないわよね?』と言って寂しげに首を傾げます。そうすれば、あの子なら素直に飲んでくれるかと」


「……え?」



 部屋のなかに、またしてもワチャワチャした空気が満ちていく。



「最愛の夫を前にして、なんで他の奴と唇を合わせるなんて問題がありすぎる案が出てくるのさ!?」


「仕方ないじゃないですか!! 今思えばかなりシスコン気味の子なんですから、これが一番手っ取り早いでしょう!?」


「えーと、リツ副班長。それはそうだと思いますが、さすがに実の妹に向かってハニートラップみたいなことをするのもどうかと思いますよ?」


「まあ……、たしかに……、今出た案のなかなら……、副班長のが……、一番穏便なのかもしれないけれども……」



 かくして、本題はまたイザコザのなかに紛れていくのだった。

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