大量殺戮兵士は、戦後処刑人になったらしい
暴力表現、直接的な言葉を含みます。
人を傷つける人間になりたくなかった。
でも生まれてきた家が兵士を出してきた家系で、国は戦争中だから拒否権はなかった。
人を殺したくない。
だけど、殺さなきゃ殺される。
だから殺した。
戦場で後ろを見れば敵も味方も死体になって転がっている。
見ていられなくていつからか後ろを見ることをやめた。
殺されたくないから殺して、前を向くしかなくて、進んで、殺して、進んで、殺して。
いつの間にか周囲から優秀な兵士だと言われるようになった。
「お前がいてくれるから死ななくて済むよ」
肩を叩かれて言われた時にどんな顔をすればいいか分からなかった。
それからも進んでは殺して、進んでは殺した。
戦場での何度目かの年越しに敵が降伏した。
戦争が終わった。
ああ、これでやっと、人を殺さなくていいんだ。
「君には処刑人になってもらう」
かつての上司に持たされた刃物に怖気がした。
でも、拒否権はなかった。だって。
だって自分は、殺戮者だったから。
国に帰ってまず、迎え入れてくれた人々から目を背けられた。
怯えるみたいに顔を合わせず、避けるように道を開けられる。
そこでようやく目を背け続けた後ろを振り返った。
死体の山が高く高く壁のようになって自分と他人の間を隔てていた。
あんなに人を傷つけたくないと思っていたのに、その気持ちに変化はないのに。
もう人を殺す以外に道は無くなっていた。
“大量殺戮兵士は、戦後処刑人になったらしい”
23.05
思いつき単発文。