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朝焼色の悪魔-第5部-  作者: 黒木 燐
第1章 禍神(マガカミ) 
5/13

4.リアルかくれんぼ

 由利子はスポーツスポーツクラブのフロントで受付を済ませ、ジムの方に向かおうとしていたが、エントランスに入った頃から付かず離れず、一定の距離を保っている女性がいることに気付いていた。由利子にはその女性に見覚えがあったので、思い切って声をかけることにした。

「あの、すみません。ひょっとして長沼間さんとこの?」

「え? わかっちゃいました?」

「はい、朝のジョギングの時、何回かいらっしゃいましたよね?」

「気づかれてたんですか!?」

「そりゃあ、まあ」

「変装してたのに」

「そうですね。今と全然雰囲気が違いました」

「やっぱ篠原さんには通用しないか」

 女性はため息を付きながら小声で言った。

「私、三之丸(さんのまる香子かおるこ)。コウって呼んでね。これからもよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくです」

 由利子は合わせて小声で答えてから普通のトーンに戻して言った。「それじゃあ、ウォーミングアップにエアロバイクしましょう」

 由利子はそう言うと、先を歩いた。歩きながら、以前から疑問に思っていたことが確信に変わったことを実感した。

 そのころ、ギルフォードは古賀知事から急に呼び出しを受けたため、由利子の送迎を葛西に行ってもらえないかと電話をしていた。


 更衣室で私服に着替えながら由利子が言った。

「ほんとはプールで泳ぎたかったのだけど、まだ不安だったのでしばらくはジムだけです」

「そうね。それがいいと思います。プールはリスクが高すぎますものね」

「コウさん、ヘアスタイルはそのベリーショートが普通なんですね」

「ええ。ジョギングの時のボブはウイッグでした。職業柄髪は短い方が楽なんです」

「私が知ってるアメリカ人の女性も、いつもは殆ど角刈りなんで、プライベートでは赤毛のロン毛ウイッグつけてますよ。トイレで男と間違えられるからだそうです」

「あはは、それ、わかります!」

 三之丸は明るく笑いながら言ったが、その後少し探るような目で確認した。

「その方ってブルーム少尉ですよね」

「よくご存じで」

(屈託がなさそうでも、この人は公安なんだよな)

 由利子はそう思うと複雑な気分になった。

「一緒に写った写真見ます?」

「いえ、お気遣いなく。ところで篠原さん、帰りはどうされるのですか?」

「ああ、今日はアレク……ギルフォード教授が来てくれる予定ですが、もう来てくれてるのかな」

 由利子は答えながら携帯電話を取り出したが、三之丸が意外そうな表情をしたので笑いながら言った。

「ああ、これ? 未だガラケーなんですよ。あれ、メール来てる。ありゃあ、教授が急用でこれないから葛西君が来てくれるらしいけど、ちょっと遅れるそうです」

「あらら」

「連絡があるまでロビーで待ちますので、帰られていいですよ」

「いえ、任務ですから、あなたを葛西部長の車に乗せるまでガードします」

「そうですか? じゃあ、あのあたりでも座りましょうか」

「あそこは窓際ですから、あっちの壁際の方に行きましょう」

「ええ? そこまで慎重に?」

「はい。職業柄」

 三之丸はそういうと、ニコッと笑った。


 四十分ほど三之丸と世間話をしていると、葛西から電話が入った。

「遅くなってすみません、なんか混んでて」

「いいよ。雨降ったからね。こっちも無理言ってごめん」

「無理じゃないですよ。もう少しで着くと思うのですが、どこに行ったらいですか?」

「そうだね、来た時のエントランス前は混みそうで車止めにくいし、警察官に駐禁違反させるわけにもいかないし……」

 それを聞いて三之丸が提案した。

「地下駐車場はどうでしょう? 私が責任をもってお連れします」

「葛西君、このスポーツクラブに地下駐車場があるからそこで待ってて」

「え? 危険ですよ、そんなところ」

「あのね、長沼間さんの部下の方が護衛してくれるっていうから」

「それって公安の? ダメダメ、却ってあぶない」

「葛西君聞こえてる!」

 由利子が慌てて注意するが、三之丸は苦笑して答えた。

「いいですよ。慣れてますから。では、近くまで来たら電話してください。それからエントランスで一緒に葛西部長の車を待ちますから」

「じゃあ、葛西君……」

「聞こえました。このまま行ったら反対車線になるので入口の前に着きませんから、少し回りますのでもうちょっと待ってください」

「出来るだけ急いでね。閉館が迫ってるんだ。夕食まだだからおなかすいたし」

「了解。じゃあいっしょにご飯食べましょう。何なら公安の方も誘って」

「おっけ。じゃまたね」

 由利子はそう言うと電話を切った。

「ぐるっと廻って来るんでもう少し待ってだそうです」

「夕立でけっこう降ったみたいだから、道路も相当混んでいるでしょうね」

「せっかく金曜日をさけたのに意味なかったです」

「花金は混みますからね。あ、これ死語ですね」

「あはは、コウさんまだ若いのに」

「よく言われます。言動がオヤジだって」

「私もよく言われますよ。なんせオヤジ連中より酒豪らしいので」

「そうそう、飲ませようと寄ってきたオッサンを返り討ちにしたりとか」

「あはは、同じ同じ」

 由利子たちが会話で盛り上がり始めた頃、葛西は困惑していた。途中の道路が工事中で迂回するようになっていたのだ。葛西は嫌な予感がしてギルフォードに電話をした。

「おや、ジュン、どうしました? 僕はちょうど会議が終わったところですよ」

「あ、お疲れ様でした。会議はどうでした?」

「うーん、それが緊急性があったのかな、あれ」

「え?」

「ウイルス終息宣言をいつ頃にしたら良いかって。そりゃ経済的には急ぐかもしれませんが、僕にはまだ早いとしか……。結局決まらず解散するし」

「たしかに変ですね」

「そうなんです。なので、急に送迎を代わってもらってごめんなさいね。ユリコは無事に帰りましたか?」

「それが、道路がすごく混んでて、まだたどり着いていないんです。しかも水道工事中で迂回しなきゃならないところがあって……」

「おや、それは大変ですね」

「それが、今この付近でそういう工事は行われていないはずなんです」

「え? そんなこともわかるんですか?」

「ええ、職業柄。あれ、まただ。ちょっと降りて様子を見てきます」

「気を付けてください」

「はい」

 葛西は車を降りると工事用看板とパイロンの内側を覗いてみた。どう見ても工事している様子はない。

「まさか……」

 葛西は嫌な予感が頭をよぎるのを感じた。

 その頃由利子は、葛西が遅いので時計を見ながら少し苛ついていた。

「遅いなあ。もうここ閉まっちゃうよ」

「そうですね……」

「何かあったのかなあ」

「とりあえず、エントランスの方で待ちましょうか?」

「そうしましょうか」

 二人は立ち上がると、出口の方に向かった。エントランスの自動ドアを出ると、雨上がりの肌寒い風が肌をかすめた。

「うわっ、寒くなりましたね。ジャケット持ってくればよかった」

「ほんと、ちょっと前まで暑かったのに」

「しかし、葛西君何かあったのかな? 遅すぎるよ」

「困りましたね。これじゃ風邪をひいて……」

 三之丸はそう言いかけると、急に厳しい表情になって叫んだ。

「篠原さん、私の後ろに!」

「え?」

 由利子は一瞬何が何だかわからなかったが、いきなりサラリーマン風の通行人が二人襲ってきたのに気が付いた。三之丸はその二人を蹴り飛ばし歩道に沈めた。

「コウさん、すごい」

「気を緩めないで! また来ます!」

 前の道路にワゴン車が止まると中から男たちが数人飛び出すと由利子たちの方に向かって来た。

「うわっ、また来たッ! マジか!」

「篠原さん、この人数では私ひとりではあなたを守れません。あいつらは引き受けますから急いで館内に……」

「もう閉まっちゃったよ」

「しまった、不覚……。とにかくバッグだけ持ってここから逃げてください」

「って、どこへ?」

「前の道路を渡って、適当な店に逃げ込んだら知らせて! 110番でもいい!」

「わかった」

「今、信号が青になりました。走って」

「ありがとう!」

 由利子は、横断歩道に向かって歩道を突っ切った。途中由利子の目の前に男が立ちはだかったが、由利子はそれを美葉流で投げ飛ばし、人混みをよけながら一目散で横断歩道を駆け抜けた。

「逃がすな!」「待て!」

 と口々に怒鳴る男たちの行く手を三之丸が阻み、とびかかってきた若い男を組み伏せ、残りの男たちに言った。

「警察です! 応援を呼びました。誘拐の現行犯で逮捕します」

 それと共にけたたましいサイレンの音が近づいてきた。

「くそ、引けッ!」

 リーダーらしき男が叫び、男たちはワゴン車に乗り込み逃げ出した。

「ふう」

 三之丸はため息を付くと、組み伏せた男に手錠をかけた。その頃、ようやく駆けつけた葛西がさけんだ。

「由利子さんは!?」

「逃がしました。そこの横断歩道を走ってあちらの道に……」

「そこは任せます!」

 葛西はそう言い残すと脱兎のごとく駆け出して点滅する青信号の横断歩道を通り抜けた。

「ここまでも走ってきたみたいなのに、さすが、中距離の記録保持者ね。タフだわ」

 半ば呆れたように言うと、三之丸は立ち上がりながら捕まえた若い男にも立つように促した。

「たっぷりお話を聞かせてもらうからね」

「ちょ、ちょっと待ってください。これ、映画のロケじゃないんですか?」

「へ?」

 男に情けない声で意外なことを聞かれた三之丸は、そのさっきとはうって変わった泣きべそをかいた表情をまじまじと見た。既に応援のパトカーが到着して、警察官たちが先に三之丸が倒した男たちを起こしていたが、二人とも狐につままれたような表情をして座り込んでした。


 由利子は横断歩道を渡り切ったが、走りを止めることなくそのまま飲食店の並んだ路地に入った。横断歩道を渡ったあたりから、どうもまた誰かが後をつけているような気がしたのだ。ひょっとして、これは用意周到に計画されていたのだろうか? 由利子はそう思ってぞっとした。これはどこかの店に入った方がいいのだろうか? しかし、入った店に迷惑がかかるのではないかと思うと、どうしても躊躇してしまう。由利子が路地の片隅で戸惑っていた時、いきなり腕を掴まれて飲食店の間の通路に引っ張り込まれてしまった。助けを呼ぼうとしたが、すぐに口を塞がれてしまった。


 ギルフォードは葛西の「しまった!」という声で電話が切れ、それから連絡がないことに不安を募らせていた。急いで駐車場に走りバイクにまたがると紗弥に電話をかけた。その後、バイクを発進させあっという間に駐車場を出て行った。


 三之丸は、駆けつけた警察官たちと戸惑ったような表情で事件の内容について話していた。件の実行犯三人はパニック状態になってしまい別々にパトカーの後部座席に乗せられている。そこに長沼間が駆けつけてきた。

「コウ、篠原由利子は?」

「すみません、思った以上に大掛かりで守り切れず、ここから逃すのが精いっぱいで……。今、葛西部長が保護のために後を追っています」

「はぁ、またラブホ避難するか?」

「え?」

「セクハラジョークだったな。すまん」

「大丈夫です! この辺にラブホはありません!」

「真面目か? それで捕まえた連中は?」

「それが、映画のエキストラのバイトだと思っていたようです。SNSで募集されていたそうです」

「状況は?」

「はい。スポーツクラブ利用中は私が張り付いていたので、特に問題ありませんでした。後はお迎えの葛西部長にお任せすべく、一緒にフロントで待っていたのですが、閉店時間が来てしまい……」

「今日はアレクサンダー、いや、ギルフォード先生が送る予定じゃなかったのか?」

「それが急に会議が入ったそうで、葛西部長が来ることになったのです。でも、渋滞で遅れたらしく……」

「たしかに工事中道路が数か所あったが……。それで?」

「それでとりあえず様子を見ようと思いスポーツクラブから出たのですがそのとたんに通行人の中から男二人が襲ってきたのでそれを蹴散らして……」

「息継ぎしていいぞ」

「すみません。そしたら目の前の道路に白いバンが止まって中から人が出てきたので、それを阻止しながら篠原さんに対面の歩道へ逃げて適当な店に入って助けを呼ぶようにと」

「応援は?」

「現着を待つ余裕はありませんでした。その直後に葛西部長が走ってきて、そのまま篠原さんの後を追って走り去っていきました。応援が来たのはその直後です」

「車の種類と番号は?」

「ナンバープレートが汚されていて番号の確認はできませんでした。車種と色は無線で連絡済みです」

「車の連中が誘拐の真の実行犯で、襲ってきた方はカムフラージュか。いや、実行犯も雇われただけかもしれん」

「ようやくルアーにかかったのが雑魚……」

 と、三之丸が悔しそうに言った。

「まあ、誰かさんが焦っていることは判ったさ」

 長沼間が肩をすくめながら言った。

「さて。ジュンペー坊やは無事に姫を保護できたかな」


 由利子はいきなり路地裏に引っ張り込まれ驚いたが、相手の足を思い切り踵で踏みつけ右腕を取り投げ飛ばそうとした。男はそれを予測していたのか、すぐにその手を掴みあせった小声で言った。

「ちょ、ちょっと待って、痛いです由利子さん、僕です僕」

「葛西君!」

「シーッ、声が大きいです! 遅くなりましたが葛西、ただいまお迎えにあがりました」

「ヒール履いてなくて良かった。ほんと、遅いよ」

「妨害されてしまったようです。さらに今、二名ほどが由利子さんをつけています」

「なんかそんな気がしてた」

「あ、来ました! 失礼します!」

 葛西は由利子の身体を壁に押し付け隠すように体を張ってガードした。由利子は戸惑って言った。

「ちょっ、これって両手壁ドン」

「敵は由利子さんが単独で逃げていると思っていますから、こういうバカップルは見逃すはずです。連中が去るまで我慢してください」

「え? だって、 わー近い顔近い」

「静かに! 我慢してください」

「そんなこと言ったって」

「とにかく静かにして!」

 と、葛西が珍しく由利子に対して命令口調で言った。葛西の顔は至って真面目である。無頓着なギルフォードが平気で顔を近づけてくるのにはだいぶ慣れたが、葛西の顔をこんなに間近で見るのは初めてだった。

(いかん、これは目の毒だー)

 由利子は諦めてぎゅっと目をつぶった。

 繁華街の人通りのざわめきの中に、複数のせわしく歩く気配がした。それは近づいたり離れたり、飲食店のドアを荒々しく開けたりと、明らかに誰かを探しているのが判った。しかし、由利子と葛西のシルエットを見て軽い舌打ちをしたが、近づいて確かめるようなことはしなかった。気配が近づくたび由利子は生きた心地がしなかった。葛西が来たために気が緩んだのか、体がガタガタと震えてきた。

「由利子さん、頑張って!」

「ごめん。なんか急に足が震えて……」

「うわあ由利子さん、腰を抜かさないで」

 葛西が焦って由利子の腰を支えたので、ほぼ抱きしめたような状態になってしまった。由利子は思わぬ形で葛西の胸に顔をうずめる形になったが、いつものように怒ることなく、赤い顔をして顔で葛西を見上げて言った。

「葛西君、汗臭いぞ」

「すみません。訳あってマラソンしちゃったので」

「え?」

「なので、ちょっとの間臭いのは我慢してください。もうすぐ迎えが来ますから」

「わかった……」

 それからの数分間は、由利子にはかなり長く感じた。呼吸が荒くなり心臓がドキドキするのは恐怖なのか恥ずかしいのか判断しかねたが、それを葛西に気づかれないかが心配だった。

 そこに、ようやく応援の警察官を二人連れた三之丸が駆けつけてきた。

「部長、応援に来ました」

「こっちだ、早く」

 葛西が由利子の頭越しに叫んだ。

「篠原さん、失礼します!」

 と、三の丸が言い、由利子は頭から何かを被されてしまった。そしてそのまま連行され三之丸と葛西に挟まれ警察車両に乗せられた。

「おいおい、なんなんだぁ?」

「なんかやったとか?」

「何の犯人?」

 車に乗るまでに通行人たちの会話が耳に入り、由利子の紅潮した顔がさらに赤くなった。


 由利子は事件のあったスポーツクラブ前でいったん車から降ろされた。車から降りると、由利子はバッと被せられた布をマントのように翻して脱ぎ葛西に渡すと、自分に気づいて振り向く長沼間にツカツカと歩いて行った。そこに丁度ギルフォードがバイクで現れ、「やあ、良かった。無事に救出できたようで……」と笑顔で言いかけたが、途中で言葉を失った。ギルフォードだけではなく、葛西をはじめ関係者の動きが一瞬固まった。由利子は長沼間のそばまで来ると、勢いよく右手を振り上げ長沼間の頬を引っ叩いたのだ。

「ゆ、由利子さんッ!」

 葛西が驚いて駆け寄り由利子を止めようとした。しかし、由利子は止まらない。

「前から思ってたんだ。あんたたち、私を囮にしていたんだね!」

 長沼間は一瞬躊躇したが、すぐに頭を下げて言った。

「すまん」

「ええっ!」

 葛西が驚いて長沼間の方を見た。

「こいつら、護衛とか体の良い理由をつけて、テロ組織(奴ら)が私に接触するのを待っていたんだ!」

「相変わらず汚いな、あんたらは!」

 葛西が長沼間を非難すると、長沼間は彼を一瞥し平然として言った。

「それが俺たちの仕事だからな」

「あのね、言ってくれりゃぁ喜んでデコイでも疑似餌にでも、何だったらケヤリムシにだってなってやったよ。それが美葉を取り戻すことや、奴らを捕まえることになるなら、なんだってやってやる。囮にされたのを怒ってるんじゃないよ!」

「わるかった。では、非公式になるがこれからも君の護衛を続けさせてほしい」

「わかった。で、今回何が起きたのかさっぱりわからないんで、説明して」

「実行犯の供述や逃げた車の行方など詳しいことが判り次第説明しよう。今日は簡単な実況見分だけ済ませたら帰っていいから」

「どうするの?」

「では、スポーツクラブから出たところからお願いしようか」

「わかった」

 そう言うと、由利子はすたすたと言われた方に歩いて行った。

 残された葛西は、ギルフォードに呼ばれて彼の方に向かった。ギルフォードはバイクにまたがったまま、葛西に言った。

「気になったので、来てしまいました。無事にユリコを保護出来て良かったです」

「アレク、由利子さんの位置情報を教えてくれてありがとう。誘拐されかけたと聞いて、もう、血の気が引きました」

「僕もです。でもギルフォード社特製GPS発信機がお役に立てて良かったです。ユリコは『猫の鈴』みたいだからと携帯を嫌がってましたけどね」

「もう大丈夫です。あとは僕が責任をもって家までお送りしますから」

 葛西が言うと、ギルフォードは頷いて笑った。

「では、お任せしますね、ジュン。ユリコによろしく」

 ギルフォードは、そう言った後に手を振ると、爆音と共に車のテールランプの中に消えて行った。

「ふう……」

 葛西はギルフォードが去って行ったのを見届けると、ため息を付いてから、由利子が長沼間達に身振り手振りで説明している方を見た。

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