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朝焼色の悪魔-第5部-  作者: 黒木 燐
第2章 急転
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3.星空のピチカート

20XX年10月3日(木)  


 由利子がPCに向かってせっせと作業をしていると、ギルフォードが声をかけた。

「今日からジュンが仕事に復帰したそうですね。ユリコの送迎も復帰すると言って、さっそく今日迎えに来ると連絡してきました」

 しかし、由利子はそっけない口調で「そっか」と一言答えただけだった。

「それだけですか」

 ギルフォードは不思議な笑みを浮かべて言った。

「なんか、もう少し、こう」

「そーゆーところが日本人と感性がちがうんだよ。感動動画あるあるみたいな、例えば、指輪もらってきゃあ♡って抱き着くみたいな単純な話じゃないんだ」

「だって…イギリス人なんだもん、仕方ないじゃん……。それに僕だってプロポーズサプライズ動画には辟易してるし、でもされたら嬉しいだろうとかも思うし……」

 と、なんかごにょごにょ言っていたが、その口調がいつもと違ってずいぶんとトーンダウンしていたので、由利子は彼なりに傷ついたのだろうと気が付いた。

「あ、ごめん。いつものアレクは日本人より日本人っぽいからさ」

「ポイ……」

「あー、言葉の綾だってば。いちいち傷つかないでよ」

「すみません、言葉のアヤの意味は……」

「そういうとこだよ!」

 由利子はそう言ったあと、カップをひっつかんでお茶を飲み干し、タン!と机に置くと、ギルフォードを無視して改めてパソコンに向かった。ギルフォードは肩をすくめると、紗弥に向かってこっそりと言った。

「怒られちゃいました」

「当然ですわ。唐変木は、余計な事おっしゃらないでくださいまし」

「トーヘンボク……。 僕が?」

「女心は複雑なんです」

 紗弥はそう言うと同じくギルフォードを無視してパソコンに向かった。ギルフォードは再び肩をすくめると、軽くため息をついて自分の机に戻った。


 そのころ美葉は、結城と共にK市内の、ある施設に移っていた。

 結城が言うには、そこは碧珠善心教会という宗教法人が運営するマンションで、万全なセキュリティに守られており、自分たちが居る上層階はシェルターの役目を担っているという。そこは、DV被害の女性やその連れ子のみならず、保証人になったために借金取りに追われたり無実の罪で警察に負われたりなどの訳アリの人たちを男女問わず保護・収容しているという。結城は美葉に、その宗教がどれだけ素晴らしいかを目を輝かせて説明した。美羽はもちろん結城も知らないことだが、ここは真樹村極美が一時期身を寄せていたところである。

 美葉は、結城が新興宗教というものにそこまで傾倒しているとは思ってもいなかったので、内心驚いた。というかかなり引いていた。しかも、その口調からすると、かなり中心に近い存在のようだ。しかし、美葉はそれをおくびにも出さず、静かに頷きながらそれを聴いていた。

 しばらくの間それは続いたが、最後に結城は

「もう大丈夫だよ、美葉。僕らの逃避行は終わったんだ。ここは教団に直結する施設だ。僕はようやく長兄様の御傍にもどれたんだよ。長かった……」

 と、晴れやかな表情で言った。

「じゃあ、これでもう逃げ回らなくていいのね」

 美葉はそう言うと涙ぐんで見せた。その後トイレに駆け込み本気で泣いた。何も出来なかった自分の不甲斐なさに悔しくて悔しくて……。

 おそらくこのテロを画策したのはこの教団だろう。結局、自分は結城を説得も逮捕に導くことも出来ず、おめおめとここにきてしまった。敵中に陥ってしまった今、何をすべきか目的を失ってしまった。もう逃げることが出来ないだろうと絶望していた。しかし、美葉には一筋の希望があった。公安が動いてくれている、あの、武邑という公安警察官。彼がきっと私の居場所を見つけてくれる。……美葉はそう気を取り直して顔を洗い、自分を励ますように両手で頬を二回叩いた。

 美葉は、その武邑という童顔の小柄な男が、結城より数倍危険な男だということを知らない。


 由利子が葛西のプロポーズともいえる言動に心揺れ、美葉がどん底から希望を見出していたその間にも、ルビーことSシードの汚染はじわじわと進んでいた。

 それはネット経由で進むため汚染はF県のみならず、全国規模でゆっくりと広がっていく。葛西の所属するSV対策班は、本来のウイルステロの捜査よりSシードの対応に追われていた。

 復帰初日の葛西は、デスクワークを言い付かっていたため自分の席で作業をしていた。資料のまとめに集中していると、背後で聞き覚えのある声がした。

「怪我をしたそうだが、大丈夫かね?」

 驚いて振り向くと九木が立っていた。葛西はすぐさま立ち上がると言った。

「九木警部補! こちらに来ておられたのですか?」

「ああ、ルビーとかいう厄介な『宝石』のためにな。まあ、元気そうで安心したよ」

「切られた怪我自体は命に係わるものじゃなかったですが、一応頭も打ってるので、念のため検査入院させられまして。でも、もう大丈夫です。明日からは現場でバリバリがんばります」

「そうか。だが、まだ頭の包帯は取れないんだろう?」

「そこは大丈夫です。昔親父が被ってた帽子を借りてきました」

「そうか、親父さんの帽子をな」

「昨日、久々に実家に帰りまして、その時帽子も出してもらったんです。怪我を隠すために一時的に被るので、新しく買うのはもったいないかなと」

「堅実だな」

「で、被って見せたら母から泣かれました」

「ほう」

「親父にそっくりだって」

「そうか、君の父親は……。くれぐれも親不孝はするなよ」

「はい」

 と、葛西は笑顔で答えた。


 ギルフォードに伝えた通り、夕方葛西がギル研まで由利子を迎えに来た。珍しく被ったグレーのキャスケットに皆の視線が集中した。葛西は少し照れた様子で教授室に入ると力強く言った。

「由利子さん、お迎えにあがりました!」

 その声に三人が立ち上がった。

「あ、葛西君、もう大丈夫?」

 真っ先に声をかけたのはもちろん由利子だった。紗弥は笑顔で会釈をすると、コーヒーを淹れに行った。ギルフォードは葛西の方に歩み寄り、軽くハグをしてから言った。

「元気そうで何よりです。帽子、似合ってますよ」

「ありがとうございます。まだ包帯が取れないので、帽子を被ることにしたんですよ」

 葛西は、帽子のつばを軽く持って少し傾けながらにこやかに答えた。ここ数ヶ月でギルフォードのハグには慣れたようだった。照れ屋の由利子は未だに「きゃあ」とパッチンセットで返しているが。

 葛西はコーヒーを飲みながら、九木がこちらに来ていることを皆に伝えた。葛西の前のソファに座ったギルフォードが、考え深げに右手を顎に宛てると言った。

「警視庁まで動き出したということは、首都圏も今がマズい状態だと危惧しているのでしょうか?」

「九木警部補は、ルビーのせいだと言っておりました。本意はどうかわかりませんが」

「長沼間さんたちがどれだけ情報を持っているのか、どう報告しているか気になります」

「そうですね。残念ながらあちらの情報は僕らには入ってきませんし、そういえば、スポーツクラブの一件以来、会ってません」

「そういえば、僕も最近会ってないですね。あの時も僕はすぐに帰って話をしてませんし。だいたい週一は情報仕入れ方々茶々入れに来るのに。ねえ、ユリコ」

 ギルフォードはいきなり由利子に話を振ってきた。葛西の隣に座らされた由利子が居心地悪そうに答えた。

「そ、そうですね」

「あの時のビンタがこたえたのかもしれませんが」

「う、うるさい! 変なことを思い出させるな、馬鹿!!」

 色々思い出した由利子が、顔を赤くして言った。


 帰りの車の中は、気まずい空気が漂っていた。葛西は「スポーツクラブの一件」などと言ってしまったことを後悔していた。ほとんど会話のないまま、ラジオでDJが陽気にしゃべる声が響いた。途中、なつかしコーナーのリクエストで『恋人試験』などがかかって、最高に気まずくなったところで由利子のマンションまでたどり着いた。

 車を降りると日はすっかり落ち、ブルーモーメントの名残である濃紺の空には星がまたたき始めていた。街並みのシルエットにも灯がともり、その後ろを微かにビーナスベルトが照らしている。

 二人は駐車場に立ったまましばし空を見上げた。

「綺麗だねえ……」

 由利子がそっとつぶやいた。

「そうですね」

 葛西も空を仰ぎながら言った。なぜか泣きたいほど美しいと思った。そしてふと思った。

(守らなきゃ。このひとを……)


 そのまま由利子を部屋の前まで送り室内確認のルーティン終了後、じゃれる猫のはるさめをそっと撫でて帰ろうとする葛西を由利子が引き留めた。

「葛西君、せっかくだからお茶でも飲んでかない?」

「いいんですか?」

 葛西は戸惑い気味に言った。

「うん。このまえ答え出すって言ったし、このままじゃ気まずいだけだから、色々話そ?」

 由利子はそう言いながらドアを開けたまま、葛西を招き入れた。


 キッチンのテーブルに座って、少し緊張気味の葛西が言った。

「なんか、あの結城が空き巣に入った事件以来です。あの時は、富田林さんや増岡さんもいて……」

「そうやね。あの時は色々あり過ぎて、お茶どころじゃなかったもんね。リクエストは? 紅茶でいい?」

「は、はい」

「ミルクティー? それともストレート?」

「あ、えっと」

「私はミルクティーにするけど?」

「あ、じゃあ僕もそれで」

「砂糖はどうする?」

「あ、入れなくても大丈夫です」

「オッケー。ちょっと待ってて。あ、そこから部屋のテレビが見れるから見ててね」

 というと、由利子は部屋の戸を開けてテレビをつけ、リモコンを渡した。

「これで、好きなチャンネルに合わせていいよ」

「すみません。あ、チャンネルはこのままいいみたいです」

 見ると、ちょうど夕方七時のニュースが始まったばかりだった。


 数分後、由利子がミルクティーを運んできた。

「紗弥さんみたいにうまく淹れられないけど……。どうぞ」

「ありがとうございます」

 葛西は受け取ると、由利子が座るのを待って、紅茶を口に運んだ。ふわりとミルクの良い香りがした。

「美味しいです。ほっとします」

「ホットだけに」

 由利子が思いがけずオヤジギャグをかましたので、葛西はどう対応すべきかわからなくなって、愛想笑いで紅茶をまた一口飲んだ。

 その後、また気まずい空気が流れ、葛西はお茶請けのクッキーを立て続けに三枚食べてしまった。

「このクッキーも美味しいです」

「駅前のケーキ屋さんで買ったんだよ。昔は割と自分でも焼いてたんだけど」

「お菓子作れるんですね。僕も今度挑戦してみようかな?」

(そこは『由利子さんが焼いたクッキーも食べたい』だろうが)

 由利子は、そう思ったところで、焦って自分の考えを打ち消した。

(いかん、完全にオヤジの発想になっとる)

 由利子はひそかに落ち込んだ。

 その後、またも沈黙が続いた。その沈黙を破ったのは由利子だった。

「おなかすいたよね。クッキー無くなっちゃったね。出前でも取ろうか?」

「すっ、すみません。なんか間が持たなくて、ついそわそわしちゃって。出前はまだ大丈夫です。いつも晩飯は九時過ぎるんで」

「そう。じゃ、そろそろ本題に入らないとね。その前に、飲むもの無くなっちゃったんで、持ってくるよ。緑茶でいい? ティーバッグのだけど結構いけるよ」

「ありがとうございます!」

 と、葛西が妙なテンションで答えた。その間、暇なのでテレビを見ていると、今日放送される番組のCMが流れた。


 ~♪(センセーショナルなジングルとBGM)『討論バラエティ! ディスカッション(ゼロ)』! 本日のテーマは『人を救うとは何か?』

 若い宗教指導者集合!! 熱い討論を戦わせるぞ!! 今回もタブーコンプラガン無視で放送!! お楽しみに!!!


 煽りナレーションと共に、宗派と名前がセンセーショナルな自体で書かれたテロップと共に出場者の顔が次々と映し出される。葛西は妙な既視感をもってそれを見ていた。そこに由利子がお茶をもって戻ってきた。

「ごめん、来客用のお湯のみなんてなくて。ドーソン景品のマグカップだけど」

「お構いなくです。リラッ○マ、可愛いくて好きです」

「リ○ックマはアレクも気に入ったみたいで。特にトリさんが」

「なんかその子が一番人気だとか聞きますが、アレクのお眼鏡にかなうとは意外ですね」

「それが傑作なんだよ」由利子はクスクス笑いながら言った。「この前ラブホ避難したじゃん。そこがあろうことかリラック○部屋で……」

 そこまで言って由利子は葛西の顔が引きつっていることに気づいた。

「ああ、ごめん。デリカシーなかったよ。でも、私とアレクなんて男同士みたいなもんだし、アレクだってソファに寝たし、ほんとに何にもなくて……」

「由利子さんがあっけらかんと話すので、そういう関係にならなかったって信じます。でも、まだその時の話は聞きたくなくって……」

「だから、ニブチンでごめんって」

 その後、また沈黙。

(ほんとにもう、何口走っちゃったんだよ、私。今から話すことがことだけに、失言もいいところだ)

 由利子はうっかりしたことを言ってしまったことを後悔した。


 五分以上経っただろうか。まず沈黙を破ったのは由利子だった。

「時間ばかり経ってもしゃあないし、いきなり本題に入るね」

「はい。お願いします」

 そう言うと葛西は姿勢を正した。

「あのさ……」

 由利子は少し口籠ると言った。

「えっと……この前も言ったと思うけど、あれ、ホントは嬉しかったんだ」

「………」

「嬉しかったけど、どう反応していいかわからなかった。なので、馬鹿って七回も言ってしまってごめん」

「(数えてたんだ)いいんです。僕が調子に乗って余計な事を口走ったからで」

「でもさ、嬉しかったとしても、『嬉しい、ありがとう』って率直に受けることできないやろ?」

「そんなことないです」

「あるよ。だって私は三十七歳のアラフォーだよ。片や、葛西君は三十歳になったばかりじゃん。葛西君のお母さんだって反対するに決まってるし」

「そんなのわかりませんよ。それに僕たちはいい大人ですよ。周囲の反対に左右されることもないでしょう」

「それに不安なのは年齢だけじゃない……」

 そう言うと由利子は辛そうに下を向き、また口籠った。

「由利子さん?」

「あのね……、あの、さ……」

 由利子は顔を上げるとやや上を向いて目をぎゅっと閉じた。何かに葛藤しているのだと察し、葛西は由利子が話すのをじっと待った。

 数分後、由利子が意を決したように口を開いた。

「あのさ、今から少し生臭い話をするよ」

「構いません。どんなことでも受け入れる覚悟です」

 葛西はまっすぐ由利子を見て言った。

「私……さ、昔、東京に住んでいる時に、半同棲状態の彼氏がいたんだ」

「ぼ、僕だって、大人の関係になった彼女いました!」

「真面目か?」

「だから、そんなの気にしなくても……」

「そうじゃない。まあ、そういう関係だったし、それに、そいつ、その、……避妊……具……つけたがらない、アレクが激怒しそうなやつでさ。まあ、いろいろあってさ、不安になって、内緒で婦人科に行って診てもらったんだけど、結果は予想以上に残酷だった」

 由利子はそこまで言うと、お茶を一口飲んで話を中断した。葛西は黙って話の再開を待った。膝に組んだ両掌に無意識に力が入る。由利子はもう一度お茶を飲むと話をつづけた。

「妊娠の心配はない。でも、これからも妊娠は望めないかもしれないって、とっても言い難そうに言われたよ」

 由利子は淡々と、しかし、皮肉な笑みを浮かべて言った。葛西は何と言っていいかわからず、大人しく話を聞くことにした。

「で、もっと最悪なのはその後でさ、そのクソ彼氏、二股してて、そっちの方が妊娠したらしくて、お決まりのセリフで別れをきり出されてさ。もう最悪。さすがに立ち直れなくて、奴が結婚する前に会社を辞めてリターンしたんだ。全部忘れて新たな人生を歩もうって。その時、美葉が親身になって助けてくれたので、だいぶ気が紛れたけど」

「そうだったんですか。すみません、男の僕は何と言っていいか……」

「だからさ、体質的にも年齢的にも、子供を作るのは無理なんだ。だから、葛西君は、私なんか諦めてほしい。もっと若くていい()を見つけなよ」

「いやです。僕は、由利子さんだから好きになったんです。由利子さんがいいんです」

「嬉しいこと言ってくれるねえ。でも、今はそう思ってるかもしれないけど、きっと、後悔するよ」

「後悔なんかしません。それにうちは姉が総領娘だし子供も三人いますから、母に孫を見せなくても大丈夫です。それに、まだ可能性だってある。でもずっと二人で猫と暮らすのも悪くないって思うし、どうしても子供が欲しいなら、養子を迎えたっていいじゃないですか」

「いや、でも……」

「ひとりじゃ寂しかったら、もっとたくさん。いっそ世界中から……」

「いや、それ、私が過労死するし」

「すみません、調子に乗りました。でも、由利子さん、僕は由利子さんが本当に好きです。今の由利子さんが好きなんです。由利子さんは僕が嫌いですか? 僕を信じられませんか?」

「嫌いじゃないよ。それに、誰よりも信じるに値する人だとも思ってる」

「じゃあ、僕が警察官だから?」

「それはあると思う。不安要素が多いかな」

「やっぱり……」

「でもそれは覚悟の問題だと思ってる。葛西君のお母様だって、多美山さんの奥様だって、覚悟をもって結婚されたんだと思うし。ただね、葛西君とは知り合って半年もたってないし、結婚とか考えるには早いと思うんだ。それに、事件は一向に解決していないんだ。落ち着かないよ」

「そうですよね。すみません。勢いで変な事せまっちゃって。恥ずかしいです……」

 そう言うと、葛西は見てわかるほど赤い顔をしてうつむいてしまった。その様子があまりにもしょぼくれていたので、可哀そうになった由利子は、またもついフォローしてしまった。

「ほら、だからさ、ちゃんと付き合ってみないとわからないってことで……」

「そう! そうですよね!」

「今のは……」

 『言葉の綾』と言いかけて、由利子は何故か昼間のギルフォードの訂正が頭をよぎって言いよどんだ。その隙に葛西が突っ走って言った。

「結婚を前提としたお付き合い、まずそれからですよね!!」

「ちょ、ま……」

 由利子は言いかけたが、葛西の顔があまりにも嬉しそうなのでついほだされてしまった。

「はあ、わかった。負けました。お付き合いしましょう。ただし、正式な答えはこの事件が片付いてから出すからね」

「はい。嬉しいです」

「その代わり、これがフラグにならないよう、ほんっとうに気を付けてよ。この前は本当にこっちの心臓が止まるかと思ったんだからね!!!」

「はい。絶対に由利子さんを悲しませるようなことはしません。でも、由利子さんの方も、まだ狙われている可能性が高いです。ですから、みんなの言うことをちゃんと聞いて……」

「わかった、わかった。逆に説教されちゃったよ」

 由利子は肩をすくめると、テレビの方に目をやった。いつの間にか時間が経って、『ディスカッション0』が始まっていた。数秒それを目にした由利子が葛西に言った。

「葛西君、これって」

「ええ、どこかで見たラインナップです」

 二人はその後、食い入るようにテレビの画面に見入ってしまった。

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