5. 色慾
栗皮色の、玉座のようなシガーチェアに座り、煙を燻らせる。
オレンジの光を寂しく灯すランタンは、薄暗いシガールームで男の顎と口元を何とか視認できるほどの明るさしかない。
その男の足元に、跪いているのであろう白髪の人物は、ただ静かに何かを待っている。
「三年。」
ため息とともに吐き出された言葉。
「神殿から何者かに連れ去られ、その行方は未だ知れず。この三年で知り得た情報はたったこれだけだ。」
「くっ、かはっ」
白髪の人物がいきなり苦しそうに首や胸を押さえている。
「また一年、無駄に待たされるつもりはない。」
「ひゅーっぅ、ひゅぎゅーっぅ」
吸っても吸っても息ができないといった状態で首をかきむしっている。
「その空っぽの頭でよく聞け。」
「がっはあーっはあっゲホゲホゲホッ」
吸えなかった空気が突然喉を通り、むせ込むように空気を吸い上げる。
「よーく考えて行動するのだ。お前にできないのなら出来る者を探せ。、、わかったか?」
「、、っ御意。」
咳き込む喉を抑え、白髪の人物はよろよろと立ち去った。
ランタンの明かりに、長い銀髪がサラリと男の肩へと流れ落ちる様が照らされる。
「はぁ、、。早くこの手に抱きたい。」
切なく漏れる吐息。その手に握られたハンカチの匂いと、頬にすり寄せた肌触りに、長い銀の睫毛が伏せられる。
そこに澱む異常な執着心が垣間見えた。