石の守護神大暴れ
防衛戦は、今までのそれより長い時間をもって行われていた。これまでのそれは、互いに主戦力をぶつけあう戦いだった。今回は違う。端末を送り出して道を探り出す侵攻側と、ひたすら嫌がらせに徹する防衛側。そういう形態ともなれば、時間がかかるのは当然だった。
ゼノスライムは、自らの肉を切り離して兵士を作り出す。今まで食らった何かしらの生物を模倣するこれは、それと同じ能力を持つ。獣、モンスター、そして人間。
今回のゼノスライムは、雑多な兵士を作り出している。四つ足の、未知の獣。やたらと足の長い百足。そして、昆虫と人間の合成のような存在。
兵士の中で、特に昆虫人は知恵が回るらしい。獣が見つけた罠を、解除する行動を取ったりもする。
そういった相手に対し、我がダンジョンはひたすら遠距離から攻撃を仕掛けた。火矢を、打ち込み続ける。だが、ゼノスライム側もただやられるだけではなかった。
それを見た時の衝撃ったらなかった。
「あいつら! 泥を使って防御してやがる!」
そうなのである。ダンジョンの罠として使用している泥道。ゼノスライムたちは、これを自分たちの身体に塗りたくる事で、火矢のダメージを防ぐという知恵を見せたのだ。
冒険者であれば、絶対にやらない方法だ。だって、服に水が染み込む。体調不良になるし、動きも鈍くなる。だが、ゼノスライムにはそれがない。体温を奪われることの不調は多少あると思うのだが、連中は問題ないように侵攻してくる。
遅延できたのは最初だけ。じわりじわりと進んでくるゼノスライム部隊には、肝が冷える。あらかじめ用意してある罠や、いざという時のレケンスという切り札がなければこんなに冷静ではいられなかっただろう。
そして、こんな時でも冴えわたる欺瞞と策謀。
「ミヤマ殿。少々燃料を使おう。チョークポイントに火を放とう」
「少々? それじゃあたいしてダメージにならないのでは?」
「構わぬ。奴らには知恵がある。我らがこうも積極的でなければ疑われるというもの。一度や二度は強めの火を見せて、本命があることを悟らせぬようにせねば」
流石はレヴァランス神の神官。謀り事は得意分野であるらしい。早速その案を採用した。……なお、エルフのエラノールは渋い顔をしていた。有用だとわかっているから否定しないけど、心中は複雑だろうね。フォローを考えるべきか。
時間が無かったので、欺瞞工作は一回だけ。とりあえず、どうしても通らなければならない通路に火を放ってみた。しかし。
「……あいつら、泥持ってきて消火活動しやがる」
「よもやそこまでするとは。いやはや、三大侵略存在は伊達ではないな」
油、薪、炭で作った炎の壁。しかしそれも、泥をかけられてはどうしようもない。火には酸素が必要なのだ。泥が酸素の通りを塞いでしまっては、燃えようがない。
若干の時間は稼げたがその程度。兵士と本体の移動は再開された。
「これ、策が失敗したらガチでピンチだな。レケンスごめん、出番があるかも」
「むしろ望むところというもの。どうぞ、お気を平らに」
何とも頼もしい。もちろん手を抜くつもりも気を緩めるつもりもないが、心に余裕が生まれたのは確かだ。
「罠の準備は、問題ないよね?」
「準備万端、整っています」
エレベーター前に準備された『それ』。これが罠の締めとなる。こんなものを準備できたのも、ダンジョンの迷路部分が広くなったからこそ。迷路なくばダンジョンにあらじ。改めて、その通りだと理解する。
「よし、それじゃあ行こうか」
「……大将は、後方で腰を据えるもの。御身は替えが効かぬのだから、軽率に前に出るべきではない。兵は足りているであろうに」
確かに、神官さんのいう事はもっともである。俺が死ねばダンジョンが終わりである以上、ウィークポイントを最前線に出すのはまともな判断ではない。
戦力も増えている。無理に出る必要はない。だが、それでも俺は戦場にありたい。その理由は。
「敵の恐ろしさを、忘れないため」
「……なんと?」
「怖いからこそ、必死になってダンジョンを強化してきた。おかげで、だいぶ余裕は生まれたよ。でも、だからこそ恐ろしさを意識しなくちゃいけない。油断してしまう。その先にあるのはきっとろくなもんじゃないから」
そうだ。正直言えば、俺は安堵していた。ここまでダンジョンが強くなって、すぐに戦場に駆け付けなくて済むようになって。レケンスもいる。ホーリー・トレントもいる。燻る熾火氏族の皆さん。ブラントーム家の皆さん。俺のダンジョンのモンスター達、ガーディアン達。
俺、戦う必要ないじゃん。そう思った瞬間、心の中の後ろ暗い部分がささやいてきたのだ。お前、調子に乗ってないか? と。
ダンジョンは押し付けられた物とはいえ、借り物。その力も権力もレンタル品。お前自身の力なんかじゃないだろうよ、と。
だが、ここまで頑張ってきた。身体も技も鍛え続けているし、ダンジョンの運営だって頑張っている。自然洞窟だったここを、ここまでに変えた。その実績はあるのだ。
必死になって頑張ってきた。その必死さを失ったら、俺はどうなる? たちどころに戻るだろう。あの、何もしなかった深山夏雄に。
ゾッとした。冗談じゃない。そうなったらどうなる。ダンジョンは、ここに住む大事な者達は。きっとろくなことにはならないだろう。
だからこそ、恐怖が必要だ。ケツに火をつける必要があるのだ。俺がダンジョンマスターでいるためには。
「神官殿。恐ろしくない敵に、欺瞞や策謀は必要かな? 敵を知らずに、その恐ろしさを理解できるかな?」
「……なるほど。我らの教えに通じるところがありますな。であれば、私も道を共にすることにしよう。大将を討ち取られるは部下の恥だ」
苦笑を浮かべて、神官殿が準備を始めた。うーん、聞き分けのない子供に折れた感があるな。
「所でミヤマ殿。レヴァランス神の理を学んではいかがかな? ダンジョンにきっと役立つと思うぞ」
「すごく興味あるけど、絶対アラニオス神に怒られると思うから……」
あと、うちの侍エルフがすごい目で睨んでくるしね!
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エレベーターで、地下一階へ。そこから迷路を通って、地上階と繋がる階段に向かう。今回、罠を張ると決めたポイントはここである。……リアルだから容赦なくやるけど、ゲームだったらクソゲーって叫ぶよな。絶対通らなければならないところにある罠って。
しかし、俺はリアルのダンジョンマスター。侵入者の悲鳴は賞賛と受け取る立場。これからも頑張って悪辣な罠を仕掛けていこうと思います。
到着した階段手前。家やブラントーム家のメンバーが待機している。戦闘を行った者たちもおり、休憩や手当を受けている。ここを取りまとめているトラヴァーが忙しそうだ。
そして上階からは、戦闘の音が響いていた。
「エラノール。上のメンバーに合流して。疲れている者と交代」
「かしこまりました!」
いつもの大弓ではなく、小弓をもって階段を駆け上がっていく。閉所の戦いとなるので、そちらの方が都合がいいのだ。ほかにも、油を入れた小壺を抱えたコボルト達が後に続く。俺も、その時のために準備である。
「抜かれたー!」
上階から、切羽詰まった声。生理的嫌悪を掻き立てる、何とも言えぬ物音が階段から駆け下りてくる。そして、それが顔を見せた。足長百足である。
「オラァ!」
握っていた鉄球を、ノータイムで叩き込んでやった。蟲の顔面が、はじけ飛ぶ。先輩より頂戴した投擲技能は、今日も絶好調である。
「火は使うな! 手間だけどそれ以外で!」
「心得た。レヴァランスの神意をここに! 理力!」
神官殿が発した理力が、首無しとなった百足を打ち据える。理力……闇色だったな。やっぱり悪神なんだな、レヴァランス。
飛び散った肉片が、百足に集まっていく。恐るべしはスライム、これではきりがない……とおもっていたら、それが地面より沸き上がった水に取り込まれた。百足から引き離される。こんな器用なことができるのは。
「レケンス?」
「ささやかな事ですので、どうぞお見逃しを」
いつの間にやら俺の後ろに現れていた彼女が涼やかにそう語る。……まあ、派手じゃないし。メインは俺たちだし。仮に減点されても酷くはならないだろう。
とりあえず、再度鉄球をぶん投げる。胴中央致命的命中。向こう側が見える穴が開く。これで死なないのだから本当に卑怯である。そうこうしているうちに、百足の形が崩れていく。生物としての形を保てなくなるほど破損したか。蠢く肉塊、ゼノスライムの姿が現れる。
だが鉄球。容赦なく鉄球。お前が動かなくなるまで投げるのを止めない。遮蔽なんて無いぞ。恨むならダンジョンコアを目指す本能を恨め。鉄球はまだまだたっぷりあるぞ。コボルトが頑張ってくれたからなぁ!
「……兵士とはいえ、ゼノスライムを完封とは。ミヤマ殿は謙遜が過ぎるのでは?」
「環境がばっちりだった。後、レケンスが肉片を封じてくれるおかげでもある」
はじけ飛ぶ端からレケンスに囚われる為、どんどん質量が減っていった。まともに動かなくなったところで、それも水の檻に放り込まれた。そして、投げ終わった鉄球もレケンスが運んでくれた。便利! 頼り切りになる! あかん!
無事に兵士が処理終わった所で、仲間たちが階段を駆け下りてきた。エラノールが声を張り上げる。
「本体、階段に侵入!」
「逃げ遅れは!」
「ありません!」
ダンジョンアイに意識を集中。別働班の準備……よし!
「よーし! 火を放てっ!」
階段の下部分にかぶせてあった布を取り払う。そこにあるのは、薪、炭、油。火を灯すと、熱は上に昇る。階段の下で炎を付ければ、その熱は降りている最中のゼノスライムを直撃する。炎による攻撃が最も効果を発揮する場所。神官殿がここを選んだ理由である。
火矢がいくつも放たれる。油や小枝に火が移り、瞬く間に広がっていく。さらに、エアルによる風がゆっくりと送り込まれる。強すぎると熱が逃げてしまう。程よいかげんが重要だ。幸いなことに、上手くいった。炎が、熱が生まれる。
「「「グリュギャァァァ!?」」」
虫人達が、鳴いている。……そういえば、虫は煙ダメだった気がする。煙が立ち込める階段は、さぞかし苦しい事だろう。
さて。進行方向に炎が上がった。泥利用したことから分かる通り、ゼノスライムは馬鹿ではない。こうなっては、いったん後退するのは当たり前の事。そして、それを防ぐために準備するのも当然の事。
「別働班、現場到着! 出入口を塞ぎました!」
セヴェリ君の報告に手で答える。やったぜ、という意味も込めてガッツポーズで。今回、ゼノスライムを仕留めるために部隊を三つに分けた。
けん制しつつ、敵を階段まで引き寄せる迎撃班。階段下で待機し、迎撃班と交代して事に当たる後詰班。そして、ゼノスライムの退路を塞ぐ別働班である。
この班の要は、シュロム。そして彼に運ばせた丸太を組み合わせて作った格子である。これで階段の出入り口を塞ぐ。重石として、シュロムが支えればいかにゼノスライムが大質量であっても突破は難しいだろう。
加えて、シュロムはストーンゴーレムだ。奴に取り込まれる心配はない。……順調に火勢は強まっている。ゼノスライムはこちら側に現れない。そして上側は騒がしい。
腕に絡まる黒蛇に触れる。上階の光景が見えてくる。やはり、ゼノスライムは出入口に戻っていた。丸太の格子に張り付いている。しかし、ペレン率いるダークエルフ部隊の矢がそれを阻む。
丸太の格子は、それほど細やかではない。子供ならば潜り抜けられる程度の間が空いている。しかし戦闘の最中という極限の状態で、それを正確に抜くというのはやはり鍛え上げた技によるものだ。シュロムの身体も邪魔になるだろうに。
ゼノスライム本体にも、泥が塗られている。しかし、下からの熱のおかげでそれが早くも乾き始めている。ダークエルフたちの火矢も、やっと効果を発揮していた。
と、そこに特別太い矢が叩き込まれた。これは……ケンタウロスか。見事なものだ。衝撃で若干ゼノスライムが揺れたぞ。
が、ここで敵が新たな行動に出た。格子にべったりと張り付いた? バカな、あれでは的になるだけ……。げ! 格子から煙? あいつ、丸太を食べるつもりか! まずい!
「うわーーー!?」
と、耳元で悲鳴。意識を戻せば、階段から黒い煙が噴き出していた。……そうか! ゼノスライムが上の出入り口を塞いだから、風の通り道がなくなったんだ! 酸素の通りも悪くなる!
「エアル、なんとかなるか!?」
「……ッ!」
がんばってる! と全身でアピールしているが、苦しそうだ。これはまずい。このままでは上が突破される。別働班にも被害がでる。何としても、ここで焼き殺さなくてはならない。しかし、風が弱まっては……。
そこで、ピンときた。
「トラヴァー! エアルに、俺から直接パワーを引っ張れと伝えろ!」
「なんですと!? 危険ですぞ!」
「いいから早く! やらないともっと危険だ!」
あわあわと戸惑っていたが、命令には従う。トラヴァーが何度か風の精霊に吠えた。すると、彼女が俺に覆いかぶさってきた。
そして、俺は空中に放り出された。空の上だった。風が渦巻いていた。雷が遠くで光っている。雲が流れていく。空は何処までも広い。眼下の大地は、感じ取れぬほど大きい。俺は風だった。自由だった。俺は俺でなくなり、薄く薄く広く広く……。
「!」
赤く一抱えの宝石。台座。石の椅子。暗闇。地下。そこに座る俺。ダンジョン。
「主様! しっかり! お気を確かに!」
「うぉぉう!? な、なんか、色々見えた!」
「ろくに修行もしていないのに、精霊をその身に下ろせばそうもなる。無茶が過ぎる。危うく魂を精霊に食われるところだったぞ」
「マジですか」
ええ……ってなる。コアを通じて契約しているエアルが、俺にそんなことする?
「精霊を責めてはならぬぞ。人と精霊、魂の大きさは後者が勝る。海に水を入れるようなものだ。自然の流れなのだから」
「なるほど……痛い痛い痛い」
俺の頭に乗ったエアルが、涙目で思いっきり足を踏み下ろしてくる。軽く小突かれているような感覚。
「後で怒られるから! 今は、風を送ってくれ!」
「!」
空気の流れが変わった。足元を、清風が流れていく。黒煙が、天井を走っていく。向かう流れと、帰る流れ。空気を受け取って、炎は順調に燃え上がる。熱風が、ゼノスライムを焼いていく。
が、その代償はしっかりと俺の身で支払う事に。全身の活力を、やすりがけされている気分。じわじわと、疲労が蓄積していく。ダンジョンコアー! パワーをよこせー! ここが踏ん張りどころだぞー! 歯をくいしばって耐える。
「上の状態、どうなっている?」
ダンジョンアイに意識を割けないので、代わりに見てもらう。
「ゼノスライムが、焼け始めました。シュロムがよく耐えてくれています。別働班の攻撃も、後押しになっているようです」
あともう少し、か。階段を見やれば、コボルト達が燃料を追加している。すでにそこは、竈のような有様。炭が赤々と光を放っていた。
しかし、酷い臭いだ。ゼノスライムが焼けているのだろう。しばらく、肉は食えそうにない。
と、上部で大きな物音。そして、重量物が階段を転げ落ちてきた。炎を上げる肉塊と、戦士の石像。
「シュロム! 無茶をして!」
燃え盛る炎の中、ストーンゴーレムが暴れる。逃げ出そうとするゼノスライムを、殴る。踏みつける。引きちぎる。炭化した表皮がはがれ、無事な肉が炎にあぶられる。のたうち回るゼノスライム。
変化すれば、シュロムに対して有効な攻撃もできるだろう。しかし、今のヤツにはその余力が全くない。全身を叩きつけて抵抗しているが、あんな柔らかい打撃ではシュロムに傷はつかない。
だが、無傷というわけではない。吹き飛ばされて、壁に叩きつけられる。質量の差がある。それでも、シュロムは立ち上がる。
援護射撃は、当然する。次々と放たれる矢とつぶて。わずかな削れも、今のヤツには手痛いダメージ。
「ここだぁ!」
ゼノスライムに有効な攻撃方法の無かったミーティアが、目を輝かせた。魔眼を発動させたのだ。動きが止まったゼノスライムを、シュロムが滅多打ちにする。わずか五秒。されど十分な時間だった。
金縛りが解けたゼノスライムの動きが、てきめんに鈍っていた。そこで、シュロムが止めの行動に出た。
なんと、真っ赤に燃える炭を掴むとゼノスライムに直接押し付けたのだ。跳ねのけたいだろうが、もはや体が動かない。それをいいことに、シュロムは次々と燃料を乗せていく。ゼノスライムが、燃料と一体になるまでそう時間は取らなかった。
そして、その姿が消えた。ダンジョンに、食われたのだ。
「終了ーーー! お疲れーーー!」
声を張り上げる。歓声が上がる。シュロムが、階段から姿を現した。全身真っ黒であり、熱を放っていた。
「よくやったシュロム! 今日のヒーローはお前だ!」
「!」
シュロムの表情は変わらない。喜んでいるように感じるのは、俺がダンジョンマスターだからだろうか。
「しかし、ずいぶん無茶をしたなぁ。過去いちダメージ入ってるんじゃないか?」
「そうですねえ。熱が引いたら、アミエーラに念入りに見てもらわねばなりませんね」
トラヴァーも頷く。しかし、今回はずいぶんとダンジョンが汚れた。階段はいまだに炎が上がっているし、煙は天井を舐めている。普通に火事だ。エアルがいなかったら窒息していたかもしれない。
とりあえず、マッドマン達に手伝ってもらって消火しなくては。ゼノスライムたちに有効な消火方法を教えられるとはなあ。
あと、エアルをなだめなくては。憑依は終わったが、現在進行形で俺の胸を叩いている。ぺちぺちぺち、と。痛くはないんだがなぁ。
『ゼノスライム撃退を確認。次の処理モンスターを検索中……』
待ったーーー! グランドコア、待った! 今日は無理! 俺もモンスター達も疲れている! 資材も消費した! 今からは無理!
『……』
近日中! なるべく早く、戦闘できるよう復帰するから! ともかく今日は無理!
『……了解。早々の戦線復帰を期待する』
グランドコアからの接続が、途切れた。はあぁ、と深く息を吐く。上半身を倒したため、胸元のエアルが押しつぶされそうになり更なる抗議の打撃が。
後処理、色々大変だなぁ。
「あんたまで戦場に出張っていたのかよ。ずいぶん疲れた顔だな」
「ペレンか」
あちらでは、ダークエルフ同士でお話合い。別働班……の、一部がこちら側に来たのか。まあ、上に居てもしょうがないしな。
神官殿は、身体の力を抜くように溜息をついた。
「策は上々。おおむね思い通りに事が進んだ……のだが、ミヤマ殿がなぁ。自ら危険に赴く大将というのは、手に負えん」
おう、聞こえるところで堂々と批判とは。そういうのは真正面から言いなさいよメンタルダメージ覚悟で聞くから。
対するペレンは、喉を鳴らして笑う。
「あんたの手に負えないとは、ダンジョンマスター殿は傑物であるようだな。我らの活躍の場も多いようだし、先は益々安泰だ」
「貴様……何を呑気な。これからの苦労を考えよ」
「そりゃあんたの仕事だ。俺らは走って隠れて敵の背に毒矢と毒刃を立てる仕事。おお、レヴァランスよご照覧あれ」
「己はぁ……っ!」
うーん……まあ、いいか。とりあえず、ダークエルフは十分戦力になってくれている。今後も期待しよう。そして報いよう。
さて、とりあえずは消火だ。俺は、忙しく働く仲間たちの元に向かった。