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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
四章 汝、味方を欲すならば迷宮の外を見よ
90/207

ミヤマダンジョン成長具合


 我がダンジョンは現在、拡張の真っ最中。それに加えてこの騒動。コインが全く足りないのである。具体的にどのような状況であるかは、収支を見ればわかる。



・収入



初期 五十枚


襲撃一~十一 合計 三百八枚


廃都決戦 地下モンスターの群れ 四十二


廃都決戦 アンデッドジャイアント(ペインズ) 百枚


襲撃十二 地下モンスターの群れ 三十八枚


襲撃十三 オーガ三体、ボアベア一体 二十枚



収入合計 五百五十八枚




・支出


「モンスターおよびガーディアン」


コボルト 三十匹 六枚


コボルトシャーマン 一匹 一枚


スライムクリーナー 三匹 六枚


シルフ・エリート 一体 十枚


マッドマン 三体 十五枚


ガーディアン「エラノール」 一人 十枚


ストーン・ゴーレム  一体 二十枚


コボルト・アルケミスト 一匹 三枚


ゴーレム・サーバント 二体 二枚


ラミア「ミーティア」 一人 二十枚


ガーディアン「セヴェリ」 十枚


ガーディアン「ダニエル」 十枚


ホーリー・トレント 一体 五十枚


レジェンダリー・ウォーター・エレメンタル「レケンス」 一柱 百枚


ダンジョンアイ 一体 十枚


モンスター合計 二百七十三枚



「能力投資」


ガーディアン「エラノール」 エンチャント:筋力 器用度 耐久力 十×三=三十枚



「設備投資」


転送室 十枚


洞窟補強 三枚


洞窟補強ホーリー・トレント 十枚


水源整理レケンス 十枚


迷宮デラックスセットガチャ 二回 六十枚


大型冷蔵庫 一枚


ストーン・ゴーレム用ブレスト・プレート 一枚


階段 地上~地下1階、地上~地下五階 十八枚


エレベーター 十枚


エレベーター階数延長 三十枚


上級隠し扉 二か所 三十枚


換金 四枚


組み換え代 四回 四十枚


設備投資合計 二百二十七枚



支出合計 五百三十枚




収支合計 二十八枚



 ……訂正。ここまでごちゃごちゃすると、ぱっと見じゃさっぱり分からんな。一つ一つ上げていこう。まずは収入から。


 廃都決戦では、ずいぶんとコインが稼げた。ジャイアントもそうだったが、地下から侵入してきたモンスター。あれも結構な稼ぎになった。……あの時は、コインがたっぷりでうっはうはだったんだけどなぁ。


 決戦後にダンジョンに突っ込んできたモンスターは、先日のオーガの他には地下からが一件。ダークエルフ達と出会った地下五階からの侵入だった。やはり、地下世界はモンスターが多いようだ。処理できるならば、コインの収入源として美味しいと考えられるのだけど……油断は禁物。


 このように、収入は順調なのだ……通常であれば。非常に大きな出費が無ければ。そう、ホーリー・トレントとレケンスとの契約である。契約費、五十枚と百枚! いや、もうね。目が飛び出るかと思ったよね。


 しかし、ほかならぬアラニオス神のご紹介である。ちょっと待ってくださいなどと、どうしていえるだろうか。ため込んでいたコインの大半を支払って契約した。そしてそれは、まったくもって間違いではなかった。


 まず、ホーリー・トレントの方からいってみよう。契約後、彼はダンジョンのある岩山の頂上に座した。トラヴァーを介して聞いてみれば、ここが一番いいとの弁。


 本人がそういうのであればと任せて七日七晩。あっという間に、ビルもかくやという巨木に成長されたのである。いやね、三日目あたりから気づいてはいたんだけどね。日が経つにつれて嘘やろってレベルの大きさににょきにょきしていってね。


 今では立派な世界樹である。いやまあ、かつてアラニオス神が地に降りた時に依り代としたという樹はもっと大きいとエラノールが言うからには、まだ抑えているレベルだと思うのだけど。


 これだけ育ったのは、当然ながら太陽の光の力だけではない。ダンジョンと契約したことでレイラインからパワーを得られること。それからかつてこの地にアラニオス神への信仰が満ちていたから、らしい。これもトラヴァー翻訳である。


 そんなホーリー・トレント。ただ大きくなったわけでは無い。恩恵はダンジョンにたっぷりともたらされた。まず、根っこである。この根が、ばっちりとダンジョン上層を補強してくれた。さらに、拡張採掘にも力を発揮してくれた。


 おかげで、地上階および地下階はかつての三倍もの広さを獲得した。廃都決戦の時のトラップも再利用して、もはや立派な迷宮である。


 さらに、ホーリー・トレントが要求するままにコインを十枚渡した。すると、なんという事だろう。あれだけ広い地下十一階の大空洞まで、ばっちり根っこで補強してくれたではないか。


 めちゃくちゃ助かった。あの巨大な空洞を通常手段で補強したらいくらかかるんだと頭を抱えていたのだ。その日、俺はホーリー・トレントとアラニオス神に全力で感謝の祈りを捧げた。


 これだけでもありがたいのに、神聖魔法による回復能力と本人の物理戦闘力まで付いてくる。偉大なるエルフ神にはどれだけ感謝の祈りを捧げても足りない。落ち着いたら神殿を立てねばと改めて思った。


 そして、忘れてはいけないもう一柱。レジェンダリー・ウォーター・エレメンタルのレケンスである。……正直、契約終わって分類を確認したときはビビったよね。レジェンダリーって何さ。まあ、千年前から侵攻されてここの土地を守っていたのだから、ただの精霊ではないとは知っていたけどさ。


 さて、偉大なる大精霊たる彼女。とりあえず初手でやってくれたのは水源整理である。彼女のパワーによってここいら一帯で水は困らないわけではあるが、管理は行き届いていないとの事。


 長年ペインズに囚われていたのだから無理もない。そんなわけでこちらにも言われるがままにコインを十枚渡した。これによって、周辺の水は全て彼女の管理下に置かれたとの事。地下の湖もこれによって清浄な状態が保たれるらしい。


 生活の場を地下十一階に移した俺たちにとってはとても助かる話だ。淀んで水藻が繁殖した日には悪臭が漂ってくるだろう。エアルのパワーだけではいかんともしがたいだろうし、ありがたい話である。


 なお副次効果というわけでは無いらしいのだが、地下水路経由で西にあるプラータ川とやらと繋がったらしい。これで魚が取れるようになるのかな? まあ、水に詳しい彼女のしたことなのだから、マイナスにはなるまい。


 彼女の力もダンジョン拡張に役立ってくれた。その貢献度はホーリー・トレントに勝るとも劣らない。マッドマンと協力すれば、土や石の運搬が大変スムーズに行われた。こんなに早く広域の拡張工事ができたのもそのおかげである。


 もちろん、戦闘力もすばらしい。地下五階から攻め込んできたモンスターの群れ。これらに対して、容赦のない水攻撃を決めてくれた。ただの水と侮ることなかれ。かつて俺たちが使った水トラップと同じ。冷たさというのは、生物の体温を奪う。活動力を奪われたモンスターは、これ以上もなく殴りやすい相手だった。


 ……うっかり味方モンスターが水に触れてしまって同じ状態になってしまったのは、連携不足が原因である。これからはこんなことが無いようにと反省し、空き時間を使って連携練習をしている。……していた。今は忙しくてちょっと無理だな。


 地下五階の話が出たので、ここについても触れておこう。正直、地下五階の進入口については頭を悩ませた。この階層に、迷宮やトラップを設置する余力はないのだ。いつまでもダークエルフたちを張り付けておくのも効率が悪い。


 仲間たちと改善案を話し合った。良い案が浮かばず、大分煮詰まった後。参加していたペレンさんが投げやりにこういった。


『いっその事、階段で地上まで伸ばしたらどうだ。まともな物なら途中であきらめて帰る。モンスターだったら諦めず昇って、疲労してくれるだろう』


 強引な話だった。だが、現状ではもっとも効果的な案だった。階段を設置する費用はやや辛かったが、他よりはよっぽど低コストだった。なお、エレベーターの出入り口は上級隠し扉で塞いだ。


 ペレンさんの案はばっちりとハマり、その後に起きた襲撃ではレケンスのパワーも合わさって非常に戦いが楽だった。流石欺瞞と策謀の神に仕える種族は企みのレベルが違う。


 と、このようにコインをじゃんじゃか使った。それに後悔はない。俺のダンジョンは確実に強くなった。……そして、コインの備蓄は確実に減った。昨日の襲撃前などは、たった八枚しかなかったのだ。


 そんなわけで、稼がなくてはいけない。事前に計画していたのは、ダークエルフたちに地下世界のモンスターをダンジョンに追い込んでもらうというものだった。


 しかし、計画を変更する。バルコ国の流民を受け入れた今、ただモンスターを倒してコインを稼げばいいという話ではなくなった。


 示さなければならないのだ。俺のダンジョンが、彼らを受け入れてなお問題ないという事を。


/*/


 そろそろ、外では日が傾き始めた頃合い。俺は、仕事を終え一休みしている彼に声をかけた。


「ジルド殿、少々よろしいか」

「これは、ダンジョンマスター殿。いかがなさいましたか」


 周囲の男衆は疲労でへたり込んでいるが、流石騎士。鍛えているだけあって、彼だけはまだ元気を残しているようだった。


「少々話がある。付いてきてくれ」

「ちょっと待った。騎士様をどこに連れて行く気ですかい」


 そこに、狩人のカルロが立ち上がる。どうも彼、ジルド殿の右腕を買って出ているようで何かとこのように口をはさんでくる。もう一人のバリーは年配の者たちをまとめている。彼は若い連中の担当だ。


 だからこそ、自分たちが少しでも不利になりそうになると前に出てくる。血気盛んだ。舐められたら取って食われる世界なのだから、そうなるのだろう。


 俺としては、結構な事だと思う。何でもかんでも騎士であるジルド殿にまかせっきりでは彼が潰れてしまうからな。まあいい、その気があるならば。


「じゃあ、カルロ君もついてくるかい? 責任を伴う、大事な話なんだが」

「責任……お、おう。付き合いやすぜ」

「……よろしいのですか?」


 ジルド殿に頷いて返す。そしてそのまま、防壁門へ歩いていく。二人分の足音が俺に続いてくる。門をくぐって、他に誰も付いてきてないのを一応確認。まあ、もし隠れている者がいれば、誰かが気付く。そうできるくらいには、層が厚くなってきた。


「さて、ジルド殿。そしてカルロ君。今から大事な話をする。そして、これは他の人たちに伝えてはいけない事だ」

「後ろ暗い話ってことですかい?」

「カルロ!」


 狩人の憎まれ口に、笑顔を返す。皮肉気に笑っていた彼の頬が引きつった。なんだい、タフガイぶるならこれぐらいでビビるなや。


「このダンジョンは、借家だ。本当の持ち主、オーナーは別にいる」

「……は?」


 突拍子もない言葉に、ジルド殿が聞き返してくる。が、続ける。


「オーナーが俺に求めているのは、強いダンジョンへの成長と維持だ。強いダンジョンというのは、いかなる侵入者が来ても負けない。返り討ちにできるダンジョンだ」

「……それが、何だってんですかい」

「今、ダンジョンは多数の戦えない人々を受け入れた。これを見て、オーナーが不信感を抱いた場合、不味い事になる」

「まさか、ダンジョンを取り上げられると!?」


 素っ頓狂な声を出すジルド殿に手を振って否定する。


「そこまでにはならない。だけど、貴方たちを蹴り出すぐらいはやる。それができるだけの戦力がある。戦力差は天と地の差というやつ」

「何様ですかい、そいつ」

「限りなく神様に近い人さ。ま、それはさておき。オーナーのご不興を買わないようにするために、俺は先に手を打とうと思う。俺のダンジョンの性能が、落ちていないという事を示す」

「それは……侵入者を撃退する、と? しかし、相手がいなくては」

「手段はいくつかある。例えば囮に引っ張ってきてもらうとかね。今回は最も効率的な方法を取るつもりだ。そこで、君たちにお願いだ」

「俺たちに囮をやれってのか!?」


 血相を変える狩人に、もう一度手を振って否定する。


「優秀な囮役は間に合っているよ。ほら、あっち」


 俺が指さす先にはダークエルフの集落がある。あちらも、順調にその規模を拡大中だ。地下世界に散らばっていた部族を呼び集めているらしい。今は五十人を超えたと聞いている。


 美しい闇の戦士たちの姿を遠目にして、二人が呻く。文武両道、奇襲と計略のダークエルフ。それが集団なのだから怖いよね。分かる。でも俺の味方なのだ。


「君たちに求めるのは、別の事。これから戦闘は日常的に起きる。戦えない人たちにはきついだろうから、それをなだめてほしい」

「……先日もカルロが伺いましたが、我々は戦わなくてよいと?」

「戦力は足りているよ。日々の仕事もあるし、無理はいけない。……ただまあ、戦いの場でも人手はあった方がいい。その気がある人がいたら、あとで教えて。賃金出すよ」


 二人は顔を見合わせる。まあ、すぐに結論が出る話じゃない。周囲とよくよく話し合ってもらえばいい。


「さて、話は以上だ。くれぐれも、オーナーの話は黙っている事。皆を不安がらせるだけだからね」

「……何でそんな話を俺らにしたんすか」


 聞かなきゃよかった、と顔に書いてあるカルロ君。俺は笑顔で返してやる。


「理由も知らされず、ただ彼らの不安を押さえろと言われたらどうする?」

「そりゃあ……」


 言葉が出てこない狩人に、続きを伝える。


「不満が溜まるだろう? 行きつく先はろくなものじゃない。だからこそ知っておいてもらうのさ。君たちは、責任者だからね」


 カルロ君は心底嫌そうな顔をした。ジルド殿は、顔を引き締めて頷いた。……同じ言葉でも歩んできた人生、学んできた事柄によって受け取り方がこうも変わる。かつての俺はカルロ君側。今の俺は……ジルド殿側に、居ることができているかなぁ?

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― 新着の感想 ―
[一言] 権利とは義務を果たす事で生まれる。ダンジョンにお世話になる以上、最低でも邪魔をしないようにするのは当然のこと、責任者は大変だ。
[良い点] 社長! これは若社長(ダンジョンマスター)ですわ……
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