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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
一章 ダンジョンはコボルトからはじめよ
9/207

アルクス帝国昔話

 時を遡ること約三千年前。歴史に一人の男が現れる。本名、不明。種族、不明。目的、不明。能力、ほとんど不明。分かっているのは神秘のアイテム、ダンジョンコアを作れること。異界に自由に移動できること。人呼んで、ダンジョンメイカー。


 彼は異界から一人の魔術師を連れてきた。そしてその人物にダンジョンコアを渡し、マスターとした。いかなるやり取りがあったかは伝わっていない。ともあれ、はじまりのダンジョンとそのマスターが誕生した。


 始まりのダンジョンマスター、後にアルクス帝国の祖となった人物。始祖たるその人の名もまた伝わっていない。様々な尊称で呼ばれるが、もっぱら「最初」であることからオリジンと呼ばれている。異界の魔術師、始祖オリジン。はじまりのダンジョンを運営し、戦力を蓄えていった。次々と襲い掛かってくるモンスターを糧に。


 ダンジョンメイカーは、始まりのダンジョンに二つの特別な部屋を追加した。ダンジョンの生み出すコインによりモンスターを召喚する部屋。それと、様々な施設を増やす部屋。後にはじまりのダンジョンから離され、様々な機能を追加され。それぞれ独立した組織となる。モンスター配送センターとデンジャラス&デラックス工務店に。


 時が進みダンジョンは増えていった。その性質上、滅びたダンジョンもあったという。ダンジョンメイカーはそれに対して何もしない。異界から、またはこの世界から新しいマスターを用意しコアを与え続けた。


 多くのヒトは、ダンジョンを恐れた。当然だろう。モンスターの住処で、周囲の怪物を呼び寄せるのだから。誰が好き好んでいくだろうか。……いや、いたのだ。その恐ろしい力を求めるものたち。コアを、コインを、マスターを、財宝を求めるものたち。


 あるいは、弱いが故にその力の庇護を受けようとするものたち。ダンジョンとヒトの交流。命のやりとりもあれば、助け合いの交流もあった。やがて、様々な理由からダンジョンマスターとヒトとの間に子供が生まれた。


 これが、ダンジョンの子『ハイロウ』の始まりである。


「最初はそんなにヒトとかわらなかったって聞いてます。だけど世代を重ねていくうちに力を増していって。今じゃあ、ハイロウのはな垂れガキは、そうでない種族の熟練戦士を蹴散らします。寿命だってエルフに迫る勢い。そして、美男美女ばかりとくればもう。選民思想にどっぷりになっても不思議はありませんわ。実際、特別な血族なわけですしな」


 肩をすくめるレナード氏。……エルフいるんだという俺の驚きをよそに、彼の話は続く。


 ハイロウたちの数は人間ほどには増えなかった。エルフと同じ程度とか。しかし、ダンジョン内に住める数には限りがある。能力は高かったが、モンスターの特異性を上回るほどでもなかった。


 そんなわけで、彼らはダンジョンの外に町を作るようになった。ダンジョンからの支援もあり、それは難しいことではなかったという。そしてそれは、この世界では極めてまれな例だという。


「ドワーフには山が、エルフには森がありました。なのでこの二種族は例外とします。それ以外の種族にとって、住む場所を作るってのは楽なことじゃありませんでした。なんと言ってもモンスターがいる。ダンジョンから出てくるって話じゃありません。元々、この世界にゃいっぱいいたんです。時にはよその世界からもドバっと来ます」

「ドバッと」

「ええ、始まりのダンジョンが出来て以後も時々。滅びる国もそこそこありますし、運が悪いとダンジョンも滅びますね。……話を戻しましょう」


 村が町へ、そして国へと変わるのにそれほど時間はかからなかったという。ハイロウの、ダンジョンの力を頼って様々な種族が集ったというのが理由の一つ。次々と襲い掛かる脅威に、ダンジョンマスターが横のつながりを求めたのもそれになる。


 かくして。はじまりのダンジョンを中心としたマスターの寄り合い所帯。ダンジョンを頼り、同時に守ろうとするハイロウたちの国。帝国の前身、アルクス王国はそのようにして生まれた。


 ハイロウたちは当然のように、支配者階級だった。しかし、彼らは国を治めることにそれほど魅力を感じていなかった。彼らの故郷はダンジョンでありそこで働くことこそ求めること、栄誉あることだった。


 しかし、ダンジョンでのハイロウたちの席は少なかった。コインさえあれば復活できるから、死亡や怪我での交代もまれ。寿命も長く就労期間も相応。狭き門だったのだ。なのでせめてダンジョンを支える場所で働けないかと門を叩いた先が、配送センターと工務店だったのだ。


「この流れは今でも変わってません。だもんで、そこで働いてるのは大抵良家の坊ちゃんお嬢さんで。その血筋の上にはながーい歴史をもつダンジョンがある感じです」

「エリートオブエリートって感じなのかー」


 ヤルヴェンパー女史、やはりお嬢様だったか。高嶺の花が確定した。


「そして王国成立から約二百年。最初の内乱が勃発しました」


 理由はいくつかあったという。王国の力を妬んだ外国の扇動。圧倒的力をもつ始まりのダンジョンとその血族、つまり王への反抗。家同士の仲違い。ともあれ、内乱は起きた。それぞれ実家であるところのダンジョンから戦力を借りたそれは、よその国の内乱よりも遙かにひどい被害を出したという。


 外国の侵攻を招くほどに。


「まあ、全部跳ね返したあげく逆撃したんですけどね。結果併呑されたり属国にされたのが結構あったそうです」

「内乱でガタガタじゃなかったの!?」

「地力が違いますよ、地力が。そしてこれがアルクス帝国の始まり。今に続く複雑怪奇な派閥争いの土壌となったのです」


 埋めがたい格差が生まれた。国単位でいえば、勝者たるアルクス王国あらため帝国と負けた各属国。敗者たちは帝国の頸木を逃れるために様々な策謀を企てる。戦争に巻き込まれなかった国も、次は我が身と備え始める。


 帝国内部でも、違いが生まれた。ハイロウたちでさえ、ダンジョンと繋がりがある者とない者という彼らにとって致命的な隔たりが生まれた。それのあるなしは、経済的にも精神的にも絶対な差があった。


 勝者と敗者、ダンジョン、各種族。はじまりのダンジョンを祖に持つ皇帝家による統治はある。厳格な法も、強大な軍事力も。それから隠れ、あるいは手の届かないところで大小様々な争いが起きる。小競り合い、紛争など日常茶飯事。陰謀策謀挨拶代わり。時に内乱、戦争、異界侵略からの防衛。


 内外争って三千年。それでもなお繁栄を続ける覇権国家、それがアルクス帝国である。


「平和って、何?」

「次の戦争のための準備期間、という悪い冗談はさておきですな。いろいろ言いましたが、基本的にはうまくやっているんです。法を守って互いに手を取り合って」

「で、隙を見て殴りかかると」

「大義名分が立てば、ですな」

「上品な蛮族どもだ」

「あっはっは、お上手ですな」


 目笑ってないよレナードさん。しかし、これだけ火種があって滅んでないってどういうことだ。やはり皇帝家、さらには始まりのダンジョンがそれほどまでに強大だと言うことなんだろうか。


「さて、それではいよいよ本題。デンジャラス&デラックス工務店がどうしてああなのか。……ここまでの説明で、ある程度予測はつきますよね?」

「配送センターと工務店の派閥争い」

「うーん、足りません。それに加えて、工務店内部での派閥争いも追加した結果がアレです」

「ひどすぎる」


 ダンジョンと縁をもてない帝国貴族たち。これが工務店内の最大派閥である。次に商業派閥。ダンジョンから生まれる様々な利益にあやかろうとする者たち。そして、有象無象の少数派閥。二派閥のやりとりの陰で利益を得ようとする者、足を引っ張ろうとする者、外部勢力からのスパイなどなど……。


 これらが集まって、なぜあのぼったくり値段になるのか。当然ながら相応の理由がある。まず、帝国の法として『貴族がダンジョンへ過度の援助をしてはならない』というものがある。金でダンジョンとの縁を買うということが出来ないのだ。


 この法が定められそうになったとき、多数の貴族から反対の声が上がった。ダンジョンで働けないならせめて金銭的援助を、というハイロウも当時は多かった。しかし法は定められた。なぜか。


『金貨袋で太るのはダンジョンの正しい成長ではない。止めるべし』


 始祖オリジンの鶴の一声があったから。帝国三千年の歴史の中でも、始祖が帝国の政治に関わったのは数少ない。ダンジョンメイカーと同格とされる、神のごとくあがめられる存在からの言葉とあっては逆らえる者はいなかった。 


 ともあれ、この鶴の一声が影響しているため貴族が直接的アプローチでダンジョンと縁を結ぶのは難しくなっている。配送センターと工務店にハイロウたちが集う理由の一つである。


「この二つに入っていれば、ダンジョンマスターと合法的に知り合えますからね」

「狭き門すぎる」


 が、まあ当然のことながら。ただ話す程度では深い縁を結ぶには難しい。悩む貴族派閥に手を貸したのが商業派閥である。金に強い彼らは言った。譲渡は駄目でも、借金は禁止されていないと。


「それかぁぁぁ! 高額設定の建築物で金を使わせ、貸元になって縁を繋ぐ、か!」

「借金返そうとあの手この手をするから、ダンジョンは鍛え上がる。金貨袋で太るのとは違う。グレーゾーンだとは思いますが、少なくとも帝国は動いてません。商業閥は金が稼げて、貴族閥は縁が繋がる。まー、ピンキリですけど、中にはそれなりに良い関係になってるところもあるらしいですよ? 外からの評判は悪いですがね」


 ずいぶんとまあ、ひどい話である。そこまでやるほどに、ダンジョンを求めるのか。他種族を圧倒する性能、大帝国の支配階級。しかしダンジョンからは逃れられない。……ハイロウというのも、難儀な種族だ。


「とはいえ、これはあくまで工務店の高額設定の主な理由の一つでしかありません。ほかにもいろんな思惑や思想でこの状況を作っているんでしょう。その辺はさすがに、自分にはわかりかねます。……とまあ、長々と語りましたがご納得いただけましたか?」

「ええ、ありがとうございました」


 おかげでいろいろ分かった。ダンジョンメイカー、あるいは始祖オリジン。上にいるだれかは、ダンジョンに強くあってほしいらしい。そのためならば、俺たちが苦労するのは許容する、と。


 いつか一発殴りたい。……それこそ三千年かかりそうだが。

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[一言] ダンジョンの外に町を作ると、ダンジョンはどうやって侵入者を食うの? やはり人を食うしかない?それとも取引?
[良い点] 世界観がしっかりしていていいね(≧∇≦)b
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