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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
四章 汝、味方を欲すならば迷宮の外を見よ
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お許しくださいスポンサー様

 改めて、ハイロウという存在についてざっくり語ろう。彼ら彼女らは、ダンジョンに住みたいという願望を持っている。その為に力を、金を、権力を集める。


 しかしいくつもの街を持ち、沢山の人々を従えてもなおその望みはなかなか叶わない。それがハイロウの現状である。


 そんな彼ら彼女らに、致し方が無いこととはいえ自分たちではないものが沢山ダンジョンに住むことになったと伝えたらどうなるか。


 機嫌を損ねる。


「……なるほど。状況はわかりました」


 俺の住む屋敷の地下。移動させたコアルームにて、俺はロザリー殿と通信していた。彼女の後ろにはクロード殿も立っている。二人は済ました表情ではあるが……残念、尻尾が感情を物語っている。


 ロザリー殿は椅子の下で音がしている。多分、尻尾で床を叩いている。ネコ科が不機嫌な時にやるやつだ。


 クロード殿の尻尾は見えない。いつもだったら左右に振っているのに、だ。つまり身体に沿ってまっすぐ立っている。イヌ科が警戒や威嚇の時にする仕草だ。


「確かにダンジョンの立場を示した現状ならば、そのような振舞いをしなければなりませんね」

「まったくですな。上に立つ立場として当然かと」


 このように、理解を示す発言をしているが全く納得できていない様子。俺としてもそれは当然の事だと思っているので、手札を切る。


「はい。ですが、私のダンジョンにとっては大きな負担であることに間違いはありません。なので、普段以上のご支援をお願いしたいと思いまして」

「調査隊の増員の他に、何か?」

「あらゆる面で、お力添えをいただきたい。まず純粋に人手、特に事務仕事ができる人をお借りしたい」


 人が増えれば金と物の動きが激しくなる。それを効率的に管理しようとすれば、事務仕事は当然増える。ダンジョンの事だけなら俺とガーディアン達だけで何とかなるが、これから先の事を考えれば絶対的に足りない。というかもう現状で足りない。


 俺も元社会人。書類を書くこともあればパソコン入力することもあった。だが、それはあくまで限定的な物。日本の量販店店員としてのスキルでしかない。


 百人を超える人間を養う物資の継続的な購入とか、どうしろというのだ。ただ注文すればいい、というものじゃないんだぞ。いやまあ、ケトル商会は最初の一回をさっくりそろえてくれたんだけどね?


『ミヤマ様はこれまでの間に、色々な商会とつながりを持ったはず。こういう時は、そういったお店もご利用するとよろしいかと』

『儲けを、ほかの店にわたしてもいいの?』

『もちろん良くはありませんとも。ですが独占してますと、風評が悪くなるものでして……』


 と、狐耳のオッサンことレナード氏。言わんとするところは分かる。それに店を一本に絞ると手間は楽になるけど、値段もその店の決めたソレだけになるからなぁ。簡単な小物ならともかく、こんなに大量購入となるとわずかな差がバカにならなくなる。


 なので、ヤルヴェンパーだけでなく、ブラントームやソウマ。さらには帝都の店までチェックすることとなり……手が追い付かなくなるわけである。寝不足だよ本当にもう。


 必要な人員はまだまだある。


「人が増えればもめごとも増える。治安維持の衛兵に、犯罪を裁く専門家だって必要。医者だってウチのメンツだけじゃ足りなくなる。生活が続けばゴミ問題。インフラの管理維持。学校、消防署、住宅地工業地商業地……」


 都市の発展、噴き出す問題。道をずびゃっとどこまでも。今日から僕が市長に!?


「もしもし、ミヤマ様?」

「はっ! すみません、悩みで目の前がぐるぐると」


 ロザリー殿に呼び掛けられて我に返る。そうだ、混乱している暇などないのだ。


「ふうむ。ともあれ、ナツオ様は都市……百名程度では村未満でしょうが。ともあれ、それを運営できるだけの人員を必要とされていると。ご当主様、ここで我らが頼れる存在であることをしっかり示す良い機会かと」

「ええ、それはもちろんです。早急にご用意いたしますとも」


 と、請け負ってくれた。……しかし、快諾には程遠い。やはり、自分たちよりも先にダンジョンに住む連中が腹立たしいのだろう。


 そして俺としても、一方的に借りを作るつもりもないのだ。


「ありがとうございます。よろしくお願いします。……それで、ですね。お返しに、というには若干難があるんですが。件の都の屋敷を一軒、ブラントーム家に貸し出したいと考えているのですが、どうでしょうか?」


 この一言に、映像の向こうの二人は一時停止を押したかのように動きを止めた。一秒、二秒、三秒。ロザリー殿の羽根が思いっきり広がった。クロード殿がほぼ隠れた。


「ダンジョン内に、我が屋敷!?」

「本当の持ち主が返ってくるまで、自分が預かっている物なので又貸しというのがなんともアレなのですが。もし返却となりましたら、改めて新築を進呈するという事でとりあえず貸し出しなんですが、どうでしょう?」

「是非に!」


 わっさわっさと動く羽根。クロード殿がなにか言いたそうにしているがキャンセルされている。


 先に住まれて腹が立つなら、家を用意してあげたらどうか。という我ながら大変浅い考えだったのだが、喜んでもらえたようだ。


 もちろん、貴族としての仕事が沢山あるだろうから、常時住むなんてことはできないだろうけど。すっかり機嫌がよくなっているのだから、これでいいのだ。


「ナツオ様! 具体的には、どの程度の広さなのでしょうか! ナツオ様のお住まいとはどれほどの距離とか!」

「それは重要ですね叔父様!」

「えー、それに関しましては現地で候補の物件を見ていただいて決めていただこうかと……」


 予想外の、いや予想してしかるべきな盛り上がりを見せる二人を何とかなだめて。とりあえずの援助を確約してもらった。近日中にダンジョンに来訪されるとの事。


 ブラントーム家への報告は終わった。次は、ヤルヴェンパー家……なのだが。直接連絡を入れるのはちょっと考えてしまう。


 ロザリー殿の方はいいのだ。いってみればメインのパトロン。俺が頼れば頼るほど、家の名声が上がるらしいし。


 しかしヤルヴェンパー家は違う。大海竜ヤルヴェンパー様の家臣。ダンジョンに直接仕える家だ。縁があるとはいえ、露骨に頼っては問題が出るらしい。エドヴァルド殿も家臣やら周囲やらからいろいろ言われてしまうとか。


 なので、ワンクッションを置く。……大丈夫。俺は冷静だ。


「はい、こちらモンスター配送センター……です……」


 初めは元気がよかったイルマさん。俺の顔を見て、勢いがゆっくりになっていく。嫌悪ではない。それだったら俺はぶっ倒れる。彼女の顔は若干赤い。きっと俺も赤い。


 色々と、思い出してしまう。なんとも、言葉が出てこない。少々の間、お見合い状態が続いてしまった。


「……どうも」

「はい、どうも……」


 何とか声を出した。相手も返してくれた。……困った。脳が停止する。感情が暴走する。冷静な俺は何処へ行った。うん、イルマさんの顔を見たら行方不明になってしまった。きっとトラックに跳ねられて異世界転生してしまったに違いない。


 イルマさんが、目を閉じた。大きく深呼吸した。そうか、視覚情報をカットすればこの状態を一時的にもキャンセルできる。流石だ。俺もまねをして、若干ながら冷静さを取り戻す。


「ご、ご用件はなんでしょうか!」

「あっはい! ええとですね、実はうちのダンジョンにですね……」


 再起動成功。やっとこさ、現状についての説明に入る。一度そうなってしまえば、お見合い状態に戻ることはなかった。


「……と、いう状態でして」

「継続的な、他国からの流民ですか……」

「はい。正直これはもう、いちダンジョンマスターの手に余る問題です。帝国の介入を求めたいのですが、伝手が……切り札しかない」


 切り札と書いてジョーカー。髑髏と鎌。トラブルの象徴。間違ってもババとかいってはいけない。笑いながら蹴っ飛ばされる。


「その方は、安易に頼ってはいけないかと」

「分かっています。というわけで、エドヴァルド殿にお話しを持って行ってもらえないかと連絡した次第で」


 イルマさんはふうむと唸る。……俺が直接帝国のしかるべき窓口に相談をかけるというのが筋だと思う。だが、まったく伝手のない状態でこの申し出をしたらどうなるかわかった物じゃない。ジルド殿達にも約束した。


「今後の事を考えると、なるべく穏便に事を収めたいんですよ。帝国軍でドカーンは、避けてほしいという思いがありまして」

「ええ、はい。それは分かります。……そうですね、おそらくですが。公爵様がナツオ様のお望みの通りに事を運んでくれるかと思います」

「それはすごくありがたい……のですけど。大丈夫ですかね? かなり無理を言っているのは自覚してるんですが」

「私も、ただの推測なので詳細はご説明できないのですけど……まあ予想が外れて最悪な話になったとしても、止める術はありますので」

「……それは、聞いてよい話です?」

「はい、簡単ですよ? ミヤマ様が直接ヤルヴェンパー様にお話していただくだけです。我らがダンジョンマスターのお叱りならば、どこの誰だろうとただでは済みませんので」

「で、しょうねぇ……」


 帝国の大重鎮であるダンジョンマスター。それこそオリジン先輩でもない限り、抗えるものではないだろう。


 ……大海竜様がダンジョンマスターでよかった。そうでなければ、海から上がって街を破壊する例の大怪獣のソレのような惨劇もありえただろうから。


「それでは、諸々のお話の為に近々公爵様とダンジョンにお邪魔させていただきます」

「はい、お待ちしておりますー」


 映像が消えた。俺は大きく息を吐く。……いかーん、いかーん。今は大事が起きているんだ。個人的感情は置いておかねばならんというのに。


 頭を振る。気持ちを切り替える。とりあえず、連絡は終わった。次の仕事にとりかかろう。そろそろ、各現場で俺の手が出せる仕事もできたのではなかろうか。顔を出してみよう。進捗を見ることもできるし。


 そして、できる事なら今日中にもう一仕事を終わらせたい。ダンジョンコイン稼ぎを。

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― 新着の感想 ―
[一言] ??? 「みみみ皆さん落ち着いてください、一旦死ぬの辞めましょう。」
[一言] 根回し大切!
[一言] ブラントーム家のダンジョン別荘かぁ、またブラントーム家内部で争奪戦が始まるのは目に見えてるんだけど最悪は一年交代制と赴任者を除いた上位評価者を来年の交代要員にするって言われたらかなり張り切っ…
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