祭りの前に
Q:何故、ダークエルフの神は何も言ってこなかったの?
竜の背に、音を置き去りにして岩が直撃した。隕石だ。強大なる呪文によって天より呼び寄せられたそれは、致命的な威力を備えていた。
鉄板よりも硬い鱗を割った。強靭なる筋肉をちぎった。強固極まる骨を砕いた。そして瞬時に押し出された大量の血液は、その勢いのままにあらゆる臓器を破砕した。
いかに竜が恐るべき怪物であったとしても、これはどうしようもないものだった。そして、天よりの災厄はそれだけに止まらなかった。
隕石衝突の衝撃で飛び散った竜の肉や骨は、周囲の魔物の命すら奪った。元が硬いものであるから、当たれば無事では済まなかった。
オーガやトロールといった、常人であればたちどころに殺されてしまうような魔物がこれによって何体もその身を砕かれた。ほかにも、命だけは助かったが無事ではない魔物が多数。大惨事であった。
その有様を、眺める者がいた。複数である。それは外壁の監視塔にいる軍の観測員。魔導大学が放った使い魔。そして姿隠しの呪文を使って空高く舞い上がったグリフィンだった。他にもまだまだいる。
それぞれが、それぞれの方法で対象に情報を送る。グリフィンが呪文によって意思疎通を行ったのは、帝都内部にあるとある運動場だった。そこに集まっているのは、不揃いの武具を纏った雑多な戦士たち。帝都市民による義勇兵団である。
「情報来ました! 軍によるメテオストライク、無事ドラゴンに命中。効果大だそうです」
「ほかに大物は居るか? 亜神級は?」
「……第一から第八門、目視確認。今の所、姿なしだそうです」
「ふうむ……いや、まだ油断は出来んな。引き続き監視を頼む」
「伝えます」
通話役の呪文使いと、場の指揮を担当する貴族。伝令役の市民があちこちに走っていく。このような光景が、帝都のあちらこちらで行われている。
大迎撃。帝都守護騎士団やアルクス帝国軍だけでは対処できないモンスターの群れに対し、帝都にあるすべての戦力が動員される一大事。
その陣容。まずは最大戦力、最大火力を誇るアルクス帝国軍。帝国の英知を生み出すアイトリアー魔導大学。モンスター配送センターのテイマー魔獣軍団。デンジャラス&デラックス工務店の協力商業連合。そして帝都守護騎士団と市民義勇兵団。
帝国近隣の国家など一日で滅ぼせる大戦力。戦う目的はもちろん、帝都の防衛。侵入者の撃退、ではない。自分たちと帝都機能が守れればそれでよい、とされている。なのでモンスターの目指す場所である『はじまりのダンジョン』に到達されても、問題は全くない。咎められることもない。
当然の事だった。帝国開闢以来、一体どれだけのモンスターがあの穴に飲まれた事か。たった一匹たりとて、出てきた記録は残っていない。竜だろうと亜神だろうと、形容しがたいおぞましい怪物であろうとまるっと一飲み。それがはじまりのダンジョンである。
そのような環境であるため、この大迎撃は祭りの色を帯びている。もちろん、命の危険はある。財産の破損も問題だ。都市機能がマヒしている件も看過できない。
だが、普段出せない全力をぶつけることができる。研究の成果を叩きつけられる。モンスターたちの訓練になる。貢献によって店の宣伝に成ったり褒章が出たりする。市民権の獲得や維持に役立つ。
特に気合を入れているのは、市民義勇兵団に交じっているダンジョンガーディアン候補たちだ。彼らはここで名を上げて、ダンジョンへの紹介を夢見ている。
ミヤマダンジョンのエラノールも、かつては同じように戦っていたのだ。……まあ、彼女の場合一向に声がかからず、最終的に実家のコネに縋ったという背景があったりもする。
脱線した話を戻す。つまるところ、この恐るべき襲撃を楽しめる戦闘力と気骨が無ければ帝都に住む事は出来ない。各国大使館の職員たちや、たまたま帝都を訪れていた旅行者(たとえばミヤマダンジョン周辺の領主達)の様に、蒼い顔をしてシェルターに籠る事しかできないのだ。
そしてここに、楽しむでも怯えるでもないものが一人。デンジャラス&デラックス工務店本店ビル。その上階の一室。窓の外で行われる血生臭い乱痴気騒ぎを忌々しそうに眺める、白髪の痩せた老人がいた。
工務店の役員たるモーガン・クローズ子爵は、机の上の旅行カバンを開く。携帯電話。魔法使いたちに知られることなく情報をやり取りできる特別な機械。
「私だ。サイゴウダンジョンの状態を知らせろ」
小さなラッパのような器具を耳に当て、聞き取り辛い声に耳を澄ます。眉根に皺が寄る。
「……わかった。方法は問わない。戦力を復旧させろ。サイゴウも持ち直させろ。……ああ、そちらもだ。やれる事は何でもだ」
同じ形をした器具に声を吹き込む。魔法も使わずどうやって声を届けているのか常々不思議ではあるが、仕組みを聞いた事はない。そんなことを理解している時間などないのだから。
「それで、バルコ国の方は? ……そうか。ああ、それでいい。……動かせるものは全部だ。かまわん、やれ」
聞くべきことを聞いて、伝えるべきことを伝えた。あとはいつも通り操作をして、カバンを仕舞う。片付けは部下の仕事だ。なによりこのカバンは重く、老いた彼には辛いものがあった。
唐突に、窓の外で雷鳴が轟いた。見やれば、霧の身体を持つ巨人が帝都の空に浮かんでいた。精霊の性質を併せ持つ巨人、フォッグジャイアント。己を薄く引き伸ばして、警戒を潜り抜けたようだ。
そして両手で掲げる稲妻を、ある一か所目がけて叩き込もうとする。アルクス帝国軍大学。帝国軍の攻撃用儀式場が設置されている場所だ。あそこを落とされてはメテオストライクが使えなくなる。
フォッグジャイアント目がけて、いくつもの魔法が放たれる。輝く矢、熱線、爆発火球。しかし、遅い。稲妻が、解き放たれる。
だが。
「……その程度で帝都が揺らぐなら苦労はないのだ」
モーガンのつぶやきと同時。稲妻が消滅した。アイトリアー魔導大学からの対抗魔法が間に合ったのだ。先手を打って脅威を打ち倒すのが軍の役割。魔導大学は妨害をもって帝都を守る。大規模魔法のいらぬ相手ならば、帝都の兵力が暴力で歓迎する。
正に今、フォッグジャイアントが帝都の歓迎を受けている。先ほど放たれた魔法だけではない。出現に気づいた各勢力から、集中砲火を浴びせられている。
あれでは、いかに強靭強大なる巨人といえども長くは持たない。討伐まで、それほどかからないだろう。
これが、帝都の強さ。そして、たとえ帝都が焦土と化しても変わらずあり続けるのが『はじまりのダンジョン』。ここが無事である限り、帝都は蘇る。何度でも。
「だからこそ、帝国には不幸が必要なのだ……」
この世の終わりかと思えるような、怪物の大進撃。それを嬉々として迎え撃つ帝都の住人達。モーガンは、うんざりとした表情でそれを見下ろしていた。
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まことに唐突ではあるが。ここで、この星の創世神話について語らせてもらおう。
はるか遠い昔。星から星へ旅する神がいた。
始祖神ジャガル・フォルト。飛星之大君。
良き星を見つけては、眺め楽しみ。
悪しき星を見つけては、悲しみ学び。
そして滅びる星を見つけては、残されたものを旅の友とした。
やがて、長い長い旅の末。一つの星を見つけた。
冷たく乾いた風の吹く、大きな土くれの星。
ジャガル・フォルトはその星に大きな氷と大きな石を降らせた。
石は真っ赤に燃え上がり、星を温めた。
氷は温かさに溶け、海となった。
程よく熱が冷めた頃をを見計らい大地に森を、海に魚を広げた。
それらがよく増えたのちに、旅の友を星に下ろした。
そして、友である神々に星の守りを任せ、永い眠りについた。
ジャガル・フォルトは夢を見ながら、皆を見守っている。
はるか昔から語り継がれる物語である。
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はじまりのダンジョン。その内部のほとんどは秘密に包まれている。帝国黎明期、まだ王国を名乗っていた頃は人々の出入りがそれなりにあった。しかし帝国と名を変えて数十年経った頃には、一般人の立ち入りは禁止された。
今では、ごく一部の人員および皇族だけが立ち入りを限定的に許される程度。それも、表層部のみ。深部がどうなっているか、知っている者はオリジン騎士団などダンジョンに所属する物のみとなっている。
実際にはどのような構造になっているか。実を言えば、極一部を除きそれほど特別というわけでもない。上層から中層にかけては、ひたすら罠と迷路と戦力が配備されている。侵入者を消耗させたのちに倒す。ダンジョンの基本構造である。
下層部は、居住区と産業区がおかれている。騎士団やダンジョンのモンスターが住まう場所。質と広さこそ最上級であるが、特別際立っているというわけでもない。
他のダンジョンとの決定的に違うものは、最深部に存在する。そこはこの星でただ一人、オリジンのみが立ち入ることができる階層。長年苦楽を共にしたコボルト達でさえ、立ち入りを許されない場所(警備や清掃、設備修繕用ロボットは例外とする)。
そこにあるのは、三階建てのビルが入る程度の開けた空間。中央に、機械でできたアーチ状の構造物がある。ゲートだ。ただし、ダンジョンで使用されているレイライン転送システムとは別系統。
これは個人用ワープゲート、である。転送距離は、それほど広くはない。星系最外縁あたりが限界である。そして実際、それほど遠くに移動するためにあるわけでは無い。
移動先は異界。異世界、ではない。この世界の中にある、壁一つ隔てた違う場所。妖精界や地下世界。この世界にはないが天界地獄といった区分に分類される場所。名の無き隣接異界に、それはある。
機械化惑星。決戦世界を支える中枢部。ダンジョンコアの生産地にして制御システム。グランドダンジョンコアの設置された星。
何故、そんなところにこの星があるのか。極めて厳しい物理法則が原因だ。惑星規模の大質量が隣接して存在するとどうなるか。互いの引き合う力によって星が崩壊してしまうのだ。いわゆる潮汐破壊現象である。
では離れた所に置けばいいではないか、という当たり前の意見も出るだろう。しかしそうすると、今度はダンジョンのコントロールに支障をきたす。星に宿る力の流れ、レイラインを利用している為物理的な距離が離れると操作が至難となるのだ。
結果、このように重なり合うように機械化惑星を設置することとなった。ここまで至るのに紆余曲折あったのだが……余談である。
話を戻そう。機械化惑星の表層部に、巨大なドーム状の建物が存在する。多次元観測装置。あまたの世界の状態を観測する、この星でも極めて重要な施設である。
その中に、一つの部屋がある。異世界の状態を表示するそこは、まるで星空を映し出すプラネタリウム。もっとも、星がそれぞれ毒々しい色に塗り分けられているため間違っても感銘は受けたりはしない。
なにせ、そこは侵略存在の占領地。まともな生命体は、一匹たりとも残っていないはずなのだから。
オリジンは、その部屋にいた。隣には、赤髪の少年の立体映像が浮かんでいる。忌々しいはずの星空を眺めるオリジンの表情は、しかし穏やかなものだった。
赤髪の少年、グランドコアが訝しむ。
『ご機嫌だな、友よ』
「あ? わかる? 今度のお祭りに相撲がくるのよ相撲。今度は本格的にやってくれるって話で楽しみでねー」
『……君が楽しそうで何よりだ』
映像が変わる。星の一つが、拡大されて映し出される。そうされるだけの理由が、その星にはあった。
巨大な塔が、その星にはあった。宇宙まで到達している。軌道エレベーターのようであるが、目的は別。そのようなものをわざわざ見つけ出したりはしない。
「いやあ、立派に育ってるねぇ。集合意識塔」
『過去観測した中で、最大規模のそれと同等であると認識』
ゼノスライム。数多の生命を取り込み、己に蓄えるもの。ただ単純に食料とするのではない。飲み込んだそれの情報を保存し、必要とあれば再生する。
もちろん再生されたそれは、元の生命と同じではない。何より魂がない。だが、それでも役立つものは多々ある。
本来思考能力を持たないゼノスライムは、再生したこれらを繋ぎ合わせて利用している。幾千幾万幾億。数え切れぬ犠牲者たちの集合意識。その絶望と悲嘆、自己崩壊によって生まれる精神波によってゼノスライムは次元の壁を超えるのだ。
そう。この集合意識塔はゼノスライムによって出来ている。星一つでは収まらない。この世界の幾多の生命を食い荒らして作られた、屍の塔である。
オリジンは、深々とため息をつく。
「毎度のことだけど、見逃してたら負けてたね」
『あれの精神波の直撃を受ければ、我らとて崩壊を免れない。早期発見こそが唯一の勝機』
「一本作るのにクッソ時間かかるのと、完成に近づくことで精神波が漏れ出すのが唯一の救いだよね……」
再度、オリジンはため息をつく。そして頭を振るうと、気迫溢れるまなざしを塔へと向けた。
「よし。それじゃあいつも通りカタしちゃおう! ジャガル・フォルトに協力要請!」
『了解。要請送信……接続。多次元移動型要塞ジャガル・フォルト、次元穿孔システム準備開始』
光の速さを越えた通信によって、それは待機状態を解除した。この星系の一番外側。肉眼では絶対に見ることのできない場所に、それはあった。
なにせ、それは大きすぎるのだ。形は、底辺の長い三角形。ただし、底辺の長さは地球約三個分、高さは地球約二個分である。
これぞ、多次元移動型要塞ジャガル・フォルト。はるか遠い昔、遠い異世界にて銀河を支配した超文明に建造された超巨大建築物。ダンジョンのある星をテラフォーミングし、己のメンテナンスのために機械化惑星を作った存在。
異なる世界に移動するためのシステムを、入力された座標に向けて起動する。
『恒星炉よりエネルギー伝達。次元穿孔、順調。……次元穴、開通』
空間が、歪んだ。その先に、ありえざるものが観測される。ゼノスライムの支配惑星だ。
「シールドおよびレギオンコンテナ準備!」
『封神区画のレヴァランスより神力抽出。ジャガル・フォルトのシールドを強化……精神波、到達を確認』
ジャガル・フォルトが、揺れる。惑星の何倍もの質量がある存在が、である。集合意識塔からの攻撃だ。なにせ、世界に穴をあけるほどのサイコキネシスである。この程度の事はできて当然。
それでも、目立った損傷がおきないのは強化したシールドのおかげ。流石は神の力である。強制的に力を抽出される方はたまったものではないだろうが、世界崩壊を策謀してしまうその性がある限り解放できないのだから仕方がない。復活されないためにも、決戦の終わるその時までこのままである。
『レギオンコンテナ、準備よし』
「電磁加速で射出!」
ジャガル・フォルトから、十階建てのビルほどのコンテナが無数に射出される。ほとんどは、精神波の余波で崩壊する。さながら正面衝突した車の様に、ぐしゃりと。
しかし、偶然にもそれを避けられたわずかなものが世界の穴を抜ける。開いたコンテナから現れるのは、デコイである。ほかならぬ、クローン培養したゼノスライムを詰め込んだデコイ。
これも、疑似的ながら精神をもつ。故にゼノスライム側はこれを認識し、惑わされる。なにせ、何百何千というデコイが放出されるのだ。なまじ集合意識をもつだけに、理解しようとしてしまう。それが決定的な隙を生む。
『デコイ到達。精神波攻撃、減少を確認」
「毎度毎度よく引っかかってくれるわ、本当。このままずっと間抜けであってほしい。次の手はたくさん準備してあるけど。……惑星破壊砲、発射準備!」
ジャガル・フォルトの船首部分、主砲の保護装甲がワープシステムによって瞬時に移動する。それ自体が大きすぎて、移動に何日もかかってしまうから。
その巨体の中心部にある恒星炉からエネルギーが抽出される。名前のとおり恒星がそのまま一つ、詰め込まれているのだ。その膨大なエネルギーが、小惑星サイズのコンデンサーに蓄積される。
本来ならば、それには時間がかかる。が、オリジンたちには、それを即座に進める方法が存在した。
「ダンジョンコイン、投入開始!」
『コインのエネルギー化、開始。コンデンサーへのエネルギーチャージ、加速を確認』
ダンジョンコインとは、物質化させた霊的エネルギーである。世界が違えば魔石などと称されるこれを、オリジンたちは大量に蓄えている。
どうやってこれを稼いでいるのか。もちろんダンジョンで、だ。ある時は侵略してきたモンスターを引き込んで。ある時は自分たちから世界を渡って。
敵を食いつぶして作ったエネルギーで、敵を叩く。この三千年、ずっとこれを繰り返してきたのだ。だからこそ、今日までこの絶望的な戦力差でも戦い続けられている。
ジャガル・フォルトに送り込まれたダンジョンコイン。膨大なそれが赤いエネルギーとなってコンデンサーに蓄積される。本来ならば数日はかかるその作業が、たったの一時間だ。
『エネルギー充填、規定値を突破。発射可能。トリガー、表示』
オリジンの目の前に、一抱えもある赤く丸いスイッチが浮かび上がる。これが、トリガーだ。彼女はそれを前にして、拳を思いっきり握りしめる。
これは必要な行為だ。相手は精神波で防御する。ならばこちらも物理だけでなく精神を叩きつける必要がある。オリジンはそれができる。三千年の激情は、伊達ではない。
「くたばれグロ生物! 惑星破壊砲、発射ぁ!」
全力で、ぶん殴った。それは、光を超える速さでコンデンサーに到達。凄まじき情念を込められた破壊の奔流が放たれる。世界を超える穴を通過したそれは、デコイやコンテナを一瞬で消滅させてゼノスライムの惑星に到達した。
空間をゆがめるようなサイコシールドが展開される。しかし、足りない。集合意識塔で再現された哀れな犠牲者をどれほど消費しても、足りない。破滅の光が、塔に到達した後は早かった。
大気が燃え上がる。海が蒸発する。地殻が割れる。核が貫かれる。破壊だ。破滅だ。世界の終わりだ。
この星にあった文明も、悲劇も、ゼノスライムも何もかもを滅ぼす光。星を砕いて押し流す。絶望的にあっけなく、容赦なく。
ジャガル・フォルトからの光の奔流が停止する。世界の穴が閉じ、主砲の保護装甲が再び現れた。
「……全部、これで片が付けば楽なんだけどね」
『無理だ。資源が足りない。……この会話は何度も繰り返している。回数を聞くか?』
「結構。わかっているけどぼやきたいの。……そういえば恒星炉の中身、そろそろ交換だっけ?」
『……確認。まだ使用可能であるとの事。交換作業は時間を取られる。……スケジュールを組んでおく』
「よろしくー……よーし、それじゃあ相撲だ相撲♪」
オリジンがスキップを踏みながら踵を返す。グランドコアは首を傾げた。
『……相撲の映像を調査した事で懸念が生まれた。競技者の服装は帯一本。そして試合中はこれを掴みあう』
「そうだけど。それが?」
『事故が起きて恥部がまろび出た場合、また君が悲鳴を上げるのではないかと』
「そーいうこと言わない!」
ぎゃあぎゃあと、二人が言い合うのをジャガル・フォルトは受信する。しかし思う所は何もない。
彼でも彼女でもないそれは、遠い昔に入力された最後の命令を実行するのみ。侵略存在、撃滅するべし。己を作った種族が混沌軍に滅ぼされ。長き流浪の末にこの世界を見出し。迎撃のために星を整備し己もオーバーホールした。
そして、志を同じくする者を見出した。迎撃も開始した。あとは、最後の一匹が死に絶えるまで続けるだけ。
決戦は、続く。
A:それどころじゃなかったから。
間章、次回で終了。