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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
間章 決戦世界のそれさえもおそらくはいつもの日常
82/207

ダークエルフのはかりごと

 ミヤマダンジョン、地下十一階。廃都プルクラ・リムネー。その防壁入り口付近。ブラントーム家から派遣されてきた作業員、調査員がさっそく活動を開始していた。


 彼らが行っているのは、活動拠点の確保である。幸い、防壁入り口のすぐ近くに、三階立ての館があった。元は衛兵の詰め所だったらしく、その名残が散見された。


 ダンジョンからスライムクリーナーが投入。コボルトのお手伝いも追加。ブラントームの作業員たちは皆モンスター。力仕事はお手の物。作業が順調に進んでいく。


 そこに、近づく人影三つ。ダンジョンマスターのミヤマ。ダリオ・アロンソ男爵とガーディアンのダニエルである。


「お疲れ様ー。作業に来ましたー」

「おお、これはマスター様。上での会議はもう終わったのですか」

「ええ。わりとさっくりと」


 カエル人間としか言いようのない調査員モンスターに、ミヤマが答える。会議というのは周辺領主とブラントーム家、そしてダンジョンマスターによる懇談会である。


 以前から計画されていたこれは、なかなかの難事だった。周辺領主は十年前の帝国の侵略をよく覚えていた。彼らもすでに帝国貴族という席に収まっていたが、わだかまりは全く消えていない。


 それを解消し、協力関係を結ぶ。一朝一夕になる物ではない……のだが。帝国としてはこの手の問題は数多くこなしてきたことだった。なのでいくつもある解決方法の内、手っ取り早いものを選択した。


「俺はまあ、多少物を見てきた経験があったからいいけどよ。ふつーの連中には刺激が強すぎたぜ、帝都はよ」


 ダリオが苦笑いを浮かべるのも無理はない。ブラントーム家が今回取った手っ取り早い手段。それは力の差を見せつける事。領主たちをダンジョンの転送室から、帝都にご招待したのである。


 城よりも高いビルディング。未知の建材でできた数々の建物。当たり前のように使われる魔法テクノロジー。どれもこれもが、彼らの認識を打ちのめすに十分だった。


 そして、運が良いのか悪いのか。大迎撃と称される、帝都の防衛戦に遭遇してしまったとの事で。ミヤマダンジョンに返ってきたころには、精魂尽き果てた様子だった。


 彼らは思い知らされた。自分たちがどれほど気張っても、どうしようもない力の差があるという事を。こうして思惑通りにべっきり折れた彼らを、ブラントーム家が丸め込む。


 自分たちの目的はダンジョン。この地方の支配に興味はない。しかし、ダンジョンに協力してくれるなら、我々としても助力する用意はある。これから様々な物資が必要になる事であるし、余剰があれば買い取る用意もある。


 絶対的な力と富の差に参ってしまった領主たち。そんな状態でこれからの展望などを滔々(とうとう)と語られればどうなるか。


 飲む以外の選択肢など、ないのである。まあ、これはあまりにも相手が悪い。帝国の経験を参照し放題の大貴族に、辺境の田舎領主達が抗える方がおかしいのである。


 現在、領主たちは地下二階の居住区で休んでいる。中には寝込んでしまった者もいる。まあ、コボルト・アルケミストのアミエーラが精神を鎮める効果のあるハーブ茶を出した。しばらくすれば落ち着く事だろう。


「ダニエルも立派だったよ。みんな圧倒されてた」

「場が整っておりましたから、楽な物でした」


 と、見栄を張って胸も張るダニエル。先ほどまで緊張で心臓が踊っていた事を隠している。今回、ダンジョンでの会議で領主達を丸め込んだのは彼だった。


 理由としては、位の問題がある。大貴族の当主であるロザリーでは、彼らと同じテーブルに座るのは問題がある。位が高すぎるのだ。重臣であるクロードでも、まだ高い。その息子のダニエルだと、流石に若すぎると不平を言われる。のだが、そこはダンジョンのガーディアンという肩書が上手く作用する。


 なにせ、帝国はダンジョンの為にあるのだ。その重職を担っている者をどうして無下に出来ようか。


 というわけでブラントーム家の者であり、位も程よいダニエルに白羽の矢が立った。彼も重臣の長男としてふさわしい教育を受けた者である。こういう時の為の勉強や練習はこなしていた。


 実践も、ブラントーム領では行っていた。だが、家の名がいまいち伝わっていないこの辺境で行うとなれば話は違う。しかも、ダンジョンに係るものだ。


 実家からの補助員がいたとはいえ、楽なものでは決してなかった。それでも見事やり遂げたのだから、ミヤマが立派と讃えたのは間違いではない。


「で? 大将はここで陣中見舞いかい?」

「いやあ。使える建物があるとはいえ、ライフライン……上下水道とかは流石に全滅だろうから。その辺を整えにね? 丁度ストックがあるんだよ。トイレとか」

「はー。うらやましいほどに便利だねぇ」

「便利だけど、困難も沢山だよ? 近場の領主から冒険者差し向けられたり」

「あー……はっは。まあ、しょうがないよな! 領主の仕事はそういうもんだから!」

「そうだね! そして襲ってくるものすべてを迎撃するのはダンジョンマスターの仕事だから!」

「「あっはっは!」」


 などと冗談を言い合う二人。ダニエルは悩む。帝国貴族として、無礼千万なダリオを叱責するべきか。否、ダンジョンの中に帝国の身分を持ち込むのは無作法。マスターが良しとされている事に口をはさむのは。しかし……と、このように。


 そんなダニエルに気づかず、二人はどんどん歩みを進める。防壁の門周辺は調査済。自由に歩き回れる。


「しかしまあ、改めて見るととんでもなく広いな。帝都と比べるのは間違っているが、セルバの王都よりは間違いなくでけぇよ」

「だよねえ。調査にいったいどれだけかかるやら。戦時だったし、罠だってあるだろうし。それが魔法による物だったりしたら、それこそ専門家を呼ばないとどうしようもない」

「ここの子孫からはまだ連絡がないのか?」

「ない。なんかねー、リンタロウ司祭がいうには複雑で面倒な話があるっぽい。エルフには聖地があるらしいんだよ。アラニオス神がこの世界で初めて降り立った地って所が」

「ああ、聞いた事が有るな。聖なる大森林。エルフたちの故郷。精霊に愛された場所」

「そうそう、そんな感じの所。で、大侵略とかで居住地から逃げ出したエルフは、そこを目指すらしい。だけどどーにも其処、だいぶ面倒らしいのよ」


 二人は、雑談をしながら見回る。もちろん仕事もする。設備を設置する場所の確認などがそれだ。後でダンジョンの機能を使うのだ。


 とはいえ、そういった仕事は多くない。ほどなく手が空き、作業の邪魔になってはいけないと場を離れる。かといって遠くに行くこともできない。危険がどこに潜んでいるかわからないからだ。


 結局、防壁の上に昇ってみた。先日の決戦の爪痕が残っている。修復もまだだ。とても素人が手を出せるものではない。後日改めて専門業者に任せる必要があるが、どれだけの費用がかかるのかと、ミヤマとしては頭が痛い。


 しかしそれでも、これ以上悪くなったり崩れたりしないための応急処置は必要だろう。手配を進めなければ、と意識しておく。


「領主との話し合いは終わった。ここの作業も始まった。これで、この間の後始末はひと段落かい?」

「いやあ、それがねぇ。まだもう一つ、大事な話し合いが残ってるのよ。ほら、あっち」


 ミヤマが指さす先。湖のほとりには、モンスターの皮と骨によってつくられたテントがいくつも張られていた。そして当然、そこで生活している者たちの姿も見える。


 黒い肌に尖った耳。細身で美麗な地下の住人達。


「ダークエルフ、か。最後の最後に難物がのこってるじゃねーか」

「だよねえ。でも、避けるわけにも先延ばしにするわけにもいかないんだよなぁ」


 ミヤマは深々とため息をついた。その背を、元気づけるためにダリオが叩く。若き人狼の毛が逆立った。


/*/


 地下世界アンダーワールドとはただの洞窟の連なり、ではない。正しくは、小さな異界の連なりである。


 何故、そんなものが地下にあるのかは定かではない。詳しく調べようにも、その規模は広大の一言。そして調査には多くの困難が伴う。具体的に言えば、モンスターとトラップの存在である。


 異界からさまよい出るモンスターの種類は千差万別。下はゴブリンから上はドラゴンまで。中にはいかなる物語や吟遊詩人の歌にさえ現れぬ、未知なる怪物すらもいるという。


 その中には知恵ある者も少なくない。縄張りに侵入する愚か者に対して、罠を仕掛けて待ち伏せする。拠点防衛のための、当たり前のような行動である。


 そう。ミヤマたちのダンジョンが人工的なそれならば、地下世界に広がるのは天然のもの。そこにあえて侵入し、未知なる神秘を持ち帰る。それが本来の冒険者というものである。


 もちろん、多くの危険が伴うのですべての冒険者が挑むというわけではない。十分な経験を積んだか、あるいはやむにやまれぬ事情の末に地下に潜るのだ。


 さて、そんな地下世界に潜む種族の一つにダークエルフがいる。勢力的には、残念ながら弱小である。最大の弱点として、増え辛く成長が遅いというものがある。


 いかに能力が高くても、数の差というのは労力の差である。直接的な戦いだけが争いのすべてを決めるわけでは無い。


 だからこそ、ダークエルフたちは数の多いゴブリンやオーク、トロールなどを手下として使うのだ。が、それでもなお、地下世界の勢力争いは苛烈だ。


 何せ頂点はドラゴンだ。力だけで無く知恵も財産もある。ちょっと力を付けた程度では逆立ちしても太刀打ちできない。


 なので、真に知恵の回るダークエルフは隠れることを選ぶ。見つからなければ攻撃されることはない。たくらまれることもない。静かに忍び寄り、必要なものを奪いそして消える。


 生き延びるために必要な事は戦う事ではない。勝つことである。隠し、だまし、企み、おとしいれろ。欺瞞と策謀の神レヴァランスの神官たちはそう教える。


 それが間違いであった、とは考えない。少なくとも、燻る熾火氏族のペレンは。そうすることでしか過酷な地下世界では生きていけなかった。しかし最近、こうも考える。


 生き延びるだけでは、先がないと。


 その思い悩みを抱えながら、今日は客人を迎え入れている。……実を言えば、これは燻る熾火氏族において極めて稀な事である。かつては、罠にハメるためにそのような事もあったという。だが、勢力の縮小によりそういった事ができなくなって久しい。


 正直に言えば、氏族の青年たちをまとめるペレンが物心ついて初の事であった。つまり数百年ぶりの事である。辛うじて、そういった経験を持っていた上役たちが生き残っていたから恥をさらさずに済んでいる。そうでなかったら、客への礼儀作法すら失われていただろう。


 ともあれ。一番見栄が張れるテントの中、対面に胡坐をかいて座る客人。ダンジョンマスター、ミヤマを見る。彼の後ろに座るのはガーディアンのエラノール。それと割と無理やり入り込んだダリオである。


 ペレンの後ろには上役たちがいる。が、あくまで交渉はペレンの仕事だ。色々な駆け引きの結果勝ち取った。そうする必要があると考えたからだ。


 しばし、挨拶から雑談にふける。いわゆる社交辞令だ。現状に問題はあるか。ここでの生活はどうか。これはこれで重要だ。氏族では、こういう交流をする相手勢力がなかった。これから、学び直さねばならないだろう。


「それで、ですね。ペレンさん。そして氏族の皆さん。今後について、お話をさせていただきたい」

「……聞こう」


 ミヤマが、切り出してきた。自分はもとより、背後の上役たちも気持ち前のめりになる。テントの外で聞き耳を立てている同族たちも同じだろう。


 今後について、氏族では多くの意見が交わされた。まず、何より相手の実力について良く調べた。情報が無ければ正しい判断は下せない。


 結論から言えば『開いたばかりのダンジョンとしては異常な戦力とコネクションを持つ。しかしマスターは未熟であり、また運も悪い』である。


 この相手に対してどのように接するか。離れる、という意見には反対するものが多かった。やはり、現状ではよろしくないと考える者はそれなりにいるのだとペレンは安堵した。


 今まで通り、騙して奪うというやり方も反対意見が多い。これはしょうがない。氏族の戦力ではしくじった時のリスクが大きすぎる。地下世界に逃げ込む、という今までのやり方は使えない。


 何故かといえば、水の大精霊がいるからだ。あれから逃げおおせるのは無理の一言。この周囲一帯はかの精霊のテリトリーと成り果てた。そこから逃れる前に捕まるのが落ちだ。


 いつもの手が使えない。であるならば、新しい事をしなければならない。これで揉めた。自分たちから出せるものは何か。代わりに引き出せるものは何か。両者のメリットは釣り合うか。


 氏族で今まで考えもしなかった事だ。揉めるのは当然。結局纏まることはなかった。その間に、ペレンは交渉役の座を手に入れるために工作に奔走した。上手くやれたと自負している。


「皆さんの培った知識と技術。これは我々にはない物です。過酷な地下世界で生き抜き、先へ進む調査能力。危険を避け、あるいは罠や奇襲により撃退する戦闘力。これらは、我がダンジョンが欲する技術、人材であると考えます」

「……なるほど」


 この時、ペレンは胸の中でうねる感情を扱いかねていた。欺瞞と策謀の神の教えには、他者を素直に認め誉めるというものはない。それらは騙すための道具である、という教えはある。


 伊達にその教えに従って生きてきたわけでは無い。嘘があればすぐに見破れる。……そして、ミヤマの言葉にはそれが感じられない。真っすぐに、自分を見て言葉を放ってくる。


 素直な賞賛と評価。それが己の胸を焼いている。未熟! ペレンは己を恥じた。せめてもの意地でそれを表に出さぬようにする。


「これからダンジョンを発展させていくにあたり、それは非常に魅力的です。なので、私個人としては是非、あなた方に我がダンジョンで働いてほしい。……ですが、皆さんの信仰はそういった事柄がなかなか難しい、と理解しております」

「そうだな。我らを信用するというのは、エルフに不誠実を選べというようなものだ」


 背後に座っているガーディアンの眉間にしわが寄る。当然の反応だ。


「私は趣味や信仰、こだわりというのは他者に迷惑をかけない限り自由であるべきだと考えます。レヴァランス神を信仰するのを止めろなどとは申し上げません。ですが、その教え通りに生きられますと、とても共にやっていけません」

「当然の反応だ。我らとて、たとえ同族といえど信用するのは愚かだと……そういう教えを受けてきた。その結果がこのざまだ」


 自分たちを評価し、欲しいと愚かしいほどに真っすぐいう相手。そんな者に巡り合えても、手を取ることができない。何せ背を刺す短剣を握っているのだから。


 ペレンは、疲れていた。レヴァランス神の教えでは、生き抜くことはできても先がない。例えダークエルフといえどいつかは死ぬ。何も残せないのであれば、生きる意味などあるだろうか。


 ここが、分岐点だ。ここで選べないようであれば、生きる意味はないだろう。だから、ペレンは覚悟を決めた。


 立ち上がる。そして、テントの外に出る。囲んでいた、部族の者たちを前に、宣言する。


「皆、よく聞いてくれ。薄々、あるいははっきりと自覚しているとは思うが……盲目的にレヴァランス神の教えに従うだけでは、我らは滅びるだけだ」


 三十に満たない数のダークエルフたちが、ざわめく。神の名をつぶやいて許しを請う。天罰に身構える。一番強く反論すると思っていた神官は、眉間にしわを寄せ瞑目して黙る。彼女が一番、それを理解しているのかもしれない。


「故に! このダンジョンに対しては、その教えから離れる! 騙さず、謀らず! 信用を得て報酬を受ける! 我らの明日の為に、神を謀る! その教えの通りに!」


 悲鳴と怒号が、一同より上がった。一斉に地に伏せた。天罰はある。教えに背いた者へのそれは苛烈であると、繰り返し聞かされていた。


 ペレンも、死すら覚悟して身構えていた。だが……何も起きない。ダークエルフたちの悲鳴が、闇に溶けて静まっていく。


 身体に込めていた力を抜き、大きく息を吐く。そして再度、語り掛ける。


「なにも、棄教するわけではない。敵に対しては、これからも大いにその教えに従って謀っていく。ただ、その相手を我らが選ぶというだけだ。……神官、私の考えは間違っているか」


 呼びかけられた彼女は、胸元に下げていた骨の短剣を手に取った。レヴァランス神の聖印である。目を閉じ、わずかに祈る。


 再び目を開けた時は、ひどく疲れを感じさせる声で言葉を紡いだ。


「……神は何も答えぬ。いつも通り、ただ力をお与えになるだけ。貴様の不遜なる言葉を聞かなかったことにしたか、あるいはこれも大いなる謀りか。……ひとまず、罰は下らぬようだ」

「ならばよし!」


 後ろを振り向く。律儀に見守ってくれたダンジョンマスターに、膝をつく。


「我が魂にかけて! 貴方の、このダンジョンのお役に立って御覧に入れる! 故にどうか、我らに先を、未来をお与えくだされ!」


 頭を下げて、乞い願う。ミヤマもまた、ひざを折った。


「……皆さんが裏切らない限り、私も同じようにすると……故郷の家族に誓います。いまだ至らぬ身でありますので、直ぐにご要望通りのものを用意することは難しいと思います。ですが、必ず働きには報います」


 躊躇いと、覚悟が混ざった声だった。いきなり、氏族の未来を求められればそうもなろう。だが、ペレンとしてはそれが望みである。そして、覚悟をもって答えたダンジョンマスターの心を、確かに感じ取った。


「なれば我ら燻る熾火氏族、只今をもって御身の配下に。いかようにもお使いくだされ!」


 一同、そろって膝をつく。氏族の長い歴史の中、謀りではなく誠意をもってこうした者が果たしていただろうか。


 ダンジョンマスターは背筋を伸ばし、氏族全員に向けて頭を下げた。


「今後とも、よろしくお願いします」


 嘘偽りのない言葉。これを聞いて、即座に邪な考えが浮かぶのはやはり自分がレヴァランス神の使徒であるということだ。これからはそれを戒めねばならない。楽なものではないだろう。試練とはそういうものだ。


 乾いた、手を打つ音が響いた。顔を上げれば、男爵がにんまりと笑っていた。


「大将。めでたい話がまとまったなら、ここは祝い酒じゃないか?」

「……飲みたいわけね?」

「いやあ? こういう交流は必要だろう? これからお仲間になるんだし。なあ?」


 と、水を向けられる。とたん、皆がまじめ腐って頷いた。


「然り。男爵殿は良い事をおっしゃる」

「めでたき日に酒が無いのは片手落ちにもほどがある」

「我らもとっておきを出さねばな」


 ここぞとばかりに話に乗る。これは、謀りに入るのではなかろうか? 冷や汗を流すペレンをよそに場は盛り上がっていく。神官などは率先して酒瓶を転がしてきた。いいのかそれで。


「……はいはい、そうですね。そうしましょう。お祝いだし疲れたし。飲んじゃおうかダベっちゃおうか」

「さっすが大将、話が分かる!」

「調子が良すぎる。あー、エラノール。そういう事だから」

「……はぁ。畏まりました。それでは上に伝えてまいりますので」

「よろしく」


 呆れと苦笑を混ぜながら、エラノールが昇降機エレベーターに向かっていく。が、一度ペレンに鋭い視線を投げた。自分は油断しないという意思表示。ペレンとしては望むところである。そうでなければ張り合いがない。


 だが背筋を寒くするものがある。風と、水。ふた柱の精霊が、目に見えぬ形で見張っている。これらは怒らせてはならない。


 そんなやり取りはペレンに任せるとばかりに、ダークエルフたちは酒盛りの場を整えていく。綺麗所がさっそく両脇を固める。


「いやあ、あのですね? 普通に座って楽しめばよいわけで、無理に接待は……」

「いえいえ、無理などとんでもない。これは感謝を表したまで」

「左様左様。存分に楽しんでいただいという思いがあればこそ」

「だからその。働きはですね、こういうのじゃなくてですね。迷宮部分での奇襲や罠とかそういうので……」

「ほう。興味深い」

「それらは我らが得意とする分野。ぜひとも詳しく」


 話が盛り上がり始める。いかん。このままでは持っていかれる。ダンジョンもマスターも謀りはしないが、同族は話が別だ。


「待て待て貴様ら! 私を置いて話を進めるな!」


 ペレンも、その場に乗り込んでいく。燻る熾火氏族としては極めて珍しい、明るい宴が始まろうとしていた。

友人の

「こういう風にして異端宗派というのは生まれるのだなあ……」

という感想に思わず笑いました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 天罰が下ってないって事はセーフ ということですね!!
[一言] これ神様サイドは「俺を謀るなんて成長したなあ......泣ける......」なのか「言うこと聞かないんだほーん」なのかが気になるところ
[一言] KUM◯さんwwwwww
感想一覧
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