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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
三章 れっつごー! 強襲迷宮(アサルトダンジョン)!
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幕間 辺境領主たちの会合

 ミヤマダンジョンの北西。ダリオ・アロンソ男爵の治める町、グルージャ。かつての河川交易の町は今、変化を迎えていた。それを促したものは、町の外にある。ブラントーム伯爵家保有の飛行船である。


 地上に降りたそれの周囲には、木材を組み合わせた簡易防壁が建設されている。さらにその近くでは本格的な降下地点、陸港建設のための準備が進められている。まだ、測量の段階であるが、多くの者が行き交っており活気がある。


 彼らはブラントーム家から派遣された専門家だ。飛行船の乗組員や拠点防衛に従事する兵士も含め、そのほとんどが亜人や獣人。または知恵あるモンスターなのだ。


 そしてそんな彼らが利用するのは当然、目と鼻の先にある町グルージャである。食料や資材、備品その他必要なものは多数ある。その全てを賄えるわけでは無いが、便利に使えているのは間違いない。


 が、である。この地方、かつてセルバ国と呼ばれていた一帯は獣人も知恵あるモンスターも少ない土地だった。エルフ、ハーフエルフ、ドワーフ、ハーフリングなどの亜人が多少いる程度である。なので、それ以外が多いブラントーム家の者たちは異質で目立つ。


 交流が始まった当初などは、それはもう大騒ぎだった。例によってダリオ男爵が陣頭指揮を執ることでどうにか混乱にならず修めたが、町を守る衛兵たちですら腰が引けていた。


 今はどうか。町の住人たちの表情を見ればわかる。衛兵も、商店の主も、道行く人々さえ笑顔を異形の隣人に向けている。


 その理由は大変シンプル。困難を共に乗り越えたのである。町の外には危険があふれている。ダンジョンのあるラーゴ森林から現れるモンスター。旅人を狙う野盗。そして南のバルゴ国からの難民。


 町の者達にとって大きな負担であるこれらを、彼らは一緒に対応してくれたのである。モンスター、夜盗は一ひねり。難民は脅し上げて従順にさせる。まるで魔法のごとく、である。


 くわえてブラントームからやって来た者たちは皆、理性的である。もちろん、その理由はそういった振る舞いができる者が厳選されたからである。なにせダンジョンの近くでの仕事だ。恥ずかしい真似ができるはずもない。


 そういったもろもろによって、彼らは受け入れられている。この町の者達には。それ以外の者にとっては、いまだ異形。恐ろしき存在なのである。


 その具体例が、ダリオ男爵の屋敷にて現れていた。


「帝国貴族に尻尾を振るなど言語道断! セルバ貴族の誇りは何処にやった!」


 激高してテーブルを叩くのは、年配の男。卓を囲んでいるのは、合計八名。皆、近隣の領主である。年齢はバラバラで、熱弁を振るっているのが最高齢。若い者は成人したばかりの者もいる。


 この日、周辺領主が集まって今後について会合を行っていた。今後について、という表題が付いているが、実際の所はダリオへの詰問会である。町の近くに国を滅ぼした空飛ぶ船があるうえに、異形の者が我が物顔で出歩いているのだ。こうもなる。


 なのでダリオは一通りの説明をした。ダンジョンがラーゴ森林の奥地に現れたこと。調査に冒険者を向かわせたら、逆に帝国貴族が乗り込んできたこと。その者達とダンジョンに向かったら、怪物の防衛戦に巻き込まれたこと。それによって良縁が結べたおかげで、帝国貴族やダンジョンから支援が受けられるようになったこと。


 一通り説明し終わった後に待っていたのが、先ほどの激怒である。ダリオは、苦笑いを浮かべざるを得なかった。


「何をおっしゃるか。我ら、全員とっくに帝国貴族でしょうに」

「我らが!? 笑わせる! 忠義を尽くす相手に一度もまみえていないというのに? 帝都にすら一度も足を運べていないのに? この十年、一度たりとも帝国からの指示などない! 旧王都のマジナとかいう帝国貴族からもだ!」


 そう。彼らは放置されている。帝国からも、旧セルバ国の統治代行をしているマジナ伯爵からも。国境からやってくる難民への対処も、助力も指示もないのだ。


「そう。マジナ伯爵は当てにならない。旧セルバ国の重鎮貴族も、もう居ないも同然。我らは、新しい寄り親が必要なのですよ」

「それで帝国貴族を選ぶというのか!? あの船の持ち主を!? この国を滅ぼしたアレの!」

「頼もしいでしょう?」

「正気ではない!」


 問答をするごとに血圧を上げていくのを見て、いよいよダリオは相手の健康が気になり始めた。とりあえず、落ち着ける方向に話題を動かす。


「帝国は、ダンジョンの為にある」

「何?」

「お歴々も、帝国貴族になった時にそういう文章送られてきたでしょう? あの正気とは思えないやつ」


 ざわり、と卓の上で言葉が交わされる。忘れるはずがない、あのおかしなやつか、といったやり取り。ダリオは話を続ける。


「あれは、本当なんですよ。自分はダンジョンで帝国貴族に会った。公爵に、伯爵。そんな空の上にいるような連中が、ダンジョンマスターには敬語を使う。礼儀を尽くす。これが、どういうことかお分かりか?」


 領主たちが、お互いの顔を見合う。あまりに、異次元の話だ。まあ、そもそも彼らは普段から領地の諸問題に対処するので手一杯の生活である。貴族的なやり取りなどこういった会合の時か、周囲の多少力を持っている相手に連絡を取るときぐらいなのだ。


 ダリオが彼らより多少ましに振舞えるのは、冒険者生活で多くを見知ったその経験からによるもの。それにしたってそれほど引き出しは多くないのだが。


「トップはダンジョンマスター。彼と懇意にしておけば、帝国貴族にいいようにされることはない、という事です」

「そのダンジョンマスターというのは、先ほどの説明にあった者の事ですよね? 信用できるのですか?」


 年若い領主の言葉に大きく頷く。


「我が家の家名にかけて。私は、アロンソ家と領地の命運をかけるに値する男だと思っています」


 年配の領主は、その顔にありありと感想を浮かべていた。正気とは思えない、と。言葉にしないだけ辛うじて節度を保ったといえよう。


「……何故、そこまで確信が持てるのです?」

「そうですね……それはやはり」


 ダリオは、曇りのない笑顔を領主たちに見せた。


「私と我が領民を逃がすために躊躇わず泥の中に飛び込んだ心意気。打算無しでアレをやってのけた男を信じぬのは男ではない。そう感じたからだ」


 何を言っているのかわからない、という言葉が領主たちの顔に浮かぶのをダリオは愉快に思った。そうだろう、大将に会わなければ分からんのだ。


「まあ、何はともあれ皆さんも会えばよろしい。信じる信じないは各々の判断。しかし、彼を信じればこそ開けるものも……」


 部屋に、扉を叩く音が飛び込んだ。ダリオは、眉根にしわを寄せる。大事な会議中であることは家人も知っている。だというのにそれを中断させる。ただ事ではない。


「何か」

「ブラントームの家人から、緊急の話が来ました。ダンジョンで、問題があったようです」

「詳しい話を聞いてこい! 直ぐにだ!」


 家令の兄の言葉に、ダリオは立ち上がった。

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