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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
三章 れっつごー! 強襲迷宮(アサルトダンジョン)!
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アルクス帝国の現人神

 帝都アイアンフォート。その中央に開く大穴、はじまりのダンジョン。近隣にそびえたつ施設は、どれも帝国にとって重要なものだ。


 その中に、転送ターミナルと呼ばれるものがある。ダンジョンが利用するレイラインネットワーク。これに相乗りする形で様々な物品および人員をダンジョンへ移送する、帝国独自の大技術。この巨大な帝国を一つにまとめていられるのはこれと、もう一つほぼ同じシステムによる通信技術のおかげである。


 転送ターミナルは巨大な建物だ。一階から三階までは吹き抜けになっており、背の高い物品も搬入可能。一階部分に多数配置された転送陣は、人と物品がひっきりなしに行き来している。


 その中の一つが、また稼働した。現れたのはイルマ、ロザリー、ヨルマ。その後ろにコボルト幸せ商会オーナー、お付きのコボルト二匹。


 その姿を、近くにいた者は見てしまった。動きが止まる。物流の中心地であるから、停滞は許されない。文句を言うものもそちらを見て、やはり動きを止めてしまう。


 当然のことだ。帝都に住んでいて、彼女の事を知らぬ者は罪人とすら言える。


「いやはや、今回はなかなか楽しい遊興でした。当日も良しなに」

「オリジン様の御心のままに」


 一同の中で最も身分の高いロザリーが代表して答える。はじまりのダンジョンのマスター。始祖オリジン。たかがコボルトの仮面ひとつで間違えるはずもない。全てのダンジョンの頂点に立つ存在。三千年、変わらずあり続ける神のごときお方。


 ミヤマのダンジョンでセヴェリとダニエルが気を失うのも無理もない。この転送ターミナルでも、平伏したまま意識を飛ばすものが散見される。この帝国ではそれほどまでに敬われ、あるいは恐れられる存在なのだ。


 いつの間にか現れていた、重装備の騎士達が護衛に入る。帝国騎士、ではない。一見騎士鎧に見えるそれは、この世界最高の技術を持つ帝都においても未知なる物。高度な技術によって製造された機械鎧。


 それを身に纏う彼ら彼女らは、はじまりのダンジョン直属の騎士。始祖騎士団オリジンナイツ。その顔は兜によって見えないが、一説によれば彼らは歴代の皇帝であるという。帝国という巨大組織の運営をやり遂げた者だけが、オリジンの騎士になれる。帝国の伝説である。


 ここまでで良いという言葉を受け、イルマたちはその場に残る。オリジン一行が姿を消すまで見送ったのちに、彼女らも深々と息を吐いた。気を失わないのは、単に経験によるもの。年に数回ある行事では、神のごとき彼女を拝謁する機会があるのだ。だからといって精神的重圧がないとは言わないが。


 ホールに大量設置されたベンチに、二人して腰を下ろす。貴族用の待合室もあるのだが、流石にそこまでは気力が持たない。なお、ヨルマは二人の迎えを呼びに行くといい残し立ち去った。ご婦人の前で無様を晒したくないという、男の意地もあった。


 二人、深々とため息をつく。


「なぜまた、オリジン様はナツオ様のダンジョンに興味を持たれたのでしょうか……」


 ロザリーが弱々しく呻く。本日朝、何ら前兆無くコボルト幸せ商会にオーナー名義で呼び出された。かの商会のオーナーが誰であるかなど、帝都在住であればだれもが知っている事。ブラントーム家が大混乱に陥るのは当然だった。


 身に覚えがない。なにか勘気に触れてしまっただろうか。コボルトのように怯え切って足を運べば、ミヤマのダンジョンへの同行を命じられた。処罰でない事に安堵はしたが、理由がわからず今に至っているロザリーだった。


「先日、あの商会についてナツオ様から問い合わせがありました。たぶん、何かしら注文をされてそれがお耳に入ったんでしょうね。コボルトを大事にするダンジョンマスターを目にかけるとは伺っていましたから」


 イルマが、項垂れながら応じる。彼女もまた、同じく商会に呼び出されて同行を命じられた口である。


 なお、本人は涼しい顔をしていたが一番混乱していたのはヨルマである。ハイロウといえど貧富の差はある。帝都の路地裏から成り上がった彼からしてみれば、オリジンなどは直視するのも躊躇われる神そのもの。そんな人物に声をかけられた。鋼の自制心で己を律していたが、内心はあらん限りの声で絶叫していた。現在、路地裏で放心している。


「地下について、知っていらっしゃったという線はありませんか?」

「どうでしょう? その場合、むしろ日を改めたかもしれません。あの方の望みは多くのダンジョンが強くなることだと聞いております。ご自分が介入して、成長の芽を潰すのは本意ではないでしょうから」


 数々の伝説にあるオリジンの力。はるか昔、まだはじまりのダンジョンしかなかった頃。侵略存在の大軍を、たった一つのダンジョンで何度も受け止めきったという。


 現在でも、侵略存在の支配する世界へ逆侵攻を定期的に仕掛けているという。大海竜ヤルヴェンパーもそれに参加している為、オリジンのすさまじさは間接的に聞き及んでいるイルマだ。


 だからこそわかる。あの程度のスケルトンなど、オリジンの手にかかれば即座に片づけることが可能だろう。どのような手段を取るかはわからないが。そうしないのは、先に述べた理由の為。


「では……なんでまた、アンデッド払いを見物なさるなど……」


 天覧試合ならぬ神覧合戦じんらんかっせん。そんな状態になってしまう事にロザリーは頭を抱える。無様を晒すなど論外。できうる限りの戦力を投入したい。だけど、助力のルールに抵触する。


 ミヤマもできる限りの戦力を集めるだろうが、完璧には程遠いだろう。当然ロザリーは参加するつもりだが、その場で受けるであろうプレッシャーに早くも胃が痛い。


「まあ、たぶん。単純に娯楽なのでしょうねぇ……」


 名誉な事ではある。実家に連絡すれば助力は受けられるだろう。ただし、相応の混乱を伴って。顔を引きつらせる兄が目に浮かぶ。


 大変なことになってしまった。二人は改めて、深々とため息をついた。天下の往来で貴族がしてよい姿ではない。が、いまだオリジン降臨による混乱が収まらぬ転送ターミナルである。それを見とがめる者はいなかった。


 ヨルマが再起動して、迎えを呼ぶまであと少し。二人は疲れた精神をその場で休めた。


/*/


 今回の作戦の中核は、アンデッド払いである。なので、まずはそちらにお願いをしなければならない。というわけで、ソウマダンジョンにご連絡する。


 通話番だったらしいドワーフに代わって現れたのは、着物姿の日本人。髷は結っていないが、おそらくこの人物こそが。


「おお、お主がミヤマ殿か。お初にお目にかかる。ソウマダンジョンの主、ソウマヤタロウだ」

「お世話になっております! ミヤマナツオでございます!」


 俺は、深々と頭を下げた。ソウマ家には様々な面で助けられている。一応、感謝の言葉を手紙の形で伝えてはいた。が、こういう形で顔を合わせるのは初めて。大恩人との初顔合わせなのだから、こうもなる。


 しかし、ソウマ様は鷹揚にお笑いになられた。


「そのように畏まる必要は無いぞ。お互いにダンジョンマスター、気楽にしてくれればいい」

「しかしながら、ダンジョンマスターとしては大先輩。かつ、ご家族には様々な面でお世話になっておりますので!」

「大先輩というか。はは、ただ長々と続けているだけのじじいなのだがなぁ。あとまあ、世話云々についてはうちの者たちと上手くやっていると聞いている。そのまま互いに良い関係でありたいものだな」

「もったいないお言葉です!」


 かつて、会社勤めをしていた頃。本社の人間が来た時でもこんなに真剣に頭を下げたことはなかった。頭を下げるといえば、大概の場合は謝罪か挨拶だ。今、俺の心中を占めるのは敬意だ。長くダンジョンマスターを務められていらっしゃるという事。多くの人々の支えになられているという事。そして、俺自身が受けた恩恵。


 頭が下がる思い、というのはこういう事なんだと改めて思った。


「うむ。さてミヤマ殿。此度このような形で連絡を入れてきたのはいかなる理由なのかな?」

「はい。実はまた、お力をお借りしたい事柄がございまして……」


 俺は、今回の事件についてソウマ様にご説明した。聞き終えられた時は、苦笑いを浮かべられた。


「なんともはや。ワシのダンジョンとは随分と様相が違うものだ。苦労するのう、ミヤマ殿」

「いえまあ、星のめぐりと申しますか……」


 まあ確かに、普通無いような。自分のダンジョンの地下に遺跡があって、そこからアンデッドが湧き出てきたとか。嫌がらせを疑うレベル。いや、規模が嫌がらせに収まらないか。


「相分かった。そういう話であれば助力は惜しまぬ。例の決まりごとの範囲内で、人員を送ろうではないか」

「ありがとうございます。このご恩は必ずやお返しいたします」

「うむ。急ぎはしない。立派なダンジョンをこさえた暁には、身内の事をよろしく頼むぞ」

「はい!」

「……所でミヤマ殿。エラノールは元気にやっているかね? あれは手紙の一つもよこさんから、エンナのヤツが気をもんでおっての」

「ええ、もちろん。今日もさっそく準備に取り掛かっておりまして……」


 そこからが長かった。エラノールの近況に加えて、各防衛戦での活躍。周囲とはうまくやっているか、修行はどうか等々。ぶっちゃけ、そこまでの通信の倍ぐらいの時間を、エラノールについて語ることになった。


 今度は、本人に対応してもらおう。そう心に誓う俺だった。


 さて、その後はこちらに来てもらう人員との話し合い。あらかじめ準備しておく物や、当日の流れの打合せ。ついでに、こちらの防衛に就いても意見をもらうことができた。ベテランの知識は心強い。


 ソウマ様との通信が終わった後は、伝手を使って戦力の追加に努めた。自分のダンジョンのモンスターの追加は控えた。手持ちのコインで効果的なものは追加できそうになかったからだ。やはり、強い物は高い。特殊能力を持っているとさらに高い。


 代わりに、ダンジョン設備による計画を練っていく。今までにない困難に向けて、準備を続けていく。

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