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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
三章 れっつごー! 強襲迷宮(アサルトダンジョン)!
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廃都攻略会議

 俺の手当てはそれほど手間を取らずに終わった。鎧を外してみたら、上着が血まみれだったのは流石に顔が青くなったが。それでもアミエーラの薬と適切な処置、トラヴァーの快癒の呪文。その二つがあれば矢傷程度は問題にならない。明日には綺麗に治るはず。ダンジョンマスターとしての治癒能力もあることだし。なお、矢じりは黒曜石でできていた。錆鉄でなくて一安心。


 というわけで、場所は居住区。傷の処置が終わった俺は、のんびりと茶を飲みながら疲れを癒していた。仕事が終わったら、例の石の椅子に座ってさらに治療に専念する予定だ。


 だが、今はまだ仕事がある。


「さて……そんなわけで、地下があのざまなんだけど。本当、どうしよう」


 集まったメンバーを見回す。ガーディアンたち、モンスター達、ゲストの皆様。一部例外を除いて、皆難しい顔をしている。例外? コボルトとオーナー殿。


 数十、あるいは数百のスケルトンが防壁の内側に籠っている。下手に突っつくと、雪崩のように襲い掛かってくる。一体一体は大したことないが、数と勢いがシャレにならない。それをどうやって対応するか。


「先ほどの呪文で、ある程度数を減らせたと思うのですが」


 セヴェリ君、自分の呪文にそれなりに自信がある様子。そして確かに、とは思うのだけど……。


「ヨルマ、壁の内側はどんな感じだった?」

「街、でしたね。ほんの少ししか見えませんでしたが、あれはエルフの様式に思えました。かなり形は残っていましたよ」

「スケルトンが放ってきた矢も、エルフの作るそれでした。おそらく、間違いないかと」


 エラノールの補足も入る。やはりか。名残リメンツもエルフの姿をしていた。あの廃都が同種族のものであるのは間違いないようだ。


「で、スケルトンはどれ位いた?」

「総数は流石に分かりません。ですが、あれが全てではありませんね。防壁に詰めていた一部隊にすぎません。なにせ、都を囲うほどに広いのですから」


 都の防衛隊が丸々アンデッドになった、とは流石に考え辛いし考えたくない。いくらセヴェリ君の呪文で多少減ったとはいえ、全体から見ればほんのわずかだと思う。


 そして昔から、攻城戦には三倍の兵力がいるという。正面から戦って勝つための戦力など、お貴族様に大規模な援軍でもお願いしない限りとても無理。そして、そんな援軍は例のオリジンのルールに抵触してしまう。


 もっと別の手段が必要だ。


「……アンデッドを払う効果的な方法って、ある?」


 俺の疑問に、イルマさんが手を上げてくれる。


「神官、司祭が使うターンアンデッドが比較的よくある手段です。もっとも、あの数が相手では神官二、三人いても焼け石に水ですが。相応の大きな儀式でもしない限りは」

「そうですかー」


 大きな儀式、なあ。そんなのやったら、絶対攻め込んでくるよなぁ。城壁から引きずり出す手段としてはいい。だが、受けきれない。さっきだって、開けた場所ではなかった。天上崩落による数々の岩が、ちょっとした防壁の役割をしてくれた。それでもあの有様なのである。本格的に受けるなら、よっぽどしっかりしたものでなくてはいけない。


 それこそ、うちのダンジョンにあるバリケードのようなものが。そう、ダンジョンだ。ダンジョンであるならば、何とかなるんだ。迷路もある。防衛設備もある。連中をすりつぶす手段がたくさんある。何だったら、コインで戦力追加もできる。だが、あそこではなぁ。


 うんうんと唸る。皆も、良い意見は出てこない。ただ……オーナー殿だけが、うっすらと笑っている。……うーん。


「オーナー殿」

「おや、ギブアップですか?」

「……ヒント、ください」


 この人、何か気づいている。そんな気がする。かといって、安易に答えを求めてはいけない気がするのだ。地雷が顔をのぞかせている。そんな気分。


 はたして、オーナー殿はふむと頷いて指を一本立てる。そしてそれを、俺に向けた。


「では一つだけの大ヒント。それはダンジョンマスター殿、貴方です」

「俺?」

「ダンジョンマスターとはどんなものかを思い返してみましょう。そこに、求めるものがあります」


 ダンジョンマスター……? ダンマスが攻略の鍵? さっぱりわからん。とりあえず、思いつく限り上げてみる。


「ええと。ダンジョンコアが壊れると死ぬ。コアを通じてモンスターを使役する。コインを使ってダンジョンに設備を設置する。ダンジョンから出ることができない。それから……」

「ああ!?」


 トラヴァーの上げた素っ頓狂な声に、椅子からケツが浮き上がる。びっくりした。


「何だよ藪から棒に」

「それです、主様! 主様は、あの場所を歩いていらっしゃった! あそこはダンジョンなのです!」

「…………あああああああああああ!?」


 確かに! 普通に歩けた! つまり、あそこはダンジョンの支配領域内ということか! という事は!


「あそこに、ダンジョンの設備を設置できる! 防衛拠点を作れる!」

「せいかーい。そのとーり。となれば、戦い方は広がるでしょう?」

「おっしゃる通りで!」


 防衛設備を設置できるなら、あの数に対応できる。もちろん、それだけで戦えるとは言わない。例のターンアンデッド用の大きな儀式。それが切り札なので、完了するまで耐えれば勝ちとなるはずだ。


 しかし。


「……困った。ターンアンデッドの儀式を行える人に当てが、ない」


 若干、神官に心当たりはある。この間やってきた冒険者達の中にいたはずだ。だが、大きな儀式というのが、その二人だけできるとは到底思えない。そうするともう、お貴族様に紹介を依頼するしかないわけだが……。


 懊悩する俺へ、エラノールが挙手する。


「実家にツテがあります。アンデッド払いの儀式も実績があるので、適役かと」

「我がブラントームにも、そういった者たちがおりますが?」

「はい。ですが下の者たちはエルフの成れの果て。ならば我らの始祖神アラニオスの神官がふさわしいと思われます。それに、廃都の由来についても長老たちなら何か知っているやもしれません」

「それは助かる。……のだけど、いつものヤツに引っかかるのでは?」

「大人数でなければ……」


 と、エラノールが視線を送るのはコボルトのトッポ氏。彼は一つ頷く。


「ミヤマ様にはキャンプのレクリエーションというお題目もございます。上といたしましても、ダンジョンに滅んでもらいたいわけではございません。問題解決の助力を得る程度でしたら、大丈夫かと。もちろん、主力が外部勢力というのはいただけませんが」

「……という事ですので、実家からは必要最低限。残りは我が方で整えれば問題ないかと」

「そうか。じゃあその案で行こうか」


 とりあえず、これでアンデッドへの方策は立った。あと、懸念するべきことは二つ。一つはダークエルフ。まあこちらは先ほどオーナー殿の助言のあった通り、ダンジョンの力でふさいでしまえばいい。


 ただ、アンデッド対策にどれだけ使うかわからないからギリギリまで後回しにしておきたい所。変に動いてあちらを刺激したくないというのもある。こっちに入ってくるな、という言葉を素直に受け取れば、我々の方にちょっかいかける気はないのかもしれない。それなら、手間もコインも取られなくていいのだが。


 問題は、もう一つの方だ。


「水の精霊とやら、動くと思う?」


 トラヴァーに声をかければ、首をかしげて唸られる。


「何とも言い難く。大騒ぎすれば顕現されるやもしれません。そして、淀みに沈んだ精霊がどのように振舞うか……まあ、十中八九大暴れだと思うのですが」

「うーん、最悪だ。精霊への対応方法って何だろう?」

「どの精霊にも言えることですが、物理攻撃は効果が薄いです」


 イルマさんが答えてくれる。さすが配送センター職員。モンスターの知識はお手の物か。


「なので、魔法による攻撃が有効なのですが、ここで厄介なのは自分の属性に近しい物が近くにあると破損を補填してしまうのです。具体的に言えば、マッドマンを泥沼に配置した時のアレです」

「あー……ぶっ壊されてもぶっ壊されてもエンドレス復活するアレ。じゃあ、コアを破壊する必要があると」


 うちのマッドマンは沼にそれが配置してある。エアルも風の精霊なので同様のものがあり、ダンジョン上の岩山に隠してある。本当はダンジョン内に隠しておきたいのだが、風のない所は駄目だと本人に言われているのだ。


「ええ。コア、あるいは依り代というもの。それの破壊が成れば物理世界へ干渉ができなくなります。なのでそれを探す必要がありますね。コボルト・シャーマン……トラヴァー君なら、できるかと」

「はい。精霊が現れれば感じ取ってごらんに入れます。少々、お時間はいただきますが」


 流石は最古参メンバー。頼りになる。コボルトではなくゴブリン選ぶ連中の気が知れない。


 とりあえず、これで方針はまとまったか。下に防衛設備配置してスケルトンに対応。その間に援軍にアンデッド払いの儀式をやってもらう。精霊が出たら魔法で対処して、コアを破壊する。


 これを、一同と共有した。皆が頷いてくれたので、これで行動に移る……つもりだったのだが。扇子を手のひらに打ち付ける、オーナー殿の姿あり。


「まとまった様でなにより。まだダンジョンマスター初めて間もないというのに、このような難事にも対応する。まことお見事」

「はあ、ありがとうございます」


 なんだかお褒めの言葉をいただいてしまった。が、その後に彼女が仮面越しに浮かべた微笑みを見たら途端に嫌な予感に苛まれた。


「この難事をどのように乗り越えるのか。私、じかに見たくなりました。というわけで、当日にキャンプとやらを予約したいのですが」

「え”」


 ……どうしよう。イルマさんを見る。お通夜のような表情をされている。ロザリー殿を見る。やはり同じ表情をされている。今までまったく発言のないセヴェリ君とダニエル君。また気絶している。やはり、無茶ぶりだよねこれ。


 一縷の望みをかけて、トッポ氏に視線を投げる。深々と頭を下げられた。ペコ氏。力強くサムズアップ。そのサイン、こっちにも伝わってたのね。


 ……望みが絶たれた。


「えー……安全の保障は致しかねますが」

「ご心配なく。自分の事は自分で守ります故。邪魔にならない所で見物させていただきます」

「失敗の場合もあるのですが」

「逃げ遅れたら、どうぞ見捨ててもらって結構。なあに、絶体絶命の状態から生還とか経験ありますので。たくさん」


 うーん、すげえ自信だ事。何なの。帝国トップ層ってそんなに戦力インフレしてるの。……まあ、俺より弱いという事はないだろう。


「万が一の場合は、指示に従っていただきます。撤退の場合とか。それでもよろしいでしょうか?」

「もちろん、もちろん」


 かんらかんらと笑われてしまっては、もはやどうしようもない。受けるしかないだろう。……まあ、これもご縁だ。帝国には間接的にだが世話になっている。それを返すと思う事にしよう。


「じゃあ、各自そのような感じで」

「はい。では早速実家に連絡して神官力士の手配をしていただきます」


 神官……力士?

一章を書いた時。いつか書きたいと思ったシーンが、あと少し。

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― 新着の感想 ―
ついに神官力士がやって来る!
[良い点] なるほどダンジョンに土俵が ・・・土俵? ダンジョンに?
[一言] すごいパワーワードで終わってますね。 今後の展開が気になりすぎる。
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