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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
三章 れっつごー! 強襲迷宮(アサルトダンジョン)!
52/207

ミヤマダンジョン大改造


 事が終われば後始末。身体がデカいだけあって血の量も相当だ。さっそくスライム・クリーナーが総出で清掃作業に入る。……某ラミアがワイバーンに残った血をガブ飲みしているが、見なかったことにする。


 エラノールは、エンチャントの効果時間が終了したらしくはっきりわかるほど疲労していた。なので、コボルトたちに命じてテントへ連行。ユー、休め。


 俺は、現場指揮。ワイバーン侵入によるダンジョンチェックを手すきのコボルトに言い渡して、とりあえずのひと段落。


 横たわる、ワイバーンの骸を見る。改めて見ても、凄まじい。キリン以上のデカさと質量だ。しかも闘争用に鱗もあれば牙もある。毒のブレスと尻尾もある。俺たちはこの通りダンジョンがあるから、何とかなったが。一般人がこれを相手にするというのは、絶望的だろう。


「男爵。これ、どうやって倒したんです? 冒険者時代は」

「あー? 空飛んでるときはどうしようもない。でも攻撃の時には降りてくる。そこを狙って魔法で落として、後は気合よ」

「気合」

「おう。剣にハンマーにロープに油。使えるものは何でも使って、やれることは何でもやる。手足が動いて気合で負けなきゃ、最後に勝つのは俺たちよ」


 からりと笑ってそう言ってのける。当たり前の、ありふれた言葉だ。だが本物の、本当にやってのけた人物が言うと凄みがまるで違う。


 ……仮に、何の力も無かったら。俺はワイバーンと戦えるだろうか。ワイバーンだけでなく、ほかの怪物すべてと。……まあ、無理だなぁ。


「ところで大将。こいつはいつまでここに転がしておくんだ? この間の殺戮機械バーサーカーは、いつの間にか勝手に消えてたが」

「ああ、忘れてた……って、大将?」


 俺が聞き返すと、男爵は悪だくみしますといわんばかりのにやけた顔をして見せる。


「帝国じゃあ貴族よりダンジョンマスターがえらい。あのおっかない貴族のお歴々よりも、えらい。当然、俺よりもえらい」

「まあ、そういう話ですけどね? あくまでそう定まっているってだけで命令権とかはないって話ですよ?」

「建前ってやつは、大事なんだよ。これから、あのお貴族様方と付き合っていかなきゃならんのだ。地位、歴史、戦力、金、何もかも違いすぎてたまんねぇ。だが、大将はそんな雲の上の連中と上手くやっている。建前だけじゃなく、自分で上手く、だ。こりゃあ頼らせてもらわんとなぁ」

「いやまあ、良いお付き合いはさせてもらってますけどね? それはダンジョンがあるからであって、頼られるほどに立派というわけでは……」

「なーにいってんだよ。冠が立派なら安泰。それで済むなら反乱なんて起きやしねぇよ。担ぐに値するから王様はそこに居られるんだよ。……まー、時々理不尽に首が飛んだりすることもあるが」


 ある日、領空侵犯して宣戦布告してくる帝国ですね分かります。


「ともあれ。あのお貴族様方を含めて、俺らのトップは大将だ。頼らせてもらう。代わりにこうやって働くぜ。つまりはそういう話」

「ああ……なるほど」


 自分はダンジョンマスターと上手くやっていますよ、という振る舞いをすることで帝国貴族とのやり取りを円滑にしたい。その見返りとして、ダンジョンの手助けをしてくれる。そういう話である。協力者が増えるのは助かる。そうしてくれるなら、俺もできる事は返させてもらう。


「納得してもらえて何よりだ。そんなわけだから、これからはそっちも大将らしくたのむわな」

「……そのべらんめぇな振る舞いは変えないのね」

「やれなくもねぇけど、取っ散らかるぜ? そりゃ、公爵閣下の前なら気合もいれるけどよ?」

「それより偉いはずなんだけどなぁ……まあいいか。はい、りょーかい。……で、何の話だっけ?」

「あれ」


 男爵が指さすのは、ほったらかしのワイバーンの骸。ああ。


「建前云々の話の続きってわけでもないけれど。アロンソ男爵、ここいらには強敵モンスターの首をはく製にして飾って武威を示す風習ってある?」

「名前で呼んでくれよ、大将。でもって、トロフィーの風習はもちろんある。わかりやすいからな」

「ワイバーンの首、もっていく?」

「はぁ?」


 男爵……ダリオが素っ頓狂な声を上げる。これだけ経ってピクリともしないので、間違いなく死んだと見ていいだろう。近づいて、頭の大きさをざっと見で測る。大人一人でやっと運べる程度の大きさ。二人いれば十分だろう。魔法があれば完璧だ。


「こいつが突っ込んでくる前の打合せで言ってたでしょ。戻った後、住民を落ち着かせるのに苦労したって」

「ああ。……こいつを住民に見せろって?」

「はっきりとわかる成果があるってのは、大きいでしょ?」

「上手くやってますってその証ってことか。そりゃあ、あれば助かるが……お歴々はなんていうかねぇ」

「……あの人たち、地位も名誉も金も力も全部持ってるから。一番欲しいのがダンジョンだから。これぐらいじゃなんも言わないよ」

「ああ……そうだな。そんじゃ、ありがたく」

「どうぞどうぞ。そうそう、お貴族様たちといえばね……」


 などとその後も話は続いたが、ワイバーンの首をダリオの領地に運ぶというのはこの時に決まった。お付きの人たちが、どうやって運ぶか頭を抱えていた。結局俺が、転送室経由でケトル商会から大八車を購入。貸し出すことで運搬するという形になった。


 このように、地元領主との関係も良好な形に落ち着いた。と、なればとりあえずの憂いなく、ダンジョンの事に集中できる。


 まずは、大改造からである。


/*/


 前回のドタバタによって得られた収支はこのようになっている。



コイン収支


・収入



初期五十枚


襲撃一~八 合計 百四十九枚



襲撃九回目 百枚 ボアベア 二十体


襲撃十回目 五十枚 殺戮機械バーサーカー 五体


襲撃十一回目 九枚 ワイバーン 一体



収入合計 三百八枚




・支出


「モンスターおよびガーディアン」


コボルト 三十匹 六枚


コボルトシャーマン 一匹 一枚


スライムクリーナー 三匹 六枚


シルフ・エリート 一体 十枚


マッドマン 三体 十五枚


ガーディアン「エラノール」 一人 十枚


ストーン・ゴーレム  一体 二十枚


コボルト・アルケミスト 一匹 三枚


ゴーレム・サーバント 二体 二枚


ラミア「ミーティア」 一人 二十枚




「能力投資」


ガーディアン「エラノール」 エンチャント:筋力 器用度 耐久力 十×三=三十枚




「設備投資」


転送室 十枚


洞窟補強 三枚


迷宮デラックスセットガチャ 一回 三十枚


大型冷蔵庫 一枚


ストーン・ゴーレム用ブレスト・プレート 一枚


換金 四枚




支出合計 百七十二枚




収支合計 百三十六枚




 小箱にメダルが入りきらないほど。こんな状態初めてである。もちろん、このままにはしない。ダンジョンメダルは、あればあるだけいいが使わなければただのコインなのだから。


 というわけで、ダンジョン拡張なのだが。


「まず、今の一本道状態を終了させる」

「そりゃあまあ、当然だわな。分岐だの罠だのがあっても、一本道は流石に不味い」


 襲撃の後始末が終わって、夕方。メシも食った、風呂も入った。俺はダリオと二人、焚火台を囲みながらこれからの話をしていた。もちろん、酒とつまみもある。


 なお、ダリオからのマッドマン風呂への感想は『入るのに物凄い度胸と根性が必要になるのがマイナス。入り終わればすっきりさっぱりでプラス』との事。今はお付きの人たちが順番に根性試し、ではなくマッドマン風呂を体験している。


「今までは、やりたくてもできなかった。何せ、生活通路を兼ねていたから」

「あー……たしかに。必要だものな、薪とか」


 ダリオは、傍らの薪を見やる。これらは、コボルトたちが森の倒木を解体して運んでいる。乾いている物はそのまま薪に。そうでないものは乾燥させるために居住区の奥に積んである。


 ちょっと前、薪ストーブにあこがれて調べてみたことがある。薪で一冬過ごすには、どれだけの量が必要なのか。


比喩表現で無く、小山のような量の薪が必要と分かった時は衝撃だった。動画サイトでそれを準備する人の苦行っぷりを見て、夢は夢のままにしておこうと心に決めたのを覚えている。


 コボルトたちは、こういった作業については優秀だ。間違いなく、俺よりも。安全さえ確保しておけば、効率よく動いてくれる。おかげで、ダンジョンを始めてからこっち、薪に困ったことがない。


 だがそれも、ダンジョン内の移動が問題ないからこその話だ。迷路になってしまえば効率は落ちる。さらに、迷路を生活で使ってしまえば痕跡が残る。それを追跡されてしまえば侵入者に道を教えることになる。


「けれど、今なら完全に迷路にしてしまっても問題ない方法が取れる。『隠し通路』と『エレベーター』を使う」

「隠し通路とえれべーたー? えれべーたー……ってのはたしか、部屋一つが異なる階層を行き来するやつだったか?」

「おお、どこでそれを?」

「どこだったかなー……冒険者中、仲間から聞いたような……ま、そりゃいいわ。で? そいつをどう使うって?」

「それはね……ああ、アレ使おう。クロマルー! この間の箱持ってきてー。部屋の名前書いた木札はいってるのー」

「わんっ!」


 黒毛のコボルトは、すぐに雑品を突っ込んである箱を取ってきてくれた。顎の下を撫でてやってから、受け取る。


 首から下げた名札を誇らしげに揺らして離れていくクロマルを見送って、酒とつまみで占領されているテーブルの上に隙間を作る。そして箱から、木札を並べていく。


『一階』『入り口』『迷路』『バリケード』『マッドマン沼』『コアルーム』『居住区』


「これが、現在の家のダンジョンの概略になる」

「……死んでも、外には漏らさない。約束する」


 まじめな顔で、はっきりとダリオは約束する。そうだね、これダンジョンの最重要機密だね。いきなりバラされて困惑しただろうけど、それを飲み込んで約束をまず口にしてくれる所がすごいと思う。


「ありがとう。さて、これをダンジョンのパワーで大幅に変更する」

「……おう」


 箱から、新しい札を取り出す。一部を並び替え、さらに追加していく。そしてこうなった。


『一階』『入り口』『隠し扉とエレベーター』『迷路』『マッドマン沼』『階段』


『地下一階』『コアルーム』『居住区』『エレベーター』『転送室』『バリケード』『階段』


「こういう感じ。概略なので、距離とかは大きく変わるけどその辺はなんとなくでよろしく」

「はーん……。どうやってこんなことをって思うが、まあ、魔法的なアレなんだろ?」

「たぶん。俺もできるって教えられたけどどうやっての部分はさっぱり。雇われだから」

「そいつは辛いもんだな」


 はっは、と軽く笑って彼はテーブルの上を改めて真剣な表情で眺める。手には酒。もちろんそれでいい。だって俺も飲むから。


 ダリオはワイン派である。ソウマ家から差し入れされたワインは口にあったようだ。


「迷路と沼で侵入者のリソースを削り、最後はバリケードで止める。それはわかる。生活通路としてはえれべーたー? 部屋の上下を使って何とかする。それも大体だがわかる。だが問題はこの隠し扉だ。こいつは使い物になるのか?」

「性能重視のお高いやつを使うつもり」


『上級隠し扉 十五コイン 技術的、素材的、魔法的に隠された扉です。一見してもダンジョンの壁にしか見えません。叩いた音も他と同じになっています。開閉方法は内部のスイッチを操作するか、外から専用のキープレートをかざすしかありません。(物理的な開閉スイッチも設置できますがこちらの隠蔽は別サービスです)。破壊には攻城兵器か上位魔法が必要になるでしょう』


「……って感じのヤツ」

「ほー。そこまでがっつりやられたら、並の冒険者じゃどうにもならんな。……それこそ、ダンジョン生活の内情が分からんとどうしようもない」

「……んんん」


 唸る。そうか、内情が分かるとメタ推理できてしまうか……。というか、もっと不味いことがある。


「おう、どうしたよ。いきなり唸り出して」

「いや、キャンプ場計画やるからさ……」


 かくかくしかじか、と事情説明。外部から人が入る。つまり、この隠し扉の話がバレてしまうのだ。


 それに対して、ダリオは一口酒を飲んでからこう言い放った。


「諦めろ」

「そんなー」

「そんなー、じゃない。しゃーないだろ、こればっかりは。外から不特定多数呼び込むような商売始めたらそうなるわ。幸い、くっそ頑丈なんだろ? ぶっ壊し始めたら嫌でもわかる。そこでも防衛できるように工夫するしかねぇべ」

「それしかないかー」

「ないな。あとはまあ、お客は当分お友達の貴族なんだろ? この情報がどんだけ大事かは言わなくてもわかる。当分は漏れないはずだ」


 その辺は俺も信用している。だが、いつかは外部に漏れるだろう。その時はまた内部に変更を入れるしかないか。……その時はメダルに困窮していないといいなぁ。


「まあ、不安点が今わかったことを良しとするか。一つ一つやっていくしかない」

「そうそう。道一つ引くにも手間暇かかる。だけど、そいつをやらないことには先に進まない話もあるってな」

「道で思い出した」


 ぐい、と俺も蒸留酒を一口飲む。喉奥が焼ける感覚を楽しむ。吐息一つ吐く。


「街道から、ダンジョンまで。道を引こうと思うのだけどどうかなご領主様」

「はぁ? そりゃあお前、そんなのあったら俺が楽になるけどよ……いいのかよ? 侵入者いらっしゃいになるぞそれ」

「この改装計画が完了したら、問題ない。防衛力が格段に上がるから。それよりも外部とのやり取りを活発化させて味方を増やす方がいい」


 ふうむ、と今度はダリオが唸る。悩んでいるのではなく、先の事に思いをはせているようだ。


「まあ、うちに陸港が完成したら道は絶対に必要だろうしな……河川交易も再開させるなんて無茶を公爵様もいってたし」

「陸港……飛行船の港だよね。あれ、作ることになったんだ」

「おう。うちの土地をブラントーム伯爵家に貸してな」

「……よその貴族に自分の土地貸すって、普通ないよね?」

「ない。絶対にって言えるぐらい、ない。土地は領地もち貴族の命だ。名が落ちるどころの話じゃない……んだが。今回ばっかりはいろいろ特別だからなぁ」


 曰く。帝国貴族のダンジョン以外への関心の無さは知れ渡っている事。領地の近くにダンジョンがある事。そして相手が大貴族である事。


 間違っても土地を取られることはない。目的がはっきりしている。逆らっても勝ち目がない。などなど。普通の貴族のやり取りではまずないような事が並んでいる。


「だから、メンツが潰れるって事は回避できる。さらに、デカい工事だ。流入してきている難民に仕事を与えられるってのも助かる。今も、ブラントーム家のお歴々が飛行船でわちゃわちゃ来てるからよ。いろいろ助かってるぜ」

「ああ……南の国もよろしくないって話だっけ」


 最近は、周辺地域の話も耳にしている。南にあるバルコという国が内乱状態らしい。国がそんな状態なら、国境の領主の手綱なんて握れないし難民だって出るだろう。


「うちの領地の人手は、難民と防衛でかかりっきりだからな。よその領地に入り込んでいる難民もある程度受け持てば、貸しが作れる。メンツを保つ助けにもなるし、いう事なしだ。……こっちがひと段落したら、その道の建設も請け負うぜ? 適正価格で」

「ううん……お財布と相談かなぁ」

「おいおい、そこは値切るところだぜ?」

「いやあ、公共事業を値切るってのは社会福祉の観点から……」


 などと、少しづつ酒が回り始めた頭で話が弾む。互いに、規模は違えど組織のトップ。帝国貴族ほど偉くも強くも余裕もない。だからだろうか、とても話しやすい。


 彼と協力関係になれたのは本当に良かった。そう思う。夜は更ける。酒は進む。話は止まらない。今日の酒はとても美味い。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話しの合う酒友は大事ですね。 この世界の一般常識のわかる普通の人間の男爵だし、帝国とは又違った見方もしているので深山にとって大事な存在ですよね。 男爵も地球の政治体制とか色々知れてお互いW…
[気になる点] バーサーカー1体でコイン10枚? 激戦の割りには少なく感じるな┐(‘~`;)┌
[一言] やっぱりこの作品は政治どうこうよりもダンジョンにかかわっているときのほうが面白いね
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