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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
三章 れっつごー! 強襲迷宮(アサルトダンジョン)!
51/207

物語の冒頭だが、ワイバーンだ!

新年あけましておめでとうございます。


第三章スタートです。


 厄介な相手ほど、望まぬ時にやってくる。


「モンスター! 前方に出現! ワイバーンです!」


 エラノールの声に、前方を見やる。ダンジョンの通路はそこそこの広さがある。大人三人が横に広がって、問題なく戦える程度には余裕がある。オーガや殺戮機械バーサーカーも移動できた。なので、羽根さえ閉じればワイバーンだって入ってこれる。


 トカゲの顔、長い首、腕の代わりの翼、蹴爪のついた足、毒針を持つ尻尾。あれぞ正にワイバーン。初心者冒険者には荷が勝ちすぎる相手とされるモンスター。


「射撃よーーーい!」


 俺は、バリケードの内側で声を張り上げる。コボルトたちがスリングを振り回す。エラノールが大弓を構える。そして俺は、最近買ったばかりの鉄球を振りかぶる。ソフトボール程度の大きさだが、鉄である。その威力は。


「ファイヤーーー!」


 号令と共に、凶器が放たれる。鉛のつぶて、強弓の矢、そして俺の鉄球。鱗の薄い場所に当たった鉛は突き刺さる。矢も、鼻先に深く突き刺さる。鉄球はといえば、鱗を砕き血肉を飛び散らせた。我ながら、なんて凶悪な。


「はっは。ひっでぇ。ぞっとするわ」


 隣にいた人物も、笑い半分引きつり半分で軽口を叩いた。打合せに来ていて巻き込まれたダリオ・アロンソ男爵である。


「とはいえ、下級とはいえ竜の端くれ。この程度じゃやられてくれませんね」

「ああ。冒険者だった頃やり合ったが、面倒だぞ奴は」


 初耳だった。鍛えているとは思っていたがそこまでだったとは。どんな冒険をしたか興味はあるが、今はそんな余裕はない。


「ギギャァァァァ!!!」


 怒りに燃えてワイバーンが吠える。あまりの大声に、周囲がビリビリと震えた。


「奴さん、お怒りだぞ?」

「俺目がけて突っ込んでくれれば儲けものですよ。ほら、例のあれ」

「ああ、アレね。確かにハマってくれれば一発だが、奴には……」


 そんなやり取りの間に、ワイバーンは重々しい足音を鳴らしながらバリケードに迫ってきた。もちろん、俺たちは手を休めていない。次々と攻撃が命中し傷が入る。しかし、致命傷には程遠い。流石の体力、オーガ以上。


 そして奴は、口を大きく開いた。長い喉が大きくうごめく様が見える。


「不味い! ブレスだ!」


 男爵が焦った声を上げる。そう、ワイバーンは毒のブレスを吐くことができる。モンスターカタログで勉強済み。だから当然、その対策も準備してある。シルフの名を呼ぶ。新しく与えた名を。


「エアル!」


 風が、背後より吹く。毒々しい色の液が放たれたが、俺たちに届く前に吹き散らされる。食らっていれば大惨事だろう。しかし、着実に力を付けた我がダンジョン。この程度はどうという事はない。


 ……とはいえ、エアルの力も無限ではない。あと、風の防御のせいでつぶてと矢が上手く届かない。俺の鉄球は問題ないが、手数が大きく減る。となればさっさとアレ、落とし穴にダイブしてほしい所なのだが。


「……近づいてこないな。気づかれたか? まさかな」

「本能でなんかある事感じ取ったとか?」

「無ぇとは言い切れないのが面倒臭ぇな」


 男爵が唸る。俺の鉄球に対しても、頭にもらわない様に首を動かすなどの回避行動を取り始めている。これはちょっとまずいな。


「仕方がない。今回は出番なしで行けると思ったんだが。シュロム!」


 石がこすれ合う音を体の各所から鳴らして、石の戦士が前進する。ストーン・ゴーレムにはシュロムという名を与えた。フランス語で超人の意味だ。その名の通り強くあってほしい。……強い事は強いのだけど、さっくり無力化されることもあったし、ね。


 それはさておき、今回は相手に魔法無し。毒はゴーレムに効かない。安心して任せられる。


 エアルの風が弱まった所で、シュロムが敵にたどり着いた。棍棒を大きく振り上げる。が、ここでワイバーンは驚くべき行動に出た。


 飛び跳ねて、下がったのだ。棍棒が何もない所に振り下ろされる。巨体に見合わぬ動きの良さ! さらに!


「ギャァァッ!」


 甲高い叫び声を上げながら、蹴爪でゴーレムに飛び掛かった! 流石に一撃でやられるという事はないが、あれは不味い。


「ミヤマ様、前に出ます」


 エラノールが、抜き身の刀を携えてやってくる。すでにエンチャントを使っているらしく、うっすらと赤い光が体を覆っている。アダマンタイト刀よりも時間はあるだろうが、かといって悠長にしていられるほどでもない。


「ブッたってこい!」

「お任せあれ!」


 鋭い刃を携えて、エルフ侍が突進する。追加戦力として、マッドマン達も進撃させる。さて、こうなってくると射撃攻撃はもう不可能。コボルトたちに待機を命ずる。


「ボースー。私もー」

「お前はまだだ」


 うねうねと不満を体で表現するラミアに待機指示。ミーティアの出番はもうちょっと先である。

 前線では、我らがガーディアンが見事な働きをしていた。


「ハァァッ!」


 気合一閃。刀が振るわれるごとに、鱗ごと肉が切り裂かれる。あの巨体を支える足だ、相応に頑丈に違いない。だが斬る。業物と、使用者の腕が合わさったからこその芸当だろう。


「はー、やるなあのエルフ。この間の時もそうだったけど」

「うちの自慢のガーディアンですからね」

「そのようだ。俺も、せめてもうちょっといい武器持ってきてればなぁ」


 男爵は、腰に下げていた長剣を引き抜いて明かりにかざした。素人目だが、悪いものではないと思う。だが、ワイバーンを相手取るには足りないという事か。


 俺は、傍らに置いてあった刀を手に取った。いざというときの切り札、アダマンタイト刀である。


「使います? これ」

「いやあ流石にそんな扱い辛そうなもの、ぶっつけ本番じゃ無理だぜ」

「ですよね」


 使うって言ったらどうしようかと思った。流石にお客さんに突撃させる気はない。かといって、エラノール達任せというのもよろしくない。


 戦況は有利とも不利とも言えない状態だ。とにかく、ワイバーンがよく動く。こちらの有効打が少ない。もう一押し必要だ。


 となれば、やはり俺もいくしかないか。俺は腰に差していた脇差を引き抜いた。アダマンタイトの刃が怪しく光る。


「おう、いいもの持ってんじゃないの。大将、それ貸してくれよ」


 ……何言ってるのかなこの男爵様。


「いやいや、お客様にあそこに突っ込ませるわけには」

「何今更言ってんだよ。この間も今回もたいして違いやしねぇよ」

「いやまあそれを言われるとアレですけど。っていうかこんな短いのですよ? 行けるんです?」

「奴に傷が入ればいいんだろ? 行ける行ける。ほれ」


 ひらひらと差し出される手。……良いのだろうか? 一応、交戦経験あるといっていたし、前回と違って今回は防具も付けている。ゴーレムやマッドマン達に援護もさせれば、いざというときの撤退も不可能ではないはず。


「時間、無いぞ?」


 いまだ苦戦中の前線を男爵は指さす。……いたし方が無し。俺は、脇差の柄を男爵に差し出した。


 彼はそれを握ると、手首を何度か返して重さを確かめた。


「見た目よりちょいと重いな。だがまあ、何とかなるわ」

「ご領主様! 我らもお供を!」

「邪魔になるからここにいろ。命令。じゃ、行ってくるわ」


 お付きの兵士さんが悲鳴を上げるが聞き受けず、男爵はジョギングに行くような気楽さを見せつつ前線に向かう。


 さて、ここからできる事は……。


「ミーティア。魔眼をいつでも使えるように。危なくなったら割り込め」

「りょーかい。って言っても、あの大きさじゃ一回が限度だよ?」

「構わない。十分だ」


 保険が一枚あるだけでも十分違う。さて、対ワイバーン戦だが、戦士一人加わっただけで戦局が動くかどうか。その答えはすぐに見れた。


 エラノールのような身軽な動きはない。ゴーレムのような力強さもない。マッドマン達のような再生力ももちろん、ない。しかし彼は、立ち回りが上手かった。


 ゴレームやマッドマン達に気を取られている間に、近寄って刃を滑らせる。アダマンタイトの刃は、正しく使えば鉄にすら食い込む。するりと走った脇差が、鱗と皮を切り裂いた。


「ギャァァ!」

「おおっと! 食らってたまるか!」


 うっとおしい物を払うように、ワイバーンの蹴爪が男爵へ向けられる。が、その動きに入った頃には、攻撃範囲から離れている。


 そして、一人に気を取られるとどうなるか。我らがガーディアンとゴーレムは答えを教えてくれる。暴力で。


「はぁぁっ!」


 熟練の鍛冶師による業物。ダンジョンからの身体強化。そして、練り上げられた本人の技量。三つ揃った刃が、大上段から振るわれた。背筋が寒くなるほど、刃は綺麗に抜けた。ワイバーンの腹が、開かれた。


「ギャァァァァァァ!?」


 だめ押しとばかりに、ゴーレムの棍棒がド頭に叩き込まれる。よろめいた所をチャンスと見て、さらに男爵が攻撃を仕掛ける。


 ……よし、これはいける。


「ミーティア、出番だ」

「やっとだよ!」


 ラミアが、バリケードから飛び出していく。彼女が今回のフィニッシャー。なので、できるだけ消耗させないように待機してもらっていた。……こういう戦い方ができるようになったのが、今の我がダンジョンなのだ。


「サングィス・フルーメン・マルディシオン!」


 赤黒いオーラを放ちながら、ミーティアが呪文を紡ぐ。そう、出血の呪文である。下位であるとはいえ、竜。まともに倒そうと思ったら、こちらにも被害が出る。だから、身体に傷を作りまくってからこの呪文。出血死を狙うというわけだ。


「癒えぬ傷、穿たれた失敗、流れ出たものは戻らない! 枯れ果てよ命! ロスト・ブラッド!」


 そして、それは目論見通りに成った。射撃から始まり、殴打、斬撃。様々な傷から一斉に血が噴き出す。エラノールと男爵は上手く離れられたようだが、ゴーレム達は血まみれだ。まあ、まとめてスライムに掃除させればいい。


「ギャァァ、ァ……」


 洞窟の床を揺らして、ワイバーンが倒れた。こうして、無事に防衛は成功したのである。


話のタイトルでロ〇ニロスを発症したかもしれませんが、筆者も同じなのでイーブンです。

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― 新着の感想 ―
[一言] コインによるエンチャントって使い捨てだと思ってたけど短時間で効果が切れるエンチャントを永続的に使えるようにするってことなのか
[良い点] 明けましておめでとうございます。 ちょっと格上でも対処できるようになったんだなあ… レベルアップ、ヨシ!(ネコ [一言] ロマ…… ロマ……
[良い点] 色々あったが仲良し
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