幕間 アロンソ男爵の苦悩
ダリオはアロンソ男爵家の三男として生を受けた。長男は無事結婚し子宝に恵まれた。次男は町の有力者の家に入った。長女である姉は王都の法衣貴族に嫁入りが決まった。ダリオは婿入り先もなく、期待もされていなかったことから一念発起して冒険者になった。これが十年前の事である。十五歳だった。
そしてこの年、この地方一帯を治めていたセルバ国はアルクス帝国に侵略を受けた。その情報が国の端に伝わるよりも早く、王都は陥落。セルバ国は帝国に併呑されることになった。
無事だった姉から後に聞いた話によれば、旧王都近くにダンジョンができたのが戦争の発端。ゴブリンその他が出てきて周辺の村落を害している事から、近隣領主が金を出してダンジョン攻略を画策。瞬く間に魔物は退治され、ダンジョンもほぼ制圧されたところに、帝国がやってきた。
五隻の、空飛ぶ鉄の船。魔法で広げられた、帝国の旗は地上からでもよくわかるほど大きく。宣戦布告を大音量で響かせて、彼らは軽々と国境を越えてきた。空飛ぶ船を防ぐ壁などどこにもない。止める術などなかった。
そして空飛ぶ船より魔法で降り立った大鎧の騎士たちにより、領主の街は瞬く間に制圧。そのまま王都に攻め入り、王宮へ突入。降伏を拒む王の首は躊躇われることなく跳ね飛ばされ、降伏を受諾するものが現れるまで刃は振るわれたという。
併呑後、帝国は一切の略奪を行わなかった。多くの者が耳を疑った。略奪があったという話はあったが、調べてみれば自国民の犯行だった。
併呑した後、帝国がやったことは三つ。一つ目は、多くの貴族の降格。王家は伯爵家に落とされ、それ以上の位にあった家も同じようにされた。逆らったら首が飛んだ。
二つ目は、統治の委任。旧王家がそのまま統治を任されることになった。しかし権威も武威も落ちた旧王家にその能力はなく、帝国の力に頼らざるを得なかった。
最後に、ダンジョン周辺を直轄領にした。帝国からやってきたマジナ伯爵という貴族が、その場を治めた。旧セルバ国の統治に助力しているのも、この貴族だ。
そう。帝国は、ダンジョンを守るためにセルバ国を併呑したのだ。土地、金、民、地位や名誉! 王や貴族がよって立つすべてを踏みつけて、ただダンジョンのみを求めたのだ。
そういう国であると、うわさでは聞いていた。質の悪い冗談だと思っていた。否、思いたかった。三千年成長を続ける巨大国家の本性が怪物だなどと、思いたくなかった。だが真実はこれこの通り。かくしてセルバ国は踏みつぶされた。
後に残るは無残の日々。権威が失われれば舐められる。舐められたら襲われる。大規模な会戦は無かったものの、主だった者の首が飛んだ貴族も少なくなかった。統治者がいなくなった土地は荒れた。盗賊、悪党の跳梁跋扈。混乱に乗じて動く怪しき輩。野良のモンスターも、討伐者が減れば相対的に増える。
長き黄昏の日々。若き日のダリオも仲間と共に盗賊やモンスター退治の仕事をしたが焼け石に水。旧セルバ国地方の治安と経済は長く混乱と停滞にあえぐことになった。
グルージャの町も、それらと無縁ではいられなかった。むしろ影響をもろに受けたといっていい。国内の有力貴族、商人の勢力の低下は交易の数に現れた。
グルージャは旧セルバ国最南端に位置する街だった。ここより南へいけば隣国バルコ。国境を接し時折争う間柄ではあったが、交易はあった。その交易の中継点になると当て込んでこの地に町を作ったのだ。事実、併呑される前までは行き交う船によって大いに潤った。だがそれも、この不況により過去の栄光となった。
さらに間の悪いことに併呑から五年後、今度はバルコ国で政変があった。前王が後継者を指名せずこの世を去り、内乱が勃発したのだ。
地道な努力により少しは終息を見せ始めていた盗賊被害も、ここにきて増加。さらに中央の制御を失った隣国の領主が越境しての略奪まで始めた。
やっと苦境を脱しようとしたのに、この追い打ち。ダリオの兄は、それに耐えることができなかった。外国でそこそこの成功を収めていたダリオは、ある日唐突にやってきた次兄より驚愕の話を聞かされた。
当主である長男が、家族を連れて出奔したのだ。貴族籍から抜けていた次兄では跡を継げない。万が一のために手続きをしていなかったダリオに白羽の矢が立った。次兄と一緒にやってきた領民たちに泣かれては帰らぬわけもいかず。冒険者を止めて領主となった。
あれから五年。がむしゃらにやってきた。子供もできた。領地の不安は払しょくされない。隣国の後継者争いは泥沼の内戦に突入し、略奪と流民は収まる気配がない。
そんな最中に、今度はダンジョンである。ダリオはあらゆる神を罵倒した。天罰を落としたければ落とすがいい。そう嘯きもした。
大いに後悔することになった。
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ダリオは、自らの屋敷の応接室で胃を痛めていた。数日前、ダンジョンに送り出した冒険者が返ってきた。聞いたこともない帝国貴族の使者と一緒に、ワイバーンに乗って。
ワイバーン接近で町は乱れたが、略奪等荒っぽい騒ぎには慣れている事もあり、衛兵によって治めることはできた。問題はその後だった。
近々、ダンジョンの事で名代がやってくる。自分たちはその先ぶれだと。ブラントーム伯爵家。そう、伯爵家である。小さな領地で細々やっている男爵家にとっては、雲の上の存在である。
しかも、訪問理由がダンジョンときた。ダンジョンに送った冒険者を連れ立っていた事から、この町の関与は露見している。もし自分の事まで知られていたら、なにもかもがおじゃんとなる。
さらに悪いことがある。あの商業派閥の商人が青を通り越して白い顔で言うには、ブラントーム伯爵家は、貴族派閥の大物だそうだ。力はあるのに、長い事ダンジョンと縁を持てなかったとかなんとか。そんなのが、挨拶にやってくる。
いっその事初めから断罪だの処刑だのと言ってくれればいいのに、挨拶である。なんだこれは。これが天罰か。罵倒一つでこれか。呪われろよ。
妻と子供を離縁して教会に放り込むには時間も余裕もなかった。なにより、使者が滞在しているのが最悪だ。動いたら露見する。奴らは魔法を使う、と屋敷にかくまっている商人の弁である。
そして、今日である。事前に話は聞いていた。衛兵にも領民にも言い含めておいた。とはいえ、混乱は避けられなかった。なにせ、空飛ぶ船である。十年前に国を滅ぼした、あの船である。直接見た者はわずかにしかいない。ダリオとて、戦後に旧王都に飛来したのを遠くから見た程度である。それでも、伝え聞く絶望が飛来したのだ。領民が恐慌に陥っても致し方がない事だった。
結局、ダリオ自らが馬に乗って街中を走り回ることになった。幸いなことに、飛行船が地に降りて中身を吐き出すにはしばしの時間を要した。おかげで外観を取り繕う時間は確保できた。もちろん、街の中に留まっていた使者には筒抜けだろう。それでも、見栄を張れるかどうかは大違い。五年の貴族生活で、ダリオはそれを良く学んでいた。
そして、今に至る。名代はすでにこの屋敷の中にいる。客室に入ってもらい、わずかながら時間を稼いだ。……心を落ち着けるために。まったく、落ち着かなかったが。
扉が、ノックされる。
「入れ」
「失礼いたします。お客様をお連れいたしました」
家令の兄である。ほかの家中の者たちでは、失礼があるかもしれないと思い頼んだのだ。普段はそうではない。だが、今回ばかりは致し方がないとダリオも思っていた。
「失礼いたします」
そう竜語で話し入ってきた者は、頭が狼だった。自分より数段上の豪奢な貴族服を着た、人狼だった。旧セルバ国では、街中でモンスターを見ることはなかった。ましてや、モンスターが貴族をやっているなど、笑い話にもならなかった。
さらに、無言で頭を下げながら入ってきた者も異形だった。緑の鱗をもつ、巨躯のリザードマンだ。彼用の椅子などなかったから、確認を取ったうえで騎士が鎧を着た時に使う木椅子を用意させた。
心底頑張って、落ち着き威厳のある声を出した。
「ようこそ遠い所をおいでくださった。ダリオ・アロンソ男爵だ」
ダリオは立ったままで彼らを迎え入れた。家長であり、この地の支配者である。たとえ相手が格上でも、本来ならば座って出迎えるべきである。しかし、それも時と場合による。振る舞い一つで街が焼け野原になるかもしれない、この時などは特にそうだ。
狼男は、見事な一礼をして見せると口を開いた。
「お初にお目にかかります。私はブレーズ。当主ロザリー・ブラントームの叔父でございます。こちらは、我が家で将軍職についておりますアラモです」
「お目にかかれて光栄だ、男爵」
竜語は冒険者時代によく聞いた。主に、敵側から。それを自分より地位の高い家から名代としてやってきた者の言葉で聞くのは、何とも言えぬ気分にさせられた。
着席を促す。尻尾が邪魔なのだろう。狼男のブレーズは浅く腰かけた。アラモというリザードマンはその重みで頑丈に作らせてあるはずの木椅子をきしませた。
「飛行船で、帝国からここまでどれほどかかるのか。私には想像するしかないのですが……道中は長旅でしたか?」
正直、こんな雑談をしたいとダリオは思っていない。しかし、いきなり本題を切り出すのは相手に失礼だし己に余裕がないという事を示してしまう。
正面に座る狼男は穏やかに答える。
「いいえ。ほんの数日程度です。天候次第では多少時間がかかりますが、増えてせいぜい半日程度でしょうか」
「……なるほど」
国が亡びるわけだ、とダリオは思った。あんなものが数日で長距離を移動する。それで機動戦をやられた日には、国のどこもかしこも襲いたい放題だ。防衛などできるはずもない。
「しかし、広い平地があって助かりました。アレは場所を取るので、そういった場所がないといろいろ苦労があるのです。最悪は、魔法で飛び降りるのですがご挨拶に参ったのにそれは少々はしたない」
「は、はは。はしたない、ですか。まあ、ご婦人にはお勧めできませんな」
「まったくです」
努めて、愉快に笑いながらダリオは戦慄を己の中に隠した。
鎧騎士が、空から降ってきたという噂は十年前に聞いていた。こいつらはそれをやれるわけだ、とダリオは黙っているリザードマンに視線をやる。これが空から降ってくる。雑兵など物の役に立たないだろう。
「さて、アロンソ男爵様。本日私共がご挨拶に伺ったのは、この近隣にありますラーゴ森林。その中に最近現れたダンジョンにまつわるものなのです」
「……ええ、使者殿からはそううかがっています」
ついに来た。一層痛み出した胃を押さえたい気持ちをこらえて、ダリオは鷹揚に頷いて見せた。
「我がブラントーム伯爵家はこの度、ラーゴ森林のミヤマダンジョンと縁を結ぶことができました。二千年の悲願をついに果たせたのです」
「……それは、おめでとうございます」
一応、貴族の地位を継ぐ時に帝国の国是は聞かされている。帝国はダンジョンの為にある。正気を疑うアレである。さらに、いくつかの情報筋からは多くのハイロウがダンジョンを求めているという話も聞いていた。
「これからは、多くの交流をしていく事になりましょう。となれば、地元のご領主に挨拶しなければ失礼にあたるというもの。というわけで、私が参った次第でございます」
「これは、ご丁寧に」
最初に来た使者は紹介状持参せず。挨拶に来たのが貴族ではなく、血族の家人。だが、格は相手がはるかに上。……もっとひどい例はいくらでもある。丁寧に挨拶に来ただけ良くされている、まである。少なくとも、蔑ろにはされていない。
「加えて、我が主と件のダンジョンマスター様はとある懸念を抱えられておりまして」
「と、おっしゃいますと?」
受け身ではいけない。相手のペースでは押し込まれる。だが、きっかけも手札もなにもない。首吊り台の階段を上る気分をダリオは味わっていた。
それを知ってか知らずか、ブレーズは淡々と語る。狼男の表情を見分ける経験が、ダリオにはない。
「どうにも、ダンジョンを脅威に感じる者がいると。二度も冒険者にダンジョンが襲われたと」
しゅうう、とリザードマンが鋭い吐息を漏らした。ケツが浮かなかった自分をダリオは褒めた。
「距離を考えれば、真っ先に上がるのがこの街です。誰が仕掛けたかは分かりません。しかしこれが、ダンジョンとの交流がなかったが故の不幸な行き違いであると。我が主はそのように申しております」
「……私の不徳の致すところであります」
ここでごめんなさい私がやりました許してください、と言えないのが貴族という生き物だ。名誉を失えばどうなるか。この国の十年がそれを示している。
ブレーズは緩やかに首を横に振った。
「民草のすることを領主がすべて把握できぬことは重々承知です。ですが、そうおっしゃっていただけるのであれば、一つお願いしたいことがございます」
「我が方でできる事であれば」
話が妙な流れになってきた、とダリオは感じていた。だからといって何ができるわけでもなかったが。
「ダンジョンマスター様と、会談をしていただきたい。領主自らが赴くというのは外聞が悪いというのは重々承知。ですがダンジョンマスター様はダンジョンから離れることができない。ご存じかとは思いますが」
「そのように学んでおります。……しかし、会談ですか」
ダリオは考える。まず、話をしないという選択肢は無い。首根っこを掴まれている。あの冒険者たちから商人について探られれば、自分に容易くいきつく。ここで拒否すればそこからは、間違っても愉快な展開にはならないだろう。
では、話に乗ったらどうなるだろう。会談である以上、いきなり殺されるという事はないはずだ。だまし討ちは流石に名誉に傷がつく。最初の報告通り、善のダンジョンマスターならそのまま話し合いとなるだろう。その場合、なんとかして謝罪に繋げなくてはならない。自分の首が飛んでも、町と家族に被害が及ばぬようにしなければならない。
だが、悪のダンジョンマスターならどうなる? 大貴族の力を借りて、服従を強要してくるのでは? 支配するなら、自分を生かしておいた方が楽だろう。ダンジョンマスターは外に出られないのだから。
どちらであったとしても、楽な場にはならない。覚悟を持って臨むべきだろう。
「分かりました、早速準備いたします。ラーゴ森林の中ですから、兵もいりますな」
「え? ああ、それでしたら問題ありません。飛行船で向かいますので、必要な供回りだけで大丈夫です」
「……そうですか。それは、助かります」
俺、飛ぶのか……。さらなるプレッシャーに、ダリオの胃はさらに痛みを訴えた。
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このままじゃ不味い。蛮族出身の冒険者ヘルムは、髭をなでながら宿の一室で悩んでいた。なにが不味いかといえば、自分たちの立場だ。
依頼通り使者を連れてきた。まさか魔法で軽くされ、ワイバーンに乗せられるとは思わなかった。空の旅は思いのほか楽しかった。寒かったのがよろしくなかったが。
問題はその後だ。厄介者を連れ込んだという視線の刃があちこちから飛んできた。あれしか選択肢がなかったとはいえ、この結果になるなら依頼を受けるんじゃなかったと後悔した。
しかも、今日はそれの繋がりで飛行船がやってきた。街は大騒ぎだ。ご領主様が治めたが、恐怖は街に残っている。恐怖はひとを狂わせる。その矛先が自分たちに向きかねないことを、ヘルムは直感で理解していた。
さらに、そのご領主様が帝国貴族と出かける準備をしているという。これは、仲間のネピスが上手く隠れながら手に入れた情報だ。混乱を収めていたご領主様の目がなくなる。極めて、不味いとヘルムは感じていた。タガが外れる。
(このままじゃ、袋叩きにされる……何とかしねぇと)
これは、あのダンジョンマスターの仕返しだろうか? という話が仲間内で出た。違うだろう、というのが皆一致する見解だった。これ以上冒険者が送られないために使者を送るとあの男は言っていた。話し合いが目的のはずだ。
よもや、使者を送ったらこんなことになるなどと予想していなかったに違いない。していたら、そもそも自分たちに依頼などしないだろう。依頼といえば、結局あの商人を見つけられていない。依頼失敗の報告もできていない。が、今はどうでもいい。
ともかく、状況を変えなければならない。
(一、逃げる。……この大騒ぎの中、町の住人から見られずに逃げられるか? 夜なら何とかなるかも。でも、夜まで持つか? ご領主様が出発したら、きっとやばい)
狭い宿の部屋の中で、ぐるぐると歩きながら考える。
(二、誰かに頼る。誰に? 町の連中は、だめ。宿屋の主も、だめ。冒険者仲間、だめ。町以外の連中……ワイバーンに乗ってた使者!)
ありかもしれない、とヘルムは顔を上げる。連中だって、町の住人がここまでビビり散らすのを困惑していた。今は飛行船と合流しているが、それまでは宿を取らず町の外で飛竜たちと野営していたぐらいだ。
使者の所まで行ければ、なんとか。ご領主様が街にいるうちが勝負。多少袋叩きにされるかもしれないが、暴動で押しつぶされるよりはまし。そうと決まれば仲間に声をかけて脱出の準備だ。
早速部屋から出ようとしたところに、ドアがノックされる。
「ヘルム、デルクだ。今いいか?」
「おお! いいぜ、ちょうどいい」
勢いよく開けられたドアの向こうにいたのは、ドワーフのデルク。そして。
「邪魔するぞ」
国境一の呼び声高い冒険者パーティの大盾使い、ハイランだった。大柄な彼が部屋に入ると、何ともせまっ苦しくなった。
「ハイランさん!? 何で」
「ご領主様から依頼があってな。お前たち、ダンジョンにもう一度行く気はあるか?」
「ダンジョンに? ご領主様から?」
状況が理解できぬヘルムは、仲間の顔を見る。デルクは一つため息をつくと、首を横に振った。
「ハイラン殿は、我らの状況を察してくださってな。町を出て、かつ名誉回復の機会を与えてくださったのよ」
「一歩間違えれば、俺たちも同じ状況になっていたしな。放っておいたら袋叩きだ。町の人間のためにも、それは避けなければならん」
「そりゃあありがてぇ。正直、強行突破するしかないって思ってた」
「お前はほんとうにもう……」
仲間の短慮に、デルクはもう一度ため息を吐いた。ハイランは、苦笑いを浮かべる。実を言えば、領主の依頼がなければハイランもそうするしかないと思っていたのだ。
「でも、どうしてご領主様は俺たちを雇うって決めたんだ?」
「俺たちではなくハイランさんのパーティだ。俺たちはおまけ。で、その理由だが……」
「話し合いってことで行きは船に乗せてもらえるらしい。帰りもそうなっている。だけどもし、話し合いがこじれてその約束が果たされなかったら? ラーゴ森林の中にほったらかしにされるんだぜ? 帰るためには冒険者がいるのさ。あそこまで行った冒険者ならなおいい」
「ああ、そういう事かぁ」
それと、とハイランは後輩の冒険者二人を見る。
「お前ら、あのダンジョンマスターと顔を繋いだんだろ? お前たちに話を通してもらって、俺たちのパーティも頭を下げる。そうすりゃ、ご領主様の話し合いにいい流れを作れるんじゃねえかなってな」
「おおー……流石ハイランさんだ」
「俺のアイデアじゃない。仲間のだ」
ひらひら、と手を振って誤魔化す。咳払いをひとつ。
「ともかく、そういうわけだ。急いで出る準備をしろ。街中は衛兵が付いてくれるから取り囲まれる心配はない」
「わかりました!」
ドタバタと、荷物を引っ掻き回す後輩の邪魔にならないようにハイランは部屋を出た。そして改めて、己の中にある不安を自覚する。
ダンジョンマスターとの会談。それだけで、本当に終わるのか? 話し合いは、上手くいくのか。どうにも、もう一波乱ありそうな気がしてならなかった。