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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
二章 迷路なくばダンジョンにあらじ
39/207

わくわく! ダンジョン体験会!

 さて、それでエンナさん無双がおわった……わけでは無かった!


「それでは、娘を借りていきます。こちらでどれだけ修練を積んだか確認しますので」

「え」


 右手に木刀、左手にエラノールさんの襟首。エンナさんは威風堂々と洞窟の外へ。リンジロウ殿、その姿を深~いため息で見送って。


「……では、これにて失礼いたします。家族を、よろしくお願いします」


 挨拶されて転送室からお帰りになった。で、ハルヒコ殿はといえば。


「皆が集まるまでしばし時間があることだし、妹弟子の腕前を見物してくるさ」


 と、おっしゃって二人の後を追った。……まだ、キャンプ開始前だというのに、やたらと疲れた感じがある。


「あの、ミヤマ様」

「うっわぁ! びっくりしたあ!」


 そうだった、まだエルダンさんがいたんだった。どうにも、ほかのご家族が濃いせいで相対的に忘れてしまう。


「……驚かせてしまい、申し訳ない」

「いえ、こちらこそ。気を抜きすぎたのは自分ですので」


 互いに頭を下げ合う。何とも間抜けな光景である。近くで荷物運びしていたコボルトが首をかしげているのが視界の端にうつった。いいから仕事に戻りなさい。


「それで、エルダンさんはこれからどうされます? 一足先に奥で休まれますか?」

「いえ。お気持ちだけで。それよりミヤマ様。先ほどダンジョンコインの話が出た時、妙に気落ちされていたようですが」


 ……目ざとい。そういったことが気になるのかな。


「ええ、まあ、その。実は、ペインズの襲撃からこっちモンスターがやってきませんで。コインの懐事情がだいぶお寒い感じに……」


 ははは、と空元気で笑って見せる。すると、エルダンさんは何やら唸り出した。


「ふむ、なるほど。で、あれば……追い込みましょうか」

「追い込み?」

「ええ、モンスターを。ご領主様から聞き及んだところによれば、ほかの貴族様方もダンジョン防衛に血気盛んになっているとか。であれば、娯楽の一つとして狩りがあってもよろしいかと」


 淡々と、結構なことをおっしゃる。物静かな雰囲気を纏っているのに、流石はあのエンナさんの旦那さん。


「それは……願ってもない事なのですけど、危ないのでは?」

「それに関してはもちろん、十分に注意いたします。森の中であれば、隠れる場所には困りませんし」


 ……本当に大丈夫だろうか。しかしまあ、こうやって自分で言いだす以上相応の自信があっての物だろう。この人から、慢心の気配は全く感じないし。


「そういう事でしたら……お願いしてもよろしいでしょうか? あ、先にハルヒコ殿に許可もらわないと」

「ああ、それは私から言っておきます。では」


 会釈した後、エルダンさんは入口へと歩いて行った。……弓矢も持っていたし、森歩き用の装備もしていたし。大丈夫だと思うが……。なんというか、捉え所がない。……気配が薄い……もしや!


「エルフの……ニンジャ!? ……な、わけないか、流石に」


 はっはっは、と笑う。気が付けば一人になっていた。……ほかの貴族様方が来るまでもう少し時間がある。かといって奥の居住区までもどると時間が無くなる。バリケードの所で休むか。一応休憩所もあるしな、あそこ。


 そう思って歩いてくれば、コボルト・シャーマンとアルケミストが二人して話し終えたところだった。


「……では、そのように」

「はい、かしこまりました。あら、主様」

「おう、ご苦労」


 片手を上げて挨拶。アルケミストは会釈一つして、居住区の方へ歩いて行った。で、シャーマンはそれを見送っている。尻尾を振りながら。……ふと、思う。


「なあ、シャーマン。あれからアルケミストとは進展したか?」

「はい!?」


 素っ頓狂な声を上げて飛び跳ねる。そこまで驚くことはなかろうに。


「……なんだ、その様子じゃ全然って感じか?」


 膝を曲げて目線を合わせてみれば、シャーマンは溺れるように手を動かすばかり。


「ええとその、仕事の話はたくさんしているのです! ですが、それ以外だと……何を話せばいいのやら……」

「何って、普通に話せばいいだろう。……趣味の話とか。何が好きか嫌いかとか」

「……そういうのって、話に出し辛くありませんか?」


 う。言われてみれば。仕事の同僚に一歩踏み込んだことを言うのは、なかなか難しいものがある気がする。俺とシャーマンだけだろうか。


「たとえば、エラノール様やミーティア様に、そういう話振れますか!?」

「ううう!?」


 ブーメラン! 自分で投げた話が返ってきた! ……確かに、俺も彼女たちとは仕事以上の話はあまり……は!


「酒! 酒を飲んだ時は結構話せているぞ! 飲みニュケーションだシャーマンよ!」


 なるほど! 世の男たちが女性を酒に誘うのはこういう事だったのか! 俺は社会というものを一つ理解したよ!


 解決策を振るも、シャーマンは浮かない顔である。


「お酒……我々に、そのような贅沢は……」

「贅沢って、それぐらいは……。そう、だったな。お前たちにはそういうの飲ませてやったことなかったな。甲斐性のないダンジョンマスターで、すまん」


 ……衣食住は与えている。衛生や健康にも気を使っている。しかし、俺はこいつらに娯楽や休暇を与えたことがなかった。ブラック! あまりにもブラック! なにがダンジョンマスターとして認められた、だ。やはり、煽てられて木に登っていた。


「主様、そのような!」

「いいや、シャーマン! 俺は決意した。このキャンプ計画を成功させ、収入が入るようになった暁には、お前たちにも酒や娯楽や休みを与えると! 従業員に、利益還元すると!」


 がっしりと、シャーマンに肩を掴む。思えばこいつにはダンジョンスタートから世話になっているのだ。こいつだけでなくコボルト全体、いやいやダンジョンで働くすべての者たちに。


 なんかシャーマンがお気になさらずとか言っているが聞く耳持たず。みんな幸せになってしまえばいいんだ。俺は決意を新たにした。


 ようし、接待頑張るぞう!


/*/


 そして、約束の時間。転送室よりお客様がやってきた。


「本日はよろしくお願いします」


 と挨拶するのはエドヴァルド殿。今日は前回の貴族服より豪奢度が減って実用性度がアップしている。それでも仕立てが見事なのは変わらない。


「こちらは妻のヒルダ。それから息子のセヴェリです。挨拶を」

「はい。ヒルダと申します」

「セヴェリです。よろしくお願いします、ミヤマ様」


 金髪碧眼白い肌。なんとなくロシアとか北の方の印象を受けるお嫁さん。若く見えるがハイロウだろうから年齢不詳。息子さんの方はお父さんと同じく黒髪。十五歳くらいの利発そうな少年だ。未来の公爵閣下だろうから、教育厳しそうだ。……所で、この間の叫びが本当なら、この年齢になるまで親に見せてないの? どれだけ恨みが深いの? ……さておき。


 エドヴァルド殿と同じく、二人とも動きやすさを意識した服装をしていらっしゃる。でもって、当然いらっしゃるイルマさん。何気に、私服は初めて見るなぁ。


「家族ともどもよろしくお願いします、ミヤマ様」

「はい、よろしくお願いします。本日は楽しんでいってください」


 でもって、続いてもう一組のお客様がご来訪である。一人目。ライオン耳、ライオン尻尾、白い羽の美少女、ロザリー殿。……今日は両腕露出、ショートパンツとかなり活動的というか攻めた服装でご登場。


「おはようございます、ナツオ様!」


 続いてモフモフダンディ。狼男のクロード殿。こちらも半袖ハーフパンツ。肌の露出ならぬモフの露出がすごい。


「クロード、只今はせ参じましたぞ! 妻のアンナ、それから自慢の息子ダニエルも連れてまいりました!」

「アンナでございます。精一杯務めさせていただきます」

「ダニエルです! 敵は一匹も逃しません!」


 アンナさんはロザリー殿と一緒のスフィンクスである。彼女と一緒で袖なしの上着だが、ロングスカートを装備。よかった、流石に人妻の露出が大きいのは困る。


 そしてダニエル君もセヴェリ君と同じく十五歳くらいと思われる。クロード殿と同じく狼男だからいまいち年齢も分かり辛いが。あと、血気盛んというかすごく気合が入っている。


 さて、両家ともに一泊二日の滞在なので荷物は最低限。……ただし、武装はたっぷり持ち込んできた。うーん、ヤルヴェンパー家。持ち込んだチェストが薄く光ってるぞぅ。あれもマジックアイテムか。いわゆるアイテムボックス? 容量詐欺系かなぁ?


 ブラントーム家。剣に槍に弓矢。胸当てと狼男用兜。合戦でもする気かな? する気なんだろうなぁ。エルダンさんの申し出がなかったら、すごく気まずいことになってたな。


「ブラントーム家の皆様もよくおいでくださいました。短い間ですが、どうぞ楽しんでいってください。さて、それではまずキャンプ場となる場所にご案内します」


 というわけで一同ご案内である。荷物はもちろんコボルトたちが運搬する。さらに、ソウマ家の皆様もこちらに来ていただくためにシャーマンがひとっ走りする。言葉話せるやつ少ないからね、うち。


 さて、先頭を歩くため背後の様子はいまいちわからない。だが話し声から察するに、二グループぐらいに分かれている。まず、当主グループ。エドヴァルド殿、ロザリー殿、クロード殿。


 もう一つは奥様チーム。ヒルダさんとアンナさん。両グループ共に挨拶から始まって今日の予定とか持ち込んだ武器とか和気あいあいと話しこんでいる。


 黙っている三人の様子が分からんのが、なんとも。


『ミヤマ様。伝わっていますか? 今、テレパシーの呪文で話しかけています』

「!?」


 の、脳に直接イルマさんの声が! 瞳を拝領しなくては。チキンナゲットください!


『えー、ものすごく混乱しているようですがどうか落ち着いて。あと、返事は考えるだけでできますから』

『ハイ分かりましたエロい事考えてはいけないセクハラダメ絶対』

『……へー』

『うあああああああああ』


 流石に、膝から崩れ落ちた。俺にだって羞恥心がある。え? どこまで伝わったの? これはもう死ぬしかないんじゃない?


『だ、大丈夫です! 色々大丈夫ですからとりあえず立ちましょう後ろが大混乱ですから!』


 何がどう大丈夫なのか問いただしたいが、確かに大混乱。和やかに歩いていたはずなのに、いつの間にやらみんなに取り囲まれていた。


「ミヤマ様!? どうされましたか!」

「何かに足を引っかけられましたか!?」


 エドヴァルド殿とクロード殿が即座に助け起こしてくれた。いつ近寄ったのかさっぱりわからなかった。


「あー……ちょっと転びました。申し訳ない」


 周囲に平謝りして、移動を再開する。脳内はぐるんグルんしていてとても平静ではいられないのだが、一応大人。上っ面を取り繕うぐらいはできる。


『……で、唐突にご用件はなんでございましょうかコノヤロウ』

『うわぁい。いまだかつてないトゲトゲした言葉が新鮮ですね!』

『なんで喜びますかねエドヴァルド殿にチクるぞ』

『やめてください折檻じゃすみません。兄上はあれでかなり厳しいんですよ。公爵やってますから』

『そういうのいいんで。内容、はよ』

『なんでお兄様やロザリー様は名前呼びなんですか!』


 ぶふぅ、と我慢できずに吹いた。それか。それが気になったか。まあ、気にもするか。あと、咳で吹き出しをごまかしておく。ごほんごほん。


『あー……前回の顔合わせの時に話の流れで』

『いいなぁ……ああ、いえ。そういう事でしたかー』

『イルマさんもよろしければどうぞ。そもそも俺も名前で呼ばせてもらってるし。めちゃくちゃ恥ずかしいけど』

『いいんですか! やったー! じゃあそういう事で! ……ええっと、それでもう一つ。建前の方』

『本音が駄々洩れすぎる。俺もだけど』

『キャンプ場の管理人としての挨拶ではなく、新しい仲間を迎え入れたダンジョンマスターの挨拶が必要ではないかと!』

『ええー……それ要りますぅ?』

『要ります! これは、ダンジョン生活体験会でもあるんです! みなさん、ダンジョンで頑張るぞーって気合バリバリじゃないですか! レクリエーションの一環だと思って!』

『あー……そういう事なら、まあ』


 確かに。皆さん、ただのキャンプ場に来たいわけじゃないものな。あくまで、目的はダンジョンだ。であるならば、そういう演出はあったほうがいいか。恥ずかしいけど。


 とまあ、そんな怪しいやり取りをしているうちにマッドマン沼を超えて居住区までやってきた。移動中に、ソウマ家の皆様も合流(エルダンさんを除く)。


 居住区は今日の日の為に掘り広げたため、三家族がキャンプするには十分のスペースを確保できた。もちろん、補強もした。必要な投資であるが、今は一枚のコイン投資も財布に響く。すでに残りコイン十枚を切っている。


 しかし、そんなことはお客様に関係ない。とりあえず歩きながら手順も考えたし、やってみるとするか。


「はい、それでは皆様。一泊二日の短い時間となりますが、ここがキャンプ地となります」


 ヤルヴェンパー家、ソウマ家、ブラントーム家。さらにうちのダンジョンのメンバー。そのすべての視線が俺に集まっている。緊張はする。だが、命のやり取りに比べれば大したこともない。


「テントはこちらで用意した物を貸し出します。設置はコボルトが手伝いますのでそれほど難しくはないはずです」


 彼らの背後には、持ち込まれた武装がある。その期待には、答えるべきなのだろう。


「それでは、キャンプ開始とまいりたい所なのですが……今回は、ダンジョン体験会という面もあります。ですので、よろしければダンジョンマスターとしての挨拶を一つしてみたいと思うのですが、よろしいですか?」


 反応は劇的だった。先ほどまでは、お客様がいた。レジャーを楽しみにしている人々。今は違う。戦士たちがいる。俺よりはるかに強い、資質と技能を併せ持ったダンジョンの申し子たち。


 無言の答えを受け取って、俺は居住まいを正して気合を入れた。声を張り上げる。


「私が、このダンジョンのマスターであるミヤマである! このダンジョンは始まったばかり。戦力、防衛力、設備、すべてが足りていない! 今日、一泊二日という短い期間であるが、諸君らのような優秀な戦士を迎えられたことは望外の喜びである!」


 ハイロウたちからの圧が、一気に膨れ上がった。各位がたぎらせる、戦意によるものだろう。一番激しいのがブラントーム家。毛を逆立て唸る様は正しくモンスター。比較的穏やかなソウマ家の人々も、その眼光は鋭く強い。ヤルヴェンパー家だってふつふつと身体から立ち上る魔力は目で見えるほどだ。


「ダンジョンコアを壊されれば私は死ぬ! このダンジョンも終わる! モンスターたちも路頭に迷う! 我々の為、そしてダンジョンを求める多くの人の為! 諸君らの奮戦を期待する! 以上!」

「ダンジョンの為に! マスターの為に!」

「「「おおおおおおおおーーー!」」」


 コボルト・シャーマンの号令の後、一同が気勢を上げた。……どうやら、期待に応えられたようだ。イルマさんもノリノリで腕を振り上げて叫んでいる。


 声が治まった所で、一礼する。


「以上で、ダンジョンマスターの挨拶とさせていただきます。それではダンジョン生活をお楽しみください」


 今度は一同の拍手が沸き起こった。

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― 新着の感想 ―
嫌が応にも気分がぶち上がりますねw
[一言] おお! 体験型アトラクションキャンプとは現実でも受けそうだw ただ参加人数とかの関係で抽選とかになりそうですがw 設備投資も大変そうw
[一言] わしがダンジョン塾塾長深山夏雄である!!
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