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我らの居住区、焚火前。武装解除され、傷の治療を受けた冒険者たちが俺の目の前にいた。人間戦士、人間斥候、ドワーフ僧侶、ハーフエルフドルイド、ダークエルフ妖術師。あと、蛇。黒毛のコボルトが、見張りだ! と主張するように棒をもって彼らの背後に立っている。効果があるかはやや疑問であるが。
迷路設置は、なんだかんだで三日かかった。ガチャで手に入れた迷路パーツをセットし、罠を何とか設置したのが先日の夕暮れ。その翌日にこの襲撃である。タイミングがいいのか悪いのか。
「……俺たちを、どうする気だ」
髭の似合わない、若い戦士が威勢よく聞いてくる。とりあえず、話をするだけ前回よりはましか。
「君たちの態度による。全く会話をする気のない、モンスター以下の存在であるのなら……」
「殺すってか?」
「いや、帝国に引き渡す」
冒険者たちがぎょっとした顔でこっちを見る。戦いの最中でそうなってしまったら、しょうがないとは思う。思いたい。だが、捕虜を殺すのはいろいろダメだろう。
ハーフエルフが、驚きのまま尋ねてくる。
「あ、貴方は帝国にツテがあるっていうの?」
「ない方がおかしいだろう。モンスター配送センターも、デンジャラス&デラックス工務店も、帝都にあるんだよ?」
今度は、反応が鈍い。どうやら、サポート二店については一般的に知られているものではないらしい。
「まあ、いい。ともかく、君たちの態度次第だ。しゃべるか、黙るか。好きな方を選ぶといい。俺はどちらでも構わない。……が、その前に」
「あん?」
「そっちの華奢な子、だいぶ顔色が悪いぞ。寝かせた方がいいかもしれん。エラノールさん」
「はい、直ちに」
斥候だという娘さん、今にも倒れそうな顔色である。もはや脅威ではないのだから、変に虐待する気はない。俺の右後ろの立っていたエラノールさんに声をかける。彼女は、コボルトに指示して焚火の近くに寝床を用意させ始めた。……黒毛の。お前は見張りなんだからそこに居なさい。運ぶのはほかの者にやらせるから。
さて。斥候娘さん、ただ寝かせるだけでは足りないかもしれない。
「アルケミスト。容態を確認して、必要なら薬をだしてやりなさい」
「はい、かしこまりました主様」
「……寛大な扱いに感謝いたします、ダンジョンマスター様」
ドワーフ僧侶が深々と頭を下げた。ほかの仲間たちも、態度は違うものの礼を示す。俺はいつものキャンピングチェアを王座のように座りながら、話を進める。
「さて。それじゃあ早速聞かせてもらいたいことが一つ」
「……答えられることでしたら」
「迷路部分の感想を聞きたい」
「……はい?」
受け答えしていたハーフエルフだけでなく、冒険者全員が訝し気にこちらを見る。まあ、気持ちはわかる。
「なぜ、そんなことを聞く」
ダークエルフの美人さんが、鋭い視線を投げてくる。ダークエルフ、初めて見たが物語の通りだな。ボンキュボンの美女……おっと、脱線。セクハラもだめ。
「理由一。本当は君たちが何故うちのダンジョンに来たのか、その理由が聞きたい。だけど依頼主とか答えられないだろう? 君ら」
「当然だろ。そんなのペラペラしゃべったら商売あがったりだぜ」
戦士君が睨みつけてくる。元気のよいことだ。抵抗する様子はないからそのまま続ける。
「だよなぁ。だからとりあえず、しゃべり易い所から聞いたのさ。それが理由一。理由二としてなんだが、実はあの迷宮部分昨日でっちあげたばかりなんだ」
「だからか! ……おっと失礼。いえ、どうにも急造感があるとおもったので」
ドワーフが激しく反応。まあ、その辺はバレるよな。バレても別に困らないわけだが。
「なので、挑んだ側の感想というのはとても価値がある。で、まず第一なんだが。入り口の所の鳴子。あれ解除したときに『これで侵入はバレないぜ!』って思った?」
「「「うっ!」」」
冒険者たち、一斉に呻く。どうやら図星だったようだ。同時に、俺の意図したところが見事的中したという事でもある。
うちのダンジョンにはシルフがいる。魔法で隠れて近づくならともかく、そうでないならシルフの索敵から逃れることはできない。つまり、鳴子は別になくてもいい罠なのだ。それを、あえて入り口に設置してみた。別に引っかからなくていいのだ。彼らのように少しでも油断してくれるなら、やりやすくなる。
「結構。では次の質問だ。西側通路の奥。金貨が沈んでいた泉だけど。やはり入ろうと思った決め手は水の奇麗さだった?」
「あー……入ったのはそこでぶっ倒れているやつで、割と金に目がないから決め手かどうかは……」
戦士君が両手で額をこすりながら答える。一応、手は縛っているからそういう風にしかできないわけで。
「でもまあ、流石に水が汚かったら止めますね。毒が混ざっていたら事ですし」
「なるほど。回答ありがとう」
やはり、水をきれいにしておいたのは正解だったか。わざと壁に穴をあけて、マッドマンに頼んで水を引き出してもらったのだ。ちなみに、水が抜ける穴も開いている。溜まりすぎて溢れるという事はない。
「なあ、俺からも質問いいか? なんでわざわざ、水底に金貨なんて沈めてあったんだ?」
「おい、ヘルム!」
戦士君を、ドワーフが止めようとする。……まあ、別にいいか。バレたところで大したことにはならないし。
「簡単だよ。金貨があったら、潜ってくれるだろ? 冷たい水の中に。しかもたくさんばらけて沈んでいるから、一回二回じゃ上がってこれない。さぞかし疲れるだろうと思ったんだけど、予想通りの戦果のようだ」
「ひーどーすーぎーるー。あまりにも卑怯すぎるー」
斥候の子が呻いている。寝かされているものだから、駄々っ子のようにじたばたと。ふっふっふ。卑怯は、誉め言葉だ……などという懐かしのネットミームはさておき。
「こちらからの質問は以上だが、何かしら意見があれば聞きたい。報酬は……これまでの受け答えも含めて、装備の全返却の約束かな。流石に金貨は返してもらうが」
おお、と冒険者たち声を上げる。ただし寝かされている斥候の子はぎにゃー、と悲鳴を上げた。まあ、苦労して拾ったのだからさもありなん。
ドワーフが、軽く周囲の仲間に目配せしてから発言する。
「そうであるならば、わしから一言。途中、いくつか不自然な分岐がありましたが、あれは?」
「拡張工事予定箇所。あそこからさらに広げてより迷路らしくする予定」
今のままでは迷路とはいえない。ただ分岐と罠があるだけだ。もっと迷うようにしなければ、冒険者はともかくモンスターの大群などに戦力分散が期待できない。
「なるほど……正直申し上げて、罠があるだけではあまり脅威ではありませんな。岩も水も泥も、それ自体は恐ろしい。しかし、解除ないし対処さえしてしまえば問題がなくなる。モンスターと一緒に運用するべきかと。それこそ、我々が捕まったあの部屋のように」
「おい、デルク!」
「ダンジョンマスター殿は、我らに対して真摯に対応してくださっている。ならば、我らもそうあるべきだろう。ここでご厚意を踏みにじるは人の行いではない」
「だけどよ、依頼は……」
「ヘルム!」
何か言いかけた戦士君を、ダークエルフが叱責する。ふむ。
「……うちに侵入してきた冒険者たちは、君たちで二組目なんだ。そして、最初の冒険者はどれだけ話しかけても何も答えなかった。……何か、あるね?」
俺の言葉に、戦士君は露骨に目をそらした。その素直な反応、とても助かる。こちとらただの一般人だ。腹芸などやったことがない。それでも命にかかわるから、やっていかないといけないのが辛い所。
「……まあ、いい。ほかに何か気になった所は?」
流石に、微妙な空気になってしまったためか皆口を閉じてしまった。……素人の尋問だから、この程度が関の山。不審な依頼人がいるらしい、と分かっただけでも十分か。
そろそろ切り上げようかとしていた所に、コボルト・シャーマンがやってきた。
「主様、ご報告がございます。こちらの皆様の荷物を改めさせていただきました」
「おい! 装備は返してくれるんじゃなかったのかよ!」
戦士君が吠える。まあ確かに、舌の根の乾かぬ内にとか言われそうなやつだな。
「返すとも。だけど、不審物がないか調べるのは当然だろう? 脱出用のマジックアイテムとかあったら大変だ」
「そんな高けぇ物もってねぇよ!」
「俺はそれを知らないからなぁ。だから調べるのさ」
怒っているのは戦士君だけで、他はまあ致し方がないと受け入れている感じだな。シャーマンに、手で続きを促す。
「はい。とりあえず、洗濯物がたまっていたので洗わせていただきますね。泥だらけの靴下とかもありましたし」
う、と女性陣が呻く。まあ、当然の反応だな。戦士君だけ、ラッキーとか言ってる。素直でよろしい。
「シャーマン。女性の洗濯物は、メスのコボルトたちにやらせてくれ」
「はい、かしこまりました。それから、日持ちしない食料がいくばくかありましたが、これは皆さまの食事に回させていただきます。干した果実とかは、おやつでしょうし」
「私の干しベリー!」
ハーフエルフの女性、喜びの声。食べ物の恨みは恐ろしいからな。その辺はしっかりしないとな。
「最後に、こちらを」
そういってシャーマンが手渡してきたのは、折りたたまれていたらしい羊皮紙だ。明かりにかざしてみる。
「これは……地図、か?」
極めて簡易だが、地図だ。ダンジョンがある岩山と森が書かれている。そして、ダンジョンから西(この地図が北を上に書かれているという仮定の上だけど)に、川らしき絵。さらにその上流に、町らしきものが記載されている。文字もかかれているが、残念ながら俺には読めない。
冒険者たちを見れば、色んな反応を示していた。ダークエルフが怒りの視線を仲間に投げる。ハーフエルフ、ドワーフ、戦士君がそろって首を振っている。……ということは。俺は、焚火の傍で寝かされている斥候の子を見る。……疲労がたまっていたのだろう、うつらうつらと舟をこいでいた。
「ネピスーーーーー!」
「うひゃぁ!? 何!?」
ダークエルフの怒号に、叩き起こされる。何事かと周囲を見渡しているので、俺は地図をひらひらと振って見せた。わずかながら眠ったことで良くなっていた顔色。さぁっと血の気が引くのを見て取れた。その反応で十分だな。
「おいアンタ! グルージャの町は関係ねぇ! 何もすんなよ!?」
「おお、この町の名前はグルージャっていうのか。ありがとう」
「ヘルム! このバカ!」
ダークエルフ、さっきから怒ってばかりである。しかし、俺もそうだが。こういった場面でうまく立ち回るには知識と経験が必要だと思うんだよな。若い戦士君や斥候ちゃんには難しい所だろう。この失敗で学びを得られればいいが。
「せっかくだから教えてくれ。このグルージャという町は、アルクス帝国の所属という事でいいのかな?」
「……その通りですが、何か」
探るように聞いてくるドワーフに、頷く。
「うん。そうならば俺から暴力的、または短絡的なアプローチはできない。俺もまた帝国の恩恵を受けている者。無法を働くことはできない。そこは安心してくれ」
安心させるためにそう口にしたのだが、これに強く反応したのが斥候ちゃん。
「嘘だぁ! ダンジョンは、貧乏人を生贄にするんだ! あたし知ってるんだよ! 仲間が何人も連れていかれたんだ!」
「ネピス、止めなさい!」
ハーフエルフさんが叱責する。……俺はといえば、斥候ちゃんの言葉に衝撃を受けていた。思い出されるのは、少し前にヨルマに聞いたあの話。人を人とも思わぬ、外道のダンジョンマスター。
自分の身の回りの事で精一杯で、それについて考えていなかった。無意識に考えるのを避けていたのかもしれない。……もちろん、それはあくまでそいつのやったこと。俺は何の関与もしていない。しかし、それでもその害を受けた人が目の前に現れたというのは、殊の外心が苛まれた。
「……すまない。話せる範囲でいい。そのひどいダンジョンの話を、教えてくれ」
/*/
あまりにも、ひどい話だった。斥候ちゃんだけでなく、冒険者たち全員が話をしてくれた。アルクス帝国の横暴が、一つの国をめちゃくちゃにした話だった。
外道のダンジョンマスターが街を襲った。国はそれに対処した。そうしたらアルクス帝国が戦争をしかけてきた。なんだそれは。無茶苦茶が過ぎる。
国はなくなり、地域の治安と経済はガタガタ。外道のダンジョンはそのまま。それどころか、貧民がさらわれダンジョンに連れていかれているというじゃないか。あまりにもひどい。
一通り話を聞いたので、礼もかねて茶を振舞った。両手が縛られた状態では飲みづらいだろうから、コボルトをサポートに付けて。
「……なるほど。そんなのがいるのなら、冒険者を派遣するわけだ」
よくわかった。冒険者たちの依頼人は、俺を外道と同じだと思っているのだろう。俺が同じ立場だったらそうする。やられる前にやる。……ただ、ダンジョンが簡単に帝国と情報のやり取りができる環境にあるというのを知らないのだろう。知っていれば、短絡的に攻撃しようなどとは考えないのではないだろうか。
そんなふうに俺が呻いていると、戦士君がおずおずといった風に話しかけてきた。
「……なあ、あんた。あんたはどうして、そうなんだ?」
「そう、とは?」
「なんつーか……ダンジョンマスターらしくねぇってか……もっと威張るもんじゃねえの? 俺たちの扱いもぬるいっていうか。うちの部族だったら、捕虜はとりあえずぶん殴って四の五の言えないようにするぜ?」
威張る。威張るなぁ……威張れるほど立派じゃないしなぁ、という言葉は流石に飲み込むが。
「捕虜の扱いに関しては、今の所そこまでする必要を感じていない。武器やらなにやら取り上げられた状態で、モンスターたちに勝てるなんて思っていないだろう、君ら」
「そりゃあまあ、そうだけどよ……でも、甘っちょろいと舐められるぜ?」
「だから威張れ、と。うん、わかる話だ。こいつは大したことないって思われたら、食い物にされるのはどこの世でも一緒だね」
あの平和な日本だって変わらない。店員という弱い立場の相手に対し、客という強い立場にある連中はそれはもう横柄に振舞うものだ。もちろん、そんな人ばかりではなかったが。
「完全な敵同士。不倶戴天。命の取り合いしかないという相手ならともかく。こうやって意思疎通ができる相手には、礼節をもって対応する。他者に敬意を払えない者は、相手からもそう扱ってもらえない。俺はそう思っているんだ」
「……それで舐められたら?」
「相応の態度で返すまでさ」
片手を上げる。ただそれだけでコボルトたちは理解してくれた。一斉に、唸り声を上げて牙をむき出させた。
最近は毛並みもきれいになってすっかり愛らしさが増したが、こいつらはモンスター。必要となれば、敵に噛みつく事に躊躇はない。
そう、今の俺はダンジョンマスター。雇われ店員とは立場も責任も異なる。当然、舐めてくる相手への対応も変わるのだ。
コボルトたちの変容に、戦いに慣れていると思われる戦士君もド肝を抜かれたようだ。そして、それを見てダークエルフが喉を鳴らして笑う。
「クックック。お前の負けだ、ヘルム。役者が違う」
「……ッチ。うるせえよ」
「偉大なるダンジョンマスター殿。我らの無礼無作法をお詫びします。重ねて、此度の襲撃についても謝罪いたします。相応の罰を、お与えください」
……うーん、流石はダークエルフ。経験が違う。今までのやり取りを見て、礼節をもって謝罪した方が得であると即行動に出たか。仲間の冒険者たちも、動きはばらばらだけど確かに頭を下げてくる。
そうされたならば、俺もそれに答えなければならない。ここで答えることが、信用への一歩となる。
「謝罪は受けた。そして相応の罰という事だが、正直我が方の損害は極めて軽微だ。なので、このまま解放してもいいとすら思っている。の、だけど……」
「我らの雇い主、ですか」
ダークエルフの言葉に頷く。冒険者たちが、町に帰って依頼主に報告する。それでこの襲撃が終わるだろうか。仮に依頼主が領主だとすると、帝国のやらかしを考えるとまだまだ疑いは晴れない気がしてならない。
あるいは、商業派閥の妨害工作である場合。話し合いでは解決しない。……対処法が異なる以上、今回の依頼人がどちらか調べる必要がある。……そして思い出す、先日のお貴族様方とのやりとり。特に、ロザリー殿の言葉。
「……罰の代わりに、君たちに依頼をするのは可能だろうか?」
「依頼によりますが、できうる限りはさせていただきます」
妖艶にほほ笑むダークエルフ。まったく、見事なリップサービスだ。美人に見慣れる前の俺だったらコロっとやられていたかもしれない。
「話を通さなきゃいけない先がいるので、まだ本決まりの案ではないのだけど。君たちの町へ、俺の代理人を連れて行ってほしい」
「そして、我らの雇い主に会わせろと?」
「……それは無理、だよな」
無理無理、と戦士君とハーフエルフさんが首を横に振る。正体不明の依頼人。どんな立場でどんな地位かも不明。その人物に話を通しても、上手くいくかも不明。
出たとこ勝負でやってもらうのは、あまりにも無理があるか。どうしたものか……。
「ミヤマ様。その町の領主に話を通すのはいかがでしょうか。帝国貴族である以上、ダンジョンマスターからの使者は断れないはずです」
静かに冒険者たちを警戒し続けていたエラノールさんの意見に、俺は思わず手を打った。
「そうか。どんな人物かわからない依頼人より、確実に権力がある領主に話を通す方が確実か」
この手なら、依頼人はどちらかという事を探るステップが簡略化できる。
「はい。依頼人が領主本人、またはその部下という事も十分考えられます。聞けば、ダンジョンを脅威ととらえている様子。地域の問題に金を出してまで対処する立場の者は、限られています」
「確かに。よしよし、希望が見えてきた。と、いうわけだ冒険者諸君。俺の代理人の護衛、引き受けてくれるかな? ……罰にしては大きすぎるか。よし、報酬も出そう。相場分からないけど」
「ミヤマ様、行きのみでは代理人が困ります。往復の護衛で依頼せねば」
「おお、それは思いつかなかった!」
きゃっきゃうふふと話を弾ませる俺たち……いや、はしゃいでいるのは俺だけか。ともかく、話に追いつけない冒険者が呆然とこっちを見ていた。が、すぐにダークエルフが咳払いして居住まいを正す。流石、年の功……いやいかん、こういう事考えると本人にばれる。俺は詳しいんだ。
ダークエルフは仲間たちを見回す。首を横に振る者は一人もいなかった。
「かしこまりました。代理人の護衛、お受けいたします。依頼料は勉強させていただきますが……とりあえず」
「とりあえず?」
俺がオウム返しに聞くと、彼女は両手の縄をこちらに見せた。
「これを解いてはくれませんか、依頼人殿」