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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
二章 迷路なくばダンジョンにあらじ
35/207

アタック・オヴ・アドベンチャラーズ チームB

 ミヤマのダンジョンの前に、五人の冒険者の姿があった。前回襲撃してきた者達ではない。商業派閥の商人によって、新たに雇われた者たちだ。


 蛮族出身の戦士、ヘルム。ハーフエルフのドルイド、カーラ。人間の斥候、ネピス。ドワーフの僧侶、デルク。そしてダークエルフの妖術師、ナイヴァラである。


 ダークエルフは、一般社会で歓迎されない種族である。大抵において邪悪な神を信奉し、様々な悪事に手を染めるとされている。冒険者という職業であるからこそ、辛うじて街に入れるというレベル。もっとも、それを十分に理解しているダークエルフたちは、正々堂々表門から入ったりしないのだが。


 若き蛮族の戦士、ヘルムは伸ばし始めたばかりの髭をしごきながらダンジョンの入り口を睨んだ。髭を生やす理由は、貫禄を得るためだ。部族にいたころは生意気だと認められなかった。


「……出てこないな。話じゃあ、やばいのが次々と飛び出てくるんじゃなかったのか?」


 普段ははばかることなく大声のヘルムだが、流石に事前情報を聞かされて小さくしゃべらざるを得なかった。斥候の少女、ネピスはしばらく耳を澄ませていたがやがて首を横に振った。


「足音は聞こえてこない。ゴーレムがいるって話だし、ずいぶんと大きい足音だったって話だから、こっちに来てないと思う」

「ようし、それじゃあいつも通り。頼むわね、スエールテ」


 その声に答えて、ハーフエルフの娘カーラの服の下から大人を二巻きはできそうな蛇が這い出てきた。彼女は人の血が濃いのか、肉付きの良い身体をしている。凹凸があるから隙間があり、ゆえにそんなところに潜んでいられるのだ。今年で十五になるヘルムなどはそのように考えている。


 さて、ドルイドとは自然を信仰しその力を授かる者たちである。その能力の一端として、このように動物と特別な絆を結ぶことができる。長じれば、会話をするように意思疎通が可能となる。


 蛇のスエールテは、音を立てずするするとダンジョンの中に入って行く。このパーティでは静かに先行偵察してくれる大事な戦力だった。


「今回はどうする? 燻すか?」


 燻す。洞窟の入り口で煙を焚いて中に送り込むという、冒険者の伝統的戦法である。ヘルムの言葉にドワーフであるデルクは長い髭をひとなでしてから唸った。


「……止めておくとしよう。まず、深さがわからん。さらに、ゴーレムは煙などものともせんだろう。これがゴブリンの巣なら話は別なんだがな」

「さらに言えば、ダンジョンマスターは傷をつけるなと依頼を受けた時に言われただろう。忘れたのか」


 妖艶なダークエルフの女、ナイヴァラの言葉にヘルムは鼻を鳴らすだけで反論しなかった。パーティを組んで半年。女たちに言葉で勝てないことを、ヘルムは十分に身に染みていた。部族でも同じだったことは記憶の奥底にしまい込んでいる。


 蛇のスエールテがダンジョンに入ってから、カーラは目を閉じていた。絆によって、スエールテが見たものを共有できる彼女は、発見物を報告する。


「入り口にモンスターの姿はないわ。でも、鳴子の罠は見つけた」


 冒険者たちはなるべく音を立てることなく、ダンジョンに侵入する。鎧や荷物がある為どうしても音は出るが、気を配るかそうでないかの差は大きい。内部は間隔を開けて明かりがあったが、冒険者たちはたいまつを付け、ナイヴァラがこれを持った。敵地である。明かりを消される可能性を考えたのだ。


 鳴子の罠まで足を進めた。罠は単純なものだったので、見つけてしまえば解除は容易い。ネピスの手によってあっさりと効力を失った。


「これで、侵入はしばらくばれないってこったな」


 へっへっへ、とヘルムは笑うがナイヴァラは渋い表情を浮かべる。カーラも、眉根にしわが寄っている。彼女たちの身体に流れる妖精の血が、妙に強い風の精霊の気配を感じ取っていた。が、二人とも精霊は専門外だった。流石に、それだけでは確信が持てない。


 そんな二人の心情を感じ取って、パーティ最年少のネピスが小声で叱咤する。


「油断したらダメだよ。ここは、本物のダンジョンなんだから!」

「分かってるよ、それぐらい」


 ふん、とヘルムは鼻を鳴らす。この二人、歳が近い。パーティの年齢順は、ナイヴァラ、デルク、カーラ、ヘルム、ネピスである。最年長と最年少がどれほど離れているか、知っているのはナイヴァラのみである。


 冒険者たちは、罠を解除してすぐに十字路に差し掛かった。


「なあ……ここ、変じゃないか?」

「うむ、わかるぞ。どうにも新しい。床や壁の質が入り口とは明らかに異なる」


 ヘルムの疑問にデルクが頷く。今まで補強こそされていたが、土や岩がむき出しになっていた壁が、唐突に平に整ったものに変わったのだ。ドワーフが壁に触れる。


「んー……火山灰。ははん、こりゃコンクリートだな」

「コンク……なんだそりゃ」

「帝国が昔から使っとる建材だよ。火山灰を色んなもんと混ぜ合わせて作る。乾くとこんな感じで固まるわけだ」

「帝国はよくこいつで要塞を作るんだが、矢じゃ歯が立たん。部族のババァ達はずいぶん苦労したらしいな」


 クックック、とナイヴァラは暗く笑う。自分もババァのくせに、と男二人は思うのだがもちろん口にはしない。何度もひどい目にあっているので、身体で覚えたのだ。


「足跡、ないわね」

「うん、まるで舐めたようにきれい」


 カーラとネピスは灰色の地面を注意深く観察していた。屋外でも屋内でも、地面は重要な情報源だ。足跡が多ければ、そこが通り道であるとわかる。逆にない場所は普段使われていないという事を示す。


「じゃあ、右からでいいか?」

「そうだな」


 ヘルムとナイヴァラのやり取りで、移動方向が決定された。冒険者たちはここしばらくの冒険によってひとつの学びを得ている。冒険をしていると、往々にしてこのように一切の判断材料がない状態で選択を迫られる場合がある。そういう時はどうするか。カンで選ぶのである。


 適当ではない。当りを引くまで選ぶという覚悟を持って動く。彼らは冒険者である。危険に挑まぬ者は冒険者ではない。


 冒険者たちは隊列を組んだ。先頭は罠を見つけるために斥候のネピス。次にすぐに戦えるように戦士のヘルム。真ん中に一番打たれ弱いナイヴァラ。これは、変化した状況に対して素早く魔法を放つためでもある。その次にドルイドのカーラ。最後に僧侶のデルクとなる。最後の二人は専門ではないが近接戦闘が可能である。背面からの不意打ちがあっても対応可能というわけだ。


 蛇のスエールテが先行し、冒険者たちが進む。不気味なまでに四角く整ったダンジョンの中を。途中、一つ分かれ道と遭遇した。直進と、左への道。しかし、その左への道はすぐに行き止まりとなっていた。ネピスが念のためにと隠し扉の存在を調べてみるが、なし。何のための分かれ道なのか、冒険者たちにはわからなかった。


 戻って再び直進する。するとほどなくして、上り坂に出くわした。互いに顔を見合わせてから、慎重にすすむ、と。


「待った。罠がある」


 先頭を歩いていたネピスの静止の声。皆、素早く周囲を警戒する。罠の手前での襲撃を、かつて彼ら彼女らは経験していた。


「外せるか?」

「大丈夫、ワイヤーだから」


 ナイヴァラの問いに答え、ネピスは素早く作業に取り掛かる。細い線だった。スエールテが見逃したのも無理はなかった。引っかからなかったのは幸運だった。


 ワイヤーがわざと見つかるためのもの、という事もある。ネピスはワイヤーを無力化させると、念のために周囲を改めて調査する。幸いなことに、そういったものはなかった。


「終わったよー」

「ねえ。この上なんだけど……岩があるわ。いかにも転がってきそうなやつ」


 スエールテの目を通して得た情報をカーラが口にすると、皆が一斉に苦虫をかみ潰したような表情になった。


 ヘルムが心底うんざりとした声を上げる。


「引っかかったらどんがらがっしゃん、か。たまらねぇな」

「そうね。あと、モンスターの姿はない。でも、なんか箱が置いてある。宝箱かしら?」

「行ってくる! 待ってて!」


 小柄なネピスが猫のように坂を上っていく。追いかけるのは危険が伴う。いざというときに動けるようにしつつ、冒険者たちは仲間を待った。


 大した時間もかからず、ネピスは戻ってきた。手にあったのは、小さな革製の小袋ひとつ。


「金貨、十枚ー。あと、行き止まりだった」

「十枚かー」


 ヘルムが唸る。駆け出しだったころならば、十分うれしかった金額だ。だが、半年も冒険者として生き残ると、それなりの金を得られるようになる。金貨十枚では、ここまでのやってきた労力に見合わない。


 なお、なぜこんなところに金貨があったかを冒険者たちは悩まない。何かしらの意図はあるだろう。それを推察するための材料がほとんどない。ならば、悩むだけ無駄という事を知っているからだ。


「行き止まりだったなら、戻るか。次は反対側だな」


/*/


 この時点で、冒険者たちは薄々感づいていた。おそらく、正面の道が正解だ。だからこそ、もう一つの道を調べておく必要がある。


 なぜそちらを調べるかといえば、不意打ちを恐れるからだ。彼らは寡兵、ここは敵の本拠地。うっかり挟み撃ちにされようものなら、数の力で押し切られることは十分にありうる。彼らはまだ、数の暴力を理不尽な実力で押し返せるだけの経験を得ていないのだ。そこまで力を伸ばせるかは、また別の話だが。


 逆側の道は、最初のものとほぼ同じだった。行き止まりの分かれ道まで同じようにあった。違いは最後。今度は下り坂だった。


「罠は?」

「……無い、と思う」


 絶対はない。しかし、専門家のネピスが言うのだから信じる。戦士の己だって敵への攻撃を外すことがあるんだから。こういった自制も、ここ半年の冒険でヘルムは学んでいた。


 冒険者たちは、ゆっくりと坂を下って行った。それほど急な斜面ではない。しかし、うっかり足を滑らせれば転げ落ちる。場合によっては怪我だけでは済まない。皆、真剣に足を進めた。


 そしてすぐに、下に光るものを見た。水面だ。たいまつの光を反射している。


「こっちも行き止まり、か。何とも、おかしな作りだな」

「ああ。自然洞窟ではないとはいえ、どうにも……まるで作りかけのような……」


 デルクとナイヴァラ。ドワーフとダークエルフという、洞窟に一家言ある種族同士が感想を言い合う。そんな時、注意深く水面を見ていたネピスがある物に気づいた。


「ナイヴァラ! 光! もっと水の中を照らして!」

「んん? 何かあったか?」


 いわれてたいまつを掲げてみる。きらめく水面の底に、別の輝きが確かにあった。


「金貨だ! 五枚や十枚じゃない。もっとたくさん!」

「おお、本当だ……だけどこれ、潜らないと取れないぞ? なんか便利な呪文あるか?」

「生憎、私の手持ちにはないな」

「神にこのようなことに使う奇跡を嘆願するわけにはいかぬ」

「ちょっと、水については学びが浅いのよね」


 ナイヴァラ、デルク、カーラ。三人の呪文使いの返答である。じゃあしょうがないよな、とヘルムが振り返るとネピスは装備を外し始めていた。


「おい。まさか潜るつもりか?」

「潜るよ! もったいないじゃん!」


 いよいよ、下着一丁となるネピス。肉付きの薄い、しかし女性らしい立ち姿。蛮族出身のヘルムも、流石にこれには目をそらす。


 またも、止める間もなくざぶんと水にその身を躍らせた。


「……本当、金には目がないやつだぜ」

「困窮した時代が長かったといっていたからなぁ。こればかりは」


 男二人、坂の上を警戒する。水面から目を背ける為でもあり、奇襲への備えでもある。とはいえ、背後のやり取りは耳に入ってくる。


「やばい。水、めっちゃ冷たい」

「やっぱり? 冷たさが足元に登ってくるからそうだと思った」

「凍える前に急げ。それが嫌ならさっさと上がれ」

「全部拾う!」


 何度も何度も、水音がする。流石の根性とヘルムは呆れ混じりに感心する。しばらくして、息も絶え絶えにネピスが水から上がってきた。


「お、終わった……一つ残らず、拾ってきた……」

「八、九、うん。ピッタリ百枚ね。お疲れ様」

「さっさと体をぬぐえ。デルク、酒を出せ」

「仕方がないの」


 ネピスが身支度を整えるには、もうしばらく時間を必要とした。すっかり唇が蒼くなっているし疲労が顔に出ているが、表情は明るい。ドワーフの蒸留酒が回れば、調子は戻るだろう。


「それじゃ、いよいよ本命だな」


/*/


 最初の十字路に戻ったあたりで、ネピスは熱を取り戻した。戻る道筋、手を握ったり開いたりと繰り返していたのも効いたのだろう。しかし、後ろを歩くヘルムには、彼女の体に疲労があることに気づいていた。場合によっては、一戦したら引くことも考えなくてはと蛮族の戦士は思った。


 そして、いよいよ真ん中の道を進み始める。それほど長い道を歩いたわけではない。だがそれなりに時間をかけている。いくら冒険者達でも、緊張した状態を続けていると疲れも出る。だからこそ、一層気持ちを引き締めて臨んでいた。


 そして、それがあった。今まで奇麗に舗装された道だったのに、いきなりそれが泥に覆われていたのだから。


「うげぇ、なんだこれ。罠か?」

「罠といえば、罠だね。どうやっても、足を突っ込む以外にあっちに行けそうにないよ」


 移動が遅くなる。足を滑らせて転ぶ。そういうトラブルが容易に想像できる。そんな状態で、もし、敵の襲撃を受けたら? その予想が、冒険者たちに泥へ足を踏み入れることを躊躇わせる。


「……やっぱり、呪文で何とかなったりしないんだよな?」


 ヘルムの言葉に、呪文使い達が首を横に振る。


「誰かひとりがおんぶして往復してもらう……ってのも、だめだよね?」

「俺たちは今、間抜けを晒しておるから襲撃してくださいーって叫んでいるようなもんだな」


 ネピスのすがるような言葉を、デルクが切って捨てる。


「結局、みんなで歩いていくしかないわねー。スエールテ、私につかまりなさい。……ヒルとかいないといいんだけど」


 カーラの言葉をきっかけに、冒険者たちは泥の通路を横断しはじめる。深さは、普通の人間にとってはひざ下程度。唯一足の短いデルクは太ももまで埋まることになった。


 一歩一歩が重く、遅い。今まさに、襲撃が始まるのではないか。そう思うと心が苛まれる。冒険の常であるから、多少の慣れもある。だからといって完全に克服できるものでもない。


 中央に到達したときなどは、冷や汗が流れるのを止められなかった。正面か、それとも背後か。背後から無いはずだ、外から突入されない限りは。そんな思いが冒険者たちの脳裏を駆け巡る。


 足が滑りそうになる事数度、何と全員無事渡り切った時などは流石に全員安堵の息をついた。


「うえー。ぐっしょぐしょー」


 足ふみをすれば無様な音が鳴る。ネピスが泣きごとを上げている最中、ナイヴァラは先を見据える。


「……やっぱり襲撃はないな。気配もない。どうなってるんだ?」

「それより、今のうちに靴を何とかしようや。これじゃあまともに歩けんわ」


 冒険者たちは見張りを交代しながら靴から泥をたたき出し、靴下を交換した。足は冒険者の生命線。歩けなくなれば進むことも逃げることもできなくなる。そういう意味では、恐ろしいトラップであると彼ら彼女は学んだ。


「それにしても、帰るときはどうしたらいいかしら?」

「ああ、たぶん渡り板みたいのがあるよ。痕跡残ってたから」


 カーラのもっともな心配に、斥候の仕事をこなしたネピスが答える。


「悠長にそれを設置できればいいがのう」

「縁起の悪い事いってんじゃねぇよ。……にしても、ここまで全くモンスターに出会わないってのはよ、相手さんすっかりブルってんじゃねえの?」

「たとえそうであっても、ゴーレムが強敵であることに変わりはない。油断するな」


 男二人のやり取りに、ナイヴァラが鋭く指摘する。心身共に、確実な疲労が冒険者たちを苛んでいた。


 そして、再び隊列を組んで一行は歩みを進める。水分を含んだ靴は、いつもより幾分重い。足に疲労もある。その違和感に冒険者たちが焦りを覚える頃、一行は明らかな大部屋にたどり着いた。


 そこは奇妙なオブジェが林立する、用途不明の部屋だった。戦闘用ではない。オブジェは防御に役立つとは思えなかった。かといって、魔法の為かといえば……。


「おい。あれは魔術の太祖、空舞う亡霊、か?」

「……そうも見える。だがあんな雑なものに何の意味が? それより、あちらなどは大神八足の君だろう……たぶん」

「ねえ、あっちにあるのって武練神だと思うんだけど……」


 おかれているものが、あまりに節操がないのだ。神も悪魔も偉人もある。そして、どれもが雑な作りであるものだからご利益があるのかとても怪しい。


 冒険者たちは、部屋の中に足を踏み入れていた。もちろん、罠や敵の気配はよく調べた。だからこそ入り込み、オブジェに何の意味があるかを調べ始めた。始めてしまった。部屋を設計した者の思惑通りに。


「く、ふふ?」


 最初に笑いが漏れたのは、ネピスだった。思わず口を押さえるが、笑いの衝動は止まらない。押さえようにも、勝手に胸や腹が震えて笑いが止まらない。


「あ? ネピス、どうし……ぶふっ!?」

「こりゃ不味い! 皆、急いで外あはははははは!」


 続いて、男二人が笑いだす。残りの二人も笑いの衝動に囚われて、冒険者たちは身体に力が入らなくなる。笑い声が、部屋の中にこだまする。


 会話にならない。体に力が入らない。足が震える。それでも、彼らは冒険者だった。笑いながらも最低限の意思疎通をする。ヘルムが定まらない指先を、何とか後ろへ向ける。それに従って、皆が千鳥足になりながら出口へ向かう。蛇のスエールテも魔法の罠にかかってしまい、ひっくり返ってしまった。カーラは、心で謝りながら友を引きずって下がる。


 重い足音が響いたのは、その時だった。


「ばははは不味はははは!?」

「ごーれ! ごーれぶはははは!」


 ヘルムとデルクが笑いながらおののく。そう、ストーン・ゴーレムである。ブレスト・プレートとクラブを装備した戦士の石像が、ここにきて部屋に突入してきたのだ。さらに。


「ま”ま”ま”ま”ま”ま”!」


 泥の化け物がその後ろに三体追随している。モンスターたちの足は遅い。しかし、笑いの衝動が止まらない冒険者たちはなお遅い。


 ヘルムの心に、絶望が広がる。戦士だから、戦って死ぬのは覚悟していた。しかしこんなふうに情けない罠にかかった挙句、実力も発揮できず倒されるのは想定外だった。


「あはははー!?」


 急ぎ過ぎたのか、それとも今までの疲労のせいか。ネピスが、転んだ。即座に、力の入らぬ手を駆使して、ヘルムはバスタードソードを抜き放った。


 仲間たちも、どうにか集まりネピスを助け起こす。しかし、そこにモンスターたちが追い付いた。


「……ッ!」


 ゴーレムが、クラブを振るった。体に力が入らぬ状態で、それを受けるのはあまりにも無謀だった。ヘルムの身体は吹き飛ばされ、近くのオブジェに叩きつけられた。


「ま”ーーー!」


 泥の化け物が、女たちに覆いかぶさる。笑いは、呪文の集中を妨げる。これさえなければ切り抜ける手段があるにもかかわらず、冒険者たちは次々と泥に埋まった。


「か、神、はは、鍛冶神んんははは!」


 最後の力を振り絞って、神への嘆願を成功させようとするも笑いが邪魔をする。情けなさに涙が流れるが、そんなデルクをゴーレムのクラブが襲った。


 かくして、冒険者たちは力及ばず倒れたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 笑うという行為はかなりの運動で呼吸を乱し力を出せなくなる つまり質がわりぃぃ。RPGで出てきたらコントローラーぶん投げるなw
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